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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第612話 チェックメイト?

 竜郎はすぐさまフローラと連携し、別々の方向からレーザーを飛ばす。

 それに対してアレは《断絶破掌》か《空間反転》か一瞬悩んだ挙句、《断絶破掌》を選択した。


 やはり魔物的には《断絶破掌》の方が楽なのだろう。

 そして竜郎とフローラのレーザーが簡単に消え去ったのを見て、少しほっとしながらニヤ付き、再び周囲に対して滅茶苦茶に暴れまわり始めた。


 イシュタルの情報をミネルヴァが受け取り、相手の行動を全員で共有しながらアレが暴走する中を何とかしのいでいく。



「愛衣、蒼太!」

「はいよー」「リョウカイ」

「亜子もタイミングを合わせてくれ」

「──」



 そして向こうの消費エネルギーを度外視したハチャメチャな攻撃の中で、竜郎は再び愛衣と蒼太、亜子に指示を飛ばしていく。

 するとまた愛衣と蒼太の雷嵐の竜巻と超巨大雷がアレに降り注ぐ。数秒後に何処にいるのか予測済みなので、それくらい容易い。



「アヒャアアッ!」



 竜郎とフローラのレーザーをたやすく打ち消したことで自信を取り戻したのか、またそれに対してドヤ顔で《断絶破掌》を使って左右の手の平で両方受け止めた。

 だがそちらは対象外。消される事なく僅かにアレの手の平に傷をつけ、そこへ亜子が《極極極極極痛与》で痛みを与える。



「ゲヒャッ!? イィィレレルゥゥウラァ──!!」



 再び起こった痛みに跳ね上がるように驚いたかと思えば、忌々しげに意味不明な奇声を上げて《空間反転》に切り替えた。

 だがその先には誰もおらず、代わりに立ち止まったアレに対しレーラが氷剣を、リアは《物質具現化》で作った爆弾を投げる。


 アレはまた一瞬迷った末に、再び《断絶破掌》の手の平で触れてみた。

 すると両方あっさり消えた。リアの爆弾も今回はあえてスキルで作ったものなので、消すことが出来たのだ。



「──アハァ?」

「そうだ、考えろ」



 どういうこと? と首をかしげるアレに残りメンバーたちも《断絶破掌》で消せる攻撃を残りのメンバー──魔物達も含め2人1組の形で絶え間なく攻撃していく。

 それら全てを《断絶破掌》で気持ちよく消していき、アレはまた自信を取り戻していく。

 そしてそれを見計らって、再び愛衣と蒼太、亜子でしつけする。



「ゲヒィッ──!? ────ァァア?」



 また痛みが来たことに驚きながらも、今度はただ怒りながら《空間反転》するだけではなく、これまでの流れで愛衣と空から降ってくる巨大雷だけが痛みを与えて来ることに気が付き始める。

 その証拠にまたフレイヤと彩の攻撃がやってくるが、いともたやすく消せるではないか──と。



「アハァ~♪」

「自分の中で固定概念を作るがいい」



 解っちゃったかも♪ とでも言うように粘つく嫌らしい笑みを浮かべるアレに、竜郎も薄くほくそ笑む。

 そしてその「解っちゃったかも」を「解っちゃった」に変えるべく、さらに全員でアレの猛攻を躱しながら先ほどと同じ行動を反復していく。


 そして愛衣と蒼太の攻撃をまた混ぜると、今度は確かめるように《断絶破掌》をやり、痛みが走った瞬間に《空間反転》で返した。

 再び別の者が攻撃を仕掛け、それは《断絶破掌》で消して見せた。



「ゲヒッ──ゲヒヒッ、ゲヒャヒャヒャヒャッ♪」

「よくできました──ってな」



 「解っちゃったー♪」と竜郎たちを見渡しゲラゲラ笑うアレ。

 それに努めて冷静に無表情を装いながら竜郎は小さくそう呟き、全員にミネルヴァ越しに指示を飛ばしていく。



「おさらい開始だ」



 その指示と同時に全員が一糸乱れず、反復練習のように先ほどと同じ行動を繰り返していく。

 そして愛衣と蒼太の攻撃に関して、アレはついに《断絶破掌》を使わずノータイムで《空間反転》を使うようになり、他の攻撃に対しては一切の迷いなく手の平を突き出すようになった。

 上手くいっている事が気持ちいいのか、それはもうノリノリで。まるでパブロフの犬である。


 それを見て愛衣が竜郎に問いかける。



「こんなもんでいいんでない? アレが飽きちゃう前にやっちゃお」

「ああ、そろそろ仕掛けよう。準備は良いか?」



 今回のキーパーソン&キーモンスターたちにそう問えば、準備は万端だと頼もしい返事が返ってくる。



「なら決行だ──」

「わかったー」「了解ですわ」



 他の皆に混ざって、アレの猛攻を退けながら彩とフレイヤが普通を装い近付いていく。

 その2人の姿を見たアレは「はいはい、お前たちね」とでも言うように馬鹿にした笑みを浮かべ、手の平を突き出す動作を取り始める。


 そしてそれに対し、彩人は最初の頃よりも習熟度の増した《崩壊の咢》を。フレイヤは《崩壊の理》で作った槍を。それぞれアレの手の平にぶつけていく。


 彩の《崩壊の咢》は現在、トラバサミの様な歯だけではなくなり、まるで豆太そっくりな形の大きな灰色の子狼の頭となっていた。

 それは噛みつき呑みこんだモノだけだが、その全てを崩壊させて無に帰すあぎと


 一方フレイヤの槍は、傘槍──ロキに直接触れない様に気を付けながら、その周りを薄く覆うように《崩壊の理》を纏わせた、《槍術》の乗った貫けばその全てを崩壊させて無に帰す槍撃。


 それはこの世の法則を無視して崩壊させるので、《断絶破掌》でのキャンセルは不可能。

 そしてその事に気が付いていないアレは、馬鹿面のままにご丁寧に手を差し出してくれる。


 これで奴の手の平を一瞬でも完全に破壊できる──そう誰もが思った所で、不意に何を思ったか《空間反転》にいきなり切り替えてきた。

 もしかしたら、頭ではなく本能が危険を察したのかもしれない。


 この2つの《崩壊の理》によっての攻撃だが、この攻撃自体に干渉して空間を反転させようとするスキルならそれを崩壊させてそのまま貫いてくれる。


 だがこの《空間反転》はその周囲の空間をクルリと回転させるスキルなので、たとえ《崩壊の理》の理を使った攻撃でも反転してしまう。

 だからこそ竜郎はここまで、それに対して確実に《断絶破掌》を使うように執拗に調教してきたのだ。


 このまま反射した先にいるのは彩とフレイヤ。自分の《崩壊の理》でその身を飲み込まれ、貫かれ死んでしまう。まさに絶体絶命のピンチともいえる状況。


 であるにもかかわらず、竜郎は一切焦ってはいなかった。

 気まぐれで《空間反転》してきかねないし、確実にそうするわけでもないアレの行動に縋るほど、竜郎は楽天家ではないのだ。

 しっかりとその対策も考え済みである。


 ようは攻撃行動に対して、破壊したい場所を破壊しやすいように出してくれる動作だけで良かったのだ。

 それ以外なら、どんなスキルを使ってこようと対処して見せる。



「ウサ子!」

「キュィーー!」



 《空間反転》は見た目で解るスキルだ。なにせそこの空間を切り取るように、回転するのだから。

 ならばウサ子の《惑星記憶貼付》で対処する事だってできてしまう。


 元の空間を見て覚えていたウサ子は魔王種スキル《惑星記憶貼付》で、むりやり元の状態に空間を復元していく。

 さらにウサ子だけでなく、フレイヤの鎖の蛇の効果で僅かにスキルを使いにくくし、事前にその可能性も考慮していた竜郎はカルディナたちと一緒に《時空魔法》を共有し、一斉に空間系スキルである《空間反転》の邪魔をしていく。


 ウサ子だけでは太刀打ちできなくとも、竜郎やカルディナ達による補助があれば、《惑星記憶貼付》での状態復元も可能とする。



「アヒッ──」

「はーーー!」「はあっ!」



 クルリと回転しようとしていた空間が3分の1も回転しきらずに、最初の位置にピッタリと嵌り元に戻る。

 そしてそのままアホのように突き出していた手の平に、彩の咢とフレイヤの槍が到達する。

 一応《断絶破掌》も発動していたようだが、それすら無視して手を崩壊させ咢は右手を肩ごと抉るようにバクンと食いちぎり、槍は左腕を肩ごとグシャッと崩壊させた。

 そのまま速やかに彩人とフレイヤは離脱。



「清子さん! いくぞ!」

「キィイイー!」



 アレの腕が肩ごともぎ取れる一瞬前に、竜郎は時空魔法を直ぐに打ち切る。

 そして今度は光魔法の球体をカルディナたちと共有した魔法で作り上げ、そこに清子さんの《異常遺伝子接触》の効果を《技効装填》で光球に付与していく。


 そしてアレが腕が無くなったショックで慌てふためいている一瞬の間に、腕が修復する前に、光球から糸のように細いレーザーを兆単位で放ち、肩があったあたりの傷口にバンバン当てていく。


 アレがいくら格上で一つでは効果が弱かろうとも、これだけの数で《異常遺伝子接触》をされたらどうなるか。

 それは目の前の事象が教えてくれる。


 もげたと同時に再生を開始した肩がボコボコと泡立つように妙な形になっていき、肩から生えてきたのは腕ではなく無数の肩だった。

 最終的に、その肩が本来の肩から丸い玉のようになって滅茶苦茶に生えて、肩口に気持ちの悪いボコボコしたボールを付けているような奇怪な存在に様変わりしてしまった。


 その気持ち悪い状況に、アレ自身も気持ちが悪かったのか、すぐさまその部分に魔力収束砲を口から放って消滅させる。

 そうすることで、また元の腕が生えてくるとでも思ったのだろう。



「だがお気の毒様。清子さんのそれは、体の設計図自体を破壊したんだよ」



 《超特級自己再生・極》で回復したのは気持ちの悪い無数の肩。なんどやっても、腕が生えてくることは無かった。

 そして手の平が必要となってくる《断絶破掌》は、手が──というより腕すらない今のアレでは使う事は出来ない。



「これで面倒なスキルは1つ封印した──あとは白太、ウル太!」

「グオオォン!」「フォフ!」



 あたふたするだけのアレに、白太が作った大量の虹水晶クマゴーレムが突撃していく。

 そしてその群れの中に、身を潜ませながらウル太も紛れ込む。



「ギギギリュレアグビィギィィィィィィィィィ!」



 お前らに構ってる暇はないんだ! とでも言うように奇声を上げながら、何でも溶かす舌で虹水晶クマゴーレム達を舐めまわして溶かしたり、足から蹴撃を飛ばして破壊したり、口から光線をだしたり──などなど、八つ当たりするかのように苛烈に大量のクマゴーレム達が破壊されていく。


 そんな中で身を守る事を最優先に立ち回りながら、クマ水晶の群れに隠れていたウル太が、アレの近くまでやって来て雄たけびを上げる。



「ウオオーーーーーーン!」

「ゲヒィッ!」



 そちらに向かって飛んできた舌と光線をウル太は躱し、どんどんとアレに肉薄していく。

 近づいていくたびに、先を知っていても躱せなくなっていくが、それでも無理やり近づいていく。


 そしてアレと至近距離で、次々と新しい部隊が送られてくるクマ水晶たちの壁と攻撃補助を受けながら何とか戦っていく。


 腕が無くなろうとも簡単に潰せるはずなのに、しぶとく自分の前をうろつき、攻撃してくるウル太に苛立ってくるアレ。

 肉体強化をさらに促し、攻撃をさらに苛烈に。竜郎たちのことなどすっかり忘れて、目の前の忌々しいウル太を叩き潰す事だけに没頭し始めた。



「ウヒャシィビェエエエーーー!」

「────ッ」



 その瞬間、ウル太はあっという間に傷が増えていく。先が解って自己回復能力もあると言っても、向こうはずっと格上の強者なのだ。

 竜郎たちもアレの注意を散漫にされるわけにはいかないと、じっとその姿を見ている事しかできない。

 そして──。



「ギャシャアアアアアーー!」

「──ャブッ」



 ウル太はアレの大蜥蜴の様な右足に腹を貫かれ、さらに追い打ちとばかりに、そのまま地面に何度も踏みつけられて、グチャグチャになって死んでしまった。


 その時の恍惚の表情は、本当に竜郎たちの心をイラつかせた。



「アヒャアヒャッ────ァア?」



 だがその時──サクッと、アレの背中に小さく何かが刺さった。

 それと同時に、その背中の部分が少しだけ熱く感じた。


 最高の気分に浸っていたアレが一体なんだと振り返ると、そこには数メートルだけ離れた位置に千子が長く伸びた杭鞭を伸ばしアレの背中に刺していたのだ。



「アアアアアビュレルレシィルビャァーーー!」



 何しやがる──と言わんばかりに意味不明な奇声を上げて、今度は千子を亡き者にしようと上半身の鱗を手裏剣のように飛ばし、さらに口から大きな卵型の爆発属性を持つ物体を3つ高速で撃って来た。



「──させるものか!」

「──!」



 しかし千子にはちゃんと護衛を付けていた。

 アーサーの《見極必流》が発動し、卵型爆弾を3つとも認識すると勝手にそれは時空を歪めてあさっての方角に飛んで行く。

 さらに無数に飛び散る鱗の刃はアイギスの《宝玉の加護》で反射し、アレに叩き返した。



「ジュベレレェッ──ギヒャ!?」

「ウオーーーン!」



 自分の鱗を無視しそのままアーサーを標的にし追撃しようと一歩踏み出すと、今度は後頭部を思い切り殴られる。

 それに驚き後ろを振り向けば、先ほど殺したはずのウル太が身の丈4メートルほどの重厚な鎧を着こんだ人型狼となって立っていた。

 ウル太は《輪廻転生強化》で、重装歩兵型の狼男に生まれ変わったようだ。


 何が何だか解らないままに生まれ変わったウル太にアレが攻撃しようとすると、今度は向かってくること無くさっさと逃げていってしまう。


 そうはさせじと追いかけようとするも、右足にとても大きな衝撃が走り足がもつれ、つく手も無いのでそのまま頭から無様に倒れこんだ。


 後ろにいた奴らの仕業か! と憤怒の表情で後ろを見ると、既にそこにはアーサーもアイギスも千子もいなくなっていた。

 そしてウル太を見れば、とっくに向こう側に去ってしまっていた。



「ウャビャァバババァルルルルウゥウゥゥウウウアアアーーー!!!」

「ん。すごく怒ってる。ウル太をいじめた罰。ざまーみろ」



 右足に走った衝撃はヘスティアの《見極必中》を使って、《超竜重撃》と《力燃至剛》を一瞬だけ行使し撃ち放った槍──ロンゴミニアドの一撃だ。

 離れた場所からでも時空を歪めて確実に当たるその一撃は、右足に当たってアレを転ばせたと言うわけだ。

 場所を狙って撃てるスキルではないので偶然そこに当たっただけだが、結果オーライである。


 これで全員がアレから距離を取り安全確保が出来た。

 そしてアレの背中に打ち込まれた刻印が芽吹き終わる。



「主様。千子さんの《直心刻印》が完全に背中に刻み込まれました」

「解った。報告ありがとう。ミネルヴァ」



 ミネルヴァの声が全員の脳に直接響き、結果を教えてくれた。

 アレの背中には現在、深紅のバラの家紋のような円形の図形が、完全に浮き出ていた。

 それはアレの背中に、即死の直結回路を繋ぎ終った──と言う事でもある。


 厄介な手の平を封じ、反転する空間も少し大変だがキャンセル出来る。

 密着状態で1対1の戦闘となると誰も敵わないが、離れた距離からならイシュタルの先読みとミネルヴァの情報共有でいくらでも対処可能。


 後は背中の《直心刻印》に大きな一撃さえ当てられれば、回復させる間もなく即死させられる。

 敵は1体に対して、こちらは多数。相手の注意を分散させる事も容易である。

 さらに見せていない手札もまだまだ豊富。

 これで負けろと言う方が難しい。



「──チェックメイトだ」

「ウギャアアアアーーー! ウリュウウゥィウウラアビャーーー!」



 余程転ばされたのがご立腹だったのか、地団太を踏んで地面に八つ当たりするアレ。

 冷静さすら失ったあの状態を見る限り、どう見てもこれで勝ちは決まりだ。


 ……だというのに、竜郎は奇妙な不安がよぎる。

 これで本当に終わりなんだろうかと──。

次回、第613話は11月21日(水)更新です。

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