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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第609話 いざ、決戦の地へ──

 魔王種になった武蔵を出来る限り半神種に近づけてみたところ、見た目に変化は無かったのだが、クラスチェンジもしていないのに何故かスキルを覚えた。



「《鬼腕八刀》。刀を持った腕を八つ増やせるスキルか。これだけなら大したスキルでもなさそうだが、武蔵なら有効活用できそうだな」

「まあ、クラスチェンジ特典のスキルでもないみたいだしね」



 そうして次に竜郎と武蔵との間にある眷属のパスに、互いのシステムの余白から伸ばしたコードを伸ばしていく。

 これを繋ぎ負荷を送るパイプと成すが、やはり非常に細く頼りない状態だ。

 これでは負荷を送る事も出来ず、意味のないパイプとなるだけだろう。


 だがそれは解っていた事。

 問題は《憑依同化》した際に、そのパイプが上手く機能できるかだ。



「武蔵──頼む」

「ギョイ」



 武蔵が煙のようになって竜郎の中に入ってくる。

 そして完全に同化した所で、竜郎は《侵食の理》でどんなふうになっているか確認していく。



「太さに問題はないな。この状態なら大丈夫だろう。だが念のため、向こうで順応作業を行いながら確かめてみよう」



 ということでさっそくアムネリ大森林に潜っていき、初層から始まり深層まで転移でショートカットしながら眷属皆で回っていく。

 そして武蔵の弱体化が起こらないことと、これだけの人数の負荷を全て受けても問題ないように竜郎のシステムが適応したのを確認した後、また領地の方へと戻ってきた。



「よし、これで武蔵の件も無事にすんだな。それじゃあ、最後に神格者たちのシステムも繋いでしまおう」



 神格者と言えど1~2割の弱体化はされてしまう。

 ましてカルディナたちやフレイヤのような強者となれば、その1~2割でもかなりのものになるだろう。

 なのでまずはフレイヤから、竜郎に負荷を送りつけられるようにパイプを通していく。

 半神格者以上に自前で受けきれる負荷の量も多いので、こちらの方が竜郎の負担はかなり少ない。

 実際にフレイヤとパイプを繋いだ全員で行ってみたが、今まで以上に順応が早く終わった。

 とはいえ数秒の違いでしかないが。


 そして全竜神系の神格者であるニーナも同じように問題なく終わった所で、残りは竜郎と最も近い──とうよりも、竜郎そのものから派生した存在ともいえる魔力体生物。

 即ちカルディナ、ジャンヌ、奈々、アテナ、月読、天照の6人とも繋いでいくことにする。


 長女から順番にと、まずカルディナを呼んで竜郎のシステムと繋いでみた。

 他の眷属たちと、この子達の生まれが違うので、どんな違いがあるのかと思いながら──。



「ピィューー!?」

「どうした!?」

「ど、どうしたの? カルディナちゃんっ」



 繋げた瞬間、カルディナが驚きに声を上げ、竜郎と愛衣もギョッとして彼女に状態を尋ねた。



「ピュィィーーピィュュィユィュューー!」

「カ、カルディナおねーさまも、おとーさまと同じように、2つめのクラスを覚えたらしいですの」

「何だって? それはどんな?」

「等級神の系譜らしいっすよ。んで《神格者》の称号も《神格者+1》になったらしいっす」

「おそらく兄さんと今まで以上に深く、繋がった事でより存在も近づいたという事かもしれませんね」

「驚いたわね。それで、カルディナちゃんはどんなスキルを覚えたの?

 当然、彼の神に関係したスキルなのでしょう? 興味があるわ」

「ピィィィィィュー♪」

「《レベルイーター補助》とかいうスキルを覚えたらしいっすね」

「補助? なにそれ?」



 愛衣がぽかんと首をかしげるが、今のところその問いに答えられる者はいない。

 さっそくとばかりにカルディナのステータスからスキルの内容を確認していくと、《レベルイーター補助》とは──《レベルイーター》及びその上位スキルの所持者の許可を得れば、その吸い出し作業を肩代わりしたり処理を手伝ったり、効果範囲を伸ばしたり──なんて事が出来るという。


 つまり竜郎の《レベルイーター》から進化した《多重レベルイーター+α》を魔物に対して行使した時、一緒に作業を行う事で2人分の速度で吸収できるようになるという事だ。

 ただし吸収先はあくまで竜郎なので、カルディナがSPを稼げるわけではない。

 だがカルディナは「これでより一層、パパのお手伝いが出来るわ!」というニュアンスで鳴いて、非常に喜んでいた。


 それから、まさか他の皆も?──とジャンヌから始まり一気にやっていくと、皆も同じく《レベルイーター補助》というスキルに《神格者+1》の称号昇格。

 今のクラスにプラスして、等級神の系譜が与えられた。



「む。こうなってくるとタツロウは、自分を含めた7人分の処理能力で《レベルイーター》が使えるようになったという事か」

「しかも、お互いにけっこう離れていても大丈夫なようね」



 《多重レベルイーター+α》になり、黒球を一度に何個も相手に当てて吸収することが出来るようになった竜郎だが、一辺に制御できる数は限られていた。

 だがここでカルディナたちの補助を受けることで、さらに多くの数を一度に操れるようになったという事だ。

 大よそ今の竜郎は7つまでなら完全に制御できるようになったが、ここにカルディナたちの助けが加われば単純計算で49個くらいまでならいっぺんに制御し、相手のスキルレベルを吸い尽くすことが出来るだろう。



「これはこれでありがたいな。後で等級神にも礼を言っておくか」

「それがいいね」



 ちなみに。カルディナたちは《神格者+1》になった事で、竜郎に負荷を送らなくても自前のシステムで完全に対応できるようになったようだ。

 別に竜郎に送りつけても竜郎のシステムが順応してしまえば問題ないのだが、竜郎に負担をかけるどころか助けになることが出来るようになり、カルディナたちにとっては大満足の結果となった。


 なので本来の目的としての意味は無くても、このままシステム同士をつないだままにすることにした。


 そうしてカルディナ達やニーナ、フレイヤも含めた全員の負荷を受け止める順応作業も終了した。



「さて。魔物組の眷属化。皆のレベル上げ。装備品の授受。竜肉による竜力増強。そしてシステムの連結による負荷対策。──あとは」

「姉さんの追加装備と改修装備を渡せばオールクリアですよ、兄さん」

「だな。そっちも、もうできているんだろ?」

「ええ、もちろんです」



 竜郎や魔力体生物組、リア自身やレーラ、イシュタルの装備品も既に新型の魔力頭脳を搭載させたうえで、さらにそれ自体もバージョンアップした物を受け渡し済みだ。

 だが愛衣の場合は全武術職を使えるので、一人で扱える武器が多いのと、天装の改造はやはり今のリアでも少しばかり時間がかかった。

 そういうわけで最後に回されていた愛衣の装備品も、無事に仕上がったようだ。

 リアは自信ありげに胸を張って頷いた。



「まずは新型魔力頭脳を埋め込んだ天装たちから渡していきますね。

 一度移植した物をもう一度外して移植し直すと言う作業が一番苦労しました」

「私にはその苦労を解ってあげられないけど、ありがとね、リアちゃん」

「わぷ──」



 愛衣にぎゅ~っと抱きしめられて、その胸に顔を押し付けられてリアは苦しそうに彼女の背中をタップした。

 なので愛衣は「ごめんごめん」と直ぐに離れ、そそくさとやって来た竜郎を抱きしめることで満足したようだ。



「ふぅ。ではこちらですね」



 軍荼利明王〈弓〉。ユスティーナ〈槍〉。幻想華〈扇〉。カチカチ君〈槌〉。ガブソン〈斧、獣〉。飛翔のガントレット〈体〉。

 これら全ての天装に新型魔力頭脳を移植した物を愛衣に渡していく。

 これらだけで7種の武術系スキルを扱える。


 そしてさらに元々あった虹彩宝石剣〈剣〉。投擲鞭〈鞭、投擲〉。トラウゴットの軽装鎧〈盾〉。これらも改修した物を渡していく。

 これで13種中11種を網羅できた。残りは鎌と棒があれば、愛衣は全ての武術系スキルを魔力頭脳が搭載されたそれで使うことが出来るようになる。



「というわけで、追加装備はこれです」

「ん~~? でっかい綿棒みたいだね」



 全長は1メートルより少し長いくらいで、木の幹の様な特徴的な模様の入った薄茶色の金属質な棍棒。

 さらに、その両端には耳掃除などに使う綿棒の綿部分のような形で紅色の金属がくっ付いていた。

 確かに愛衣の言うとおり、綿棒にそっくりな外観である。


 愛衣はさっそくその棒を受け取って、内蔵されている魔力頭脳を起動して振り回してみる。

 するとそれは愛衣の手に合わせて作ってあるので、非常に良く馴染み顔には満面の笑みが浮かんでいた。



「いいね! これ! このぷっくりしてる先っぽで殴ると痛そーだし」

「それもそうですが、そこは鎌にもなるんですよ、姉さん」

「ええっ? そうなの?」

「はい。姉さんの場合はただでさえ扱える武器が多いですから、できるだけ機能は纏めておいた方がいいかと思いまして、棒術と鎌術用の装備にしておきました」



 さっそく鎌になるようにイメージすると、棒の先端の紅色部分の金属が形状変化し鎌のような弧を描く刃に変わった。



「ん? その紅い部分が刃になるって事は、その反対側も鎌の刃になるのか?」

「ええ、そうですよイシュタルさん。

 棒術の場合は上下はあまりないですし、振り回している最中に好きな方を刃に出来た方が連携にも組み込みやすそうだったので。

 もちろん、双頭鎌にして風車のように切り裂くことも出来ますよ」

「ほんとだー!」



 S字に近い形になった双頭鎌をぐるんぐるんとトワリングバトンのように振り回し、風を切り裂く愛衣。

 その途中で棒に変えて突きを放ったり、突いた部分の反対側だけに鎌の刃を生やして横一文字に振り抜き、目の前の空間を切り裂いたりしていた。

 どうやら刃を出す向きも360度どちら向きにでも出来るようなので、いちいち棒の向きを縦横気にする必要も無さそうだ。


 そういった調整も全て魔力頭脳が愛衣の思い通りにやってくれるので、小難しい事も無く愛衣は絶好調なままに棒鎌を振り回し終えた。

 そして普通の綿棒の様な形にして手に持ちながら観察し始める。それになんだろうと皆が注目していると──。



「ん~命名──綿棒!」

「そのまんまだな……。リアはあの名前でいいのか? 耳掃除の道具の名前だぞ?」

「ふふっ、姉さんがいいならどんな名前だっていいですよ」



 持ち主が一番愛着のある名前にすればいいという事らしい。

 リアは出来あがったものに関心が無いわけではないが、どちらかというと作る過程を楽しむタイプというのも関係しているのかもしれない。



「これで愛衣も武術系全13種の纏と気獣技、その合成技の気獣混合奥義も全種いけるようになった。

 あとは少しその辺りの連携を確認して、それが終わり次第──いよいよ出発だ。

 愛衣はどれくらいで連携の確認が出来る?」

「ん~2、3日くれれば、この綿棒ちゃんの鎌と棒術とかも合わせた技とかもマスターしてみせるよ。たつろーも手伝ってね!」

「ああ、もちろんだ。よし、それじゃあ明日から多めに取って7日は自由行動とする。

 その間、決戦時に疲れを残さないようにするのを最優先とし、訓練するも休むも自由にしてくれ」



 そうして朝早くから日暮れまで続いた負荷順応に、改修完了した装備品の受け渡しも終わった。

 これであとは最終戦に向けて、各々で調整していくだけだ。

 竜郎と愛衣はもう直ぐうちに帰ることができるんだと、2人で目を合わせ頷きあったのだった。




 そして──それから7日の時が過ぎた。

 新しい装備、新しいスキルにも完全になれ、竜郎達を含め突入組全員の体調も全員万全だ。

 転移用に作られた地下室に突入組が全員揃った所で、最後の準備に取り掛かる。



「それでは今から魔力及び、気力回復用の薬を配ります。

 一日3回使うと数日効果が無くなってしまうので、1人3個ずつ受け取ってください」



 リアが妖精郷固有の植物などを使い、そこで得た知識も導入して作った魔力回復薬と気力回復薬を3個ずつ配っていく。

 形状としては10円玉くらいの大きさの錠剤と言った感じで、魔力回復薬は青色で、気力回復薬は黄色の錠剤だ。

 さすがに全回復は出来ないが、だいたい一錠で3分の1くらいまでは回復できる。

 また竜種の子達は半分の効果しか得られないが、竜力も回復できる優れもの。


 ただし短い期間に──正確には1日の間に3つ飲んでしまうと、効果がほぼなくなり数日間飲んでも意味がない状態になってしまう。

 なので一日何錠も服用する事は出来ない。



「全員に行き渡りましたね。では次に傷を治す薬を配ります。

 あまりの大怪我だと生魔法が追いつかない時の応急手段くらいの効果しかでませんが、全員必ず所持し状況を見ながら自分や周りに必要そうな人がいたら使って下さい」



 こちらはカプセルタイプで、大きさは4センチ程。口に入れてカプセルを噛み砕き、その中の液体を飲み込む仕様となっている。

 味はリアだからこそだが、効果はそのままにバリエーションも豊富にできた。イチゴ味、ブドウ味、メロン味、ミント味など意外とおいしい。

 一日の使用制限はないが、短時間に何度も使っていると体が慣れて効果が薄れていってしまうので乱用は推奨されない。


 ウサ子の支援なんかが間に合わない時用の保険として、念のためにと1人1人たっぷりとその傷薬を渡された。

 これで即死でもない限りは、ある程度時間を稼ぐことが出来るだろう。


 そしてそれも行き渡ったのを確認すると、いよいよ出発の時となる。

 竜郎は皆の前に出て口を開いた。



「次に出てくる敵を倒せば俺たちの目的は遂げられる。

 だが恐らく次は最初で最後っていうくらい、今まで出てきた魔物よりも強い存在が出てくると予想される。

 どうかどんな状況であっても、どんな姿をした魔物であっても油断だけはしないでくれ」

「もちろんですの!」「もちろんっす!」



 奈々とアテナが皆の気持ちを代表するかのように声をあげた。

 それに竜郎は優しく微笑みながら頷き返すと、また表情を引き締める。



「またどんな状況に陥っても、どんな絶望的な状況になっても、最後まで諦めることなく、慌てず冷静であってほしい。

 それだけを守っていけば、万全を期した今の俺達ならどんな敵だって倒せるはずだ」



 竜郎は静かに全員の顔を見回していく。その誰もが当然だと言うように闘志を燃やし、力強く頷いていた。

 竜郎はこれほど心強い者達はいないと心から思った。



「今より──決戦の地へ転移する! 全員、準備は良いかっ!」

「おー!」



 愛衣を筆頭に、それぞれの言葉で、または鳴き声で同じような意味の声を発する。息もぴったりだ。

 その事にさらに勇気を貰いながら、竜郎は全員と共に決戦の地──ヘルダムド国歴992年のアムネリ大森林へと飛んで行ったのであった。

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