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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第608話 負荷順応

 レーラと魔物達以外の突入組全員が竜力を増幅させた竜肉祭りも終わった翌日。

 皆も随分と実戦慣れしたことも有り、いよいよ最終調整に入っていくことにした。


 それは即ち、竜郎のシステムと半神種の眷属たちのシステムを繋いで、アムネリ大森林の凶禍領域の負荷を全て竜郎のシステムに受け持ってもらえるようにするというものだ。



「確か一気にやっちゃうと、たつろーや私の適応能力の高いシステムでも負荷がかかりすぎて壊れちゃうかもしんないんだよね?」

「ああ。だからとりあえず最初は安全と様子見もかねて1人だけ繋げて、今の時代のアムネリ大森林の奥地まで行って慣らす。

 それで大丈夫そうなら2人、3人、6人、9人と言った感じで増やしていくつもりだ」

「こんな所で失敗したら目も当てられないからな。それぐらい慎重にやった方がいいだろう」



 等級神は凶禍領域の多人数負荷の順応は、初めは3人くらいから始めていくといいと言っていたし、何度も往復する事になるので1人だけというのは少しばかり面倒だ。

 けれど今イシュタルの言うように、慎重すぎるに越したことは無い。

 まして魂と混ざり合ったシステムに関わる事だけに、竜郎も含め眷属たちにも万が一があってはいけない。



「ってことで、誰が最初にって事になるんだが──」

「──では私が」



 そう言って真っ先に前に出てきたのはウリエルだけだった。

 というよりも、眷属たちで順番は既に話し合っていたようだ。

 普段のアーサーなら竜郎の次に大切な他の兄姉弟妹たちよりも先に、まずは自分で試してみてくれと言いそうなものなのに、何も言ってこないのが証拠だろう。

 全員が納得した顔で静かにウリエルを見つめていた。



「それじゃあ、ウリエルに頼もう。なに、システムを誰よりも理解している神達が出来ると言っているんだ、そう危ない事にはならないさ」

「ええ。解っております。そして何より、神より主様を信じていますから」

「神よりか、随分信頼されてるな。だが、ありがとう。その信頼には絶対に応えて見せる」



 なかなか面はゆくもあり、重くもある絶対の信頼に、竜郎もより一層身を引き締めなおした。



「それじゃあ、さっそくやっていこう。ウリエルは俺の前に立ってくれ」

「解りました、主様」



 竜郎の目の前に立ってウリエルは目を閉じた。それに対して竜郎は、自分とウリエル双方に対して《侵食の理》を発動させた。

 そして互いのシステムを侵していき完全に掌握。イメージ的にはプリントの余白の様な、本体なのだけれど使われていない部分。そこを抓んで引き伸ばし、ひも状にして目に見えない繋がり──眷属のパスの中に双方から通していく。

 そして眷属のパスの中央付近で互いのシステムから伸ばした紐が合流した。



(あとはこれを繋ぐだけ──)



 簡単なようで実はかなり高度な事をしているのだが、それでも天照や新型の魔力頭脳が一緒に手伝ってくれるので順調に事は進んでいく。

 互いに伸ばし合った紐の先を解いていき、向こう側の紐と先端同士を縒って一本の紐にするイメージ。

 そして繋がった後に念押しとばかりに、綺麗にほつれ一つなく整えて完成だ。



「──んっ」

「だ、大丈夫か? ウリエル」



 完成したと思った瞬間、ウリエルが小さく喘いだかと思えば、次にはその綺麗な瞳から涙を流していた。

 なにか不味い事をしたのだろうかと慌てふためく竜郎に、さらに他の皆も不安そうな顔に染まっていく。

 けれどウリエルはそんな皆を安心させるように優しく微笑んだ。



「大丈夫ですよ主様、皆さん。私はただ嬉しかっただけなのです」

「嬉しかった? それはどういうことなんだ?」

「最初は突然、何か胸の奥底が痺れるような感覚がして声が漏れてしまったのですが、その後、より深く主様の存在を感じられるようになったのです」

「なっ、それは本当なのですか! ウリエル姉上!」

「ええ、アーサー。本当ですよ」

「う、羨ましい……」

「……羨ましいものなのか?」



 今一竜郎には解らないアーサーの感覚に首をかしげるが、どうやら竜郎を主と仰ぎ信奉する気持ちが特に強いウリエルとアーサーには解り合える何かがある様だ。



「まあ、とにかく問題は無く俺のシステムと接続できたって事でいいんだよな?」

「はい。そのとおりです、主様」

「ならいいんだ。それじゃあ、さっそくだが俺と愛衣、そしてカルディナたちと一緒にアムネリ大森林に行って順応作業をしてこようと思う。

 今の俺達なら大丈夫だろうが、警戒は怠らない様に」



 本当に必要なのは竜郎とウリエルだけだが、向こうで何か不備があってもいけない。

 竜郎と同じくまったく問題の無い愛衣と、神格持ちであの森でも十分動けるようになったカルディナ達を保険として連れていくのだ。



「というわけで、さっそく行ってこよう」

「その為に早起きしたんだしね」



 過去や未来を改変して回った今の竜郎達の過去は、前に行った『何もしなかったアムネリ大森林』とは違う過去になっている。

 とはいえ、このままあの場所を思い浮かべて過去に行けば、今いる軸の流れにそって『行動を起こした後のアムネリ大森林』に行けるので今後の最終決戦に向けては問題ない。

 だがそこの奥にいくのなら、全員一緒に行った方がいいだろう。そちらのアムネリ大森林は竜郎たちにとっては、ある意味では未知の場所なのだから。


 なので取りあえずは今の時間軸のアムネリ大森林に行く。

 そして最後の詰めをやらなかった時間軸の今をついでに見にいきつつ、順応作業に入るつもりだ。


 ジャンヌの背負った空駕籠に乗せてもらい、ウリエルと竜郎、愛衣、カルディナたちだけでアムネリ大森林へと急いだ。

 今の竜郎たちなら、半日もかけずに奥まで行けるだろう。


 まず凶禍領域順応、初級編。

 アムネリ大森林の入り口付近で降りて、何か竜郎やウリエルに変化がないか確かめてみる。



「特に何もないな」

「私の方も何もないですわ」

「なら次、いってみよー」



 凶禍領域順応、中級編。

 アムネリ大森林の中腹手前辺り。ここまで来ると少し竜郎やウリエルの方に違和感が現れた。

 とはいっても竜郎は本当に一瞬、胸の奥を小さな子供に軽く押されたような僅かな圧迫感を味わっただけ。

 ウリエルの方も最初こそ体が少しだけ怠くなるように感じたが、3秒もすればなにも感じなくなった。


 凶禍領域順応、上級編。

 アムネリ大森林の深部の手前、入り口から最深部までの3分の2まで進んだところ辺り。

 こちらも竜郎には一瞬だけ違和感を感じるが直ぐに順応。ウリエルも5秒ほど黙ってその場に立っていれば直ぐに順応できたようだ。


 そしてここから一気に負荷が強くなる凶禍領域順応、超上級編。

 最深部まで残り3分の1と言った所──深層に足を踏み入れた。

 ここまで来るとテイム契約では魔物を抑えることが出来なくなり、魔物も理性を失い襲い掛かってくるようになる。以前のシュベ太や清子さんのように。



「──ぐ」「──う」

「大丈夫っ? 2人ともっ」

「ああ、大丈夫…………………………………………ふぅ。順応したようだ」

「私の方もです。ここにいても問題なく力を振るえるはずです」

「あたしらも、最初に来た時はかなり怠かったっすけど、今ではわりと平気っすね」

「ピュィー」「ヒヒーーン」「ですの」「「──」」



 愛衣は竜郎のように負荷を請け負っているわけでもなく、以前この領域に来て順応済みなのでなにも感じることは無く、カルディナたちもほんの少し体が怠いかな? と言った程度。

 全力全開絶好調!とまではいかないものの、今の状態でもしっかりと強敵と戦うことが出来るだろう。



「それじゃあ、最深部まで行って問題ないようなら領地に戻ろう」



 歩いて──というよりは走って奥へ奥へと突き進む。特に手強い魔物がいることも無く、近付く魔物は片っ端から始末して、あっというまに件の場所に到着した。


 そこは最深部。竜郎たちの世界が崩壊する原因を作った、この世界史上最大の世界力溜まりがあった場所。

 そして今そこの中央には大きなクレータができあがり、周囲の環境も竜巻が通ったようにグチャグチャに荒らされていた。

 ここはまだ『最終決戦をしなかった世界』。おそらく調整して減ってはいたものの、竜郎たちの世界には多大な被害が出た後の状態と言う事だろう。

 こちらでも地震は起きていたらしいので、何か大きな爆発くらいはあったのかもしれない。



「こうならないようにしに来るんだよね」

「ああ。ここで減った世界力を魔物化させて、ソイツを倒して大幅に世界力を無くしてしまえば、ここももう少しましな状態で終わるはずだ。

 ────絶対に、成し遂げよう」

「うん。絶対に──」



 竜郎と愛衣はどちらからともなく手を伸ばし、互いの決意を現すように力強く手を繋ぎ合った。

 そしてその光景を見届けた後、竜郎たちはここでもウリエルや竜郎に問題が無い事が証明できたので、そのまま領地に転移し戻っていった。



「どうだったのだ? ウリエル姉上!」

「大事ありませんよ、ランスロット」

「よかった──ならば次は私の番ですね」

「解った。それじゃあ、アーサー。こちらへ」

「はいっ。マスターとさらに深く繋がれるなんて感激です!」

「お、おう。そうだな。良かったな」

「はい、マスター!」



 やたらと機嫌がよく圧の強いアーサーに一歩後ずさりながらも、竜郎がウリエルの時同様にシステム同士を結合していった。

 彼もまた竜郎のシステムと繋がった事で、より身近に竜郎を感じ取れるようになり、酷く感動していたのは言うまでもない……。


 それからアーサーも同じように順応訓練に連れて行き、今度はウリエル、アーサー2人分の負荷を竜郎が受け止めた。

 こちらも無事に問題なく済ませられたので、そのまま3人目、4人目──と人数を増やしていき、ダーインスレイヴも第一の主を無理やり竜郎に置き換えてから繋ぎ順応も終わった。

 これで半神種全員分のシステムの結合と順応訓練が終わったことになる。


 さて、それで残ったは神格者たちと魔王種の武蔵である。



「カルディナちゃん達やフレイヤちゃん──神格者たちも繋げていくのよね? タツロウ君」

「ああ、半神格者たちが出来るのに、その上の神格者たちが出来ない道理はないからな」

「ん~でもさ。魔王種の武蔵くんはどうするの? すっかり忘れてたけど、半神格者じゃなかったよね?」

「そうだな」



 武蔵は《天衣無縫》の称号を持ち、そのときに選択したクラスは『魔刀幽鬼・災禍種子』。

 取得したスキルは《移動多足》という、移動時や移動系スキル発動時に本来よりも多い歩数を付け足した距離を同じ時間で移動できると言うもの。

 大したことのないスキルに思えるかもしれないが、《瞬動》などは1歩あればかなりの距離を稼げるので、それらと合わせるだけで今まで以上に自由自在に地面を疾走することが出来る。


 さらに魔王種化と同時に、『冥葬魔刀大幽鬼・災禍』にクラスチェンジ。

 その時、魔王種スキル以外に《蓄刃積力》というクラスチェンジ特典のスキルも取得した。

 それはスキルを発動中、武蔵はあらゆる刃物や切断系スキルで敵を切っても切れなくなる。

 だがそのとき発生した切断エネルギーを相手に蓄積させ、任意のタイミングで自分の刃物や切断系スキルの発動に蓄積した分だけ上乗せすることが出来る。


 つまり一度では切れない様な物体があったとしても、《蓄刃積力》で切断力を蓄積させていき、最後の一刀でその全てを合算した切断力を発揮させ切り裂く事も出来ると言う事だ。


 ──と、それだけのクラスとスキルを得た武蔵。強さだけなら他の半神種達とも遜色は無い。

 けれどあくまで魔王種であり、彼は半神種ではなかった。



「まあでも、一応こうしたらいけるんじゃないかっていう考えはあるんだ」

「ほうほう、それはどんななの?」

「順を追って話してみようか──」



 魔王種と半神種は同時になる事は出来ない。

 そして魔王種の持つシステムと言うのも他より質は高いが、半神種のもつシステムには及ばない。

 往々にして魔王種は瞬間的に強くなれるが、長い目で見れば結果的には半神種の方が強くなるからだ。


 したがって他の半神格者たちと同じように繋ぐのは、システムのスペック的にできないと言ってもいいだろう。

 なので武蔵は今回何も対処しないで連れていくと、以前のカルディナ達のように大幅に弱体化して、最悪お荷物になる可能性すらある。



「だが前に言っただろうが、限りなく半神種に近い形の魔王種にすることはできる」

「でも半神種と半神種に近いじゃ、やっぱり違うよね。結局は魔王種なわけだしさ」

「そうなんだ。だが武蔵は少しだけ特別なスキルを持っているだろ?

 それを使うと俺と同化できるやつがさ」

「《憑依同化》のことですよね。でもそうした所で兄さんの中に弱体化した武蔵さんがいる、というだけになるのではないですか?」



 竜郎が弱体化することは無いが、武蔵のスキルを使っても十全な働きはせず、むしろ発動したら邪魔になる可能性すらあるだろう。

 だが竜郎はそのスキルにこそ活路があると思ったからこそ、武蔵にもパワーレベリングに参加して貰ったのだ。



「憑依同化中の俺と武蔵を《侵食の理》で調べてみたことがあるんだが、そのときはイメージ的に俺と武蔵のシステムが重なり合って、融合ではないが互いにくっついているような感じだったんだ」



 それは純粋に互いの魂の距離が、超が付くほど近距離になると言う事でもある。



「だがいくら近くにいたとしても、確かにそれだけだと武蔵は弱体化する。

 けれど半神種にできるだけ近くすることで、他の皆より頼りなくなるが、繋ぐ余白を少しつくる事は出来るだろう。

 そのわずかな余白だけでいいから、俺へのシステムに繋げる。ただし太さだけは同じにしてな」

「ああ、つまり他の子達よりも圧倒的に短いパイプを通すしかできないけれど、同化してしまえば誰よりも近い場所でシステム同士が密着した状態になれるから、太さだけ合わせてしまえば順応できるようになるのではないか──と言う事ね」



 ここで言っているのは実際にはイメージの話だが、互いを繋いでいるパイプはゴムの様な素材だとする。


 半神種達と繋いだパイプは太く長い。だからどれだけ離れて引き伸ばされても、十分その太さで竜郎に凶禍領域の負荷を送ることが出来る。


 だが武蔵との間にパイプを通した場合、最低限の太さを確保すると極端に短いものとなる。

 けれど彼には《憑依同化》がある。そのため、その時に限り長さは関係が無くなる。なにせほぼゼロ距離になるのだから。


 なのでそのスキルを解いて竜郎と武蔵のシステムの距離が離れれば、引き延ばされて穴は細くなり負荷を送れなくなるが、発動中なら引き延ばされないので十分な穴の太さを確保できる。


 なので武蔵だけは《憑依同化》中のみ、竜郎に負荷を送れるようになると考えたわけだ。

 もちろん、ここまではまだ机上の空論。これから試してみなくては解らない。

 だが武蔵が十全の状態で竜郎と一緒にいてくれれば、それだけ竜郎の戦闘力が増加するので、本人や他の生存率も上がる事は必定。

 故に、やるだけやってみる価値はある。



「ってことで武蔵。お前だけは少し特殊な感じになるし、今からまた少し固有属性構成を弄る。それでもいいか?」

「──オオセノママニ」



 それが当然だと言うかのように、武蔵はハッキリとそう答えてくれたのであった。

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