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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第606話 珍しい竜の情報

 結局あの後、竜郎は男の抱擁を躱しきれずに、むさくるしいマッチョな抱擁を受け入れるはめになった。



「うぅ……愛衣ー」

「おーよしよし、頑張ったねー」



 そんな竜郎は今、彼女の胸に抱かれ心の癒しをとっている真っ最中だ。

 愛衣の手が優しく竜郎の頭を撫で、彼の中から筋肉男の抱擁の記憶が薄れ去っていく。


 そうして愛衣成分をフルチャージした竜郎は、改めて筋肉男に振り返った。



「おい。お前…………? そういえば、名前はなんていうんだ?」

「む? 名前なぞない。ダンジョン同士でも個体名を決める必要などなかったからな」

「ほうほう。となると、私の出番だね!」



 ばばん! という効果音でも付きそうな感じに前に飛びだす愛衣。



「出番……? というのは一体どういうことだ、心の友の同胞よ」

「私はあなたを一目見た時から、いい名前が思い浮かんでいたんだよ」

「なんとっ! もしや、心の友の同胞は名付けの名人なのか!?」

「そう呼ぶ人もいないこともないこともないかもしれないかもしれないね」

「…………むむ? いるのか? いないのか? まあ、どちらでもいいか。

 実は俺は常日頃から人間だったらどうしようという妄想を楽しむのが、唯一の趣味なのだが──」

「唯一の趣味がそれなんですの……?」



 奈々が可哀そうな人を見る目で男を見つめるが、男は気にする事も無く言葉を続ける。



「──名前。これは確かに俺がお前たちのように外に出られたときになったら必ず必要になるだろう。

 頼む! 心の友の──いや、名付け名人! 俺に似合うかっこいい名前を付けてくれ!」

「ふっふっふ。よかろう。そなたにはこの名を授ける──。

 あなたは今日から『シュワちゃん』よ! 」

「シュワ・チャンか。なんだか強そうな名前だ。

 気に入った! 今日より俺はシュワ・チャンを名乗ろうではないか!」

「……強そうか? にしても、中国人の名前みたいなイントネーションになったな。

 愛衣の言っているのは恐らく例のあの人なんだろうが……まあ、どっちでもいいか。本人も気に入っているみたいだし」

「ですの、ですの」



 あまり深く触れるのも何なので、竜郎と奈々は仲良くスルーする事に決めたのだった。




「そういえばシュワちゃん。さっき何でもすると言ってくれていたよな。覚えているか?」

「ああ、覚えているぞ。俺はお前の為なら、規約に反しない範囲でならどんな事でもやってやろう。何でも言ってくれ」



 なんだかもの凄く気に入られてしまったようだと感じながらも、それならそれで都合がいいやと、竜郎は気になっていた事を聞いてみることにした。



「そもそも俺達がこのダンジョンに来たのは、竜殺しの称号欲しさってのもあったんだが、ボス竜以外に珍しい竜が出るという噂を聞いたからなんだ。

 それで実際のところはどうなんだ? そう言った感じの竜は出てくるのか? このダンジョンは」

「おおっ、よく知っているな」

「ってことは、いるのか」

「ああいるぞ。最近は条件を満たす者も減って二百年以上出現していなかったがな。

 そうか、まだ人間たちの間では噂として残っていたか」

「条件……?」

「ああ、条件だ。かつてはその条件を秘匿しながら楽しんでいた人間たちもいたようだが、今はそういった者達もいなくなったな。どこかで失伝したのかもしれない」



 それは国から入場制限がかかった事も関係しているだろうが、竜郎は話がややこしくなりそうなので黙っておいた。



「そうかそうか。なあ、俺達は心の友だよな? シュワちゃん」

「む? ああそうだとも! 俺とお前は心の友だとも!」

「心の友ともなると、やっぱりその条件を教えて貰ったりすることも出来るんだろうなぁ。

 いやぁ、教えてほしいなぁ……なんて…………ダメか?」

「なんだ。そんなことが知りたかったのか。直接、竜を寄越せと言われたら、さすがに規約的にむりだったが、情報を流すくらいならギリギリ大丈夫なはずだ。

 心の友が望むのなら、全て教えようではないか」

「ほんとか! いやー、ありがたい。俺もお前が人間みたいに外の世界が見られる様に協力するからな!」



 ガシッと抱擁──ではなく、握手を交わした。

 シュワちゃんは「これが友情か……良いものだな」などと微笑みながら涙まで流し始めたのを見た時は、さすがに少し心が痛くなった竜郎なのだった。


 それからその珍しい竜の出現情報を事細かに教えてもらい、竜郎はそれを委細もらさず紙に書き留めた。

 それらは全部で100の条件があり、その中でどれでもいいので30個の条件を達成した時、その竜は階層問わず現れると言う。

 そしてその条件は、このダンジョンに踏み込むには早いレベルの者達でなければやらない様な事ばかりだった。


 つまり、適性レベル以上の者達ならスルーしてしまうようなことこそが、竜を呼ぶ条件だというわけだ。

 なので竜郎たちが何も知らずにここに入り、何周も回ったところで、決してその竜は出ることは無かっただろう。



「でも適性レベルでもない人たちの前に竜を出すなんて、ちょっとかわいそうじゃない?

 普通に死んじゃうでしょ?」

「いや、名付け名人。その竜とは戦う必要はないんだ。凄く大人しい竜だからな。

 ただ、戦う事も出来る。その時は決死の覚悟をもって挑む必要はあるがな。

 なにせ一度手を出せば、殺すまで階層を飛び越えてでも襲い掛かってくる暴竜と化すからな。はっはっは!」

「ビビッて弓の一つでも放ったら最後って事か。それはそれでえげつないな」

「でもさ、戦わない場合はどうなるの? お友達にでもなってくれるの?」



 その手順を踏んだら竜が出てきました。わあ凄い! では意味がない。

 なので攻略を手伝ってくれるのかなという意味での愛衣の言葉だったのだが、どうやら違うらしい。



「実はな、そこで攻撃をしないでじっとしていると酒が貰えるんだ。それも極上のな」

「お酒ですの? なんでまた」

「だって人間は酒が好きなのだろう?

 ダンジョン内に入ってきた人間たちを趣味の為に観察して研究していると、酒がどうたらと良く言っているぞ」

「あー確かに、俺達みたいな子供じゃピンとこないが、うちの両親は普通に好きだしな」

「うちも、お母さんがお父さんのビールとか飲んでたなあ。たまに飲みたくなるんだよねって言って」

「だろう。親というものは今一想像できないが、ここに来るやつらはたいがい好む傾向があったようでな。

 特にドワーフ種の奴らなんか、わざわざダンジョンに持ちこんでまで飲んだくれてるやつまでいたぞ」

「それは気合入ってんな。高レベルのダンジョンで酔っぱらうとか、恐すぎるだろうに」



 ドワーフの中には酔う程に強くなるスキルを持っている者もいるので、一概に危険行為と言うわけではない。

 ただそういうスキル持ちでもないのに、酒に酔って死んでいった人間も少なからず存在はするのだが……。



「まあ、そういうわけで、無理してまでこのダンジョンを攻略しようと言う気概を称えて、参加賞を渡してやると言った感じだな。

 飲まなくても、誰かに売りつければそこそこの値が付くだろう」

「どこぞの変な称号を付けてニヤ付いてるダンジョンとは大違いですの……」



 奈々はどこぞのダンジョンを思い浮かべながら、ため息を一つついた。



「だが酒を渡すってのは解ったが、なんで竜である必要があったんだ?」

「ああ、それはな。酒というものは俺達ダンジョンには良く解らないから、美味い酒が造れる魔物はいないかと色々と探したんだ。

 そしたら、その竜が一番美味い酒を造れると発覚してな。

 どうやら自分で造った酒を誰かに呑ませるのが好きという変な竜なのだ」



 その竜は今現在、このダンジョン以外に存在していない。

 だが遥か昔、野生で存在していた頃は世界各国行脚(あんぎゃ)して、出くわしたものに、その竜が用意した大きな器になみなみ注がれた酒を飲ませようとしたのだとか。

 そしてそこで飲まされた酒に対して、『美味い』と言えば満足して大人しく去ってくれたのだそう。


 けれど逆に『不味い』と言えば烈火の如く怒り狂い、その人間が死ぬまで何処までも追いかけてくるヤバい竜でもあった。

 まあ本当に美味しいお酒なので、余程偏屈な人間でもない限りは自然と美味しいと言う言葉が出てくるものだ。

 なので被害にあった人は少なかったらしい。



「なんか妖怪みたいな竜だな。だが面白い竜だ。是非、魔卵にしてうちにもほしい」

「え!? お酒飲むの!?」



 この世界に来てからの日数を加算しても、2人はまだまだ未成年。この世界では適用されないだろうが、日本の法律上はまだ許されない。



「まあ二十歳はたち過ぎたら自分で飲んでみるのもいいだろうが、何も酒は飲むだけじゃあない。

 俺達だって酒を使った料理とかなら普通に食べてるだろ?」

「あー確かにそうかも。言われてみればお酒の化粧水とかも売ってたし、お風呂に入れるとお肌がつるつるに~なんて言ってた子もいたなぁ」

「それにご飯を炊くときにちょっと入れるといい──なんて話も聞いたことがあるし、想像してみてほしい。

 極上の酒を使って極上の食材を料理したらどうなるか──」

「た、たつろーはてんさいなの?」

「ふっ、まあな!」

「素敵!」



 愛衣はそう言って竜郎に抱きつきキスをする。アホなカップルがイチャツキはじめ、シュワちゃんは何が起こっているのだと奈々の方をチラチラと見て助けを求めた。

 だが奈々は「いつも仲が良くて嬉しいですの~」などと言ってニコニコし、まるで取り合ってはくれなかった……。


 そして一通りイチャつきたおした後。その間、竜郎はふと気になった事を聞いてみることにした。



「そういえば、その竜はどうやって酒を造っているんだ? 酒蔵があるわけじゃあ、あるまいに」

「腹の中に巨大な製造容器を持っていてな、そこで酒を造っているようだ。

 だからその竜が食べたもので、酒の種類も変わるらしいぞ」

「「──え"」」



 なんと食べたものをお腹のタンクで発酵させて造るスタイルのようだ。竜郎は聞くんじゃなかったと少し後悔した。

 だが一番大事な所を聞かねばなるまい。竜郎は意を決してシュワちゃんに問いかけた。



「そ、それじゃあ、取り出す時はどうしてるんだ?

 ももも、もしかしてゲロゲロスタイルなのか? それとも、は、排せ──ぐ、これは流石に無理だ……飲める気がしない」

「ん? 出す時は手を喉の奥に突っ込んで容器を取り出していたぞ。

 それに普通の竜とも体の構造が違うらしくてな。生活用の食道や胃なんかとはまた別の器官があってもの凄く清潔にされている。

 だから心の友が危惧しているような汚い物ではない。安心しろ」

「セーフ?」

「び、微妙だが、シュワちゃんの言葉を信じよう」

「さすが心の友だな!」



 製造法を聞くとちょっと及び腰になるが、そもそもちゃんと飲める物を造っているのだから問題ない──────はずだ。



「だが前向きに考えると、食べさせるものを工夫すれば色々な酒が造れるって事だよな。

 シュワちゃんは、どんな感じの酒を造って貰っているんだ?」

「さあ? 俺は人間のように酒が飲めるわけではないからな。この体とて形だけ整えて、お前たちと同じ次元に合わせているだけの虚像のようなものだ。

 飲んだところで味も解らない。だから全部、竜の方に丸投げしている」

「そういえばそうか。そもそもその体が本体って訳じゃないんだもんな。それじゃあ、自分で決める事も出来ないか」



 シュワちゃんは、その竜がどんな物を食べて生活しているのかさえ把握していないらしい。

 適当に自動で欲しがりそうなものを与えるように設定しただけなんだとか。



「それじゃあ、のちのち自分で色々研究してみるかな」

「果物とかばっかり食べさせたら、果実酒とかになるのかなぁ。お母さん喜びそう」

「逆に米ばっかり食べさせたら日本酒に──なんてな。面白そうだ。

 確か父さんが好きだったはずだし、上手くできたら飲ませてやろう」



 飲むのはダメと言っておきながら造るのは良いのかと突っ込まれそうだが、飲酒は健康面の問題だが(そちらも竜郎と愛衣なら称号のおかげで問題ないのだが)、酒造は税金の問題だ。

 自分たちの世界で製造販売しなければ別にいいだろう。


 また酒造りには水分も重要になって来るらしく、それの組み合わせでもまた違った味になるとも言われた。



(水か……。水なら──)



 そこで竜郎の頭の中で、ある一匹の魔物の情報が思い浮かぶ。だがこれはもう少し先だと、奥の方に追いやった。



「おとーさま。考え事中申し訳ないのですけど、そろそろ本来の目的に戻った方がいいような気がしますの」

「え? あっ、そうだ。これから酒竜を出現させて倒すとなると、面倒な条件を達成して行かなきゃいけないしな。

 ってことで、シュワちゃん。俺達をダンジョンの中に戻してくれ」

「もう行ってしまうのか……。さみしいな、心の友よ」

「また迷宮神さんの方で進展が有ったら来るだろうし、そう何年もかかる様な事でもないだろう。

 長い時を生きてきたシュワちゃんなら、それくらいどうって事ないだろ?」

「まあ、それもそうだな。では心の友と名付け名人。そしてその同胞たちよ。さらばだ──」



 シュワちゃんのその言葉を最後まで聞き終える前に、竜郎達はただの砂漠地帯の真ん中に転送された。

 ただここにいるメンツは、照りつける太陽は苦でない者ばかりなので大丈夫そうだ。

 竜郎はさっそくメモを取り出し、条件を確認していく。



「ちょっと時間がかかりそうだな。こりゃ、ボス竜の素材は蒼太たちだけに任せて、俺達はこっちで竜殺しの称号も取って帰還石で脱出するのがいいか」

「あんまり皆を待たせるわけにもいかないしね」

「ってことで、こっからは巻きでいくぞ!」

「おー!」「おーですの~!」「「「「────!」」」」



 それから竜郎たちは急いで達成しやすい条件を見繕い、30個全てクリアしていったのであった。

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