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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第602話 ミッション発表

「ではさっそくこれを使ってニーナさんの装備を作っていこうと思います。

 エーゲリアさん。ありがとうございました」

「いいえ。いいのよ。可愛いニーナちゃんの為だもの」

「ニーナも、こういう時はお礼を言うんだぞ」

「ワカッタ! エーゲリアサン、アリガトーゴザイマス」



 ニーナは行儀よくぺこりと頭を下げる。それにまたエーゲリアの口角が緩みそうになるが、今回はちゃんと堪えてみせた。



「ふふふ。どういたしまして。

 …………んーーでも、エーゲリアさんって呼び方は硬い気がするわ。

 エーゲリアおばちゃんって呼んでくれないかしら?」

「おばちゃんって、それは流石に不味いんじゃないですか? エーゲリアさん」



 何と言ってもエーゲリアは皇帝の座は退いたと言っても、この世界最大勢力──イフィゲニア帝国現皇帝の母という、やんごとなき立場にある。

 公の場でそう呼ぶときは無いだろうが、そんな人物をおばちゃん呼ばわりしている所をもし事情も知らない第三者にでも聞かれようものなら、余計な顰蹙ひんしゅくを買いかねない。


 けれど、そんな竜郎の心中を察し、エーゲリアはとてもとても優しい笑みを浮かべた。



「ふふふ……。大丈夫よ、タツロウ君。私が、誰にも、文句なんて、言わせないから」

「あ、そうですか。ならオッケーでーす」



 エーゲリアの目はマジだった。もし文句など言う輩がいようものなら、この世界から綺麗さっぱり消えることになるかもしれない。



「ほら、ニーナ。さっそく呼んであげたらどうだ?」

「エ~~」

「あら、ニーナちゃんは私のことをそう呼ぶのは嫌?」

「ウン……ダッテ、エーゲリアサンハ、オバチャンジャナクテ、オネーチャンダトオモッテタカラ。

 ニーナ。オネーチャンガ、ホシカッタノ」

「あらあらまあまあ! この子ったら口が上手いのねぇ。

 それじゃあ、エーゲリアお姉ちゃんって言ってくれてもいいわよ!」



 さあ! お呼びなさいな! とでも言うかのように、エーゲリアは両手を広げてニーナの言葉を待った。

 リリィはもうその後ろで竜郎と共に苦笑するしかない。


 ニーナはやがて少しだけ恥ずかしそうにもじもじしながら、上目使いでエーゲリアの理性を殺しにかかった。



「エ、エーゲリアオネーチャン」

「ぐっ──何、この胸のときめきは──。今まで感じた事のないような感情だわっ」

「あー、それは私も解るよ、エーゲリアさん。リアちゃんの時、私やたつろーもそーだったから。

 それがお姉ちゃんになるって事だよ、エーゲリアさん」



 愛衣がキメ顔でサムズアップしながらそう言った。私はお姉ちゃんの先輩なんだぜ、とでも言うように。

 そしてエーゲリアもまた、竜の大きな手でサムズアップして応えた。意外とノリのいい元女帝である。



「素晴らしいわ。今後はそう言って貰う事にしましょう」

「ギャウ~?」



 エーゲリアは優しく包み込む様にしてニーナを抱きしめた。



「イシュタルも昔は、このくらい可愛かったのに。どうして今はあんな、みょうちくりんな性格になってしまったのかしらね~」

「はぁ……、みょうちくりんな性格で悪かったな。母上」

「あら、イシュタル。帰って来たのね」

「私が来ている事になど、とっくに気が付いていただろうに。今、わざと言っていたな」



 ムスッと解りやすくブーたれて怒るイシュタルに、エーゲリアは「おほほほ」とわざとらしく笑った。

 この親子も相変わらず仲がいいようだ。



「そんなにニーナが可愛いなら、母上が少し《超竜闘気》と《超竜力環吹》のコツだけでも教えてやったらどうだ。

 どちらも母上は得意だったろう?」

「あら、そうね。ニーナちゃんも教えてほしい?」

「オネーチャン、アレガツカエルノ!? スゴイスゴイ!! オシエテ~!」



 無邪気に抱きつかれ、エーゲリアもまんざらではなさそうだ。



「お姉ちゃんに任せなさい! ニーリナ直伝の技を伝授してあげるわ!」

「ワ~~イ!」

「というかエーゲリアさんのは、ニーリナさんが教えたんですか?」

「ええ、そうよ。だって、その2つの技はニーリナが戦いの中で編みだしたのを、後に神々がスキル化したものなんですもの。

 彼女は誰よりも、それを上手く使いこなしていたわ」

「ふぇ~そりゃあ、凄い人だったんだね。ニーリナさんって」

「そうよ。本当にすごい人だった。私やお母様から見ても、ニーリナは戦いの天才だったのだから」



 竜系統のスキルでニーリナが生み出した技はその他にも結構あり、スキルを作る上で神達の参考にすらされていたほどらしい。



「そりゃあ、確かに凄いですね。そんな人の一端でも受け継いだニーナは、まだまだ強くなれそうだ」

「ウン! パパノタメニ、ニーナガンバルネ!」

「ありがとう、ニーナ」

「ギャウ~♪」



 竜郎に撫でられニーナは嬉しそうに鳴いていた。

 そうしてその日、ニーナはみっちりとエーゲリアから《超竜闘気》と《超竜力環吹》について教えられた。


 そしてその途中、当然と言えば当然か、エーゲリア自身がそのスキルを使っている所も見せてくれた。



「竜形態だと体の体積が大きい分、ちょっと吃驚させちゃうでしょうから人間形態になるわね」



 そんな事を言うと竜の翼を生やしたグラマラスな美女に早変わりし、さっそく《超竜闘気》を発動してくれた。

 エーゲリアの体全体がプラチナ色の光に包まれる。



「う──」

「凄まじいな……」



 愛衣は思わず呻き、竜郎は呆然とする。見たことのあるイシュタルやリリィ以外の面々も同じような反応だ。

 別にそれで威圧されているわけでもなく、ただ立っているだけなのに、本能が逃走を呼びかけてくる。



「というか母上。基本的にニーナは竜力を使うのだから、神力でやるのは止めた方がいいのではないか?」

「え? そう言えばそうね。ついいつもの癖で、こっちでやってしまったわ」

「あれが神力?」



 竜郎が神力に抱いているイメージは荒れ狂った海のような奔流。

 であるのに対して、エーゲリアが体の周りに纏わせている力は波一つない凪いだ海。

 とてもではないが、同じ力を使っているとは思えなかった。


 そんな竜郎の思わず零れた言葉を拾って、リリィが話しかけてくれる。



「神力を本当に使いこなすと言うのは、ああいう事なのよ、タツロウ君」

「そうなんですね。いったい後どれだけの年月練習すればあの域にいける事やら……」



 現状は魔力と竜力を混ぜた神竜魔力にすることで、安定した使い方が出来るようになったといった所だ。

 まだまだ神力だけで何かをしようとすれば、思わぬ暴走を招く。特に今の竜郎がそれをやれば、どれだけの被害が出るかも解らないのでやるつもりもない。


 そんな事を考えている内に、エーゲリアの体を包む光がプラチナからやや金の粒子が混じった白い光に包まれた。

 どうやらこちらが竜力での《超竜闘気》のようだ。


 確かに先ほどまでの異様な雰囲気は薄れている。とはいっても、やっている人物が人物なので、それでも異様なのは変わらないのだけれど。



「チャント、ヤッタラ、ソウナルノ?」

「ええそうよ、ニーナちゃん。出来るだけ静かに、一定の感覚で──がコツかしら」



 他にも細々としたアドバイスを少しした後に、今度は《超竜力環吹》を見せてくれた。

 エーゲリアの口から風船ガムが膨らむかのように、濃密な竜力が真球を描いて彼女の目の前で渦巻いていく。

 時間経つほどに竜力は濃くなっていき、そこだけ時空が歪んでいるような錯覚すら覚えてしまう程だった。



「──ふぅ。こんなところかしらね」

「スゴーイ! マンマルダッタ! ニーナガヤルト、ヘチャムクレダッタノニ~」

「あらあら、でも形には出来るようになっているのね」

「30カイニ、1カイクライダケド……」

「始めたばかりならしょうがないわ。今日はお姉ちゃんが見てあげるから、頑張りましょうね」

「ウン! ニーナ、ガンバル!」



 がんばるぞポーズをとるニーナの姿に「素直でいい子だなぁ」と、誰もがほっこりした瞬間だった。

 

 さすがにエーゲリアも忙しく、こちらの都合で何日も拘束する事など出来ないので、教えて貰えたのは結局その1日だけだった。

 けれど何とかコツは掴んできたようで、ニーナも着実にそれらのスキルを扱えるようになっていったのだった。




 そんな経緯があっての、ニーナの装備品である。


 ニーナはさっそく自分の手にグローブを嵌めて魔力頭脳を起動すると、《超竜闘気》を発動してみた。

 自身の技量が上がった上で新型の魔力頭脳の演算も味方につけ、今のニーナの《超竜闘気》は実戦で十分使えるレベルに至ったようだ。


 竜郎の《精霊眼》で見る限りでも、かなり綺麗に竜力が巡っているのが解る。

 さすがにまだまだムラは多々残っているが、これくらいなら及第点だろう。


 軽く後ろの2本足で歩いてみたり、尻尾を鞭のように振ったり拳を振り抜いてみても、それほど乱れることなく安定した動きを見せている。

 これでもう歩いただけで地面を凹ませる事もない。



「じゃあ、《超竜力環吹》はどんな感じだ?」

「ヤッテミル!」



 万が一失敗した時の為に少し離れたところでやって貰う。



「フーーーー!!」

「おおっ、1回で形に出来てるね! 凄いよ、ニーナちゃん」

「だが母上のものと比べると形がいびつだな」

「ソウナノ。チョット、ザンネン」



 愛衣による飴とイシュタルによる鞭をニーナは素直に受け入れた。

 確かにイシュタルの言うようにラグビーボールを2つ重ねたようなボコボコした状態で、無駄なエネルギーがある上に威力もちゃんとやった場合よりも弱かった。


 けれど愛衣の言うように百発百中で形にはできているので、それだけでも大きな成長である。



「それに搭載されている魔力頭脳も学習していきます。回数と共に、より効率的に出来るようになるはずですよ」

「だがそれに頼らない形での練習もきっと為になるだろうから、そっちもやっておくといいかもしれないな」

「ワカッタ!」



 ニーナはへこたれることも無く、元気よく返事を返してくれた。



「それでその装備品の名前なんだが、実はもう決めてある。だいたいどんなのになるかは知っていたからな」

「エー! ナニナニ! オシエテ~」



 彩の時と違いノリのいいニーナに竜郎も少しだけ嬉しくなった。

 そんな竜郎の小さな心の動きに、しっかりと気が付いた愛衣はくくくと小さく笑った。



「命名──ブリューナク。本来は槍の名前なんだが、その槍は穂が5又に分かれた槍だったと日本では言われているらしい。

 今のニーナが付けてるそれもちょうど5又に分かれた槍みたいな爪の付いたグローブだし、なにより『必ず勝利をもたらす』という能力があったなんて話もあるから、俺達にとっても縁起もいい。

 だからブリューナクってしたんだが、ニーナはどうだ?」

「ナンダカ、スゴイ、ブキノナマエナンダネ! ニーナモソレガイ~!」

「そうか、なら今日からその爪付グローブの名はブリューナクで決定だ」

「ワ~~イ!」



 ニーナはグローブをはめたまま万歳し、体全体で喜びを表現してくれた。

 ここまで喜んでもらえると、竜郎も色々と頭を悩ませた甲斐があったと言うものだ。


 さて。突入組の眷属たちの装備品も行き渡った。これで準備は大方終わったと言ってもいい。

 けれど竜郎は、パワーレベリングでは補えなかった経験を少しでも積んでほしいと考えていた。



「ウリエル。アーサー。今日は皆、新しい装備に夢中だろうから、明日またここに集まるように皆に伝言を頼んでもいいか?

 《強化改造牧場》のほうには、これから一度行くんだろう?」

「はい。装備品を身に着けた状態での、白太さんとの連携も気になりますので」

「私もウリエル姉上と同じような理由ですね。後は弟たちの相手もしてみたいですから」

「そうか。ならお願いするよ」



 竜郎はウリエルとアーサーに言伝を頼み、明日の予定についてイシュタルやレーラと改めて相談するべく、カルディナ城に戻って行った。




 そしてその翌日。昨日頼んでおいた通り、人間魔物の突入組が集まってくれていた。



「度々集めて悪いな。だが最後に一つミッションを、こなして貰おうと考えている。

 今日はその事について話しておこうと思う」

「ミッションですか? それは一体どんな内容なのでしょうか」



 ウリエルが代表して竜郎へ問いかけた。それに竜郎は勿体ぶってもしょうがないと、ハッキリと内容を口にした。



「これよりウリエル達には数組のチームに分かれて、こちらの指定した竜がボスとして出てくる高レベルダンジョンを攻略して来てもらう。

 そしてその素材もちゃんと持ってきてもらいたい」



 その言葉だけでミネルヴァは竜郎が何をさせたいのか全て察したようだ。

 なるほどと頷きながら口を開いた。



「つまり私たちに実戦の経験を多く積ませつつ、《竜殺し》と《竜を喰らう者》の称号によって竜力の増強。

 さらには主様の趣味?──である竜王種創造の実験のための素材も集めるという、一石三鳥の利益を上げようというわけですね」

「そう言う事だな。ちなみに俺もパパッと、天照と月読に覚えさせてくるつもりだ」



 イシュタルやレーラには、その顔の広さから竜がボスとして出てくるダンジョン。そしてどんなダンジョンか。竜郎たちの時のように浦島現象が起きる危険性はないか。などなど色々と調べて貰っていたのだ。


 その結果、全部で5つの該当するダンジョンを発見した。

 竜王種の数は全部で6種。現在は2種いるので素材としては1種多いが、その辺りもどうなるか楽しみな所である。



「まあ、さすがに実験は全部終わった後にやるつもりなんだけどな」



 竜素材集めも後でやるつもりだったのだが、ご褒美でもらった《魔物大辞典》での素材集めもあるので、こちらはとりあえず素材だけでも巻きで集めつつ、皆の経験にもしてしまおうと思ったわけだ。



「それじゃあ組み分けを発表しだい準備を整え、俺が方々に送っていくことになる。

 場所は間を見て一通り回ってきたから直ぐにいけるぞ。

 あと準備と言ったが追加で補給物資が欲しい時は、俺や愛衣達の《無限アイテムフィールド》に手紙を送りつけてくれ。

 あれならダンジョンの中からでも届くようだし」

「それに装備品が壊れたら、私の所まで送ってください。すぐに直すか予備の装備を送りますからね」

「なんというか、至れり尽くせりですね」



 アーサーがそう言って苦笑する。

 決められた物資の中で探索していくのが本来の正しいダンジョンの歩き方だ。

 いつでもどこでも補給が受けられる状態というだけでも、大分難易度が変わってくる。



「そりゃまあ、こんな所で万が一にでも躓いてもらいたくはないしな。

 だからサポートは万全だ。安心して存分に暴れてこい」

「うむ!」「おうよ!」



 血気盛んなランスロットとガウェインが叫ぶ中、さっそく竜郎は組み分けを発表していくのであった。

次回、第603話は11月7日(水)更新です。


それとダンジョン内での出来事を細かくは書かないつもりです。

また長大なダンジョン編になってしまいますので、さくっと終わらせ話を進めていく予定です。

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