第599話 6人の新装備
さんざん振り回して満足したランスロットが、普通の剣の状態にしてから戻ってくると、さっそく名前を付けてくれと竜郎にせがんできた。
ガウェインも忘れていた、とばかりに自分のにも何か付けてくれと言ってくる。
「やっぱり名前がいるのか」
「アーサー兄上の剣にはあるのだから、我のにも欲しいのだ」
「俺もその方がより強い武器な気がするし、付けてほしいぜ」
「まあ、名が欲しいと言うのなら別にいいんだがな」
ランスロットとガウェインに関しては名前はもう決まっている──というより調べ済みだ。
アーサー王の物語で語られた剣の名前を付ければいいのだから。
けれどそうするとアーサー王伝説という便利な名前候補が無い者達にも、付けなければならないだろう。
ここでランスロットたちが流れを切ってくれたら、自分も頭を悩ませなくて済んだのにな──とせん無い事を考える竜郎。
だがこの数日でそれっぽい名前候補はいくつか調べておいたので、その中で恐らく対応できるだろうと開き直り、竜郎は2人の武器の名を口にした。
「ではランスロットの連接剣は命名──アロンダイト。
ガウェインの体術用アーマースーツは命名──ガラティーン。
……で、どうだろうか?」
「うむ! いい名前な気がするぞ!」
「ああ、悪くねぇ。ありがとな、マスター」
「元の名前は俺が考えたわけじゃないけどな」
ガラティーンは対象物が剣ですらないので一瞬迷ったのだが、ガウェインの装備という大きなくくりで良しとした。
それから2人も実戦で使うべく《強化改造牧場》内に勇んで去っていった。
さきほどアイギスに置いていかれたアーサーも誘われたが、こうなったら全員分みていくと断り、その場に止まった。
「それでは次にムサシさんとダーインスレイヴさん」
「「────」」
無口な武蔵と喋れないダーインスレイヴが揃って静かにリアの前に来ると、くすんだ銀色の鬼の角のような形をした物を武蔵へ、くすんだ銀色のそこそこ厚みのある剣の形を模した置物のような物をダーインスレイヴへ渡された。
「お二人は霊体に近いので、自身を現す象徴を模して体にしまえるようにしてみました。
ただそれは、お二人が自分のみで戦う時のものでして、兄さんやナナの刺突牙に融合すると剥がれてしまうようなんです。
なのでどちらかというと、メイン装備は兄さんとナナの武器と共用と言った感じで、最適な動作をするように調整し直したものでしょうかね」
「俺の場合は武蔵が入ると武蔵が体に取り込んでたそれが剥がれてしまうが、そうなったら今度は俺の新しいライフル杖が武蔵の分の演算もしてくれるって事だな」
「そんでもって、たつろーや奈々ちゃんと一緒に戦わない時は、今リアちゃんに貰ったのを使ってほしいと」
「そういう考えであっています、兄さん姉さん。
それで……そんな感じになってしまうのですが、お二人はどうですか?」
「「────」」
武蔵は黙って頷き、ダーインスレイブも浮遊した大剣の体を斜めに向けて頷くような動作をする。
どちらもその仕様で問題ないようだ。リアでも実体のない相手に魔力頭脳を埋め込む術は今のところ考え付かないので、これがベストの方法だったのだ。
そうして2人の装備を渡したところで、名前をどうするか決め始めると、自分たちのはサブの装備品だから付けてくれなくてもいいと言われた。
むしろ竜郎や奈々と装備を共有できてうれしく、個別に自分の装備に名前を付けてしまうと気持ち的に離れる気がするそうだ。
ならば無理につける事も無いかと、竜郎も内心名前候補が減らなくてほっとした。
「では次はウリエルさん」
「はい」
しずしずとリアの前へとウリエルがでてくると、リアは彼女にサークレットを手渡した。
「ウリエルさんの場合は武器や防具なんかまで自前のスキルで用意できてますし、調べてみると天装やエンターさん達のような魔物の武器とも違って、埋め込んでも爪に戻すとリセットされてしまうようなんです。
なのでウリエルさんには、頭部にこれを嵌めて貰って全体の効率を上げる方向で作ってみました」
「いろいろと考えてくれたようで、ありがとうございます。リア様」
武器の方にも何とか魔力頭脳を仕込めないか考えてみたのが、概念がありそれを具現化しているといった感じのスキルのようで、具現化している方を改造しても概念の方が変えられないと意味がない。
なので具現化した物を改造し別の形にしたとしても、一度爪に戻して再び具現化すると概念を参照しなおして具現化するので改造の前の形に戻ってしまうと言うわけだ。
さすがにそこをどうにかする技術を持ち合わせていないし、いい案も思い浮かばなかったので、ウリエルにはこういった形を取らせてもらったわけだ。
ただしこれは壊されたり殺されたりしても、使徒たちは呼び戻せると言う利点もちゃんとある。
「いえ、これだけでも大丈夫だと思います。私自身の制御力が上がれば使徒たちの動きも最適化できるはずですから」
リア的には少し悔しかったようで不満げな様子だったのに対し、ウリエルは苦笑しながら本当にこれで満足していると改めて告げておいた。
そして名前だが、こちらも使徒たちを支えるサブ装備のような扱いなので、名付けはしなかった。
だがせっかくなのでと、使徒でもある槍の方に付けてくれないかと申し出があった。
そうして決まった名は『レーヴァテイン』。
神話に出てくるネタ元では一般的に剣という扱いだが、槍だったという解釈も見られるようなので問題はないだろう。
さらにそれは世界をまるごと焼き尽くすとも言われる武器らしいので、聖炎暴龍を喰らった十字の槍はまさにソレを体現したような姿である。
そういった経緯もあって、レーヴァテインに決まったのだ。
つつがなく名前付けも終わった所で、ウリエルはアーサーと共に傍観者となって元の位置に戻った。
それからリアは次にフローラを呼ぶ。
渡したのは妖精樹の素材をふんだんに使った杖で、一本の太い杖の本体に2本の太い蔦がぐるぐると巻きつき、天頂部に嵌っている魔力頭脳の部分で大きな葉っぱを一枚ずつ伸ばしているような物だった。
「ルナさんに剪定していい部分やいらない部分を聞いて、色々と素材を分けて貰えたのが良かったですね。
フローラさんのクラスは『抗魔の妖精樹姫』ですし、妖精樹の素材と相性抜群なはずです」
「これいいよー! フローラちゃんの体の一部みたーい♪
これならバンバン魔法も使えそうだよー♪」
「それは良かったです」
素直に喜びを表すフローラにリアも思わず微笑んだ。
それからフローラのその杖にも名前を付けた。その名は『ケーリュケイオン』。
理由は何だか形が神話で語られるそれと似ているからだ。
というのも、元ネタのケーリュケイオンという杖は柄に2匹の蛇が巻きついている杖らしく、持ち主であるヘルメスの羽が上部に付けられているというもの。
そしてフローラの杖はベースとなる柄に2本の蔓が蛇の様に絡みつき、頭の魔力頭脳が嵌っている部分で大きな葉っぱが羽のように2枚広がっている。
まさに竜郎のスマホの辞書アプリに記載されている内容と瓜二つだったのだ。
そうしてフローラも新しい杖にご満悦な様子になった所で、次にリアに呼ばれたのはミネルヴァだ。
「ミネルヴァさんにはこち──らっです」
「大きいですね。といっても、竜形態に戻ればそうでもないのでしょうが」
全体のフォルムは対物ライフル──に似せた杖と言った感じ。
大きさは全長約3メートルもあり、身長150センチ程の人間形態のミネルヴァが持つには大きすぎた。
ただ人間形態でも腕力は人種とは比べようもないほど強いので、持ち歩けないことは無いのだが。
けれど竜の──本来の姿になれば5メートルほどの体格になるので、取り扱いもそこまで苦労する事もないだろう。
「ってことは、竜の姿で使う奴って事でいいの? リアちゃん」
「それは、そうですね。ミネルヴァさん、一度それを起動してみてください」
「はい」
ミネルヴァの竜力を流すとそれを感知して自動で起動し、世界力からエネルギーを供給し始め魔力頭脳が完全に立ち上がった。
これからどうしたら?という視線をリアにミネルヴァが投げかけると、今度はその巨大ライフル杖の背中を開くようにイメージを伝えてみてくれと言われたので、これまた言われたようにしてみる。
するとパカッと背中側が観音開きのように自動で開き、中身を露出させた。
何の気なしにその開いた扉の奥に視線をやると、そこにはマトリョーシカのように、フォルムは全く同じ70センチほどの大きさのライフル杖が収まっていた。
「それがこの杖の心臓部になります。人間形態の時はそちらを取り出して使うといいでしょうね」
「この小さいのが心臓部だと言うのなら、こちらの大きな方の物は何の意味があるのでしょうか?」
「そちらは威力強化外装だと思っていただければいいかと、極限まで威力上昇の仕組みを盛り込みまくったので、大きい方で使った方が威力が伸びます」
「なるほど」
試しにキラキラと輝く薄いオレンジの鱗に覆われた竜の姿に戻ると、開いたハッチを閉じて大きな巨大ライフル杖をガシッと掴んで海に向かって構える。
そして遠い水面で跳ねた魚の魔物を見るや否や、ほんの少し竜力を込めて《竜弾》を撃ちこんだ。
すると想定以上に大きな《竜弾》がビュンッと射出され、水面に着水する前に魚は見事木っ端みじんに砕け散った。
「あれだけの竜力でこの威力ですか。凄まじいですね。では今度は──」
素直に驚きを顔に浮かべながら今度は人間形態になってから、また背中側のハッチを開いてライフル杖をガチャッと外して手に持ち海に向かって構える。
そして同じだけの竜力を込めた《竜弾》を、また同じように水面を跳ねた魚に向かって撃ちこむと、多少想定したよりも威力は上がっていたが、先ほどまでではなく、魚は穴が空いたものの木っ端微塵とまではいかない状態で海面に浮かび、別の魔物がすぐさま死骸を食べにきた。
「こちらでも申し分のない性能ですね。これならスキルを使わなくても、目をつぶって当てられそうです」
巨大な方も小さな方も同じように魔力頭脳が手助けしてくれるので、多少適当に撃ってもそちらで補正して敵に当ててくれる優れものとなっている。
なのでただ敵に当てるだけなら、どちらでもいいと言った感じだ。
けれどとにかく威力を求めたい時には、巨大な威力強化外装が役に立つ。
ただし逆に低威力の調整は苦手なので、殺す気のない相手には心臓部だけのただのライフル杖を使うのが得策だろう。
こちらなら脳天を打ち抜く威力も、子供が肩を叩く程度の威力に落とす事も容易に調整できるからだ。
こうして杖の概要を聞き終わった後は、その杖の名付けである。
「ライフル杖じゃ俺のと混じってややこしいし、いい名前が思い浮かんだ。
威力強化外装──またはそれを取り付けた状態の事を『グングニル』。
心臓部だけの状態の事を『ゲイボルグ』と呼ぶことにしよう」
「どっちも投げれば必中の槍だっけ。確かにミネルヴァちゃんの杖にはピッタリな名前かも」
「私の装備の名には過分だと言われないよう、頑張って使いこなして見せます。主様」
ミネルヴァはそういって、皆のいる位置まで下がっていった。
それを目で見送りながら、今度は彩の名前をリアは口にする。
「「はーい」」と彩人と彩花が声を揃えてやってくる。
「お二人にはこれです」
「「ありがとー」」
ちゃんとお礼が言えて偉いな、なんて事を竜郎は考えつつ、手渡されたそれを良く見ていく。
「なんだか天狗とかが持っているような羽団扇に似ているな」
「ああ、そっか。どっか見たことあるなぁって思ってたんだよね」
それは柄が長めのでんでん太鼓の太鼓部分の側面に、ぐるりと薄い笹型の刃物を9枚扇形に真横に──ではなく広げた刃が扇子のように閉じられるようにややずらして並べたような外見で、竜郎の言った様に一般的な団扇ではなく能などに出てくる天狗が持っているような小道具の羽団扇に酷似していた。
そしてそれが白と黒、色違いで2つ。白を彩人が、黒を彩花が手にしている。
「彩さんの状態なら邪でも聖でも問題なく使いこなせますし、2人の状態になってもどちらも武器が持てるようにと作ってみました」
「「おー」」
この世界の扇術は斬る事は勿論、攻撃を弾き返すスキルもあるので意外に攻守に長けた武術である。
やや扱いは剣や槍に比べたら難しい所もあるが、遊撃型の戦闘スタイルを持つ彩にとって大きな力となる事だろう。
さらにこの扇。柄を伸縮する指示棒の様に伸ばすことも出来、そうする事で扇としての機能を無くし魔法を使う時の杖として使えるようにすることもできる。
ほかにも刃を扇子の様に畳み、牙のイメージを伝えると全ての刃が融合して一本の牙となり《かみつく》を、爪のイメージを伝えると3枚ずつ融合して3枚並んだ爪のような刃になり《ひっかく》を──と獣術も使えるようになっている。
狼王の名がクラスについた彩ならば、獣術の適性も高いだろうし上手く使いこなしていってくれるはずだ。
そしてそんな武器につける名は──。
「やっぱりニコイチの武器と言ったらあれじゃない?」
「愛衣もそう思うか。まあ捻りすぎても覚えられないし、それで決まりということでいいかな。
ということで彩人の持っている白い方を干将。彩花が持っている黒い方を莫耶としよう」
「ボクのが、かんしょーで」
「ボクのが、ばくやねー」
「「わかったー」」
2人にとってはそれほど名前は重要ではなかったようで、かるく受け流すと先に言ったウル太と千子を追いかけ《強化改造牧場》内にてててーと走っていってしまった。
なんだかんだでもう少し反応が欲しかった竜郎は、少しさびしそうにその後ろ姿を見守ったのであった。




