第5話 この場所は…
「おつかれー」
「そっちもお疲れさん」
お互いに労いの言葉をかけ合い、戦果を確認するためお互いシステムを起動した。
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名前:アイ・ヤシキ
クラス:体術家
レベル:5
気力:1220
魔力:3
筋力:240
耐久力:240
速力:190
魔法力:1
魔法抵抗力:1
魔法制御力:1
◆取得スキル◆
《武神》《体術 Lv.3》《棒術 Lv.1》《投擲 Lv.6》
残存スキルポイント:15
◆称号◆
なし
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「魔法系以外はどんどん伸びてくな。絶対5レベルの奴のステータスじゃねえよこれ」
「えー、それじゃあ たつろーの方はどうなの?」
「俺? 俺は普通だよ普通」
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:-
レベル:3
気力:60
魔力:60
筋力:20
耐久力:20
速力:15
魔法力:20
魔法抵抗力:20
魔法制御力:15
◆取得スキル◆
《レベルイーター》
残存スキルポイント:24
◆称号◆
なし
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「まって。なんで『レベル:3』なのにスキルポイントが(24)もあるの?
全然普通じゃないじゃん」
「あーそれな。なんか《レベルイーター》って相手のスキルレベルも吸い取って、自分のスキルポイントに変換できるみたいだ。
だから内訳としては最初からあった(3)、2レベルアップで(6)だから、イモムシのスキルから奪ったので(15)ってことになる」
(ってことは数値的にLv.3のスキルを奪った場合「1+2+3」、Lv.2の場合「1+2」となるのかな)
さらに詳しい内訳を竜郎が暗算していると、愛衣が話しかけてきた。
「ねえねえ、それってスキル取り放題ってことじゃない!?」
「まあな、俺のもなかなか反則スキルで安心したわ。
あのままじゃドンドン差が開いてく一方だったし」
「うーやっぱりそっちの方が良かったよー」
「無い物ねだりしてもしょうがないだろ。それに愛衣の──ん?」
むくれる愛衣の頭を撫でながらじゃれていると、ふと視界の隅に動くものが見えた。
「どしたーん。もっと撫でてもいいんだよー」
「いや、それはいいんだが……あっちのイモムシ一匹だけ生きてないか?」
「えー?」
竜郎の胸元を頭でぐりぐりしていた愛衣を、さっき投石していた方角に向けさせた。
「おー? 全部お亡くなりになって……ないっぽいね」
「ちょっと行ってスキルポイントもらってくるわ」
「うー私はちょっと近づきたくないなー……一人で行ってこれる?」
「ああ、もうほっといても死にそうなぐらい弱ってるし大丈夫だろ」
「そっ、じゃあパッと行ってパッと戻ってきてね」
「了解」
軽く手を振り、竜郎は小走りで潰れたイモムシの残骸の中で、唯一辛うじて生きている個体に近づき《レベルイーター》を使った。
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レベル:12
スキル:《体当たり Lv.5》《糸吐き Lv.5》《かみつく Lv.5》
《統率 Lv.1》《自己再生 Lv.1》
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(うお!? なんか俺の奴よりめっちゃ強いじゃん。
それによく見れば他のより一回りくらい大きい気がするし、こいつらのボスだったのかもな。
《自己再生》を残しとけば生き残れるかもしれないが……まあいいか、では頂きます)
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レベル:1
スキル:《体当たり Lv.0》《糸吐き Lv.0》《かみつく Lv.0》
《統率 Lv.0》《自己再生 Lv.0》
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救済の心が一瞬芽生えかけたが、ここまでしてそれもなぁと容赦なく全部を頂戴する。
右も左もわからない状況で、一匹の虫に情けをかけている場合ではないのだ。
そうして竜郎のスキルポイントは(71)になった。
「では、さらばだ。名もなきイモムシよ」
一度だけ手を合わせ軽く黙祷すると、竜郎はその場を後にした。
「あなた、おかえりなさーい。ご飯にする? お風呂にする? それとも…わ」
「私でお願いします!」
「早いよ! まだ言い終わってもなかったよ!」
「私でお願いします!」
「ちょっ、えっ、ホントにっ、いいい今!?」
慌てる愛衣を竜郎は「可愛いなあ」と抱き寄せて、ガッチリと腕の中でホールドして逃げられないようにする。
「ええー……こんな所でするのは嫌だけど……、たつろーがしたいなら……うーんでもでも……初めてはもっといい感じの所で……ごにょごにょ」
「…………いや、色々考えているところすまないが、冗談だから。
さすがにイモムシの死体が近くに散らばってる所ではしたくないから」
「だだだだだだよねー。ももも勿論解ってたよー。慌てた演技よ演技ー」
「はいはい」
「むー、ハイは一回」
「はーい」
そのまま一分ほど抱きしめあってから離れると、今後の方針について話し合うことにした。
「えーと、まずは溜まったスキルポイントでマップ機能を有効にするのよね」
「そうだな。それはまずこっちでやってみるよ。俺のスキルポイントは実質無限みたいなもんだし。
愛衣の方は、とりあえず温存しておいてくれ」
「マップとか便利そうだから私も取りたいんだけどなー」
「まあなあ。でもどれぐらいの精度のマップなのか、使い勝手はいいのか、とか一回使ってみなきゃわからないこともあるから」
「そう言われるとそうだね」
「ああ、あとはステータスみたいにパーティで共有できるかもしれないし、実験的なスキルは俺が優先して取っていくことにするよ」
「うう、いつもすまねぇなぁ」
「いいってことよ、おやっさん」
「誰がおやっさんじゃい!」
謎のコントを繰り広げ、場を和ませたところで二人は話を進めた。
「では、マップ機能をとりたいと思います」
「わ~ぱちぱちぱちー」
愛衣の声援を軽く受け流しながらシステムを起動し、スキル一覧からマップ機能を選択し、(9)ポイントを使って有効にした。
すると起動画面に新しい項目が加わっていた。
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ステータス
所持金:0
パーティ
スキル
マップ
ヘルプ
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そのままマップをタッチしようかと思った竜郎だが、森の地形を出してもらうよりヘルプで直接場所を調べた方が早いと思い直し、ヘルプを起動した。
(ここはどこだ? ……ヘルダムド国領内のアムネリ大森林。──ってどこだよ!?
じゃあ、日本はここからどのくらい離れているんだ? ……そもそも日本なんて国は存在してない。
じゃあ、ジャパンは? …ジャポネルシオン共和国ならある……。絶対違うだろ……。
そもそもここは地球? ……地球がまずわからない。……か)
そこまでで一旦システムを切ると、竜郎は愛衣に目を向けた。愛衣はその真剣な表情から空気を読み、姿勢を正した。
「えーここで残念なお知らせがあります」
「…………」
「どうやらここは日本でもなければ地球でもないそうです」
「っていうとやっぱり……」
「──異世界ってことみたいだ」