第595話 全ての組み分け
そして最後。神格者まで上りつめたニーナは──レベル960で『全竜神の系譜』から、『九星白天に近づきし全竜神の系譜』へクラスチェンジ。
これまたイシュタル情報によれば、九星とは彼女の祖母にあたる真竜セテプエンイフィゲニアの9体いた内の側近眷属の事を竜界隈ではさすらしい。
そしてその中でニーリナは一番強く、白く美しい姿から九星の一番星──白天と言われていたんだとか。
何でも当時の下々の竜たちは九星の竜達の名前を呼ぶことすら畏れおおかったようで、そういう呼び方が定着したそうな。
なのでこの世界の竜たちに『九星白天』とは誰の事かと問えば、100人が100人ニーリナの名前を出す。
当時、本人は恥ずかしがっていたとエーゲリアは言っていたそうだが……。
また余談になるが、幼き頃のエーゲリアが、からかうためにニーリナを九星白天と呼んだ時は、鬼の形相で追いかけられて泣いてしまったのは誰にも内緒な彼女とニーリナだけの秘密である。
実はイフィゲニアも知っていたけれど、2人の秘密である。
……それはともかく。ニーリナの心臓をより深く体に馴染ませ、さらにレベルを上げた事でそのクラスにまで至れたようだ。
そして与えられたスキルは《超竜力環吹》。これはニーリナが最も得意としていた必殺の一撃なんだとか。
竜の息吹きの派生形である、範囲を狭め威力と貫通力を増した竜力収束砲。
そしてそれの範囲をさらに狭め、目の前で円を描くように極限まで収束した竜力を循環させ、威力を高めて敵を消滅させるのが《竜力環吹》。
使用時の外見のイメージ的には、使用者の口元から大きな風船ガムを膨らませたような感じに見える。
範囲は目の前から3~4メートル程と極めて狭い。大きくすることもできるが、威力が弱まる上にせいぜい8~9メートル程。
その代り竜力収束砲など比べ物にならないほど威力は高い。
「でも、これって制御がすっごく難しいスキルなんだよね」
「スキル化したことでシステムによる補助もあるはずなのに、思いっきりニーナは失敗してたしな。
あの時はビビったもんだ」
「ギャゥ……。ゴメンナサ~~ィ」
「ああ、ごめん、ごめん。責めてる訳じゃないから気にするな、ニーナ」
竜郎はそう言ってニーナの頭を撫でた。
「ギャ~ゥ♪」
それは言うなれば大爆発。念のため試し撃ちの時は全員離れていたが、余波だけで吹き飛びそうになった。
さらにニーナはその一発だけで全ての竜力を使い果たしてしまい、倒れてしまったという苦い記憶まである。
なのでとりあえずは、《超竜闘気》を上手く使えるようになったら練習してみようという話になっている。
ちなみに現在この《超竜闘気》と《超竜力環吹》の両方を自在に扱えるのは、イシュタルの母エーゲリア。そしてエーゲリアの最古の側近眷属、黒竜人セリュウスのみである。
それもシステムによる補助が無かったとしてもだ。
「それじゃあ確認はこれくらいかな。突入組のレベリング大会も今日で終わりだ。皆、お疲れ様。
明日は休息日にして、明後日からは新しく手に入れた力に慣れるよう訓練をしていくつもりだ。
あと少しだけ頑張ってほしい」
そうして十数日かけて行ってきた、アムネリ大森林突入準備の一つが終わりを告げた。
明日からもまだやる事はあるが、着実に近づいてきている決戦の日に皆が闘志を燃やし始めたのだった。
一日休息日を挟み、また数日の時が流れる。
竜郎たちは再び《強化改造牧場》内のトレーニング空間にいた。
休息日をとった次の日から、突入組のスキルレベル上げや急激に上がったステータスに体を慣らしたり、新スキルのお試し実験などに入っていた。またチーム分けも全員分決めて、その連携の確認も。
その為に適度な魔物の影を出しながら、突入組以外の面々に最後の一撃だけを譲ってのレベリングも始めていた。
なので今こちらには爺や、領地の管理も任せている眷属組のクー太やニョロ子達なんかも来ている。
「あっははははっ! 消し炭におなりなさいな!!」
「おーウリエルちゃんも乗ってんねー」
彼女は《聖炎宿強》と《十六聖炎暴龍操》の合わせ技が非常に気に入っており、今もまた魔物の影相手に暴れていた。
その合わせ技とは、《十六聖炎暴龍操》で聖炎の暴龍を呼び出し、《聖炎宿強》の効果で自分で喰らう。
するとただ《聖炎宿強》の効果で強化されるだけでなく、暴龍の力まで取り込めるのか、異常なほどウリエルの身体能力が強化される。
ただ今のところ4体を喰らうのが限界の様で、それ以上取り込むと抑えきれずに体の外に飛び出し霧散してしまう。
けれどこれからの練習次第では、その全てを自身に宿す事も出来るようになるかもしれない。
「他にも自分の使徒に食べさせたりとかもできるんだよね」
そうなのだ。ウリエルの紅い爪の一本一本に使徒が宿るスキル《紅爪十使徒》。
右手の人差し指には紅スライム。中指には紅馬。薬指には紅狼。小指には闇霊。
左手の人差し指は紅ハチ。中指には紅カメ。薬指には紅ヘビ。小指には光霊。
そして右の親指に宿る深紅のドレスアーマー。左手の親指に宿る深紅の十字架大槍。
これらはどう頑張っても1体が限界の様だが、それぞれ聖炎の暴龍を食べて強化することが出来た。
なので本来なら戦う力のない闇霊や光霊なども、戦線に加われるようになった。
故に今のウリエルの周りには8体の体から絶えず火を吹き出す使徒が付き従い、ウリエルのサポートをしながら影に向かって攻撃を加えていた。
また鎧と槍も暴龍を喰らって更にパワーアップし、余った2体の聖炎暴龍も操りながらと、もはやウリエル一人で八面六臂の働きをするようになった。
だがウリエルには使徒の他にも、相棒を得ていた。
「ゴォオオオオーーー!」
「白太、助かるわ」
ウリエルの炎を掻き分けて、死角から放たれた影の仮想魔物の攻撃を虹水晶の鎧を全身に着込んでいた白太が殴って弾き飛ばした。
そう──彼女の相棒となったのはシロクマにそっくりなクマ、白太。
なぜ白太なのかと言われれば、白太が一番炎に対して耐性があったからだ。
というのもウリエルの周囲は常に炎に包まれ、毛足の長いウサ子なんかがその近くにいたら燃えてしまう。
他の面々も火は大丈夫でも熱がダメだとか、またその逆だったりと、非常に相棒となる相手が限られた。
けれど白太。この子はシロクマという見た目に反して、暑いのも平気で熱風の中でも肺を焼かれる事なく呼吸もできる強靭な内臓を持つ上に、特に虹水晶の鎧が非常に優秀だった。
この虹水晶は頑丈なだけでなく熱にも強く、たとえ外側を炙られようと凍て尽かさせられようとも、その熱は中まで届かず適温を保つ。
なのでウリエルが直接、白太を焼き熊にしようとでもしない限りは燃えたぎるウリエルと使徒たちの周りも難なく動ける。
さらに最近覚えた《虹水晶熊群》による虹水晶のクマゴーレム達も、火の影響は全くないと言うのも選考理由として大きかった。
このウリエル&白太チームは、ウリエルが使徒と暴龍と一緒になって前衛で暴れまわり、そこに白太のクマゴーレム達を加えて前衛を固めながら、白太は前衛から中衛の範囲で遊撃手として戦場を駆けまわると言ったスタイルに固まったようだ。
「連携も取れてきてる……というか、白太が空気を読んで合わせてくれてる感じだが、上手くいっているみたいだし、これはこれでありだな」
「そうだね。白太がちょ~っと大変そーだけど……。
おっ、あっちもいい感じじゃない?」
愛衣が向けた視線の先ではフローラ&清子さんチームが戦っていた。
大天使の影相手に物理攻撃は清子さんがゴムのような謎の体で受け止め、魔法系の攻撃には即座にフローラが魔法で盾を張ってガード。
そうして敵の攻撃を完封した所で、清子さんは《技効装填》で《異常遺伝子接触》の効果を、フローラの水魔法による渦巻きに混ぜ込んだ。
大天使の影は洗濯機のように水流に揉まれながら、体中が奇形していく。
そうして手足や翼、目鼻口の位置に至るまでグチャグチャにして身動きを封じた所で、一定の距離を取りながら中遠距離の攻撃を加えて瀕死に追いやっていく。
「それじゃあ、キー太ちゃん、やっちゃってー♪」
「わ、わがっだ!」
あと一歩で死ぬと言う所で安全圏でフローラと清子さんを見守りながら後ろで口をあんぐり開けて、そのあんまりな戦い方に呆けていたキー太にバトンタッチ。
キー太はおたおたしながらも、自分が出せる最大級の攻撃スキルで大天使の影を倒し、大量の経験値を自身のシステムに収めた。
「あそこのチームは、とにかく攻撃が効き難いんだよなぁ」
「そんで手をこまねいてると、隙を突かれてあのザマ──だからね」
愛衣は大天使──には似ても似つかない、残骸と成り果てた影が消えていく様を見ながら苦笑した。
清子さんは魔王種化する前に既に《武術大耐性》を所有しており、さらに魔王種化後の竜種達のレベリング大会の途中で《武術特大耐性》にまで上がっていた。
さらにさらに元から耐久が高く《樹液重衣》という鎧も完備。体もぐにゃぐにゃとゴムのような面白体質なので、衝撃も簡単に逃がしてしまう。
なので物理系タンク職としては異様な強さを誇っている。
それでいて魔法系の攻撃はフローラが《魔法抗混》も使った魔法で器用に防いでくれるので、この2人を組ませると物理魔法双方、臨機応変に任せあって全てほぼノーダメージに収めてしまう。
軽いダメージならフローラの生魔法で、ちょちょいのちょいと治せてしまう所も侮れない。
さらに全属性を覚えていて、レベルを入れ替えられるフローラの攻撃射程は非常に広い。
そこへ清子さんは《技効装填》で適したスキル効果を混ぜてしまえば、広範囲に渡って清子さんの範囲が決められている独特なスキルを届かせる事も出来てしまう。
「どちらも決定的な決め技はないが、互いに組むと短所を補いあって的確に敵を倒せるようになる。いいコンビになりそうだ」
ひとまずアムネリ大森林への突入チームの組み分けであり、今後も続けていくかは本人たち次第ではあるが、このチームは長く続いていきそうだと竜郎は半ば直感的に思ったのだった。
そんな風にぼんやりと考えていると、別の方向で戦っている3人組の声が聞こえてきた。
「エンターさん! 今ですわ!」
「──!」
「亜子さん。ぶちかますのですわ!」
「────────!!」
神級天魔の真祖種──フレイヤが敵の足を止めさせて、大天使王──エンターが近接攻撃。怯んだところでフレイヤとエンターは直ぐに離脱し、大悪魔女王──亜子の大火力魔法で死ぬ寸前に追いやった。
「ふぅ。やっぱりお二人がいると楽ちん──ごほん。ではなく、頼もしいですわ!」
「「────」」
エンターと亜子の冷たい視線がフレイヤに襲い掛かる。
フレイヤは冷や汗がでそうになりながら、無理やりエンターと亜子から視線を逸らし後ろの方で待機していたハピ子に声をかけた。
「──で、ではハピ子さーん! 倒してもいいですわー!」
「……キ、キィー」
そんな微妙な空気の中で呼ばれたハピ子は、少しその場に居辛そうにしながら止めを刺していた。
「…………あっちは直ぐに解散しそうだね」
「で、でも前衛、中衛、後衛で相性は抜群なんだぞ? ……否定はできないが」
このチームの要は超強力な中衛──フレイヤが前衛、後衛の動きやすいように立ち回ってくれるところにある。
そのおかげでエンターも亜子も自分の仕事だけに集中でき、他のチームと比べても高い総合力を持っているとも言えた。
とはいえエンターも亜子も半神種であり、どちらも優秀なので、そこまで手厚くフォローしてやる必要があるかと言えば疑問である。
フレイヤに至っては《崩壊の理》もあるので、誰とも組む必要が無いくらい攻防優れてもいるので、全体の遊撃手として動いてもらおうかなとも考えていたほどだ。
……だが、フレイヤはそんな1人で働かせられそうな空気を察したのか「まだ決まっていないのでしたら、お2人とも私と一緒に組んだらいいのですわ~」などと言ってエンターと亜子を勧誘。
いざ組ませてみたら文句のつけようがないくらい上手く嵌っていたので、そのままに──という状況だった。
「まーとりあえず今回の事が終わるまでは持ちそうだからいっか」
「それに一人だけでってのは、さすがに可哀そうだしな」
愛衣と他のチームたちも上手くいっているか覗いていく。
彩&ウル太&千子チーム。こちらは先行してウル太が相手を引きつけ、彩が遊撃手としてちょこまかと動き回りながらヒット&ウェイで補助。
千子は適度に距離を取りつつ、相手をじわじわと甚振っていく。
そしてここぞと言う所で彩は彩人と彩花に分化して、《崩壊の咢》で相手を瀕死に追いやった。
そして目玉の親父一家のマル子に止めを刺させていた。
「一番心配していたが、あっちも3人の息が随分とあってきたな」
「最初は自由に動きすぎて散々だったもんね」
千子だけは何とか2人に合わせようとしてくれたようだが、如何せん彩やウル太が自由過ぎた。
本能レベルで動く理解不能なウル太の動きや、気まぐれな動きをする彩。
良かれと思って手をだしても、そんな二人が好き勝手に動くものだから悪手になってしまうこともしばしばあり、千子は頭を抱えていた。
そこで竜郎や他のメンバーからも色々とアドバイスをしていき、戦っていくうちに相手の呼吸も理解し始め、ようやく今のような息の合った動きが出来るようになった──というわけである。
竜郎的には最初に大きく転んでいただけに一番不安な組み合わせだったのだが、これで一安心といったところか。
胸をなでおろしながら他のメンバーたちの様子も見て回っていく。
ガウェインと黒田。ランスロットと光田。アーサーとアイギス。ヘスティアとカラドボルグ。ミネルヴァとシュベ太。半神格者たちと魔王種達のコンビは安定感抜群でうまく機能していた。
蒼太とニーナは一応ペアという形にはなっているが、どちらかという単独で皆のフォローがメインとなっている。
だが互いによく一緒に狩りをしているからか、ペアでの戦闘も難なくこなせるので心配はないだろう。
そして最後の魔物だけの特殊組──テスカトリポカとヒポ子とウサ子チーム。
こちらはテスカトリポカとヒポ子に全力で、回復の要でもあるウサ子を守って貰うスタンスだ。
ウサ子さえいれば、崩れた戦線も元に戻せる可能性が高いので重要な役どころでもある。
「真正面の攻撃はヒポ子が全部食べてくれるし、その他の攻撃はテスカがカバー。
テスカはいざとなったら強力なアタッカーにもなれるし、ウサ子をしっかりと守ってくれるはずだ」
「ウサ子ちゃんはエネルギーさえ確保してれば、文字通り死んでなきゃ一瞬で元通りに治せちゃう子だから、それくらい手厚くしておいた方がいいよね」
おまけに3体ともそれなりに機動力も高いので、戦場を駆けまわって衛生兵として活躍してくれることだろう。
そんな風にして、竜郎たちの準備は着実に実を結んでいくのであった。




