第594話 竜種たちの変化と新たな力
やはりというか、全員総がかりで手伝っての竜種のパワーレベリングだったが、それなりに時間がかかる。
なので日をまたぎつつ、無理のない範囲で着実に進めていった。
その途中、ニーナのレベルがついにエーゲリアから全力を出していいと言われていた500に届いた。
ここまでくれば、本格的に彼女の固有属性構成の調整作業に移った方がいいだろう。
そうする事で恐らくニーナは今以上に強くなり、さらに人間に至る可能性も非常に高い。
一旦レベリングは手の空いた人たちに任せ、竜郎は天照と共にニーナの調整作業に入っていく。
《侵食の理》を発動し、ニーナの固有属性構成に干渉していく。
「うわっ──」
「どったの? たつろー」
心配だからと愛衣も近くで見ていたのだが、突如声を上げた竜郎に声をかける。
「いや……レベルが上がったせいか、固有属性構成の量が恐ろしく跳ね上がってる。
んでもって滅茶苦茶だった構成が、さらに滅茶苦茶になってややこしい事になってるぞ」
「……ニーナちゃんは危険なの?」
「いいや。たぶん放っておいても危ないことは無いと思う。普通に生活する分には問題にならないだろうし。
だが戦闘行為になるとエネルギーが空回りして、無駄がさらに多くなってる。
例えば俺達なら1で済むような事も、この子は10や20も消費しなくてはいけない事になってるっぽいな。
これじゃあ本気を出す程に直ぐガス欠になるぞ」
「それじゃあ、早く治してあげないと」
「だな」
しかし言うのは簡単だが、それはかなり複雑だ。
最初に調べた時は100桁で済むような計算だったのに、今は桁が兆を越えた計算になっていた──くらいの難易度の上昇だ。
これは大仕事になりそうだと、天照と気合を入れて取り掛かった。
どれくらいの時間を掛けたのか忘れてしまうほどに集中して作業を行い、ようやくニーナの体を最適化することに成功した。
「パパー。アリガトゥ」
「どういたしまして、ニーナ」
「ギャウ~ダイスキー♪」
ニーナは外見的には紫白色の体に描かれた紫色の模様が少し変わった程度でほとんど変わりはないが、更なる力を手に入れ知能も手に入れ完全に人間に至ることも出来た。
今はいつも以上に、竜郎に甘えるように尻尾を絡ませ頭を擦りつけてきている。
そんなニーナは当然のようにシステムを入手するのと共に、《天衣無縫》も同時に取得。
選んだクラスは『全竜神の系譜』。それによりニーナは半神格者ではなく竜郎たちと同じ神格者に至った。
これもより深くニーリナの心臓と繋がった恩恵だろう。
それも真竜を含めた全ての竜種を司る神の系譜に入ったので、竜界隈でもエリート中のエリートと言っても過言ではないだろう。
「ふふっ、今の姿からは想像も出来ないけどね」
「ナァニ? アイー」
「何でもないよー」
「ギャゥゥ~♪」
愛衣にもよしよし……というより、ごしごし撫でられ、さらにニーナはご機嫌な様子──なのだが、少し遠巻きに見ていた蒼太は焦りを感じているようだ。
なんと言っても彼は半神格者で、彼女は神格者。そこには大きな力の差がある。
追いつきそう、追い抜けそうだと思った矢先にこれなので、その焦燥感も一入だろう。
竜郎は「焦るなよ。お前なら大丈夫だから」とだけ言って、焦る気持ちが暴走して空回りしない様に釘を刺しておいた。
「それで、その時に覚えたのは《超竜闘気》か」
これは後でイシュタルに聞いて発覚したのだが、この《超竜闘気》というスキルはニーリナも所持していたスキルらしい。
そしてニーリナは若かりし頃これを完璧に使いこなし、魔法だろうが武術だろうが何だろうが真正面から、その身一つで叩き潰して見せたんだとか。
効果は自身の竜力を圧縮し濃度を増し、その力をさらに体に循環しつつその身にまとう。
そうする事であらゆる能力が向上するのだが、扱いは非常に難しい。
慣れないうちは地面を踏み抜き、周囲を破壊し、真面に歩くことすらままならない。
けれどこれを完璧に使いこなすことが出来る様になれば、ニーナは真竜を除けば世界最強と謳われたニーリナに一歩近づくことになる。
「もう少し、ちゃんと使えるように特訓しないとな」
「ギャゥゥ……。アレ、イヤー。スッゴク、ツカレルモン」
「そうかぁ。それじゃあ、しょうがないな。それが使えるようになったら凄く強そうだったんだが」
「…………パパハ、ニーナガ、ツカエルヨウニナッタラ、ウレシー?」
「え? ああ、嬉しいがニーナが嫌な事を強要したくはないんだよ」
「…………ニーナ、ガンバル! ソレデ、パパヲタスケテアゲル!」
「ニーナ……。嬉しいよ、ありがとう」
「ギャゥゥ~♪」
竜郎が頭の先をぎゅっと抱きしめてあげると、ニーナは嬉しそうに目を細めた。
そんな様子を愛衣は微笑ましそうに見守っていた。ニーナは竜とはいえ女の子なのだが、どちらにも恋愛感情は一切ないのは見ていて解る。
そこにあるのは愛情に飢えていた娘が、まるで父に甘える様にしか見えないのだ。
そうしてニーナは少しずつだが《超竜闘気》の練習も始めてくれ、また他の面々と同様レベリングにも勤しんだ。
また別の日。今度はゴーレム骸骨竜──テスカトリポカに微妙ながらも変化が見られた。
「少しだけ感情が生まれてきてる」
「ほんとに?」
レベルが600近くなって来た時、竜郎はそれに気が付いた。
何か違和感を感じると思ったら、微かながらに竜郎へと感情を伝えようとしてくれていたらしく、やっとそこで気が付くことが出来たのだ。
そこで固有属性構成を調べ直してみれば、最初には無かった人間に必要な本能、感情、理性の3つがほんの僅かながらも見て取れたのだ。
「りっ太、りっ子、すん太の3匹から、しっかりとそういったものを学んでくれているようだな」
「そうなったらいいなって感じだったけど、これは思わぬ収穫だね」
「ああ。ちょうど本能に忠実な力自慢の個体と、芸術的な感性をもった個体。そして考える重要性を知る個体が揃っているのはありがたい」
リス型魔物の3匹──りっ太、りっ子、すん太に頼んでいたのは、自分の好きな時でいいから出来るだけテスカトリポカとコミュニケーションを取ってほしい。というものだった。
それを3匹は毎日しっかりと実行してくれていた様で、テスカトリポカの周りをちょろちょろと動き回り、三者三様の方法で色々と接触を図っているうちに、少しだけ反応を返してくれるようになったんだとか。
「このまま続けていれば、本当にいつか人間になれそうだな。頑張れ、テスカ」
「────」
今までそんな事を竜郎が言っても、ほとんど無反応か機械的に頷くくらいしかしてこなかったテスカトリポカが、右の前足を上げて「はーい」と言わんばかりの反応をしめしてくれた。
それを見ていた竜郎と愛衣は、満開の笑顔で全力のサムズアップをして返したのだった。
ニーナの人間化、テスカトリポカの感情の萌芽。
そんな出来事を起こしながら行った突入組のパワーレベリング大会は、最終的に急がず焦らずの精神で十数日がかりで終わらせた。
かなり時間がかかったのは竜種達を育てると言うのもあったが、竜郎たちメインメンバーのレベル上げもしたと言うのもあったからだ。
竜郎や愛衣、リアやレーラも途中で少しだけ加わって2500以上まであげ、カルディナやイシュタル達も1800以上まであげた。
さらに竜種組の蒼太やニーナ、アーサーたちに至るまで最低でも1000以上になるまでは皆で頑張ってあげていった。
竜種でない者達も結局、1500以上まで万遍なくあげた。
やり始めたらもっともっとと、皆一丸となって突き進んだ結果ともいえる。
その結果──当然と言えば当然か、蒼太にニーナ。アーサーやミネルヴァ、ヘスティア、テスカトリポカたちも、ウリエル達同様、新しいスキルを手に入れた。
蒼太は新たにクラスチェンジし、『洸海九天龍』から『洸海九天龍帝』へ。
その際に覚えたのは《蒼海玉》というスキル。
これは大きさ5メートルほどの蒼い水晶玉のようなものが手の中に現れ、蒼太はそこから無限の海水をエネルギー消費無しで湧き出させることが出来るようになる。
蒼太は《龍力変換・水》というスキルを所持しているので、その玉から無限に海水を湧き出させ手の平から吸出し、無尽蔵にエネルギー回復を図ることも可能になった。
そのエネルギーを《超自己再生》《超鱗生成》に回せば永遠に治癒効果を受け続ける事も出来れば、高火力のスキルをガンガン撃っていくこともできる。
「けど耐久性に難ありなんだよね。その玉って」
「ソウ。チャント、マモッテナイト、スグニコワレル」
ただしその玉はかなり脆く、ちょっと攻撃が当たっただけで崩壊するという欠点が存在する。
そして一度壊れたら、日付が変わるまでスキルの使用が出来なくなる。
なので《蒼海玉》の恩恵を得るためには、それを全力で守る必要があると言うわけだ。
次にアーサー。彼はレベル50で『聖人竜王』というクラスに至り、《聖竜王装》を覚え、またレベル288で『救済聖人竜帝』というクラスに至り、《必受吸反》という強力なカウンタースキルを覚えた。
《聖竜王装》はアテナの竜装に似ているが、こちらはレベルが無い。
その代り初期から強く頑丈な聖なる竜の鎧をその身にまとうことが出来る。
さらにこちらはそこまで強力ではないが、装着者に常時エネルギーや外傷の回復効果を発揮しているので継戦能力も高くなる。
また《必受吸反》は、敵の攻撃を自分の方に強制的に引き寄せ全てを受け止め吸収し、その力を自分の攻撃も乗せて相手へ返すと言うものだ。
これは消耗も激しいが、本来受けたら消滅するような攻撃でも受けきり返すことが出来るので、いざという時に味方を庇う盾になり相手に反撃──なんて事も出来る。
「発動中は、どんな攻撃も受けきれるってのは凄いな。いざという時の切り札の一つになりそうだ。その分、何度も使用はできない様だが」
「ですね、マスター。それにいざという時にエネルギー不足で使えない──なんて事もありそうなので、自分自身のエネルギー配分が重要になってきそうです」
アーサーは他にも強力なスキルがあるので、それらとうまく合わせたうえで切り札も、ちゃんといざという時に使えるように考えながら戦う術を磨いていく必要がありそうだ。
今度はミネルヴァ。彼女はレベル50で『解竜王』というクラスに至り、《理解共有・極》を覚え、またレベル363で『解竜帝』というクラスに至り、《強制貫通弾》というスキルを覚えた。
《理解共有》というスキルの保持者が以前に出てきたが(※第301話参照)、あちらは解魔法の情報だけを共有するものだった。
しかし《理解共有・極》は、任意で他者にあらゆる情報を発信し共有できる。
例えばミネルヴァが解魔法ではない他のスキルで得た敵の位置情報を全員と共有したり、解魔法が使えない人物に幻術を破らせたり──なんて事も出来るほか、ミネルヴァの5感情報までも共有できるのだ。
また《強制貫通弾》は、どんなに硬い物でも強制的に貫通する弾丸を竜力で作り上げる。
ただし大きさは1センチほどで弾速も、こちらの世界に来る前の竜郎でも避けられるほど遅い。
なので簡単に避ける事は出来るのだが、撃てる数は使用者のエネルギー量が持てばいくらでも撃てる。
「さらに私は《標的刻印》を所持しているので、こちらと合わせれば何処までもついてくる必ず貫通する弾が、避けても避けても付きまとうと言う悪夢のような状況に陥らせることが出来るかと」
「いくら遅くても、どこまで逃げても常に追いかけて来るってのはきついよね」
「それに上手く立ち回れば、逃げ場のない場所に追いやってジワジワと蜂の巣に──なんて事も出来そうだ」
次はヘスティア。レベル50で『邪人竜王』というクラスに至り《超竜重撃》を覚え、またレベル279で『消飛邪人竜帝』というクラスに至り《力燃至剛》といスキルを覚えた。
《超竜重撃》は一撃の重さを上げ、本来のヘスティアでは出せない程の重量級の一撃を放つことが出来る。
けれど発動中は速力が大きく下降するので、強力なれど隙の大きいスキルでもある。
《力燃至剛》は使用中、内在エネルギーを常に大量に消費し続けるが、自身の能力を大幅に向上させるというもの。
ニーナが覚えた《超竜闘気》と効果が似ているが、あちらは循環できるのでコスパがよく、こちらは常に消費し続けるのでコスパが非常に悪い。
ただ制御の難易度はこちらの方がずっと簡単なので、ヘスティアにはこちらの方があっているのかもしれない。
使っていると直ぐにエネルギー切れを起こすので、長期戦ではオンオフを小まめに切り替え戦うのが望ましいだろう。
「これを使うと《超竜重撃》のデメリットもかなり軽減されるんだよね?」
「ん。普通の時ぐらいには動けるようになる」
「ただ消費がビックリするくらい多いから使いどころが難しいな」
「ん。使うのは程々にしとく」
次にテスカトリポカ。この子はシステムをインストールされていないが、レベル491で《外殻変竜》というスキルを覚えた。
「これは骸骨竜の外殻を、テスカが知っている竜達の形に変化させることが出来るんだったな」
「────」
テスカトリポカは、ゆっくりと頷き返し肯定する。
「けど形だけでー、大きさは基本的にテスカのサイズ感になるんだよねー♪」
「ああ、だから幼竜達の姿にも形を変えられるが、8メートルサイズの幼竜達の星天鏡石像が動いているように見えるわけだな」
色や質感もそのままなのに、形だけを真似て何の意味が? と思うかもしれないが、このスキルの本領は形を変える事ではない。
なんと形を参考にした竜種の竜系スキルを、一つだけランダムで使うことが出来るのだ。
ただしそのスキルを使いこなせるかどうかは、本人の資質によるところが大きいという点だけは要注意。
そして最後。神格者まで上り詰めたニーナは──。
変な切り方をして申し訳ないです……。
ニーナの所まで書くと思っていた以上に今日の更新分が長くなりそうだったので、明日に回させてください。




