第593話 半神たちの新たな力
魔王種候補たちの準備という名の魔王種化もつつがなく終了した。
後は本格的なレベリングを開始し、皆のレベルを押し上げていくだけだ。
「それじゃあ休憩を挟みつつやっていくが、今日は時間の許す限り一気にやっていこう。
彩人と彩花、ダーインスレイヴ、ウリエル、フローラ、シュベ太、清子さん、黒田、光田を最初に、1000になり次第パワレベの補助に回りつつ他の子達と交代だ」
まずはレベルが上がりやすい竜種以外の者達から。
そうすれば補助に回れる人数もどんどん増えて、より強い魔物を出すこともできるので、そのスピードも加速していく事だろう。
そこそこ楽で彩たちにも出来るだけ経験値が入る存在として、最初はお馴染み魔王鳥の影。
それでも経験値の入手が厳しくなってきたら、これまで戦った強力な魔物達で尚且つ対応する者達にとって相性の良さそうな存在を生みだしていった。
そうして見る見るうちに竜種以外の者達が強化されていったのだが、その途中──半神を持つ者達にそれぞれ小さな変化が起こった。
その小さな変化と言うのは、一言で言って新スキルの入手やシステム持ち達のクラスチェンジだ。
「魔物達も姿形には現れなかったが、そういう変化は起こるのか」
「でも決まったレベルじゃなくて、それぞれバラバラだったね」
「その個体がその域に到達したらといった感じでしょうか」
実際にクラスチェンジして新スキルを手にしたウリエルが、その身で感じたままの感想をそう漏らした。
他の面々も大体そのように感じたらしく、そうかも知れないと頷いていた。
「確か彩はレベル933で『速技系半神級天魔』から『半神狼王天魔』になったんだったよな。
狼王ってクラスにまで入れられて、ほんと豆太も含めて狼が大好きすぎるだろ」
「「豆太もオオカミだいすきー」」
「かわいいもんね」
「「うん。あーねぇも良く解ってるー」」
彩人と彩花は嬉しそうに愛衣に両脇から抱きついた。そんなちびっ子の頭を愛衣は片手ずつ手を置いて撫でる。
それを見たアテナは、首を傾げながら「虎も可愛いと思うんすけどねー」などと小さく言葉をこぼしていた。
竜郎はそんなアテナに少し笑ってしまいそうになりながらも、彩が覚えたスキルについて話していく。
「覚えたスキルは《狼王守護印》だったか」
「「そうそー」」
発動すると水墨画で描かれたような狼の模様が体に浮かび上がり、それは彩の意志で飛び出したり、自動で守ってくれたりする。
体から切り離す事も出来るし、水墨画狼は単体での戦力も彩の強さに比例して強くなるので、今ではかなり高い。
また消されてしまったら、再びエネルギーを消費する必要はあるが何度でも呼び戻せるので使い捨ての戦力としても活用できる。
「それでもってダーインスレイヴは、レベル998で『半神厭魅魔剣』から『半神厭魅毒邪剣』になったと」
「──」
ダーインスレイヴは《天衣無縫》の称号を習得したうえで、半神厭魅魔剣のクラスになった事で《杭呪麻痺》というスキルを覚えた。
これは対象の体の一部を生贄に捧げる事で、対象の体に呪いの杭を打ち込み麻痺させることが出来る。
対象者が1名に付き全部で5本の杭を打ちこむことが可能で、距離は無限。
体の部位は髪の毛1本でも可能だが、全5回中同じものは使えない。
なので髪の毛5本で5つの杭を打つのは不可能。
呪いの種類は1本目の杭で右腕が麻痺。2本目の杭で左足が。3本目の杭で右足が。4本目の杭で左腕が。5本目の杭で頭が──というより脳が。
そうして5本打ち終わると、最後に6本目の杭が自動的に心臓に打たれ、そこが麻痺する。
ただし効果量は自分の魔法力と相手の魔法抵抗力で変わってくるので、格上過ぎる相手だと5本すべて打ちこんでも、そこまでの効果はない。
せいぜい体中に、ちょっとした違和感がある程度──になってしまうだろう。
「呪いのワラ人形の凄い版って感じだね」
「地球にあるソレは迷信に過ぎないだろうが、こっちはガチで効果があるから恐いな。距離も無限とか恐すぎる」
そして『半神厭魅毒邪剣』になった事で、《蠱毒壺造》というスキルを取得。
これを発動すると邪なる壺が現れる。そしてその中に毒属性の魔力で作られた多種多様な蟲が大量に湧き出して、最後の1匹になるまで互いに喰らいあう。
だいたい4~7日ほどで完成し、最後の1匹は20レベルの毒魔法でも作れない程の強力な猛毒を持った蟲が出来あがる。
スキルの発動者はその蟲を保存し好きなときに出すことが出来、それを消費して、その最強の毒を使った魔法や攻撃が1匹につき1回だけ使用できる。
また完成前に2つ3つと壺を生みだす事は出来ないが、完成すれば2つ目、3つ目と仕込むことが出来るので、時間的余裕さえあれば何匹でもその蟲を得ることが出来る。
「呪いに毒。思いっきり主である奈々に引っ張られる形になったな」
「奈々ちゃんも手紙送って知らせたら喜んでたし、いいんじゃない?」
「────」
本人も奈々に近づけた気がして嬉しいようだ。邪剣が陽気に宙を舞っていた。
邪剣が陽気にって──と、そんな姿に思わず吹き出しながら、今度はウリエルについて話していく。
「それにしてもウリエルの新クラスは『暴虐の聖炎大天使』か。
普段からは、とてもじゃないが想像できないが……」
「な、なんですか、主様……」
ちらっとウリエルに竜郎が視線をやれば、すわりが悪そうに一歩後ろに後ずさった。
というのも普段は非常にお淑やかで楚々とした彼女だが、戦闘が白熱してくると口元には笑みを浮かべ嬉々として敵を破砕し焼き尽くしていくという、二重人格にも思えるほどの豹変を果たす。
それでいて戦闘が終わると途端に元の性格に戻り、少し恥ずかしそうに頬を染めるのだから、最初見た時は誰もが驚いたものだ。
「まあそれも個性だ。気にしないほうがいい」
「は、はい」
ウリエルはレベル50になった時に称号《天衣無縫》を得て、『聖炎大天使』のクラスを選択した。
その時に、聖炎をその身に呑みこみ強化する《聖炎宿強》を覚え、レベル819で『暴虐の聖炎大天使』となり《十六聖炎暴龍操》という16頭の聖炎で形作られた暴龍を意のままに操り攻撃することが出来るようになった。
これらが上手くかみ合って、戦闘ではかなり面白い事になってきているのだが、それはまた後で。
またフローラも同じように《天衣無縫》を得た。
そこで選んだクラスは『妖精樹姫』。得たスキルは自分の持っている属性魔法のレベルを、好きに入れ替えられる《属性等級交換》。
例えば一番得意とする樹魔法のレベルと一番苦手な闇魔法のレベルを入れ替えられると言うわけだ。
このおかげでフローラの魔法職としての汎用性がグンと上昇した。
さらにレべル777で『抗魔の妖精樹姫』にクラスが変化し、自分の魔法全てに自分の持つ属性耐性と同じだけの抗魔の力を宿す《魔法抗混》を覚えた。
フローラは全属性に対して特大耐性を持っているので、《魔法抗混》を使用した魔法は全て全属性に耐性が付くので魔法で打ち破り難くなる。
例えを出すとフローラが火魔法で出した火を魔法で消すには、本来消すのに必要なエネルギー+特大耐性を打ち破る分を余分に捻出しなければならないと言うわけだ。
なのでフローラと魔法だけで勝負するには、圧倒的に魔法能力でフローラに勝っていなければ勝つのは非常に難しくなった。
「しかもこれ、消費がほぼゼロなんだよな」
「でも物理攻撃に対しては変わらないんだけどね♪」
ランスロットは《天衣無縫》は習得せずに50で『妖精王子』のクラスに付き、《超絶技巧》という器用さが跳ね上がり、あらゆる技術の習得が容易になるというスキルを得た。
これに合わせて《超直観》の効果もあるので、ランスロットの戦闘技術の向上は手が付けられなくなった。
さらにレベル813で『妖精帝王』のクラスになり、《為虎添翼》というスキルも得た。
これを発動する事で背中の妖精の翅が一対増え、全ステータスが大幅に向上する。
さらにその翅をエネルギー源として、発動中一度だけ次の一撃の威力を上げる事も出来る。
「これをかっこいい大人版の我でやれば、それはそれは凄い事になるのだ」
「レベルも上がって、《存在深化》の効果もかなり長くなって来たしな。頼りにしてるぞ」
「うむ! 任せてくれなのだ」
ガウェインも好き勝手に暴れていたので《天衣無縫》は取得せず、『血鬼魔拳将』のクラスに至る。
その特典として《戦血脈動》という、戦闘開始からステータスが徐々に上がっていくスキルを得た。
さらにレベル811で『血鬼魔拳帝』になり、《闇帝拳蹴躍動》というスキルを習得。
拳打、蹴打を敵に当てる度にステータスがドンドン上がっていくというもの。
《戦血脈動》と《闇帝拳蹴躍動》の取得により、戦いが長引くほどにガウェインは厄介な存在へと変貌していくようになった。
「短期戦には向いて無いスキルだが、なんだかガウェインにはピッタリな気がするな」
「おおよ。これで、いつまでもつえー奴と戦えそうで嬉しいぜ」
そして半神種の魔物──白太、エンター、亜子たち。
順にレベル903、495、431でスキルを覚えていった。
白太は《虹水晶熊群》という、虹水晶で出来たクマゴーレムの軍勢を生みだすスキル。
「やっぱり本質的には群れで生きる魔物なんだろうな」
アムネリ大森林で見た金クマたちの集落には、大勢の水晶を背中から生やしたクマがいたことを思い出す。
「このスキルを覚えたって事は、白太は寂しかったのかなぁ。
でもそーすると、水晶のクマさん作って寂しさを紛らわすのは可哀そーかも……」
「いや、別に寂しさを紛らわすために覚えたわけではないと思うぞ?
だがまあ、いろいろ落ちついたら沢山クマを生みだして領地内に立派なクマ牧場でも作ってやろうかな。
野生の奴ほどの上下関係の厳しさは無い方向でだが」
「グォン?」
竜郎が白太をぐりぐり撫でると、白太は「なあに? かまってくれるの?」と言った風に竜郎に頭を擦りつけ甘えだした。
それをみるとやっぱり本来群れの魔物を一匹だけで過ごさせるのは寂しかったのかなと、愛衣ではないが思わされてしまう竜郎だった。
白太を存分に甘えさせながら、今度はエンターのスキルについて話していく。
覚えたスキルは《監獄私刑》。光の檻に対象者を閉じ込め、その内部に刑の度合いによって威力が上がる刑罰が下される。
「死刑じゃなくて、わたくし刑なんだよね」
「ああ、なんたって刑の度合いを決めるのはエンターの胸先三寸なんだからな。まさに私刑だ」
それはエンターが、ただ見た目が気にくわない。などという、どうでもいい事でも刑の度合いは上がる。
なのでエンターが嫌だと思う事をすればするほど、監獄に囚われた時のダメージ量という名の反動が大きくなると言うわけだ。
「そんでもって亜子の方なんだが……」
「うーん……。ある意味、最悪最凶なスキルだよねぇ……」
大悪魔女王である亜子が覚えたのは、《極極極極極痛与》。
これは傷を負わせるわけでも、大仰な攻撃をするわけでもない。ただ痛みを対象者に与えるスキル。
しかもその痛みと言うのは、対象者の魔法抵抗力で亜子の魔法力に抵抗できなければ、たった1秒受けただけで死にたいと思えるほどの超ド級の痛み。
普通では感じられない程の痛みというものを、ただひたすらに追求したものだ。
たとえ痛覚の無いゴーレムのような存在や、スキルで痛覚を無効化しているような存在であっても、問答無用で痛みを与える。
さらに一度これを受けてしまうと気を失う事も発狂する事もできなくなるので、大抵は自死を選ぶという。
「その死に方は私も嫌ですね……」
アーサーが苦々しい顔で亜子を見ると当の本人はニコニコと笑っており、他の面々の顔はやや引き攣ってしまったのは言うまでもない。
「ま、まあいいか。だが人には使ってやるなよ?」
「──」
ほいほい人に使われても困るので念のため釘をさすと、もちろんとでも言うように、にこやかにほほ笑みながら頷いてくれた。
なんだか胡散臭い笑みだが、嘘をついてなさそうなのは眷属のパスで伝わってくるので良しとした。
「んじゃあ、次は竜種たちのレベリングに入っていくか。
レベル1000以上になった皆も手を貸してくれ」
そうして一番手がかかる竜種達のレベリングに入っていくのであった。




