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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第592話 残りの魔王種たち

 アーサーも納得がいったところで竜郎の影に潜んでいた武蔵。エクスカリバーの鞘アイギス。ヘスティアの相棒カラドボルグの残りの魔王種候補達。

 そして半神種の魔物──シロクマの白太、大天使王エンター、大悪魔女王亜子にランスロットとガウェインを加えた8人を、シュベ太たちの時と同じようにレベルを上げていった。



「この世界に来た時はレベル50くらいでも吃驚してたのに、今ではレベル300が軽く思えてきちゃうね」

「魔王種化も今やあっという間だからなぁ」



 そういう愛衣と竜郎の前には、3つの繭が並んでいた。

 撮影準備もばっちりで、2人とも最前列でスマホを構えて待っている状態だ。



「にしても半神種の魔物達はレベル300じゃ何も起きなかったな」

「だねー。エンターと亜子ちゃんは魔王種の魔卵だったんだから、何かあると期待してたんだけどねー」

「けど魔王種より上の半神種ってことだから、もっと高いレベルまで上がれば、何かあるかもしれないぞ」

「それもそ──」

「──おっ、きたっすよ」

「撮影開始っと」「ぽちっとな」



 スマホの画面越しに映る繭が蠢き始め、新しい体へとそれぞれが生まれ変わっていく。


 そうして現れた新たな3体の姿を撮影しながら、良く観察していく。

 年功序列でまずは武蔵から──。



「なんだか随分と立派になったな」

「キョウエツシゴク(恐悦至極)」



 相変わらずしゃべるのは得意ではないのか、ほぼ単語のみでの会話だが、その体は大きく変わっていた。


 以前は一般的な成人男性サイズの黒い筋肉の発達した上半身に、今にも朽ちそうな痩せこけた銀髪の鬼の頭──といった風体であったのに対し、今や立派な大黒鬼の鎧武者だ。


 下半身が無いのは相変わらずで、少し透けた体や銀髪。頭に生えた左から赤、白金、緑の3本角の位置はそのままだ。

 けれど上半身と頭だけであるのに、その大きさは2.5メートル程。

 痩せこけていた顔も幽霊に対しこの言葉があっているかどうかは微妙であるが、生気に満ちた健康的で凶悪な黒鬼のそれ。

 首から胸筋、腹筋に至るまでの筋肉も筋肉質という表現を超えて、異常なほど発達していた。

 さらに魔法系のスキルを使う時に使用していた太い鬼の腕の下についていた赤子の腕を伸ばしたかのような3本めと4本めの細腕も、人間の男性くらいの太さで鬼腕の下から生えていた。



「これでも、たつろーの中に入れるのかな」

「姿を煙のように変える事も出来るんだし、問題はないだろうさ」



 お次はアイギス。竜郎の一番心配していたサイズの変化だが、そちらは全く変わっていないことに安堵する。



「神聖さが増した感じだね」



 けれど鞘の上の方についていたコアを抱いている女神のような大天使絵の翼の数が1対増えて8翼に。

 さらにその8翼は鞘の絵面から立体絵のように飛び出して、鞘を包み込む様にそれでくるんでいた。


 念のためにアーサーがエクスカリバーを取り出し、アイギスの剣を収める穴に嵌めこんでみるがピッタリと入る。

 穴の中もどこかが埋まっていたりだとか、そう言う事もないようだ。


 そして最後の魔王種──カラドボルグ。

 こちらは……。



「ん? ねー主。これは一体なにが変わったの?」

「さ、さあ? しいて言えばコアの形が変わったか?」



 ヘスティアに尋ねられても、竜郎はそうとしか答えようが無かった。

 というのも、また最初に見た時と同じように、そこにあるのは剥き出しのコア一つ。

 ただし色は同じ紅色なれど形は良く見れば球体ではなく、正三角形の20面を持つ正二十面体になっていた。



「あー……、前みたいに刃を出す事は出来るよな?」

「────」

「ちゃんとできるみた……い? あれ? なんか長くない?」

「ん。20メートル超えてる」



 長さ30センチ程度の薄く鋭角な三角刃をいくつもジグザグに連ねてできる触手のような連結刃は、天に向かってぐんぐん伸びていき、雲すら突き抜けさらに上へと伸びていく。

 さらにそれは1本から2本。3本から4本──といったふうに数を増やし、魔王種化前までは4本までだった連結刃を計8本まで同時に展開できるようになったようだ。



「長さはもしや無限なのか?」

「────」



 力の続く限りは──といったようなニュアンスの返事が返って来る。

 つまり連結刃の構成要素である三角刃を生み出す力が尽きない限りは、何処までも刃を伸ばすことが出来るようになったと言う事なのだろう。

 この8本の連結刃を8方向に伸ばしたまま、その場で本体であるコアがグルグル乱回転するだけで広範囲にわたってミキサーのように切り刻めそうである。



「まさにカラドボルグの名に相応しい成長っすね」



 天へと昇るジグザグの刃は、まるで雷のようにも見え、どこまでも届くその刃は虹の端から端まで届くだろう。

 たしかにその様を見れば、神話に出てくる剣をより彷彿させる成長なのかもしれない。




 さて。成長した姿を見ていったと言う事は、後は魔王種スキルの確認である。

 ちゃんと武蔵を始め、アイギス、カラドボルグ共に覚えてくれているようだ。


 先ほど同じように、まずは武蔵の魔王種スキルの確認をしていく。



「《鬼王三刀》。疾風の嵐太刀に灼熱の炎小太刀。そして一斬三斬の大太刀の3つのカタナを発現するってことらしい。

 魔王種化前に持っていた《風太刀》と《火小太刀》は強化されたうえで、これに統合されたっぽいな」

「うーん。聞いただけじゃ解りづらいね。実際に見せて貰ったら?」

「それもそうだな。ってことで、武蔵」

「ギョイ(御意)」



 以前よりも少し発音の良くなったしゃがれた声音で頷き返し、まずは疾風の嵐太刀と灼熱の炎小太刀をお披露目してくれた。

 これらは以前と同様に頭に生えている3本の角の内、左の赤い角と右の緑の角を鬼の手でつかんでズルズルと引き抜いていく事で現れる。


 角を持ち手に小太刀と太刀が両手に握られ、小太刀は近くにいるだけで熱気が伝わるほどの熱量を持ち、それで切り裂けばバターのように溶けながら切り裂かれる。

 太刀の方は薄く緑色の風が膜のように張っていて、軽く振っただけで驚異的な剣速を叩きだす。

 とまあ、ここまでは以前にあったスキルの強化版と言った所だろう。


 そして一旦、前述の2本を頭に納刀し、中央のプラチナに輝く一際大きな角に両手をかけてゆっくりと引き抜いていく。

 なるほどたしかに、それは大太刀と呼ぶにふさわしい巨大な刀だった。


 そこで武蔵は竜郎に何か的を用意してほしいと言ってきたので、2メートルサイズの土人形を地面から生やしてみせた。


 武蔵はその前で大太刀を正眼に構え、土人形の眉間から縦に叩き斬る様な軌道で振り下ろす。

 頭部を模した部分の半分くらいのところでピタリと止めると、何故か両腕を模した部分が肩から落ちた。


 人形を良く見れば、肩口からそれぞれ直接切りつけた真ん中の太刀筋の方向に向かって斜めに切られていた。



「一斬三斬か。字面でなんとなく解っていたが、実際の刃に追従して左右から2つの刃が対象者に襲い掛かるって訳だな」

「…………凄いと言えば凄いですが、魔王種スキルにしては少々大人しいようには思えますね」

「あー、ミネルヴァちゃん。それ私も思うかも」



 本人の手前黙っていたのだが、竜郎も実はミネルヴァと同じことを考えていた。

 ──と、そこで大黒鬼武者幽霊の武蔵はニヤッと笑う。これだけだと思ったのか? とでも言いたげに。

 それにミネルヴァも不敵に笑い返す。



「まだ何かあると言う事ですね。武蔵さん」

「シカリ(然り)」



 そういうと再び白金の刃を持つ大太刀を正眼に構え直すと、目を閉じ集中するようなそぶりを見せる。

 すると先ほど納刀した頭に残っている左右の色違いの角がひとりでに頭から取れたかと思えば、その2本の角が大太刀に吸い込まれていった。


 吸い込んだ大太刀は見る見るうちに黒く染まっていき、刃の部分だけが白金色で残りは持ち手として握っていた白金角も含めて黒くなってしまった。


 そしてその黒に染まった大太刀を、先ほどと同じように竜郎の作った土人形に振り下ろす──が、今度は軽く鼻先にあたる部分に、その切っ先を当てただけだった。

 だが──その瞬間、無数の刃に体中を切り刻まれて、土人形は数えきれないほどのパーツに分割されて地に転がった。



「その刃に触れた存在に無数の刃を浴びせることが出来ると言うわけですか」

「シカリ(然り)」



 しかもより詳しく調べたところによると、例えばこの黒大太刀を剣や盾で防いだとする。

 けれどそれでもその身に不可避の無数の刃が降り注ぎ、あっという間に微塵にされる。

 どうやら対象者と物体を挟んでいても、ある程度なら融通を利かせられるらしい。



「ということは、その黒大太刀の時は絶対に受けずに避けるしかないって事っすか」



 コクリとアテナの質問に武蔵は頷き返した。

 ただしこの黒大太刀にしてしまうと、維持するだけでエネルギーが消費されていってしまうので常時使う事は難しい。

 なので普段は3本の刀をうまく使い分けて戦い、ここぞと言う時に黒大太刀で切り刻む──というのが、同格以上の相手との戦いで要求される技術となって来るであろう。



「それじゃあ、次はアイギスのを見ていこう。こっちは《宝玉の加護+2》だってさ。

 等級が変わったからどうなるかと少し心配してたが、純粋に盾の魔王種の時の強化版って所か」

「プラス2になったことで、どー変わったの?」

「攻撃を反射するために必要な宝玉──というかコアエネルギーの省エネ化。

 コアエネルギーの回復量増加って所みたいだな」

「ちょっとした変化に思えるけど、意外と嬉しい強化だね」



 コアエネルギーが反射する攻撃を跳ね返せるだけの力が溜まっていれば、問答無用で反射する防御スキル。

 それ故にその強化は継戦能力の向上に、大幅に貢献してくれることだろう。


 今後はどれくらいの攻撃を反射するとエネルギーが尽きてしまうのかを、ちゃんと知っておくことが重要かもしれない。



「んじゃあ最後。カラドボルグは──《無限刃造操作》。無限に刃を作るって事か?」

「────」

「おお?」



 愛衣が不思議そうな声を上げた先では、正二十面体の紅コアから2~3センチほどの小さな正三角形が次々と排出され、コアの周囲をまるで土星の輪っかのようになってグルグル回り始める。

 かと思えばその小さな正三角形がパズルのように側面同士でくっ付き合って、コアを中にしまうように形が出来あがっていく。

 そうして出来上がったのは、無数の小さな正三角形をうまく組み合わせて作った前衛アートのオブジェのような宙に浮かぶサメ。

 それが優雅に尾びれを揺らし、竜郎の周囲を一周飛んで見せた。



「よく見ると、あの一個一個の三角形は刃物になっているようですわ」

「あのサメに体当たりされたら、体中傷だらけになりそうね……」



 小さな正三角形の刃物で構成された、コアを内部にしまうサメのオブジェに対しフレイヤとウリエルがそんな事を言っていた。



「刃物をエネルギー消費極少で無尽蔵に作りだし、それ全てを意のままに操るって事か。

 もしかしてさっきの無限に伸ばしていたジグザグの連結刃も、その能力で嵩増ししてたのか?」

「──」



 答えは半分イエス。魔王種化したことで本数が増えたのは本当であるし、その長さは100メートル程まで伸びた。

 なので、それより先を本来ある連結刃の先端に同じ形の三角刃を付けて操り嵩増ししていたようだ。


 さらにこのスキル。刃が付いたモノなら大概のものが作れるらしく、例えば連結刃の先に斧の形をした刃を付けたり、鎌のようにしたりと応用が利くようになった。



「けっこう恐いスキルかもね。ほぼ無尽蔵に作れるって事は、例えば手裏剣みたいなものをマシンガンみたいにババババーって敵に打ち込めるんでしょ?」

「それに自分の周囲に小さな刃を展開しているだけで、たいていの奴は近づけないぞ、こりゃ」



 絶対的な攻撃力という意味では武蔵の刀よりも劣るかもしれないが、こちらは物量で押し通すことも何枚も連ねて壁にする事も出来るので汎用性が高そうだ。

 さらに一度自分で作った刃はコアの内部に無限に収納できるらしく、事前に作り置きしておけば消費すら無しで使い捨てが出来るらしい。



「ん。面白そうなスキルでなにより」

「────」



 相棒でもあるヘスティアも気に入ったようで、カラドボルグからも少しだけ嬉しそうな感情が伝わって来たのであった。



「これで魔王種たちの変化も確かめられた事だし、いよいよ本格的なレベリングを始めようか」

「だね! 私も理想の軍団が出来るように頑張っちゃうから!」

次回、第593話は10月24日(水)更新です。

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