第591話 チーム彩とウサ子の魔王種スキル
ウル太のスキルの概要は掴めたので、そのままの流れでウサ子の魔王種スキルを確かめようとした──のだが、竜郎はウル太に服を抓まれ何かを訴えかける様な目をされる。
一体何だろうと眷属のパスを通して聞いてみれば、《輪廻転生強化【10】》を一度使ってみたいらしい。
「じゃあやってみてもいいぞ。狼にまつわる魔物ってのにも興味はあるし」
「完全にランダムなのかな?」
「さぁ? そればっかりは見てみないとも何ともな。ってなわけで頼む、ウル太」
「ヲオォーン──」
《輪廻転生強化【10】》の効果としてある自死を発動させると、ウル太の心臓が止まりその場に倒れこむ。
大丈夫なのか?──と見ていた全員に緊張が走った瞬間、ウル太の体が溶けて別の形へと再構築されていく。
「ヲォーーーーン!」
「「豆太のパパだー」」
皆で話しているだけで、面白くなさそうに大人しく座っていた彩人と彩花だったが、輪廻転生したウル太を見て声を上げる。
「いや、ウル太の方が年下だから」
「でも、そう言いたくなる気持ちは解るかも」
冷静に突っ込みを入れる竜郎と、少しおかしそうに笑う愛衣の視線の先には、プラチナに近い白銀色の体高5メートルはあろうかという巨狼の成体が空に向かって吠えていた。
急激に強化された力に興奮してしまっているのかもしれない。
これはアムネリ大森林に行く前に慣らしておかないと危ないな──などと竜郎が考えている間に、彩人と彩花がたたたーと軽やかに豆太パパ(ウル太)に飛びついた。
「ヲォフッ!?」
「「もふもふ~」」
突然ちびっ子二人に飛びつかれ、毛皮を掴み張り付かれ。湧き上がる力の事も忘れて、ウル太は目を白黒させていた。
さらにそんな2人を見て愛衣も気配を消して密かに近寄りながら、その毛足の長い手触りのいい白銀の毛皮に触れて顔をほころばせた。
そんなにいいものなのかと竜郎もウル太に言ってから触らせて貰えば、確かに豆太とも遜色ないほどのモフモフで触っていてなかなかに心地がいい。
ウリエルを始め女性陣も気になる様で、最終的には皆にモフられ疲れた表情をするウル太なのだった。
「ウゥ~~」
「悪い悪い」
何で止めてくれなかったんだとでもいうようなジト目でみられ、竜郎は苦笑しながらウル太に謝った。
そうしていると最後まで張り付いて離れなかった彩人と彩花が、今度は竜郎の腕に左右から抱きついてきた。
「ねーねーたつにぃー」
「ボクたちウル太と組みたーい」
最初に彩人が、次に彩花が交互に竜郎の左右の耳に向かってそう訴えかけてくる。
「ええ? でも日付が変わったら元の姿に戻るし、次にまたこのでっかいオオカミさんになれる訳じゃないと思うぞ? それでもいいのか?」
「それでも豆太と近いみたいだしー」
「豆太は連れてかないんでしょー?」
「豆太はちょっと連れてけないな。さすがに次に行くところは豆太じゃ危険すぎるから」
「「でしょー」」
「んー……ウル太の方はどうだ?」
「グルゥ?」
さあ? みたいな反応と共に、大きな頭をこてんと横に傾げた。
本人的には自分の戦いの邪魔にならないのなら誰でもいいと言った感じらしい。
なので邪魔にならないと竜郎が判断するのなら、彩人と彩花でもいいのだろう。
「でも個人的には彩人と彩花には、千子と組んでほしいと思ってたんだよな」
「──?」
私? と言った風に千子が自分自身を指差して竜郎に視線を向けて来る。
そんな姿も人間臭いなと皆が思うなか、竜郎の言葉に反応してウリエルが口を開いた。
「確かに千子の魔王種スキルと彩さんの《崩壊の咢》は、組み合わせとして良さそうですしね」
「そうなの? ウリエルちゃん」
「ええ。《直心呪刻》で相手の急所を剥き出しにして、そこへあらゆる防御も関係なく貫通する《崩壊の咢》を使えば、それだけで大概の敵は倒せそうじゃありませんか?」
「確かに! ある意味最強のタッグになりそうじゃん!」
「「えーだめなのー?」」
他の面々がなるほどと頷いていると、やはり不服そうな声を上げふくれっ面をする2人のちびっこ。竜郎の腕にしがみ付く力も心なしか強くなってきていた。
そして竜郎にキラキラと潤んだ瞳で両サイドから、お願いお願い光線を浴びせてくる。
「くっ、俺がその目に弱い事を知ってやっているな。いらぬ知恵を付けおって……」
「「ねーねー。いーでしょー」」
2人がどこでこんな知恵を付けたかと言えば、もちろん普段の竜郎と愛衣を見てである。
愛衣がこの目で竜郎を何度も下してきた姿をしっかりと覚えていたのだ。
竜郎としても赤の他人であったのなら跳ね除ける事も可能であるが、自分の弟や妹のようにかわいがっている彩人と彩花からのダブルキラキラ光線には耐えられなかった。
「はぁ……。じゃあ、いいよ」
「「やったー」」
「ただし! 千子とも組んでスリーマンセルだ。別に2人一組じゃなきゃいけないわけでもないしな」
「いーよー」
「千子もよろしくねー」
「──」
千子もなんだか苦笑しながら小さく頷いてくれていた。
「彩にウル太に千子のチームっすか。決め方はちょっとアレだったっすけど、案外いいチームになりそうっすね」
「前衛でウル太さんが暴れまわっている隙に、千子さんが中衛から近づき呪刻──からの遊撃型の彩さんの《崩壊の咢》。
流れとしては確かに出来あがってますね」
アテナの言に続くミネルヴァの言葉に、他の皆も得心顔になっていた。
ウル太なら自己回復も持っているうえに、10回までなら死ねるので遠慮なく突っ込み、千子と彩の活路を開きやすいと言うのもポイントが高いだろう。
さらに千子は非常に冷静なので、あまり感情に振り回されずに局面を広く観察する事も出来る。
なのでウル太に引き際を的確に伝える事も出来るはず。
魔物組の数の方が多いので、こういう3人組があってもいいだろう。
「キュ~」
「おっとすまん。忘れていたわけじゃないんだ。それじゃあ、ウサ子のスキルも見ような」
ずっと待ちぼうけを食らっていたウサ子が寂しそうに竜郎を見上げて鳴いてきた。
それに慌てて竜郎はウサ子を抱っこすれば、ウサ子は嬉しそうに竜郎に頭を擦りつけてきた。
そうやってウサ子のご機嫌を取りながら、ちゃんとこちらの魔王種スキルを見ていくことにする。
「ウサ子のは《惑星記憶貼付》……随分と大仰な名前だな。
どういったスキルなんだ? いったい」
もっと踏み込んだ内容を確かめてみれば、惑星と言うのはどうやらウサ子が大事に持っている玩具の棒の先についている丸いミニ惑星をさしているようだ。
そしてこの杖の先についているミニ惑星は玩具でも飾りでもなく、ウサ子の体の一部のようなモノであり、一種の外部記憶装置として機能しているらしい。
つまりウサ子が目で見た光景や人や物。それらの見た目情報が正確にここに記録されているということ。
そしてそれこそが、今回覚えた《惑星記憶貼付》というスキルの肝にもなってくる。
「このスキルは対象を、ウサ子の杖先についたミニ惑星の中にある記憶通りの姿にすることが出来るみたいなんだ。
例えば俺が重傷を負ったとしても、ウサ子の記憶の中にある通常時の俺の状態に──ってな感じでな」
「んん? 凄い回復魔法っていうか、生魔法って事?」
「いいや、愛衣。これはもっと凄い。
なんたって範囲は広く生物どころか物や環境まで、記憶にあった姿に変えさせることが出来るんだからな」
「するってーと、例えば俺達の持っている武器なんかがぶっ壊れても、ウサ子のそのスキルで元通りに戻せるって事か? マスター」
「ああ、その通りだ。だが戻すのは何も良い状態だけじゃないんだぞ? ガウェイン」
「ああん? どーゆーこった」
「つまり、敵対者の重傷を負った姿をウサ子が記憶すれば、相手が何らかのスキルで完全回復しても元の重傷を負った状態に強制的に戻せるって事でもあるんだよ」
「ああっ! そいつぁースゲーな!」
しかもこのスキルは対象範囲も広く、ウサ子の視界内全てとなっている。
なのでこちらがもし壊滅的なダメージを負い、装備品も全損、周囲の地形も滅茶苦茶になってしまうような状況が来たとしても、ウサ子さえ無事なら一気に全てを記憶の中にある元の状態に修復して戦線に戻すことも出来るのだ。
さらに敵対して傷を負った状態に強制的に戻す事も出来るので、攻撃能力のないウサ子にとっては攻撃の手段としても応用できるかもしれない。
またウル太のように形状を変える事で強化されるような敵にも、もとの姿に強制的に戻す事も出来てしまうので、そういう使い方も出来るだろう。
ただし、記憶の中にある同一物体の状態だけしか適用できない。
なので竜郎の状態を愛衣に──なんてことは出来ないし、同じ種類の魔物であっても別個体には適用できないといった制限もある。
その上、修正範囲が広ければ広いほど消費量は上がっていくので、むやみやたらに連発できるスキルでもない。
「とまあ、これで確認作業は終了だな」
「それじゃあ、次はどーする?」
「残りの魔王種候補たち──武蔵、アイギス、カラドボルグの3体と、どうせだから半神種の白太、エンター、亜子も一緒にレベリングしていこうか」
魔王種達の変化は確実だが、半神種にもレベルでの変化が何かあるかもしれないと念のために一緒に上げてしまうつもりなのだ。
何せエンターと亜子なんかは元々の魔卵が魔王種だったのだから、大きな変化はないだろうが確かめてみたいと思うのもしょうがない。
「これで6人だね。そうすると、まだ2人は一緒にレベリングに参加できそうだけど、誰にする?」
「そうだなぁ。立候補──」
「「「マスター!」」」
「私を!」「我を!」「俺を!」
「ありゃりゃ、定員オーバーっすね」
竜郎の言葉にかぶせるようにして前のめりに手を挙げたのは、アーサー、ランスロット、ガウェインの男眷属3人衆。
女性陣の方はどうせ待っていれば順番が回ってくるのだから、いつでもいいですよと、こちらは打って変わって冷静だ。
「あー……悪いんだが、アーサーは後にしようか」
「──なっ、何故ですかっ!」
「へへっ、わりーなアーサー。お先に強くならさせてもらうぜ」
「ぬぅ……すまない、兄上。でも早く強くなりたいのだ」
「いっ、いや。別に順番を譲るのは良いのだが……」
アーサーとしては大切な弟たちがどうしても先に──というのなら、順番を譲るのはやぶさかではなかった。
けれど真っ先に竜郎に除外されたことにショックを覚えたのだ。
だがその答えを竜郎が口にする前に、アーサーの姉でもあるウリエルが示してくれた。
「ねぇ、アーサー。あなたは自分の種族を忘れてしまったのかしら?」
「私の種族ですか? ──あっ。そういうことですか、姉上」
「ええ、そうですよ、アーサー。竜種という存在は特に才能に恵まれ、あらゆるスキルの習得速度が速いのだけれど、その分レベルが上がるのに必要な経験値は他よりも大量に必要でしょう?」
その分だけ竜種達のレベリングには時間がかかるので、竜郎は最初から蒼太やニーナ、ミネルヴァ、ヘスティアたちと一緒に、ややハードモードでやって貰うつもりでいたのだ。
竜種なら多少の無茶も自力で跳ね返す事も出来るだろうから。
「まあ、そういうことだなアーサー。
別に俺もアーサーを邪険にして言ったわけじゃないから安心してくれ。不安にさせるような言いかたをして悪かった」
「いいえ、お気遣いは不要ですマスター。これは気がつかなかった私が悪いだけですので」
「アー君は真面目だねー♪ もっと肩の力を抜けばいーのにー」
「あなたは抜きすぎですよ、フローラ」
「ふふっ、足して二で割ればちょうど良さそうだね」
何だか場の雰囲気が硬くなりそうなのを敏感に察知してフローラがおどけ、ウリエルが突っ込みを入れる事で柔らかくしてくれた。
アーサーも今回はちゃんと自分で察して、苦笑しながらフローラの頭を撫でたのであった。




