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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第590話 魔王種のスキル

 全長8メートル。上半身に手が生えた黄色い鳥で、下半身が蛇のようという姿だった清子さん。

 そんな清子さんは完全な魔王種になり、その体もそれに合わせて変化していた。


 変化後の姿は基本ベースでもあったヘビのような下半身を持った鳥──というのは保ったままなのだが、明らかに別種になった事は一目で解る。


 何故なら鳥の上半身の首元から生えたヘビのような長い首が4本伸びて、その先には鳥の頭が4つ付いている。

 また下半身も人間でいえば尾てい骨あたりから3又に分かれ、鳥の腕と竜の腕と言う異なる左右の腕も増えて、合計8本が蜘蛛のように生えていた。



「これまた元々謎な生物だったのに、さらに良く解らない生物になったもんだ」

「それになんか今までの魔王種たちと比べて、雰囲気が独特じゃない?」

「あーそれはあたしも感じたっす」



 相手を無理やり押さえつけ、屈服させるような暴力的な威圧感を放つのが魔王種の特徴でもあるのだが、それに加えて奇妙なべたつく雰囲気というか威圧感と言うのか、湿気に満ちた部屋の中に入れられた時のような奇妙な感覚を覚えさせられる。


 まだレベルが低いウリエル達には、それがさらに如実に感じ取れるらしく、どことなく清子さんの前に居づらそうにしていた。



「まあ、一旦それは置いておいて次は黒田だ」

「こっちはなんというか、カオ○シ風のお面が変わっただけって感じだね」

「もともと黒田に形なんてねぇからな」



 相棒であるガウェインも興味深げに生まれ変わった黒田に視線を送る。

 愛衣の言うカオ○シ風のお面は、顔全体ではなく鼻の下あたりまでとなり、鬼の頭がい骨のような形状に変わっていた。



「待ってろよ、黒田。俺も直ぐに、お前と同じ領域に立ってやるからよ」

「────」



 魔王種となった黒田は、待っているとばかりに相棒に向かって仮面を下に動かし頷いた。


 そしてそれとは真逆の性質を持つランスロットの相棒となった光田はと言えば、こちらは少々通常の状態が別形態となっていた。

 元は天使の輪のような光り輝く輪っかが、20センチほどの小さな妖精のような形を模した光の塊になっていたのだ。



「黒田は吸血鬼の要素から取ったのか鬼の面で、光田はランスロットの種族でもある妖精のシルエットか。

 やっぱり精神体の魔物の魔王種化は、相棒の影響も受けやすいようだな。

 ランスロットの場合は期間が短かったからどうかと思っていたが、ちゃんと変化したようだし」

「2人とも上手くいっている証拠なのかもしれないね」

「うむ。我もそう思いたいのだ」



 シュベ太、清子、黒田、光田ときたので、お次はヒポ子──なのだが、こちらはすでに知っているように体高10メートルほどあり、本来ある場所に1つずつ、額の辺りに4つと計6つの緑の目を持つ巨大カバ。

 《暴食蓄積》という物体だろうが攻撃だろうが何でも食べて蓄えて、攻撃や回復エネルギーに変換するという敵に回せば厄介なスキルを持っている。



「ズモモモ~~~ン」

「相変わらず変な鳴き声なのは変わらないんだけどね」



 ヒポ子を見終ると今度は真祖系吸血鬼の女性型魔物──千子ちこだ。

 こちらは5センチほど身長が伸びて165センチくらいになり、体つきもさらに女性らしく変化していた。

 見た目の美しさにも磨きがかかり、肌の色も異常なほどの白さからパッと見、普通の人間と変わらないくらい血色がよく見えるようなっていた。

 また以前にもまして知性的な眼差しをするようになっているので、もしかしたらいつか人間に至る事も出来るのかもしれない。



「これまたさらに美人さんになったねぇ」

「だなぁ。でも俺的には愛衣の方が可愛いぞ」

「えーそんなことないよぉ」



 などと言いつつもまんざらでは無さそうにする愛衣を抱きしめながら、次に真祖系人狼のウル太を見ていく。


 魔王種化する前はライオンのような立派な金の鬣をもった、二足歩行する金眼で灰銀毛皮の狼といった風貌で、顔つきなんかは明らかに狼然としていた──のだが、随分と人間に近い顔つきに変化していた。

 顔以外は依然として金のタテガミや灰銀色の毛皮で覆われている獣のそれなので、獣人と言えるほどではないのだが。



「ちょっとだけ目に理性が宿り始めたか」

「前も別におバカさんって程じゃなかったけど、戦闘になると野生丸出しだったしね」



 頭の方も冷静さが少し向上したようで、以前のようにいつでも戦闘に移れるようにといったピリピリとした雰囲気が薄くなっていた。


 そしてウサ子。

 以前は全長40センチのプラチナ色の毛玉のようにフワフワの長い毛を持つ、ウサギ小人だった。

 それが魔王種化する事によって──耳が少しだけ大きくなった。

 それ以外は丸まれば相変わらず丸い毛玉にしか見えない、アンゴラウサギのようなウサギ小人のままだ。



「相変わらず可愛いくて安心したけど、びみょ~な変化だね」

「けど最初から持ってた杖が、ちょっ~とだけ豪華になってるね♪」

「ああ、ほんとだな」



 さすが細かい所まで目が効くフローラだ。

 指揮棒の上に星形をくっ付けただけの玩具のような杖だったそれは、星形の部分が惑星を模したかのような球体に変わり、その中に銀河が渦巻くような不思議な模様がキラキラと薄く輝いていた。

 といってもチャチな玩具から、ちょっとお金のかかった玩具になった様にしか見えないのだが。



「──と、これで一通り撮影も終わったかな。それじゃあ魔王種化したことで覚えたスキルなんかも確認していくか」

「どんな理不尽なスキルを覚えたのか楽しみだね」



 これまで戦ってきた魔王種はどれも一癖二癖あるスキルばかりだったので、こちらの期待値も非常に高い。

 竜郎も胸を期待に膨らませて、まず最初にシュベ太達の魔王種スキルを眷属パスを通して見せて貰った。



「シュベ太の魔王種スキルは《黄金蝕風》だってさ」

「意味合い的には黄金をむしばむ風という意味でしょうか?」

「いいや、ミネルヴァ。どうやら蝕むのは自分以外の全てらしい」

「といいますと? なんだか危険そうなスキルなのは解りましたが……」



 人化している竜種ミネルヴァが思案顔で首をかしげ、他の面々もまだ解らない様なので詳しく竜郎は説明していった。

 それによれば、《黄金蝕風》を発動すると可視化された金色の風がシュベ太を中心に広がり、敵味方、物質非物質問わず酸の雨のように溶かしてしまうらしい。

 さらに溶かされたモノはエネルギーとしてシュベ太に供給されて、回復や攻撃に回せるようになるのだと言う。



「だから例えばこの金の風を展開しているシュベ太に、俺のレーザーを撃ちこんだとする。

 するとそのレーザーは金の風に触れた時点で溶け始め、着弾する頃には少なからず弱体化してしまう。

 だからある意味シュベ太にとって、全ての攻撃を軽減する防御スキルでも有るわけだ」

「さらにその溶かした分のエネルギーは自身に吸収されて、回復や次の攻撃に当てたりできるわけですね」



 ミネルヴァが竜郎の説明に追加で説明してくれた。



「何だかヒポ子の魔王種スキルの《暴食蓄積》に似てる気がするっす」

「あそこまで絶対的な吸収力はないが、確かにその効果を広く薄くした感じと思えばいいのかもしれないな」

「ただ敵味方問わずと言うのは厄介ですね。それでは誰も近づけませんよ、マスター」



 確かにアーサーが今言った様に、このスキルを使うなら自分以外誰も味方が近くにいない時が望ましい。

 シュベ太の慣れと調整で範囲はある程度融通を利かせられるようではあるが、それでも戦闘がヒートアップしてくるとそれにつられて熱中しやすい子でもある。

 なので、ふとした瞬間に味方を巻き込みかねない。


 ここまで個人戦に特化されてしまうと、なかなか相棒を組ませてあげるのは難しいかもしれない。

 そう──竜郎が口にした時、ミネルヴァが手を挙げた。



「それならば私がシュベ太さんと組みたいと思います。

 幸い私は遠距離からの攻撃が得意ですし、シュベ太さんの位置も正確に捕捉しながらも離れて行動することが出来ますので」

「確かにそれは言えてるな。ミネルヴァなら熱しやすいシュベ太の行動も冷静に誘導できそうだし、いいかもしれない」



 後で実際に組んでの戦闘訓練もやってみて貰うつもりだが、竜郎としてもしっくりきたのかほぼ決まりと言う事で話が付いた。


 次に清子さんの魔王種化スキルを見ていく。



「《技効装填》だってさ。自分の持っているスキルの効果を、自他問わず攻撃時の魔力や気力なんかに付与することが出来るんだとか」

「えーと……つまりどゆこと?」



 解りやすい使い方の例を出すならば、清子さんの持っている《異常遺伝子接触》というスキル。

 これは対象者に触れることで遺伝子に異常を発生させ、相手の体を奇形させるスキル。

 ただしこれは先に述べた通り、直接対象者に触る必要があるスキルだ。


 けれどこの《技効装填》。これを使う事により清子さんの覚えているスキルで例えると、《雷撃収束砲》などの遠距離攻撃に遺伝子異常を起こさせると言う効果だけを乗せて相手にぶつけることが出来るようになる。


 つまり本来なら何らかの範囲的束縛があるスキルも、その効果だけを抜き取って他の何かに合成することが出来るのだ。



「じゃあさ、清子さんの脳みそパーンできるスキルとかも、他のスキル乗せて相手に撃ちこめるって事?

 あれも範囲がある程度限定されてたスキルだったよね?」

「出来るんだろうな。しかも他人の攻撃なんかに乗せる事も出来るから、汎用性も高そうだ」



 うへぇ……と愛衣は清子さんに視線を送る。彼女は魔法抵抗力が低いので、高レベルになった清子さんの攻撃の影響をもろに受けてしまう可能性高い。

 間違っても巻き込まれないようにしなくてはと改めて思ったようだ。



「んじゃ、次は黒田だな。こっちは《闇空操作》?

 どうやら特殊な闇空間を作りだし、その空間内なら好きに空間を歪められるらしい」



 例えば距離。本来なら1メートルの距離を自分側は10センチ。相手側は2メートルと言った風にあり得ない歪みを作れる。

 他にも攻撃の軌道をあさっての方向へ逸らせたり──なんてことも出来る。



「とーさんの時空魔法に似てるっすね」

「闇空間の範囲はそれほど広くはないようだが、ガウェインとの戦闘に組み合わせれば面白い事になりそうだ」

「ああっ、今から楽しみだぜ!」



 範囲が狭くてもガウェイン&黒田ペアのアタッカーはガウェインであり、彼は超近距離型の戦闘スタイルなので問題にはならないだろう。



「んで光田。こっちの魔王種スキルは《光置去矢束》。

 光すら置き去りにするほどの速さで飛ぶ矢を自分の周囲に展開し、任意のタイミングで撃ち込めるんだとか。

 しかもある程度なら途中で軌道も変えられるらしい」

「途中で軌道が変わる光を置き去りにする矢ねぇ。私は避けられるかな?」

「初動をちゃんと見てればいける気がするっすけど、他に注意がいっている時にやられたら、あたしも避ける自信はないっすね」

「それに連続となると、ちょっと厳しい気がするな」



 光田1体だったのならまだしも、ランスロットと組んでいるので完全に矢束に集中などさせて貰えないだろう。



「ヒポ子はもう知っているから良いとして、次は千子か。

 こっちは《直心呪刻》。体の一部にこのスキルで刻印を刻み込むと、その刻印への攻撃が全て受刻者の急所──普通の人間や魔物だったら心臓、ゴーレムとかならコアに直接攻撃したことになるらしい」

「え……なんか恐いね」



 つまり千子にこのスキルを使われ、例えば指先に刻印を刻まれたとする。

 その時に、指先の刻印へナイフを突き立てると、指先には何のダメージも無いが、心臓にナイフの刺し傷が出来あがるといったスキル。


 急所が複数ある──または無い相手なら難を逃れられるし、そもそもその相手の急所を打ち破れるほどの攻撃が出せなければ意味もない。


 けれど急所が一見分かり難い敵で、心臓や脳を破壊してもぴんぴんしていて、体の中に隠された小さな急所を突かなければ殺せない敵がいたとする。

 その場合でも的確に急所を刻印が判断し、攻撃する側が知らなくても、その急所へ攻撃を届かせてくれるという。



「もし敵として出てきて、知らない間に刻まれていたら恐ろしいですね」

「だね♪ でも千子ちゃんは味方なんだから、気にするだけ疲れるだけだと思うな、ウリ姉さま♪」

「ええ、それもそうね、フローラ」



 竜郎としても世界力調整作業中に、敵として出てこなくて良かったなとウリエルの気持ちに同調するも、フローラの楽観的な考え方もまたその通りなので、気持ちを切り替え次のウル太の魔王種スキルを見ていく。


 こちらのスキルは《輪廻転生強化【10】》というもの。

 なんでも死ねば別の狼にまつわる魔物の何かに、ステータスが強化されて、その場で直ぐに生まれ変わり完全回復した状態で戦線復帰できる。


 横についている10という数字は死亡できる回数。なので11回殺されるとウル太は完全に死亡する事になる。

 けれどこの数字は日付の変更と共にリセットされるので、正確には一日に10回まで死ねるスキルともいえる。


 ただしリセットされると、死んで別の姿に生まれ変わっていたとしても元のウル太の姿に強制的に戻り、死ぬ度に強化されていたステータスも元に戻る。



「死ぬ度に強化されて復活するんだから、たちが悪いね。他の子もそうだけど、ある意味一番戦いたくないかも」

「しかも何回殺せばいいか解らない状態だったら、終わりが見えずに精神的にもやられそうだ。

 けどウル太は、このスキルのおかげで今まで以上に前線に出やすくなったともいえるな」

「ウォーーン」

「ん? なんだ? ウル太。ふむふむ、このスキルの効果の中には任意のタイミングで自死する機能も含まれているらしいぞ」

「それでは例えば瀕死の重傷を負って動けない状態で放置され、でも死ねないと言う事態に陥った時に使えそうですわ」

「そんなピンポイントでの状況があるかは微妙だが、明らかに勝てない相手に勝つために、あらかじめ死ねる回数を減らしてでも強化しておくってのも、ある意味選択肢の一つにはなりそうだな」

「ヲフッ」



 竜郎の言葉に対し、ウル太は凄いだろ?とでもいうように、軽く犬のような鳴き声を上げたのであった。

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