第589話 パワーレベリング開始
ヘスティアの相棒になって貰っていいか尋ねれば、特に考える事も無く了承を貰う。
これで晴れてヘスティアの相棒になったこの存在へ、眷属化の許可を貰ってから眷属にした。
あと残っているのは名前を付けてあげることくらいだ。
今回もアーサーの剣、エクスカリバーの鞘となったアイギスと似たような雰囲気の名前にしようと言う事に決まった。
なのでまずはこの魔物の特徴を簡単に纏めていく事にする。
稲妻型にジグザグした細長い三角形の刃が連なった触手のようなものを4本持つ。
その長さは0~20メートルまで細かく調整ができ、ヘスティアが大雑把に攻撃して逃した敵も縦横無尽に動き回って斬り殺す。
それらの情報をもとに何かいい名前はないか、竜郎はお得意の辞書アプリで探していくと、それっぽい物を発見する。
「その名は稲妻を意味し、どこまでも伸びていく刃を持つ剣だってさ」
「どこまでもってのは言いすぎだけど、なんとなく近い感じはするね。
それで何て名前なの? その剣は」
「ケルト神話に出てくる剣で、名前はカラドボルグ。
どうだろう、カラドボルグってのは?」
「────」
本人的にも時に異存はないようだ。そのままカラドボルグの名を神話から頂くこととなった。
エクスカリバーの鞘アイギスとヘスティアの相棒となったカラドボルグには、一旦《強化改造牧場》内に入って貰い、竜郎達は再びカルディナ城のリビングに腰を落ち着けた。
「さて、これでかねてから作ろうと思っていたエクスカリバーの鞘も出来た事だし、そろそろ仲間を増やすのは休みにしてレベリングの方に入っていこうと思う」
「魔王種化して変化した後のアイギスとの連携も早く確かめてみたいですしね」
「俺も黒田ともっと暴れられるかと思うとぞくぞくするぜ」
「我の相棒である光田も、今以上に頼もしくなってくれるのはありがたいのだ」
アーサー、ガウェイン、ランスロットといった男性眷属たちは、いよいよかと今からヒートアップしていた。
「では私はその間に皆さんの装備品のバージョンアップと作成を急ぎますね」
「ああ。頼む。必要な素材があったら遠慮なく言ってくれ。手元になくても世界中飛び回って直ぐに手に入れて来るから」
「その時はお願いします。と言っても、現状の手持ちだけで事足りる気はしますけどね」
これまで倒してきた魔物や、手に入れてきた天然素材、ベルケルプから譲り受けた素材の数々だけでも本来なら手に入れられないモノばかり。
それらを複製ポイントも行使して実験で無駄にすることも、大量に使い潰す事も出来るようになった今、そうそう新しい何かを求める事もないだろう。
「まあ、足りるなら別にいいんだ。ただ手を貸してほしいときは、何の遠慮もいらないから直ぐにいってくれよ」
「はい。解ってますよ、兄さん。出会った当初ならともかく、今更遠慮なんてしませんから。
ああ、それではさっそく一つ。魔王種化の瞬間の動画撮影をお願いします」
「動画を? 直接観なくてもいいのか?」
「観たい気持ちは勿論ありますが、今回は装備品優先にしておきます。
兄さんと一緒にいれば、何度も機会はありそうですし」
ならば問題はないと、今度はレベリングについて考えていく。
「さっきアーサーが軽く触れていたが、魔王種化した後にどんな風に変化するか解らないから、その辺を早く知るためにも魔王種候補たちのレベルを最優先にあげて行こうか」
「レベル300までだったら、皆で手分けしてサポートすれば直ぐにいけそうだしね」
魔王種候補のカバ──ヒポ子の魔王種化した後の姿や能力は知っているが、残りは未知数。
早めに知る事でリアの装備作りの参考にもなるだろう。
「アイギスの形は変わらないでほしいが、最悪《侵食の理》で成形し直せばいいか」
「どーしても鞘として持っていてほしいんすね」
「そりゃあ、一種のお守りと言うか、俺達のゲン担ぎみたいなのもあるからな」
不老不死の加護を与える鞘とまでいえるような存在ではないが、誰も死なずに最後の敵を打倒する事を目標とする自分たちからしたら、それを見立てた者があるだけで何となく守ってくれそうな気がするのだ。
「ってことで、明日は朝早くからレベリング開始だ。ここにいない子達にも伝えておいてくれ。
魔王種化が終わったら、ついでに全員分の組み分けも決めて行こうと思ってるから」
相棒をそれぞれにつけるのは、それぞれの安全性を確保するのと共に、いざばらけて戦わなくてはいけない時の最小単位としてあらかじめ決めておくことで慌てずに散開できる。
そう言った意味でも時間の取れる今のうちに、相性のいい組み合わせを作っておくべきだ。
皆もそれを理解してくれたようなので、今日はそのまま散開した。
翌日の早朝。既に朝食は食べ終え、カルディナ城には奈々とリア、レーラとイシュタルを除く半神系の眷属達と魔王種候補、半神種の魔物達などが集まっていた。
奈々とリアは装備品作りのために作業場に籠っていて、レーラとイシュタルには調べて欲しい事があったので、現在はそれを調べるために妖精郷や竜大陸で調べ物をしてくれている。なのでその2人もここにはいない。
また今回は装備品の調整の関係で、アムネリ大森林突入組を最優先で伸ばしていく予定となっている。
なので領地管理している眷属化した魔物達──クー太やニョロ子達は、そのままお留守番だ。
けれど居残り組の拠点が荒らされないようにする防衛戦力でもあるので、後々ウリエル達のコンビネーションの調整を兼ねた、《強化改造牧場》での影との戦いのときに止めを刺させてレベリングして貰うつもりではいる。
そしてもう一人。ジャンヌの眷属である爺やも──。
「いってらっしゃいませ」
「ヒヒーーン!」
「ああ、いってくる」
爺やは《侵食の理》で、ぎりぎり半神格者にまで上げる事はできた──のだが、アムネリ大森林へのアタックには向かわない。
なのでレベリングは皆が終わってからと、クー太達同様後回しになった。
それが何故かと言えば、半神格者のシステムに介入して竜郎と繋げ、アムネリ大森林の凶禍領域に対抗するという処置は、竜郎が第一の創造主でなければいけないからだ。
もちろん第二の創造主なので、ちょっと《侵食の理》でいじってジャンヌと入れ替えると言う事も出来た。
けれど彼はジャンヌ至上主義者。ジャンヌを一番の頂に置くことが最も大事である男。
後でジャンヌを第一創造主に戻す事は出来ると言っても、そこだけは譲る事は出来なかったようだ。
けれど奈々の眷属であるダーインスレイヴ。こちらもギリギリ半神格者まで底上げでき、また一時的に竜郎を第一創造主とすることは認めてくれたので今回も奈々と共にアムネリ大森林へと付いてこられる。
だがこの結果は別にダーインスレイヴの方が竜郎のことを好きで、奈々の事を爺やほど大切に思っていない──というわけではない。
ダーインスレイヴはダーインスレイヴなりに考えて、最も奈々の役に立てる形は、自分が彼女の武器であることだと思い至ったからというだけ。
爺やの場合は付いてきたとしても、ジャンヌの近くで武器になる事は出来ないので、行っても大勢の内の一人にしかならないから止めたのだ。
なのでどちらも自分の第一創造主であるジャンヌと奈々を思う気持ちは負けてはいない。
「それじゃあ、扉を開くぞ」
振り返り付いてくるメンバー全員が集まっている事を確認した竜郎は、《強化改造牧場・改》を使って《強化改造牧場》内へ入る為の、かまぼこ型の扉を開いた。
「皆、ここを通って付いて来てくれ」
竜郎と愛衣を筆頭にカルディナ達がすぐ後に続き、その後ろを他の面々が付いて入っていく。
「……私は初めて入りましたが、凄くいい所ですね。主様」
そう言ったウリエルをはじめ、ここに初めて入ったアーサーたちも、修練場として作った世界──どこまでも広がっていそうな草原に大きな川。仮想世界だと言うのに、現実世界以上に澄み切った空気に朗らかな陽気。
一年中通して気温が上がらず肌寒いカルディナ城のある地域よりも、こちらの方がずっと過ごしやすいといってもいい。
「だが、ここで思いきり暴れて貰う事になるんだけどな」
おそらく今日は、この牧歌的な美しい風景のそこらじゅうに戦闘の爪痕が刻まれることになるだろう。
だがここは竜郎の魔力が続く限り自動で修復されていくので、遠慮しないでくれとも竜郎は事前に告げておいた。
「じゃあまずは、俺が今から呼ぶ魔王種候補たちは前に出て来てくれ」
シュベ太、清子さん、黒田、光田、ヒポ子、千子、ウル太、ウサ子。これら計8体の魔物が前に出て横に並んだ。
「とりあえず、お前たちを最初にレベル300まで押し上げていくぞ。
俺、愛衣、カルディナ、ジャンヌ、アテナ、天照、月読、フレイヤがそれぞれについて補助をするから、止めだけを刺していってくれ」
影は一度に何体でも生み出せるようなので、魔王鳥を一度に8体呼び出し、それぞれ先に述べた高レベル組が死ぬ寸前まで追いやって止めを刺させるといった寸法だ。
組み分けとしてはシュベ太は上空での機動力も高いのでカルディナと。
清子さんは遺伝子異常系や脳破壊系のスキルが当たっても大丈夫な月読と。
黒田は搦め手を得意とするタイプなので一撃が弱い。なので攻撃力を上げさせる分霊持ちの天照と。
光田は聖属性とも相性がいいのでジャンヌと。ウサ子は攻撃能力が皆無なので、ガッチリと相手を捕縛し動けない様に出来るフレイヤと。
残りのヒポ子、千子、ウル太は特に誰でも良さそうだったので、上記に該当しなかった竜郎、愛衣、アテナが担当することとなった。
竜郎はそれぞれの組み分け通りに離れた場所まで散っていってもらい、その間にウリエル達には後に自分たちもやることになるレベリングを見て知っておいて貰うためにも、暫し方々で見学するように言っておいた。
「よし、これだけ離れれば大丈夫だな。──よっ」
竜郎は探査魔法で各々の位置を把握し、ちょうどいい距離まで8方向に広がったのが確認できると、空に向けて大きな光と音魔法の花火を打ちだし皆に止まるよう合図をだした。
エセ花火を見た全員がちゃんと予定通り止まってくれたので、それらの場所へ魔王鳥の影を生み出す様に《強化改造牧場》の能力を行使した。
竜郎とヒポ子ペアを始め、愛衣達のペアの元に魔王鳥の影が出現。
弾けるように竜郎達は行動を開始し、安全は十分に確保しつつ順調に弱らせ瀕死にまで追い込んでいく。
そして死ぬ寸前になった所で交代し、自分のペアとなっている魔王種候補たちに止め刺させた。
一気にレベルも上がり、一度で8体全員がレベル150オーバーとなった。
竜郎は8か所全ての一戦目が終わった所で、一人一人の状態を確認し、何処も異常はない事が解ったら今度はペースを上げていく。
出しては倒し出しては倒す。ただそれだけを数回繰り返していくと、遂に魔王種化するレベル300を8体とも超えた。
すると魔王種候補たちの体が輝き始め、各種違う色の繭に包まれた。
急いでその繭を竜郎たちは回収し、ひとところに集め観察していく。
「魔王種化する前には、こんな風になるんだね。ポケ○ンみたいに、ちゃちゃ~んって進化するかと思ってた」
「俺もそんな感じで考えてたな。これはいったい、どれくらい待っていればいいんだろうか」
竜郎はリアに言われた通りスマホで繭を動画撮影しながら、3分ぐらい経っただろうか。
8つある中の一つ──シュベ太が入っていた金色が主体の繭が、不気味な粘土細工のようにグニャグニャと勝手に動き始めた。
「来たかっ!」「きたっ」
竜郎と愛衣が真っ先に身を乗り出し、シュベ太の繭の前に陣取る。
繭が魔物の創造系スキルの時の素材のようにぐっちょぐっちょと蠢いて、やがてそれは形を成し色がついていく。
「た、たつろー! 仮面ラ○ダーだよ、あれ!」
「いや、その言いかたは……でも、まあ、うん。言い得て妙だから発言に困るな……」
愛衣が指差す先にいた魔王種シュベ太は、身長は変わることなく2メートルほどの人型。
ライダースーツのようなぴったりとした筋肉質な黒い皮膚の上に、黄金の鎧を着こんだような姿。
顔はプラチナで出来たお面のような質感のものだったのが、大きなカマキリに似た複眼と不規則にぐにゃぐにゃと曲がった赤黒い角を2本付けた、フルフェイスのプラチナヘルメットのような外観になっている。
けれどそれはヘルメットではなく外殻が張り付いた顔なので口もちゃんとあり、ガバッと口を開けばズラリとナイフのようなプラチナ色の歯が綺麗に並んでいた。
また仮面ラ○ダーとは違い先端が二股に分かれたフォークのような尻尾が生えており、それをベルトのように腰に巻いているのは以前と変わらない。
翅もちゃんと背中の外殻を開けば出てくるので、飛ぶことも以前同様可能である。
さらに足と指先に伸びていた鋭い金爪は自在に出し入れできるようになり、今現在は普通の鎧に包まれた手足と言った感じで、これなら変わった鎧を着こんだ人間と言っても関係者以外に通じそうである。
「見た目もそこそこ変わったっすけど、それ以上に強さもグンと上がってるっポイっすね」
「魔王種という存在になっただけはある風格ですの。それでおとーさま、シュベ太は魔王種化したことでどんなスキルを──」
「主様! 清子さんの繭が動き始めました!」
「マスターよ! 光田──」
「おいマスター! 黒田も──」
「ヒポ子ちゃんも動き始めたよー♪」
シュベ太を見ている間に他の個体の魔王種かも始まったらしい。
後ろで見ていた面々も、ざわめきながら報告してくれる。
「おいおい、まるで魔王種生誕祭りだな。
こりゃ、うちの領地の記念日にでもするか?」
「そんなこと言ってないで、ちゃんと観てないと魔王種化の瞬間を見逃しちゃうよ!」
「おっと、それもそうだ。撮影もちゃんとしないと」
魔王種化したことでのシュベ太の能力は一先ず後回しにし、竜郎は他の魔王種たちの誕生を愛衣と手分けしてスマホで撮影していくのであった。




