第587話 エクスカリバーといえば
「ところで、ヘスティアちゃんの槍の名前ってなんかあるの?」
「ん? 俺の方では特にないな。名前の元ネタになってる女神も、武器なんか持ってなかっただろうし」
「それではエクスカリバーや、元ネタのアーサー王に関係している武器の名前を付けてみるのはどうですの?」
「エクスカリバーを作っている過程で閃いた武器ですからね。それもいいと思いますよ、兄さん」
別に一本一本名前を付けないといけないわけではなく、『ヘスティアの槍』とかでもいいと思うのだが、当の所有者が期待に満ちた眼差しを竜郎に送っているのでそうもいかないだろう。
「まてよ……。槍なら確かアーサー王が持ってたのがあった気がするな。名前は何て言ったか──」
「ロンゴミニアド、じゃなかったっけ?」
「ああ、そんな名前だ。良く覚えたな、愛衣。、そんなややこしい名前」
「ふふふーん。そんな槍が私のやってたゲームに出てたんだよね」
「そういうことか。そっちの槍は斧だの弓だのにはならないが、けっこう凄そうな槍だった覚えがあるし、いいんじゃないか?
ヘスティアはどう思う?」
「ろんごみにあど──ん、いいと思う。
でも長いから普段はロンちゃんて呼ぶことにする」
「なら決まりだな」
しかしこれから眷属たちの武器が出来る度に名付けなくてはいけないのだろうかと心配になりつつ、地球で培ったゲームの知識を総動員して沢山名前の候補をメモっておこうと竜郎は心に決めた。
「さて。これでアーサーはエクスカリバーを手に入れたわけだが」
「だが……なんでしょう? マスター」
「俺の知っている物語のアーサー王は、エクスカリバーという剣に付随した、強力な鞘を持っていたんだ」
「鞘が強力なのか? 良くわかんねぇな。それで殴んのか?」
「いいや、ガウェイン。その鞘は持っていれば絶対に死なないとまで言われるほどの、不老不死の加護が与えられたって話だ」
「それは確かに凄い鞘ですね。ですが主様。急にそんな話を持ち出してどうしたんですか?」
そこまでの代物までは流石にリアも作れないし、そんなものがあると言う話も聞かない。
そう口にしたミネルヴァを筆頭に、他の眷属たちも疑問顔で首をかしげていた。
「たしかにそこまで強力なチート武器はどこにもない。
だがそれに近い能力を持った鞘ならアテがある」
「本当ですか。マスター! それは凄いですね」
「ああ。けどまあ、そのアテは鞘と言うよりは魔物なんだがな」
「ぬ? 魔物とは一体どういうことなのだ? マスターよ」
「それはだな、ランスロット──」
竜郎はアーサーにアーサーと名付けた頃から、アーサーとエクスカリバーとその魔法の鞘という組み合わせを揃えてみたいと思っていた。
だが現実的に考えて持ち主を不老不死にする鞘など作れるものではない。
それは今のリアでも不可能と言ってもいい。
そこで竜郎は視点を変えてみることにした。装備品がダメなら魔物にすればいいじゃない──と。
不老不死にするとまでは言わずとも、所持者を守る魔物を相棒として付ける事は出来る。
まして竜郎たちが集めてきた魔物の素材は世界各国から見ても垂涎の物ばかり。
そこからエクスカリバーの鞘となる魔物を作りだし、アーサーの相棒にしよう。
そんなことを考え続けていたのだ。
「俺達は以前、盾の魔王種と戦った事がある。
そしてそいつは《宝玉の加護》という防御スキルをもっていて、コアでもある宝玉に込められたエネルギーが保つ限り、どんな攻撃も反射するという強力なスキルを持っていた」
「つまり主様は、その魔物を《強化改造牧場》の力で改造し鞘にしてしまおうと考えている──ということですね」
「その通りだ。ミネルヴァ」
もし眼鏡をかけていたのなら、くいっと上げていそうな顔のミネルヴァに竜郎はそう言って一つの魔卵を取り出した。
「この日の為に密かに作っておいた盾の魔王種候補の魔卵だ。
これまでは剣の形が解らなかったから作れなかったが、今ならエクスカリバーがぴったりと収まる鞘の形に改造できる」
「私の為にそこまで考えていてくれたのですね。ありがとうございます、マスター」
「い、いや。気にしないでいいぞ、アーサー」
竜郎からしたらなかば趣味のような要素が多量に含まれている計画だ。
今のアーサーのように純真無垢な潤んだ瞳で、自分の為に──と言われてしまうと少々心苦しい。
だがもし竜郎の理想通りの形が整えば、アーサーのユニークスキル──認識出来た攻撃を問答無用で時空を歪めて逸らす《見極必流》に、エネルギーが続く限り反射し続ける《宝玉の加護》と、まさに鉄壁の騎士となることが出来るだろう。
「そういうわけでこれから生み出していきたいと思っているわけだが、せっかく属性を変えられるスキルもあるんだから聖属性の盾の魔物にしておこうか」
「その方がいいですね。エクスカリバーを使用しないと言っても、確かあの盾は闇の属性も持っていたはずですから、そのままだと苦しいでしょうし」
エクスカリバーはまごう事なき聖剣だ。それも、せめて光の属性でも持っていなければ、闇や邪属性でなくとも違和感を感じるレベルで強力な。
そんな剣の鞘となるのに闇属性を持っていては、常に毒に侵されている状態と言ってもいいほど苦しくなるはず。
だが聖属性にしてしまえば、むしろエクスカリバーをその身に収めることで癒しの効果すら生まれるだろう。
そう言う経緯もあって、竜郎はさっそくその盾の魔王種から創りだした魔卵を手に持ち、元等級5だったものを7まで合成で底上げしたソレの属性を聖属性に変換していく。
「聖属性にしたら悪魔の彫刻が天使の彫刻に変わってるね」
さっそくシミュレーターでその姿を確かめてみれば、等級7にした段階でさらに禍々しくなっていた盾に刻まれた悪魔の彫刻が、神聖さを漂わす大天使が宝玉を守るように抱きしめ、その大天使を囲む様に武装した天使の上半身が描かれた物に変化していた。
このまま孵化させた場合、この天使たちが立体映像のように盾の面から身を起して戦う事が出来るのだろう。
「このままでも十分戦力になってくれそうではあるが、今回の目的はそうじゃないから──っと。
アーサー、ちょっとエクスカリバーを貸してくれ」
「はい、マスター」
アーサーからエクスカリバーを受け取ると、竜郎はその正確な大きさや厚みを解魔法でコンマ単位のズレも無く調べていく。
十分な採寸が終わると、今度は《強化改造牧場》が持つ改造の力で、その盾の姿を鞘の姿へと変えていく。
「ここはこうした方が見栄えがいいと思いますよ、兄さん」
「ほんとだ。じゃあ、ここはそうしていって──」
デザインの才能など竜郎も愛衣も無いので、リアのアドバイスを素直に聞きながら鞘の外見を整えていく。
「できた。これでどうだ? アーサー?」
「はい。とても素晴らしいかと」
竜郎だけでデザインして作ったのなら、そのアーサーの言葉もお世辞だと思っただろうが、エクスカリバーの製作もこなし芸術にも造詣の深いリアが完全監修してくれたものだ。その言葉は心からの賛辞だろう。
「最後はリアの言われるがままにやったが、確かにこれは自画自賛したくなるほど見事だしな」
「だねぇ」
改造後の外見は純白の鞘に金と赤で模様があしらわれ、中央には紅の宝玉──このゴーレム鞘のコアを抱く女神のような大天使の絵姿。
そしてその大天使へ祈りをささげる天使の姿が表面に2体、後ろ面に3体描かれていた。
それはもはや鞘と言うより絵画の様で、世界中どこの美術館に飾ってあっても遜色ないほどの出来栄えだった。
芸術に疎い竜郎や愛衣でさえ、ウットリしているのだから。
「それじゃあ、このまま孵化させようと思うんだが……。やっぱり神力を注ぐの不味いよな」
「神力の影響でせっかく綺麗に出来たこれが全然違うのになっちゃうかもしんないしね。
止めといたほうがいいよ、たつろー。ここまでするのに、けっこー手間も時間もかけたんだしさ」
「だよなぁ。でも最終決戦に連れて行くのなら、少しでも強化しておきたいんだが……」
もしかしたら変わらないという可能性も無くはない。
だがサイズが変わる可能性は今までの傾向からしてもかなり高いと思われる。
剣に対して小さかったり、やたらと大きな鞘など持っていても滑稽に映ってしまい、それではアーサーが可哀そうだ。
それに神力が混じっていなくても、高レベルの魔王種がいかに強力かは身をもって知っている。
なので今回の神力混ぜは見送りの方向で──と思った矢先に、そばでじっと聞いていたミネルヴァが口を開いた。
「あの、主様? 神力を用いながら《侵食の理》で制御し、形を保ったままにする──ということはできないのでしょうか?」
「え? ここで《侵食の理》?」
思わぬ提案に愛衣はポカンと口をあけ、竜郎は黙ったまま可能かどうか考え始める。
「そうか。大前提として元の形は『有る』のか。
であるなら、その形を《侵食の理》で保てるように固有属性構成を孵化するまで常時保ちつつ、さらにその形の中で神力が馴染む様に調整も出来れば──」
「生まれてくる形を保ちながらも、神力も固有属性構成に混ざった魔物を孵化させられる──というわけですね」
竜郎の言葉を継いで、発案者でもあるミネルヴァがそう締めくくった。
リアにも意見を求める様な視線を送ってみるが、そちらも可能性は高いと結論付けたのか、竜郎へと軽く頷き返してくれた。
「なら考えてたって仕方ないし、いっちょやってみよーよ」
「ぶっつけ本番になるし、言いかたは悪いがたとえ失敗してもやり直す事も出来るしな。
いっちょ試しにやってみるか」
「おー!」
愛衣に背中を押され、竜郎は念のため改造が終わった状態の魔卵を《無限アイテムフィールド》で複製してから実験に移っていく。
これで《侵食の理》による失敗で、この魔卵が壊れてしまっても直ぐやり直すことが出来る。
シートを敷いてその上に魔卵を乗せ、天照の杖を握って《侵食の理》を使い、まずは今現在の形を記録していく。
魔卵状態での固有属性構成を完璧に把握し解析。どの部分が形状や模様を司っている部分なのかも割り出した。
これで必要な情報は集まったと言える。
「それじゃあ、いくぞ──」
皆に見守られる中。竜郎は神力を用いて孵化させながら、さらに属性構成もきっちりと《侵食の理》で監視し動かない様に務めると言うややこしい作業に入る。
けれどそれも天照が入っている新型魔力頭脳の演算能力をもってすれば、拍子抜けするほど簡単に事が進んでいき、形はそのままでありながらしっかりと神力が入ったゴーレム鞘が生まれた。
「《テイム契約》」
「────」
今回は《強化改造牧場》越しの孵化ではないので、自動テイム機能が働いていない。
なので自分で直接テイム契約を持ちかける必要がある。
念のために2重の神の威圧を放ちながらテイム契約を持ちかけると、やはり生みの親だと理解しているのか恐がる事無くすんなりとテイムされてくれた。
そしてそのままの勢いで、今度は眷属にしてもいいかも聞いてみればOKとのことなので、さくっと眷属化もしておいた。
「見た目もそのまんまだし、成功みたいだね」
「ああ。まさかこんな裏技があるとは思わなかった。ミネルヴァ、助言ありがとな」
「いえ、主様のお役に立てたのなら本望ですよ」
お世辞の類ではなく本心からの言葉なのか、ミネルヴァは小さいながらも柔らかく微笑みを返してくれた。
それに改めて感謝の気持ちを伝えながら、竜郎はその鞘に向き直る。
「今日からアーサーの持つあの剣、エクスカリバーの鞘として活動して貰おうと考えているんだが、それでもいいか?」
「────」
その鞘もエクスカリバーに強い関心を抱いたようで、即答でイエスの返事が返ってきた。
そして返事をするなりアーサーの方へフワフワと浮遊して近づいていき、鞘の穴を向けてきた。
「これは剣を収めろということでいいのでしょうか? マスター」
「ああ。そう言う事でいいと思う。嵌めてみてくれ」
「解りました」
剣の大きさや厚みも完璧に計測して改造したので、吸い込まれるようにピッタリとエクスカリバーがその鞘に収まった。
「私がその剣を使う事になったアーサーだ。
共に同じ主を持つ者であり、その剣の鞘となったのなら私の相棒と言う事でもある。
これから、よろしく頼む」
「────」
律儀に鞘に向かってアーサーが頭を下げると、ゴーレム鞘もこれはご丁寧にとでも言うように鞘の上部を軽く斜めにしてお辞儀の様な事をしてくれた。
「それじゃあ、この子の名前も決めないとね。エクスカリバーの鞘の名前はなんだったっけ?」
「鞘自体には名前みたいなものは無かったはずだ」
「それじゃあ、いつもみたいに○○太シリーズで付けちゃう?」
「うーん……それがダメって訳じゃないが……」
エクスカリバーの鞘に○○太やら○○田という日本風の名前やら名字を当てはめても別にいいのだが、どうせなら剣と似たような響きの名付け方がいい。
そう考えながら竜郎は自分のスマホを取り出し、辞書アプリを起動。
何か神話で鞘──とまでは言わずとも、盾や防具に纏わる物の横文字の名前が無いか探してみると、あっさりとそれらしいものを発見した。
「──アイギス。ありとあらゆる邪と災厄を払う力を持った神話の防具。
神話で描かれてる能力もそれっぽいし、いいじゃないか」
「おーなんか、かっこいい響きだね」
竜郎的にはさらに『アイ』の字が入っている所もポイントが高かったようだが、それは黙っておいたまま、本人ならぬ本鞘にアイギスでいいかどうか問いかけた。
するとまたまた考える事も無く、それでいいといったような感情が竜郎へと返ってきた。
「そうか。それじゃあ、今日からお前の名前はアイギスだ。アーサーの事を守ってやってくれ」
「────」
それに対して了承の意を示すと、アイギスはそっとアーサーの傍らに並び浮遊するのであった。
次回、第587話は10月17日(水)更新です。




