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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第585話 エクスカリバー?

 《崩壊のあぎと》。名前からして確実に、《崩壊の理》に関係したスキルとみてまず間違いはないだろう。



「確認はしておいた方がいいだろうな。彩、ちょっと離れたところで地面に向かって使ってみてくれないか?」

「はーい」



 《崩壊の理》程でないにしても、それに類するスキルなら危険なのは確実だ。

 念のため距離を取るよう彩に言うと、素直に返事をしながら一人遠く離れた場所まで走っていった。



「いくよー」

「たのむー!」



 カルディナの分霊を使って様々な角度から映し出された彩の映像を見ながら、竜郎は手を大きく振って発動の合図を送った。

 それを確認した彩は地面に向かって両手の平を向けて、《崩壊のあぎと》が発動するよう念じてみた。



「ん~~~~──えい!」

「何か出たよ!」



 イメージ的には灰色のトラバサミが近いだろうか。

 そんな上下の鋭い歯が彩の両手のひらの少し前あたりの空間から飛び出すと、がぶりと地面に噛みつき姿を消した。

 噛みつかれた地面に映像を切り替えると、削りとったように歯が当たった部分が消滅していた。



「どうやら歯の当たった部分だけを問答無用で崩壊──つまり消滅させるスキルの様ですね」

「防御貫通攻撃みたいなもんか」

「恐いっすねー。でも気を付ければ、そこまでヤバいって訳でもない気がするっす」



 確かに威力は驚異的に高く、どんなに硬くても豆腐のように容易く歯形を刻まれる。

 けれど前に怪神が言っていた通り、神級天魔の真祖が扱う《崩壊の理》と比べてしまうと範囲は狭く使い方も非常に限定的で、世界に影響を出せるほどのスキルではない。

 これなら使えたとしても神達からしたら大した問題にはならないだろう。


 そんな考察をしていると、以前よりも速度が増した脚力で竜郎達の元へと彩が帰ってきた。



「すごそーだったけど、ちょっと使いにくーい。2人でやってみていい?」

「2人で? そっちのほうが使いやすいのか?」

「たぶん、そうじゃない?」

「いや、俺に聞かれても困るんだが……」



 本人がそう感じるならと、今度は天使──彩人と悪魔──彩花に分化した状態で使ってみる事に。



「ちょっと2人とも羽が大きくなった気がしますの」

「あー確かにおっきくなってるかも」

「「んん?」」



 最初に奈々が気が付いたように、彩人の白翼と彩花の黒翼は以前のそれより立派になっていた。

 それを確かめるようにパタパタと羽ばたかせながら、彩人と彩花は互いの背中を見合って首を傾げた。



「まーいっか。それじゃあ、やるよー」

「ちょっと離れててー」



 彩人は右手の平を、彩花は左手の平を前につきだし、2人一緒に《崩壊の咢》を発動させた。

 すると先ほどよりも早く、そして大きな灰色の歯が飛び出して地面にかじりついた。



「2人の状態になるとステータスは半減しますが、その分、思考力が2倍になっているのかもしれませんね」

「考える頭が2人分になっているわけだからな。ステータスが低くても威力が変わらない《崩壊の咢》なら、むしろ切り札になりそうだ」



 けれどまだ慣れていないだけというのもあるので、この先、何度も使っていれば彩だけの状態でも問題なく使えるようになってくることだろう。




 彩の強化もすんなり終えた竜郎たちは、今後の予定を話すべく一度カルディナ城のリビングに戻ってきた。

 レーラとイシュタルは妖精郷の方に行っているので、今ここにいるのは竜郎と愛衣、魔力体生物組とリア。そしてお茶とクッキーを出してくれたフローラと爺やだけ。

 とりあえず今後の方針を纏めていくだけなので、全員揃っていなくてもいいだろう。


 さっそく竜郎たちはクッキーを摘まみながら会話をしていく。



「これで難しい案件はニーナの件だけとなったわけだが──」

「そっちはパワレベが終わってからだから、まだだよね」



 体に負担が無いようにとパワレベ──パワーレベリングが終わり次第、ニーナの歪な固有属性構成の調整をするつもりだ。



「あとは、まだレベルが49の眷属たちをぱぱっと50にしてから、パワレベで全体の底上げって所っすかね」

「私は眷属の方々の特性を観つつ、装備品も作っていきたいですね。

 ──ああ、兄さん。それで思い出したんですけど、アーサーさんの剣が出来ましたよ」

「おおっ、本当か! 見せてくれ」

「これ──です」



 リアはリビングのテーブルの上に、アーサー用に竜郎が発注していた剣を置いてくれた。



「うわ~。ぴっかぴかの剣だねー!」

「派手な剣っす~」



 それは全体的に聖なる気配を放つ黄金色に彩られたド派手な剣。

 形はやや幅広な刀身ながら愛衣の宝石剣のように大剣というほど長くなく、60センチより少し長い程度の刀身の剣。

 刀身の周りを囲む様についた両刃は紅で、柄の中央には新型魔力頭脳であるダイヤ型に成形された朱殷色の物体が嵌っている。

 後はその魔力頭脳部分から葉脈のように伸びた青色の線が、刀身全体に張り巡らされているのが印象的であった。



「全て今後さらにレベルも上がって強くなるであろうアーサーさんの出力に完全に耐えられる素材で纏めた上で、新型の魔力頭脳も盛り込みつつ、兄さんからの注文でもあった見栄えのする剣──というのを合わせたらこんな感じになりました」

「竜種であるアーサーの出力に耐えられる素材か。一体何を使ったんだ?」

「聖竜と相性のいい聖金──金軍鶏の卵の殻から、さらに妖精種や竜種の方々から学んだ技術も使って、あの手この手を尽くし、さらに純度と素材の等級を底上げした物がベースになっています。

 なので聖なる存在以外だと逆に少しもろくなったり、性能が十全に出せなくなったりするので、姉さんが全力で使ったら折れると思います」

「へー、それじゃあ私はアーサー君から、これを借りられないね。

 ──てか卵の殻が主成分なんだ。なんだか急にエコな感じのする剣に思えてきちゃったよ。命名──エコだカリバーだね!」



 卵の殻と言えば校庭のライン引きの粉やプラスチック、壁紙などといったリサイクル用品に使われているというイメージが強かったらしく、愛衣の中ではエコだカリバーという名が勝手についてしまった。


 だが素材的には稀少なはずの聖金の殻の卵が、毎日食卓に届く環境がおかしいだけ。

 また、そこから手を加えて、聖金をさらに上質な素材に加工して作られた剣でもある。

 もしこれを市場に流せば魔力頭脳を外した状態でも、各国が奪い合い戦争の引き金になる可能性もあるレベルのものなのだ。

 決してお得なリサイクル製品ではない。


 そこまで説明を聞いて、ようやく愛衣の中でエコだカリバーという微妙な名を取り下げてくれた。



「それじゃあ、この剣の名前はやっぱり?」

「ああ。アーサーの剣と言えばエクスカリバーしかないだろう。エコだカリバーじゃ恰好がつかない」

「優しさに溢れた良い名前だと思ったんだけどなぁ。エコだカリバー」



 少し残念そうにする愛衣に、諦めてくれたようでほっとしながらリアはキョロキョロと周りを見渡した。



「さっそく渡して感想が聞きたいですね。何か不具合があってもいけませんし、アーサーさんは今どこに?」

「アー君ならランちゃんとガー君と一緒に、領地内の森の中に訓練に出かけたよー。

 戦場は森の中らしいから今のうちに特訓だ~とか言ってた♪」



 答えてくれたのは自分で焼いたクッキーを摘まんで寛いでいたフローラだ。

 アー君はアーサーの事で、ランちゃんはランスロット、ガー君はガウェインの事である。



「あーそうですか。それじゃあ、今すぐは無理そうですね。

 それじゃあ、もう一つ出来たのがあるので、そちらも見てください」

「え? まだあるのか?」

「はい。エクスカリバーを作っていたら、何だか創作意欲が湧いてきたので一緒に作っちゃいました──と、これですね」



 エクスカリバーの横に並べるようにしてテーブルに出されたのは漆黒の槍。

 形状は細長く伸ばした1.2メートル程の円錐形に、20センチほどの長さの円柱の持ち手を付けたような感じで、全体に黒銀色の複雑な模様が描かれていた。

 それは明らかに邪なる気配に染まっていて、静かにジャンヌを見守っていた爺やが少し顔をしかめながら思わず後ろに下がってしまう程だ。



「これまた強烈な武器だな。誰が使う事を想定して作ったんだ?」



 誰と言われても邪系統に属する存在が使うに決まっている。

 なので自ずと範囲は絞られ、その中でもこの武器を振り回せそうな眷属と言えば大体察しはつく。だが竜郎は、いちおう聞いてみた。

 すると竜郎の思っていた通りの答えがリアから返ってきた。



「これはアーサーさんとは真逆の性質を持つ、ヘスティアさんに使って貰えたら──と思っています」 

「あー。あの子なら確かに使えそうっすね」



 これが使えるとしたら奈々が筆頭に上がるが、彼女は既に自前の武器と眷属がいる。

 となると、他にこのように強力な邪なる武器を使いこなせそうなのはヘスティアだろう。

 体は155センチほどと小柄だが、竜種であり前衛タイプでもあるので腕力も凄まじい。

 身の丈半分以上あるこの槍も、小枝のように振るう事だろう。



「それで、ヘスティアさんの意見も聞きたいんですけど、今どこに?」

「へっちゃんなら、もーすぐフローラちゃんの所に来ると思うよ♪ っと、噂をすればほらー」



 どうやらカルディナ城の中にいたらしく、ふらっとリビングの入り口を通って邪人竜の少女──ヘスティアがタイミングよくやって来た。

 そしてフローラを見つけるや否や、開口一番に「パフェつくって」とおねだりを始めた。


 彼女は竜種でなければ糖尿病を心配した方がいいレベルの極度の甘党で、その中でもフローラが作ったフルーツパフェが大のお気に入り。

 それ目当てに今日も城の管理の手伝いを買って出て、フローラのお手伝いをしていたようだ。



「はいはい。解ってるよ♪ それじゃあ、今から作ってあげるから、ちょっとご主人様たちのお話を聞いてあげてね♪」

「──ん、解った。それでお話って何? 主」



 希望通りフローラが台所に向かったのを見届けてから、ヘスティアはクルリと向きを変えて竜郎へと視線を投げかけてきた。



「ヘスティアの武器をリアが作ってくれたんだ。ちょっと外で振り回したりして、使い心地を教えてくれないか?」

「私の武器? もしかして、ソレのこと?」

「ええ、そうですよ。持ってみます?」

「ん。持ってみる」



 興味は甘味ばかりで、それほど装備品に興味を持っているわけでもないヘスティアなのだが、それには何か感じるものがあったのかエクスカリバーの横に置かれた槍を受け取り手に持った。

 すると表情は変わらず無表情ながらも背中の羽がパタパタと動きはじめた。

 どうやら、かなり気に入ってくれたようだ。



「──ん、かっこいい。それに手に馴染む感じ。これ良いよ、リアちゃん」

「気に入ってくれたみたいで嬉しいです。それではパフェが出来るまでの間、少し外で使ってみて貰ってもいいですか?

 不具合や使いにくい所が有ったら直ぐに修正しますから」

「ん。りょーかい」



 そうしてヘスティアは後のパフェという楽しみも胸に漆黒の槍の持ち手をしっかりと握りしめ、意気揚々と竜郎たちを後ろに引き連れ砂浜まで歩いていくのであった。

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