第583話 蒼太の成長
カルディナ達もすっかり食の楽しみを覚え、今後の美味しい魔物集めも竜郎が欲しがっているからというだけでなく、自分達からも積極的に求めてくれるようになった。
そんな結果に大満足しながら、今度はカルディナ城を出て外へと出かけていく。
今、引き連れているメンバーは竜郎と愛衣、カルディナ達魔力体生物組とリアだ。
砂浜の方へと真っすぐ歩いていくと、直ぐに竜郎の眷属である蒼太、ニーナに幼竜達。そしてテスカトリポカとその上に乗ってウロチョロしているりっ太、りっ子、すん太が目に入ってきた。
リス型の魔物──りっすん達は昨夜のうちにテスカトリポカに会わせたのだが、最初の内は恐がっていた。
けれど同じ眷属と言う事もあってか直ぐに慣れ始め、一晩中無反応なテスカトリポカとコミュニケーションを取っていたそうな。
今のところ大した成果はみられていないが、テスカトリポカも特に嫌そうにはしていないので、とりあえず続けて貰う事にした。
「でだ。今日来たのは蒼太の神力をもっと体に馴染ませつつ、知能を司る部分にも手を加えていきたいと思ってる」
「キィロゥゥー」
ずいっと大きな体を前に出して、蒼太が望むところだとばかりに主張してきた。
今の自分ではニーナに釣り合える竜ではないし、もっと言えば、このまま何もしなければいずれ幼竜達にも大人になった時に追い抜かれてしまう。
それは幼竜の兄貴分として看過できることではないし、好きな相手とは釣り合える自分でありたいとも思っている。
だからこそ、蒼太は早くやってほしいと思っていたようだ。
そんな言葉に出さない気持ちを察しながら、竜郎は蒼太の鼻先を撫でつけた。
「今より、もっと強くしてやるからな」
「キュィィーーーロローーー」
竜郎の体に優しく頭を擦りつけ、ありがとうの気持ちを表してくれる。
それを受け入れながらぽんぽんと頭を優しく叩くと、竜郎は一歩下がって少し蒼太と距離を取り天照の杖を握って準備を始めた。
蒼太もここで少し緊張した様子を見せるが、竜郎を信じてゆっくりと目を閉じ砂浜に寝転んだ。
それを見届けながら竜郎は静かに目を閉じ、集中しながら《侵食の理》を発動。先送りした蒼太の更なる改造を開始した。
(本人的にも俺的にも、理想的なのは神格化まで持っていきたいところではあるが……)
残念ながら蒼太の固有属性構成的に、完全な神格を宿す程の体に改造するのは無理だろう。
もともと有る物の中からしか、やりくりできないのが《侵食の理》なのだから。
(けれどこれだけあれば──半神格者相当の構成には持っていけるはずだ)
半神者であるウリエル達にも固有属性構成を情報提供して貰い、それと蒼太の固有属性構成を照らし合わせた結果から導き出された到達点がそれである。
今は無駄に体中の属性構成に混じっているだけで、それほど機能していない神力たち。
これらをかき集め、より蒼太の体に合うように再調整し、さらに蒼太に合わせた半神格者のもつパターンをそれで作り上げていく。
これが成功すれば、人工的な半神格者への格上げが可能であることの証明にもなる。
「蒼太が光ってきてるよ!」
「どうやら体が作り変えられていくようですね」
まだ構成途中だと言うのに、蒼太の体にも影響が出始めたようだ。
だがここで止めるわけにはいかない。竜郎は構わず《侵食の理》に集中し続けた。
そうして問題なく半神格者と同等のパターンを持たせることに成功し、今度は知能を司る構成に手を加えようとしたところで、新たな発見をすることになる。
(あれ? 神力を馴染ませたことで知能を司る部分がより複雑になってきてるぞ)
つまり変質前よりも今の方が、より知能レベルが高くなっていると言う事でもある。
しかもそれは──。
(これは……キー太の時とほぼ同じ状態だ!)
もともと頭のいい個体ではあったが、人間に至れるほどではなかった。
それが何の調整も無しに人間と魔物の狭間に入れるほどにまで向上していたことに、竜郎は驚きが隠せなかった。
(だがその事は今は置いておこう。とにかく、これなら蒼太も人間に至れるはずだ)
より強くなりたいと言うのなら、システムの恩恵を受けることが出来た方がいい。
眷属パスを通して聞いてみても、人間になると即決してきたので竜郎は蒼太の思いも酌んで知能を司る部分を変質させていく。
竜と妖精という違いはあれどキー太の時にやった事だったので、演算に要する時間もそれほどかからず直ぐに人間へと押し上げることに成功した。
そうして竜郎がようやく全ての工程を終えて両目を開けてみれば、そこには蒼太が寝そべっていたのだが……。
「なんじゃこりゃっ!?」
そこに寝そべっていたのは全長500メートルはあろうかというほどの大きな蒼鱗の龍だった。
長すぎるヘビのような体は砂浜に収まりきらずに後ろ半分以上、海の中に浸かっていた。
「あれ? たつろーは気づいて無かったの?」
「目を閉じて集中してたから全く……ってことは、やっぱりこのでかい龍は蒼太でいいんだよな」
「そうですの。おとーさま」
奈々をはじめ、他の面々も肯定してくれる。
まあ、竜郎も眷属パスは繋がっているので本当は解っていたのだが、にわかに信じられない程の成長に思わず聞いてしまっただけなのだ。
近くにいたニーナや幼竜達も口をあんぐりとさせて、自分たちの兄貴分でもある蒼太の成長に笑ってしまうほど解りやすくびっくりしていた。
自分よりもあからさまに驚いている者達の姿を見て冷静さを取り戻した竜郎は、大きさ云々よりも前に確かめておかなければいけない事がある事を思い出した。
「蒼太。今のお前はどんな感じだ?」
「スゴク、ツヨクナッタ、ト、オモウ」
「「「「「────!?」」」」」
今度は竜郎以外の全員が目を見開いて、その声の主に視線を送る。
イントネーションはカタコトながらも、ちゃんと意味のある言葉を、鳴き声しか発してこなかった蒼太が口にしたのだ。
半神龍になることくらいしか聞いていなかった愛衣たちは、突然のことに体が固まってしまうのも無理からぬことであろう。
竜郎も解っていても少し驚いたくらいだ。
「喋れるって事は、システムも当然インストールされたんだよな」
「サレタ。コレナラ、オレモ、モットツヨクナレル。アリガトウ、アルジ」
「どういたしまして。それじゃあ、ついでにステータスも見せてくれ」
「ワカッタ──」
「──って、ちょっと待ってよ、たつろー! なんで蒼太が喋ってんの!?」
「え? ああ、それはだな」
蒼太をパーティに加入させながら、竜郎は事のあらましをここにいる全員に伝えていった。
「半神種になったからというよりも成長によって頭部が大きくなり、脳もそれに比例して大きくなったから可能になったと言う事かもしれませんね」
「だろうな。半神種全員が人間になれるのなら、シロクマの白太とかも喋ってなきゃおかしいし」
それにただ頭が大きくなったからと言って、人間と同じように思考することが出来るようになれるかと言っても違うので、蒼太はそういう可能性を持った種だったから知恵ある竜──人間に至れたのだろう。
現に頭部が小さくても、人型の魔物となるとやはり知能が高く半神種にならなくても成長によって人間に至れそうな可能性を持った属性構成を持っていた個体もいたのだから。
「──と、準備が出来たみたいだな。それじゃあ、蒼太のステータスを見てみよう」
そうして見せてもらうと《半神格者》の称号もきっちりと覚えており、クラスは無冠の角水龍とあり、レベルは50を過ぎて62。
その為、キー太の時同様に称号《天衣無縫》を覚え、その横には次のクラスの選択肢である記号が表示されていた。
またスキル構成は、初期スキルとして竜郎が与えていた──。
《超自己再生》《超鱗生成》《龍力変換・水》
《龍水泳 Lv.14》《龍空泳 Lv.12》
《かみつく Lv.13》《ひっかく Lv.10》
《龍力超収束砲 Lv.13》《龍燐旋風 Lv.10》
《重燐装甲 Lv.11》《龍骨棘 Lv.9》
《炎熱爪 Lv.10》《炎熱龍爪襲撃 Lv.6》
《龍鎌鼬 Lv.11》《龍の息吹き Lv.14》
《龍水鉄砲 Lv.12》《龍角突進 Lv.16》
《龍角槍刃 Lv.10》《龍尾閃 Lv.11》
──の他に、システムがインストールされたことによって与えられた初期スキルとして、《縮龍超強化》というものがあった。
これは体を収縮することで全ステータスを向上させられるスキルではあるが、強化率が高い代わりに縮小には多大な集中力を必要とする。
なので戦闘中に使おうとすると、そちらにも大きく集中力を割く必要があるようだ。
試しに今の限界収縮度合いを見せてもらうと、500メートルほどの伸長を450メートルにまで縮めるのがやっとだった。
「まあ、これは要練習ってことだな」
「それじゃあ、次はクラスについてだね」
現在、蒼太がなれるクラスは▼▼☆☆☆★★と表示されていて、それぞれ左から『鬼水龍』『角洸龍』。『鬼洸龍』『洸海龍』『九天龍』。『鬼洸海天龍』『洸海九天龍』。の計7種。
「沢山あるっすね。選びたい放題じゃないっすか~」
「ですがレアリティから言って、★のどちらかを選択する事になりそうですの」
これまでの経験から言っても、▼より☆。☆より★の方が強力なクラスであったことから実質二択になりそうだ。
それでも念のため、一番左からどんなクラスなのか確かめていく事にする。
鬼水龍。
これは現在よりも攻撃を主体に置いた戦闘が得意になるクラスで、耐久が少し下がるが筋力値が上昇するようだ。
角洸龍。
こちらはより水の属性が深まり、水系のスキルの威力や習得のしやすさなどが高まるようだ。
鬼洸龍。
こちらは上記の上二つを足した上位クラスで、鬼水龍か角洸龍のどちらかを選択するくらいなら、こちらを選ぶべきだろう。
洸海龍。
角洸龍よりも水属性がさらに深まり恩恵を得られる代りに、物理攻撃での戦闘が若干苦手になるクラス。
苦手になると言っても蒼太の素の能力値は非常に高いので、それほど問題にはならないだろう。
九天龍。
飛竜と似た空を得意とするクラスではあるが、こちらは高く速く飛ぶというよりも、天候を操る事に長けた存在。
そんな天龍の中でもより強く繊細な天候の操作が可能なのが四天龍。そしてその更に上に位置するのがこの九天龍となる。
鬼洸海天龍。
物理的にも強くなり、水場においても無類の力を発揮し、さらには天龍の属性まで付いた欲張りセットなクラス。
洸海九天龍。
洸海龍と九天龍の両方の力を持った海と天空の覇者と言うべきクラスだが、物理的な戦闘能力は据え置きで鬼洸海天龍に劣る。
「強さを求めるなら鬼洸海天龍か洸海九天龍のどっちかが理想的だね。
蒼太はどっちがいいのかな?」
「…………ムゥ」
愛衣の問いかけに蒼太は超巨大な口をへの字にしながら唸り悩み始める。
純粋なパワーを求めるのなら、前に出てガンガン戦える鬼洸海天龍。
地の利を得ながら上手く立ち回りつつ相手を追い詰めるという、戦闘の多様性を求めたいのなら洸海九天龍。と言った所だろう。
どちらとも甲乙つけがたく、蒼太は大いに頭を悩ませる。
そこで蒼太は何となしに、ちらりとニーナへ視線を向けた。
ニーナはニーナで何となく理解しながら、どっちがいいのだろうかなどと考えている様子だった。
そんな彼女の姿を見て、今度は竜郎と愛衣へと視線を向けた。
2人仲良く並び立ち、互いに深く愛し合っている様子がそれだけで伝わってくる。
できればこのような感じに自分もニーナと……などと思った所で心が決まった。
「コウカイキュウテンリュウ──コチラニシヨウト、オモウ。イイカ、アルジ?」
「そっちを選んだのか。でもいいんじゃないか? 元々、守りを固めながら遠距離から焼き払うのが一番得意なスタイルだったわけだし」
「アア」
蒼太からしたら日常的に相手をするのが雑魚ばかりだったので、あまりそう言った戦法は見られなかったが、本来は竜郎が今いったようなスタイルで戦うのが得意な龍だった。
なので今更前に出て戦う方を選ぶよりは、海と空を味方につけてさらに守りを固めつつ攻撃方法の多様化も狙ったのだろうと竜郎は納得の表情を見せた。
それに蒼太も頷いたし、もちろんそう言った側面もあった。
だが実はそれだけでもなかったのだが、竜郎はそこまでは気が付かなった。
それはニーナの存在だ。
今一番ニーナが好きなのは、間違いなく竜郎だ。それは異性愛ではなく父親に対する愛のようなものだが、愛情には変わりない。
そしてそんな竜郎は、自分の好きな相手とちゃんと結ばれた男でもある。
蒼太はそんな竜郎に憧れを抱き、彼のような男になりたいと思った。
そんな時に思い浮かんだのは、2人が一緒に戦う時の戦闘スタイルだ。
竜郎は基本的に愛衣の戦いやすいように場を整えながら後方で考え、常に支えていた。
自分もそうありたいと思うのなら前に出て戦うよりも、どんな状況でもニーナを守り支えられるような存在になるべきではないか。
その為には前衛の能力を高めるよりも、オールマイティに活躍できそうな方を選んだ方がいいだろう。
そうすることで自分は、ニーナが自由に羽ばたける空間を守ることが出来るはずだ。
そんな自問自答の末に、蒼太はそちらを選んだ。
けれど未だ恋だの愛だのに興味を持たないニーナは、そのクラスになったらどんなふうになるのかとワクワクした目で幼竜達と一緒に蒼太を見ていた。
蒼太の気持ちなんて微塵も感じ取ってはいない目だ。
それに思わず蒼太は自嘲の籠った笑みをフッと浮かべてしまう。
もしかしたら自分のこの気持ちは生涯、届くことは無いかもしれない。
それなのに愛などと言う形の無い物の為に、自分の一生を左右するであろうクラス決めをしてしまってもいいのだろうかと。
だが直ぐに不敵な笑みに変わる。
その思いが届くかどうかではない。届かせるのだ。
その為に自分はまた一歩、彼女を守れる男になろうと新たなクラスへと変化していくのであった。




