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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第582話 味覚を

 それからワニワニ隊の眷属化と体中に散っている神力の欠片を使った強化も、本人たちの許可を取った上で成し得ることが出来た。

 蒼太も眷属化したことで、その部下のような存在でもあるワニワニ隊も最初から興味はあったようだ。


 また竜郎は、キー太の属性構成や人間化を経て魔物の知性に対しての分野において大きな進展を遂げた。

 そのことから人間に至れるほどではないにしても、現状よりもより高い知性へと変えられるだけの確信が持てるようになった。


 最悪、個の崩壊さえしなければ失敗しても元に戻す確信も持てるようになったので、竜郎は思い切ってワニワニ隊に知能の向上をやってみてもいいか聞いてみた。

 すると是非にと快諾を得ることに成功した。


 その事に礼を述べながら、似ているようで違う固有属性構成を持つワニワニ隊──計6体の知能を向上させていった。



「どんな感じだ」

「「「「「「ゴォーゥ!」」」」」」



 体調も良好で眷属のパスを通して伝わってくる感情も、以前よりもずっと具体的で様々な思考も乗るようになってきていた。

 そのことからも見た目では解りづらいが、確実により高い知性を得たことがうかがえた。

 今後はより高い戦術と連携による狩りが出来るようになった事だろう。


 またその流れでワーム隊にも同じことをしていったところ、こちらも成功。

 こちらも人間に至れるほどではないしろ、魔物の中ではかなり高い知性を有するようになった。

 これでより効率的に地中の防衛にあたってくれるはずだ。


 それから他の従魔たち──子パンダ、邪ペガサス、生魔法系の猿型魔物達による癒し隊。


 さらに竜郎が生み出した蟻蜂女王の最初の1体。

 今や巨大な組織と化した働き蟻蜂達と、それらの群れを率いる蟻蜂女王達の頂点に立つ蟻蜂女帝とでもいうべき存在と、それに近しい5体の蟻蜂女王の眷属化。


 あとは念のために聞いてみたアムネリ大森林で情報収集のためにテイムし、そのまま《強化改造牧場》内で暮らしていた魔物達に聞いてみると──。



「「「キュッ!!」」」



 情報収集のために捕まえた魔物達の中で群れごと捕獲した個体数の多いリス型の魔物──通称『りっすん』と愛衣が呼ぶ魔物の内たった3体だけだが、何故か竜郎の眷属になると申し出てきた。



「なんでまた俺の眷属に?」



 竜郎が自ら生み出したわけではない完全な野生魔物。

 またテイムしてからも《強化改造牧場》内でなに不自由のない生活をさせていたとはいえ、それ以外特に何もしなかったし、正直半分くらい忘れていたくらいのものたちだった。


 そんな存在に魂ごと竜郎に差し出してもいいなどと、大量にいるうちたった3体とはいえ言い出すとは思っていなかった。

 現にリスよりも個体数の多い捕獲した時に一緒にいたヘビたちは、全員拒否してきたのだから。


 それ故に竜郎は不思議でならず思わず問いかけると、その理由は三者三様だった。


 内1体は、りっすんたちの中では珍しく腕っぷしが強く一回り大きな個体。

 なんだか良く解らないが眷属になれば、もっと強くなれそうだからという本能的思考から。


 内1体は、他のりっすんよりも身綺麗で毛並のいい個体。

 眷属という別の存在になる事で、何か新しい世界が自分の中に生まれるのではないかという芸術的思考から。


 内1体は、りっすん達の中でも痩せ型で、ひょろっとした個体。

 眷属になる事で自分がどのような変化をするのか、どんな風に感じるのかなどという知的好奇心から。



「えーと……よーするに立候補したりっすんたちは……その……変わり者ってこと?」

「だろうな。というか、りっすんの群れの中でもより強い自我というか個性を持っている個体って事なんだろう、きっと。

 ……まあ、変わり者という意味なんだが悪い事ではないはずだ」

「ヘビさん達はみんな同じような感じだったのに、りっすんは随分と個性を持っているのがいるんだねぇ」

「もともとヘビを操って生き抜こうとするような性格の魔物だからな。

 他の魔物よりは頭もいいんだと思う。だからこそ色んな感情が生まれて、個性も出てくるといった所か」



 とまあ、りっすん達への考察は程々に、竜郎は自分たちなりに理解した上で承諾した事を確かめられたのでそのまま眷属化していった。

 するとやはり知能の構成部分が他の魔物よりも複雑に出来ており、より多くの感情や思考を持っている事が証明された。


 そして知能における分野ももう少し向上させられそうだったので、こちらも本人たちの許可の元、他のりっすん達よりも頭一つ抜きんでた思考能力を与える事も出来た。

 また他にも沢山いるりっすん達との差別化を図るために、愛衣が3体のりっすんにそれぞれ名前を付けていき、一番大きな個体のことを『りっ太』、毛並の綺麗なメスの個体の事を『りっ子』、痩型の個体のことを『すん太』と呼ぶことにした。



「それにしても3体で色んな感情か……。これはテスカトリポカと一緒に生活させるのもいいかもしれないな」

「テスカちゃんに? なんで?」



 テスカトリポカとは、以前竜郎が竜族創造で生み出した骸骨竜のようなゴーレム竜のことだ。

 最近では同じ竜でもある蒼太やニーナ、幼竜達と一緒に暮らしてもらい様々な学習をしている最中でもある。

 それにより蒼太たちの狩りを見て戦闘については、かなり成長を見せてきてもいる。


 だが感情面での成長は芳しくはない。

 それでも生まれた時よりは空っぽでもないのだが、まだ機械のような反応しかしてくれないのだ。


 そこで竜郎はこのちょっと変わり者の3体のりっ太、りっ子、すん太を身近に置いて、戦闘だけでなく感情の育成をするのもいいのではないかと考えたわけだ。

 そうして豊かな知識、豊かな感情を得られれば、いつかテスカトリポカは人間に至れるかもしれないのだから。



「というわけでお前たちはこれから《強化改造牧場》内の仮想世界ではなく、こちらの現実世界で暮らしてもらいたいんだが、それでもいいか?

 もちろん暮らすのに不便がないように取り計らうつもりだが」

「「「キュッキューー!」」」

「いいみたいだね。ふふっ、かわいー」



 はーいと小さな前足を上げて了承する3体の姿に、竜郎も愛衣と共に思わずホッコリした。


 こうして竜郎の従魔たちの眷属化に関してはひとまず終わりを告げた。

 そうなると宿題として残していた蒼太や彩たちの属性構成に含まれる神力の調整。カルディナ達の味覚と嗅覚の調整。ニーナの固有属性構成の調整。これらについて考えていきたいところであるが──。



「それをするんだったら、もう少し実験と配列パターンを収集しておきたいな。

 今日の残りの時間は、情報収集に出かけるかな」

「とゆーと?」

「領地内にいる魔物なんかで色んな種類の属性構成の配列パターンを収集しつつ、身内なんかには絶対に試せない危険な実験をしようと思う。

 ちょっと可哀そうな気もするが、何処までやれば完全に個が崩壊するのか。

 どこまでやると構成が保てずに体が崩壊するのか。そう言った情報も細かく実験データを集めておきたいんだ」

「あー……。確かに可哀そうっちゃあ可哀そうだけど、それで身内の安全が買えるなら安いもんだしね」

「ああ、だから愛衣は──」

「当然、私も付き合うよ」

「──そうか。ありがとな」

「いーってことよ」



 野生の魔物相手とは言え対象者の死を前提にした生体実験など、あまり気持ちのいい作業ではないし愛衣は残っていてもいいと言おうとしたのだが、先回りされて牽制されてしまった。

 以前も言っていた事があったが、愛衣は竜郎だけに嫌な事をさせて笑っていられるような女ではないのだ。


 そんな彼女になんと言おうか迷った挙句、竜郎は彼女を見つめてお礼だけを口にした。




 生体実験も兼ねた様々な種類の属性構成の配列パターンの収集を一日かけて終えた。

 他者がその現場だけを見れば、かなり残酷な行為だと思われる事もしてきたが、それでも欲しいデータは一通り得ることが出来た。

 それにより以前まで取っていた安全マージンを大幅に減らし、より深い所まで変質させられるようにもなった。

 犠牲になった魔物達には感謝しながら、竜郎は調べていなかったウリエル達などの属性構成も収集してから次の日の朝を迎えた。



「それじゃあ、まずはカルディナ達の味覚と嗅覚からやっていこうか」

「ピュィー」



 長女のカルディナを筆頭に、ジャンヌ達も元気よく返事を返してくれた。

 これから体を弄られると言うのに、何とも気楽な雰囲気である。だがそれも信頼の証だと思えば竜郎としても嬉しい限りだ。


 そして竜郎はまずは長女であるカルディナを、もっと近くに呼び寄せた。



「昨日まで色んな情報を集めて、その上で天照と月読の新型魔力頭脳による演算もフルに使って、個々にとって最適な構成配列の設計は既に完成した。

 あとはそれにしたがってやっていくだけだから、時間もかからないはずだ」

「ピュィー」



 やりやすいように、カルディナはまずいつもの姿ではなく、ただの属性球となって竜郎の前にやって来た。

 これが原初のカルディナたちの形であり、もっとも手を入れやすい姿でもあるのだ。


 竜郎は天照の杖を握り、カルディナの属性構成を深く深く侵食し変質していく。

 大変な部分は昨日のうちに済ませておいたので、決められた線をなぞるだけのような作業で時間からして3分もかからなかった。


 そのままジャンヌ、奈々、アテナと続けていき、月読をやって最後に竜郎が一番慣れた状態で天照の補助をなくし天照も危なげなく処置が完了した。



「では皆さん。これのにおいをかいで、そして食べてみてください」

「なんだかいい匂い──と感じますの」



 出されたのはリアが作った朝食セット。

 竜郎たちが朝食べたものと全く同じで、献立はご飯とお味噌汁、魚の塩焼きと味海苔といった和風なものになっている。


 初めての感覚にカルディナ達は少し戸惑いながらも、ゆっくりとそれらに鼻先を近づけ、まずはにおいを嗅いでみた。

 ちなみに天照と月読は属性体による仮の体でも感じられるようにしてあるので、今は小さな竜の姿である。



「どうだ? ちゃんとにおいを感じられるか? 逆に前みたいに戻す事も自由にできるか?」

「────す~~~~は~~~。奈々姉が言ってた通り良い匂いっす。

 ────す~~~はぁ。それに前と同じように、においを感じなくすることも出来たっす」

「それじゃあ、今度は味覚だね。がぶっといっちゃってよ」

「了解ですの、おかーさま。──はむっ。ん~~このお魚はとっても美味しいですの!」

「ピィィーーー♪」「ヒヒーーン♪」「「────♪」」



 刺激が強すぎないようにとララネストは避けておいたのだが、それでも捕れたての新鮮な魚からリアが一生懸命作ってくれた料理だ。

 不味いはずも無く、生まれて初めて感じる『味』にカルディナたちは皆感動しながら、朝食セットをガツガツと食らっていく。



「これだけ喜んでくれると作り甲斐がありますね」



 親友とも呼べる奈々の喜びようが特にうれしかったのか、リアは満面の笑顔を浮かべながらそう言った。

 それに竜郎も戦闘とは関係のない事で、人によっては意味がない事と言われそうなことだったが、それでもやってみて良かったと心から思えた。


 一通り食べ終わってから味覚の切り替えも確かめて、問題なく出来る事も確認できた。これでカルディナ達の改造は成功したと言える。

 これからはカルディナ達もより楽しく食事の時間を楽しめる事だろう。



「ララネストはこれよりも美味しいんすよね。気になるっす~」

「そっちはもう少し段階を踏んでからの方がいーよ、絶対。

 早いうちからあの味を知っちゃうと、他の美味しい物もかすんじゃうからね」

「ではそーしますの。これからの食事の時間が楽しみになってきましたの~」

「……これは、今まで以上に食事の時間にうるさくなってしまったかもしれませんね」



 ご飯粒をほっぺたに付けてニコニコ笑顔を浮かべる奈々に、リアは今後の事を憂い思わず苦笑してしまう。



「良い事じゃないか。食事は大事なんだから、しっかり取りなさーい」

「はーい。解ってますよー」



 少し唇を尖らせて「ちぇ~」と不満をわざと表面に出すリアに竜郎は思わず微笑みながらも、先ほどのカルディナ達の属性構成に、より深く触れた事で新たに浮かんだ考えに思考を移していく。



(改めてカルディナたちの属性構成に触れて思ったが、分霊ってのは竜だからこそ使えるスキルって訳でもなさそうだ)



 ずっと前にリアも言っていたが、生物でありながら神域に手をかけた存在が生み出せる道具であり、自分自身を切り分けて、霊的な道具を造り上げるものが分霊である。

 だがこれまでそれを使っているのを見たのは竜である存在だけで、クリアエルフであるレーラも使えないようだったので竜だけの特権だと勝手に思い込んでいた。

 だが今回の変質を経て、そうではないんだと改めて確信できた。

 ただそれは竜という人間という種族よりも、高次元な存在だからこそ表に出やすかっただけなのだ。


 けれどその差が何よりも大きいのだと言う事も同時に理解できた。

 普通に生きていたら、何億年かけても人間という種では到達できない差だと言う事も。



(だがその差を《侵食の理》でどうにかして突破してしまえば、あるいは俺にも──)



 これについてもう少し研究をしておこうと、竜郎はまた一つ頭のメモ帳に書き込んだのであった。

すいません。9日の更新は私の体力的に無理そうです(泣

けれど10日からは通常通りの更新頻度に戻りますのでご安心を。

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