第581話 キー太のクラスとスキル
システムを得たキー太をさっそくパーティに参加してもらい、そのままステータスをみてみると次のようになっていた。
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名前:キー太
クラス:無冠の風妖精─>▽▼▼☆
レベル:88
気力:712
魔力:988
筋力:502
耐久力:560
速力:596
魔法力:741
魔法抵抗力:778
魔法制御力:718
◆取得スキル◆
《瞬動風刃斬+1》《自己超越》《八風龍操》
《飛翔》《高速飛翔》《百折不撓》《死中求活》
《風纏腕突 Lv.11》《風刃 Lv.11》
《堅牢体 Lv.10》《風纏体 Lv.6》
《風魔法 Lv.9》
◆システムスキル◆
《アイテムボックス+4》《マップ機能+4》
残存スキルポイント:264
◆称号◆
《天衣無縫》
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「ちょっと感覚がマヒしてきちゃってるけど、このステータスって十分強いよね」
「ああ。なんたってレベルが88もあるし、魔力だって1000近くあるんだから十分凄いだろ。
ただやっぱり、これをみると半神格者とかの眷属たちは異常だったんだなと改めて思い知らされる」
普通に半神格者たちはどのステータス値も500オーバーからスタートなので、レベル1の状態でもレベル88のキー太と比べられる領域に立ってしまっている。
そしてそれを当たり前のように見てきた竜郎たちは、少し低いと思ってしまったようだ。
だがよくよく考えれば、これが普通のレベル88のステータスであり、なんだったら普通の人種の88よりも高いかもしれないのだから、竜郎たちの感覚がおかしいだけで十分キー太は強いのだ。
「よし。それじゃあ、次はスキルの方を見てみよう」
「まずはこの──初期スキルで覚えったぽい《瞬動風刃斬+1》は、どんなのかな~」
《瞬動風刃斬+1》は発動中の移動速度を爆発的に向上させ、発動時間内なら魔力が続く限り強力な風刃を相手に投げつけたり、あるいは直接切り付け攻撃したりできるスキルのようだ。
+1になったことで、その刃の切れ味がさらに増し、発動時間も伸びているようで10秒間の発動が可能との事。
そして《自己超越》と《八風龍操》は竜郎と初めて会った時に使っていたもの。
前者は一時的に自分を強化できるが効果時間が過ぎるとかなり弱体化する。
後者は8体の風の竜を作り上げ、それを操り攻撃できる。
また《風纏腕突》は腕にドリルのように渦巻く風の槍を纏わせるスキルで、《風刃》は風の刃を作るスキル。
《風纏体》は薄く体に風の魔力を纏う事で耐久、魔力抵抗が上昇する。
そして《百折不撓》と《死中求活》。
この二つは似たようなもので、これまでのキー太の生き方を物語っているかのようなスキル。
《百折不撓》は心が折れない限り、どんなに大怪我を負おうとも死ににくくなる。
死なないわけではないが、このおかげで即死でなければ大概生き残れるほど強力なスキルだ。
ただ回復スキルではないので、傷は自前の治癒力で何とかするしかなく癒える前に死んでしまう事もありえる。
《死中求活》は崖っぷちの状況に追い込まれた状態でも、心さえ折れなければステータスが少し上昇し集中力、思考力、動体視力、判断力などが冴えわたる。
これさえあれば、危機的状況も慌てることなく最善の一手を高確率で掴み取ることが出来るだろう。
「こんなスキルを覚えちゃうような生活をしてたって事だよね……」
《瞬動風刃斬》と《風魔法》以外は、システムがインストールされる前からあったスキルだ。
当然、それを覚える様な行動をしなければ、野生のキー太が覚えられるはずもない。
二人は無言でキー太の頭を撫でて、その人生を労った。
ただ同情はしていない。それはキー太の生き方を下に見る行為だからだ。
そうして竜郎は次に称号の方に視線を向けていく。
「魔物から人間になったときに、既にレベルが50を超えていれば途中でどんなスキルを覚えていても《天衣無縫》が覚えられるわけか」
「みたいだね。それに選択できるクラスも、ちゃんとあるみたいだし」
ということで選択できる3つのクラスをタップして見ていく。
1つ目の▽は『上位風妖精』。こちらは純粋に今のままの構成で強くなれるクラス。
元々下位妖精として生まれたキー太をさらに上の妖精へと引き上げるものだ。
2つ目の▼は『上位風精戦士』。こちらはより近接戦闘が得意になるタイプで、今より少し魔法系スキルが使いにくくなる。
3つ目の▼は『上位風精術士』。こちらは風精戦士の逆で魔法型に強化されていくクラスとなっており、近接戦が少し苦手になる。
そして最後の☆は『上位嵐妖精』。風が嵐となり、キー太の構成する風の因子が大幅に強化される。
風のスキルとの相性も今より抜群に良くなり、他の風系スキルも覚えやすくなる。
こちらは現状のまま大幅に強化されていくクラスなので、戦闘スタイルも変わらない。
「キィー!」
「まあ、そうなるよな」
当然、一番強くなれるのは一番稀少なクラスでもある『上位嵐妖精』だ。
魔法特化や近接特化への成長も面白いだろうが、今のスタイルでずっとやってきたキー太にとっては戦い辛くなってしまう場面も出てきそうであるし、わざわざ型落ちの『上位風妖精』を選ぶ者もいまい。
キー太は迷うことなく『上位嵐妖精』のクラスを選択した。
そしてそれと同時にクラスチェンジ特典として、スキル《八風龍操》が《八嵐龍操》に強化された。
また竜郎には、その瞬間にキー太の中に元々あった魔力の濃度が、あがったような気配を感じる。
竜郎はお願いして今のキー太の属性構成をのぞかせてもらうと、固有属性構成ががらりと変わり、より強者のそれへと作り替えられていた。
「もしかしたら普通のキー太の種族じゃあ、ほぼ取得できないはずのクラスだったのかもしれないな。
だから上位の種族のクラスに適した形にシステムが体をさらに最適化したみたいだ」
「システムってそんなことまでやってくれてたんだね」
まさにこれもシステムを得た恩恵と言えよう。
人間になる事を選択しなかったら、キー太は生涯下位妖精の強化体として生きることになっていただろう。
しかしシステムによる属性構成への介入が入ったことで、今では上位妖精の中でも上の方の存在に格上げだ。
キー太もさっそくシステムからの恩恵を得て、ご機嫌な様子で周囲に風を起こして今の自分を確かめていた。
「ただ風を起こすだけでも明らかに前よりも出力が上がってるな」
「ふふっ、キー太もなんだか楽しそうだね」
まるで新しいおもちゃを貰った子供のように無邪気な表情に、竜郎と愛衣も思わず口元がほころんだ。
それから少し話をしてから、キー太はこのままここに残ると言うのでここで別れることにした。
「それじゃあ、今度は転移装置を持ってこれたら持ってくるな」
「そーしたら、いつでも遊びに来てくれていいからね!
妖精樹なんかも近くにあるからキー太も面白いよ、きっと」
「キーーー! ばがっじゃ! じぇっだいびく!」
解った。絶対行く。とまだ慣れない言葉を使って、そう伝えてくれた。
さて。これで概ね領地内で活動してくれている従魔たちの眷属化は一段落着いた。
ちょうど日も暮れた事だし、とりあえずこの日はカルディナ城に帰り、翌日のことについて愛衣と話し合った。
翌日の朝。竜郎と愛衣は仲良く2人手を繋ぎ、海の前までやって来た。
まず今日の予定は、豆太も眷属化させたので他の従魔たちも眷属について聞いてみようという話になったのだ。
「さすがに養殖用に育ててる、ララネストやら白牛なんかはやらないんだけどねー」
「眷属化なんてしたら、俺が心情的に殺せなくなるしなぁ」
従魔にしておいて殺して食うと言うのも若干心を痛めているのに、わざわざ眷属化させる意味が解らない。
「スーパーで並んでるお肉とか普通に食べてたけど、私たちみたいに育てて殺して捌く人たちがいるから食べられるってのを改めて思い知らされたよ」
「だなあ。まあ、それは置いておいて、まずはシャチ太だ」
「キューー」
《強化改造牧場》から召喚され、海の上にシャチ太が現れた。
なあに? と可愛らしく首を傾げる姿が非常にチャーミングで、おでこの所にプラチナ色のひし形プレートが付いているシャチそっくりの魔物である。
「相変わらずかーいーねぇ」
「キュッキュー♪」
愛衣がつるつるしたゴムのような肌を撫でつけると、嬉しそうに鳴いていた。
そんなご機嫌なままに竜郎が眷属化について問いかければ、やはり竜郎が魔卵から生み出した魔物。なるなるー! といった感情が伝わってきた。
そこでシャチ太も従魔から眷属へと変質させていき、その属性構成に触れればやはり微量の神力が混ざっているのを見つけた。
豆太よりも属性構成はやや複雑化しているが、ここまで何度も《侵食の理》を繰り返してきたうえに、イージーモードの豆太でもやっていたので、この神力を整える事も出来るだろう。
その旨をシャチ太に聞けば、是非やってくれというので竜郎も直ぐに実行。
塵のように散っているだけの神力を、よりシャチ太の固有属性構成に馴染ませていき──。
「豆太の時みたいに、ちょっとおっきくなったりとかも無いね」
「みたいだな。けど失敗はしてないぞ。現に強くはなっているみたいだし……。
なあ、シャチ太。何か変わった所とかがあったりとかするか?」
「キューキュー」
「おっ」
見た目には変わらずとも、ちゃんと影響は出ていたようだ。
額にあるプラチナ色のひし形プレートがグニャリと動き、一角獣のような角に変化した。
さらにおでこのひし形プレートから線を引くように目の上を通って体の側面にまで流れていくと、そこで胸ビレに纏わりついて、大きな羽のような形となった。
どうやらそうする事で空中を泳ぐスキル──《空泳》がやりやすくなったり、水中で敵を切ったりなんて事も出来る様だ。
「ただのデザイン的なワンポイントから、武器に早変わりか。面白いな」
「他にはどんな形が出来るの?」
「キューキュー!」
別に決まった形は無いらしく、額のプレートは角以外にも拳のような形になったり、とらばさみのような歯を作って敵に噛みついたりと、汎用性は非常に高いようだ。
「しかしこういう変化もあるのか。これは蒼太に試したらどうなるか楽しみだな」
「なんかすっごい技が使えるようになったりしてね」
そうしてシャチ太とはここで一旦お別れし、今度は魔物船──長門を呼びだした。
長門にもさっそく眷属化について聞くと、やはりOKということなので眷属化していく。
こちらは神力は注いでいないので、これ以上の改造は出来ない。なのでここでまた《強化改造牧場》へ送還した。
「あとはワニワニ隊たちもやっていかないとな」
「そうだね」
蒼太は恐らく連れていくことになるので、ここを守る人員の強化もしておきたい。
そうなると長門やシャチ太、豆太もちゃんとレベリングさせておけば、それに一役買ってくれることだろう。
そんな予定を新たに立てながら、竜郎は今も砂浜にやってくる魔物を仕留めたワニワニ隊へと近づいていくのであった。
4日~7日までの更新は出来そうにないです(汗
出来るようなら8日からの再開を目指したいと思います。無理でしたらごめんなさい(泣
遅くても10日には通常運行に戻れる予定です。




