第579話 ランスロットの相棒?
「黒田の眷属化か! そりゃあ、いーじゃねーか。
なあ相棒、俺と一緒の存在になろうぜ!」
「────」
ランスロットとガウェインのいざこざに割って入ってから説明すると、直ぐにガウェインは相棒の説得に入った。
ここは仲のいい友に任せておこうと竜郎は見守るだけにしてみた。
だが元々、黒田にとって否は無かったのか、眷属化について何となく理解すると直ぐに受け入れてくれた。
「それじゃあ、やるからな」
「──」
顔らしき部分がお面なので見た目には一切感情が見えてこないが、それでもテイム契約の方では了承の意が返ってくるので遠慮なく眷属化していく。
既に光の精神体である光田の方はやっているので、こちらもそれと似通った構成をしているのだろうと解析していく。
(あれ? 光田と全然違うぞ)
それは光と闇の違いとかそんな事をさしているのではなく、同じ魔卵を属性変換しただけの光田と明らかに別固体のような固有属性構成になっていたのだ。
固有属性構成は100人いれば100通りの配列パターンを持つが、それでも同じ人種同士なら人種になるための一定のパターンがある。
けれどこの黒田は何故か同じ精神体の光田と種族属性構成とでも言えばいいのか、その部分が変化していた。
(最初からそうだったのか? いや、元は同じ魔卵だ。共通点が無ければおかしい。
となると……後天的に何かがあった?)
光田と黒田の違いを考えてみる。
まず生まれた時期は黒田の方が早い。だが1年2年の話ではないので、ただ時間の経過で変化したと言うのは考え辛い。
となれば黒田自身ではなく、その他の外的要因を疑ってみる。
(と言っても、基本的に光田と同じように俺の《強化改造牧場》内で生活しているし、他に違いと言えば──ガウェインか)
ガウェインがダンジョンなどに行くときは、必ずと言っていいほど黒田を連れていく。
そして黒田もそれを良しとして、竜郎の眷属であるガウェインを守ってくれている。
なので光田との大きな違いは、特定の親しい相棒がいる。という点かもしれない。
その考えに至った上で改めて黒田の属性構成に目を向けてみる。
すると吸血鬼の千子。悪魔の亜子。この2人の構成を見た時にあったのと似たパターンが、ごく微量ながら存在することを天照が突き止めた。
(吸血鬼と悪魔の性質を持っていると言えばガウェインだ。
やはり黒田はガウェインと一緒にいる事で何らかの変化がその身に起こっているのかもしれない。
それは恐らく精神体と言う心だけの存在だからなのかもな)
肉体を持たず属性の魔力が心を持った存在が精神体。
故に強く共感する相手がいれば、その相手に染まりやすい存在でもある様だ。
そしてその変化は竜郎が属性構成配列を調べる限りでは、魔王種化した時により顕著に出てきそうでもあった。
(なら光田も早いうちにパートナーを付けた方が、そのパートナーに合った魔王種になるかもしれない)
そこで竜郎は考える。光の精神体の光田。戦闘スタイルはややトリッキーな魔法アタッカーだ。
そして光と言う性質を持っているので、かなり動きもすばやく、その相棒になると言うのならそれについていけるような存在が好ましい。
それにガウェインが闇の性質を持っているので共感しやすかった事も考えれば、光の性質を持っていた方がいいだろう。
光の性質と言えば、真っ先に挙がるのは聖竜の人竜アーサー。
だが彼の相棒は竜郎の個人的な趣味による考えがあるので別の候補──と思考を巡らせていると、その目にランスロットが映った。
彼は光と水の属性を持っている上に、素早さも高い。
さらに魔法よりは素早さと技術を武器に戦う、遊撃型の前衛寄りアタッカーでもある。
これに強い魔法アタッカーが付き、さらに黒田程でなくとも相手を翻弄するスキルも所持しているので隙を突きやすくもある。
考えれば考えるほど、ランスロットにマッチしている気がしてきた。
竜郎はさっそく黒田の眷属化を済ませた後で、精神体と言う魔物の性質の説明と、光田とタッグを組んでみてはどうかとランスロットに提案してみた。
「うぬぅ……」
「どうした? 嫌なら嫌と言ってくれていいんだぞ」
てっきり直ぐに賛同して貰えるものかと思いきや、ランスロットは難しい顔で唸り始める。
「いやな、マスターよ。別に嫌というわけではないのだ。
ただ……我はまだ未熟。ここで相棒を作ってしまう事で甘えが生じ、自らの成長が遅くなってしまうのではと思ってしまうのだ」
「そんなもんかねぇ」
すぐさま相棒を受け入れたガウェインからしたら、互いに強くなっていけばいいと思うだけの様で、理解できないとばかりに肩をすくめていた。
「ふむふむ。よーは相棒に頼りすぎちゃって、自分が楽な道を選んじゃうのが嫌って事だね」
「まったくもってその通りなのだ、アイ殿」
嫌だと言うわけではないようだが、まだまだ自分には早いと断られそうな雰囲気になった所で、じっと傍観していたルナが口を開いた。
「……相棒と言う存在を……得る事で、……見えてくることも……あるんじゃ……ない?
……ランスロットは……考えすぎ」
「ぬ。そうなのか、ルナ殿」
「……考えすぎて……ガウェインみたいに……チャレンジする事を……恐れる傾向がある。
それは成長をとどめる……ことになる……かもしれないよ」
「それは一理あるかもしれないな。どうだろう。一度組んでみて、やっぱりダメそうなら解消すればいいんだし、やってみたらどうだ?」
「むぅ……」
自分の主と自分の鍛錬に飽きもせずに付き合ってくれるルナの意見を無碍にすることも出来ない。
それにだ。やってもいない事を、起きてもいない事を危惧して動きを止める事は、新しい可能性の種を腐らせる結果になる事もあり得る。
そんな考えに思い至り、ランスロットも腹を決めたようだ。
まっすぐな目を竜郎に向けて、まずは光田と話をさせてくれと申し出た。
竜郎は直ぐに《強化改造牧場》内にいた光田を呼び出す。
天使の頭についているような光り輝く輪っかが、竜郎から事情を聴いてランスロットの周りを飛び回り始める。
そして攻撃ではなく、ただの光のレーザーを突如ランスロットに向けて放つ。
「──ぬっ」
「──」
だがその光線をさっと躱して見せたランスロットを見て、光り輝くマントに形を変えて背中に張り付いた。
ランスロットの背中には羽があるので邪魔になりそうに見えるが、基本的に光の塊なので貫通して羽ばたきの邪魔になることは無さそうだ。
その場でくるんと回ってみせると、マントもそれに合わせて靡いて見せた。
それにランスロットは満足そうな笑みを浮かべた。
「どうやら我は認められたようであるな」
「みたいだな。とりあえずよろしく。だってさ」
「そうか。こちらこそ宜しくな、光田よ」
光り輝くマントがより一層輝きを増して、その言葉に返事をした。
それにランスロットは少し嬉しそうにニッと右の口角を上げた。
「ランスロット。俺が相棒との戦闘訓練に付き合ってやってもいいぜ」
「ガウェインは相棒を得て既に何度も戦っているようだしな。確かに何か掴める事があるかもしれぬ。
是非、胸を借りようではないか──いざっ」
「おーよっ!!」
ガウェインの拳とランスロットに仮の武器として与えられているレイピアが交差し、訓練とは? と問いたくなるほどの戦闘が繰り広げられ始めた。
いきなりそれはどうなんだと竜郎は思うものの、やはりランスロットと光田の相性は、なかなか良いらしく既に連携が取れ始めてきた。
「習うより慣れろだよ、たつろー」
「……そう。実戦に勝る……経験はない……から」
「みたいだな」
いざとなったらルナが何とかしてくれると言うので、お言葉に甘えて竜郎と愛衣はその場から去っていった。
「さて。これで魔王種候補と半神系の魔物の眷属化も終わったわけだし、昼食を取ったら今度は他の従魔たちに声をかけてみようか。
面白い属性構成のパターンを持っている奴もいるかもしれないし」
「だねー」
やや遅めの昼食を取った後、竜郎と愛衣は領地内の管理者をしてくれている従魔たちを訪問していくことにした。
まずはクズリと言うイタチ科の動物に似た身の丈二メートルの魔物──クー太の元へ。
そこで眷属化について話していき、なんとか理解をしてくれたところで頼んでみると少し考えるそぶりを見せながらもOKしてくれた。
その場で眷属に迎え入れ、軽く状態を確かめてから次の目的地へ。
今度は皮膜の無いプテラノドンのような魔物──プー子の元へやって来た。
クー太があっさり受け入れてくれたので、これは全員いけるのではないかと思っていた矢先、さっそく出鼻をくじかれる結果となる。
つまりプー子には断られてしまったのだ。
別に竜郎の事が嫌いだとかそう言う事ではないのだが、魂まで誰かに渡すつもりはないという事らしい。
ライバルでもあったせいかクー太も気になる様子だったので連れてきていたのだが、それを聞いた途端、互いに顔を見合わせ少し寂しそうな顔をしていたのが印象的だった。
竜郎の眷属になった事でクー太はさらに上の強さを得て、それに自分は置いていかれるのだろうとプー子は悟り、ライバルとして少し上にずっといたプー子を自分は置いていくことになるのだろうとクー太は悟ったのかもしれない。
それからクー太は用は済んだとばかりに竜郎に目線だけで挨拶をし、プー子には振り返ることなく去っていった。
「なんか、ちょっと私まで寂しい気分になっちゃった」
ライバルと言う関係が終わる瞬間を見てしまったせいか、愛衣はどこかしんみりとしながら竜郎の肩にもたれ掛って来た。
それを竜郎は受け入れながら、優しく腰を抱き寄せる。
「魔卵から直接生み出した魔物じゃなくて、野生を自分の力で生きてきた魔物からしたら、受け入れられないと言う子もいるだろうな……」
「それが悪いって事は全然ないんだけどね」
自分の人生ならぬ魔物生だ。そこは強制するつもりもないし、断られたからと言って態度を変えるつもりもない。
クー太もプー子も等しく仲間なのだから。
少し暗くなってしまった2人だが、気持ちを切り替え次の領地管理者──ニョロ子の元へ。
ニョロ子は10メートル級大蛇のような見た目で、亜竜の亜種として産まれ地竜種になった特殊な個体でもある。
会うや否や竜郎に長い体を巻きつけて締め付けてくる──という愛情表現で熱烈に迎え入れてくれた。
そしてそのままの状態で眷属化について聞いていくと、一瞬も考えることなくOKの変事が返ってきた。
「やっぱり魔物によって性格が違うんだなぁ。まさかクー太以上にあっけらかんと受け入れられるとは……」
「あははっ。でもたつろーの事がすっごく好きみたいだし、私はこの子は眷属になるだろーなぁって思ってたよ」
「……奇遇だな。俺も実はそう思ってた」
「お揃いだね!」
「シーーー!」
「ああ、すまんすまん」
自分をほったらかして他の子と話さないで!とでも言うように、竜郎を締め付ける力がやや強くなる。
それに苦笑しながら、野太い丸太のような胴体をタップした。
それからニョロ子が満足いくまでかまってあげ、ようやく解放されたら次は目玉の親父一家の元へと急ぐ。
この家族は頭がなく、腹の部分に大きな一つ目を持つ巨人の一家。
かなり良好な関係を築けているのでいけるだろうと踏んでいたのだが、こちらは父と母には断られてしまった。
かわりに新世代である姉のマル子と竜郎が孵化させた個体でもある弟マル太は、了承してくれた。
「えっと、目玉の親父とお袋はそれでいいのか?」
魔物の眷属化に親の許可がいるかどうかはさておき、この2人が反対するのならやめようと考えたが故の竜郎の問いかけ。
自分たちは断ったのだから、当然子供たちの眷属化も反対するだろうと思いきや──何故かそちらは『本人たちがいいなら別にかまわない』というドライな感情が伝わってきた。
家族仲も非常によく、娘と息子を溺愛している事は知っていただけに竜郎は困惑するも、それで別に離れ離れになるわけではないと竜郎が事前に言っておいたのが効いたらしい。
自分たちは歳を重ねすぎたせいか魂を明け渡すなどという行為に忌避感があるが、若く柔軟な子供たちがそちらがいいと望むのなら、この子達にとってそれがいいとも考えたようだ。
そうして竜郎は子供たち2人だけを眷属化して、なんだか不思議な考え方だなあと思いながら、日が暮れる前に終わらせるべく次の管理者の元へと急ぐのであった。
ここでお知らせを。
以前、第十章のあとがきで書いていたのですが、10月の3~6日は完全に執筆活動が出来ない状態になります。
また少しその辺りのスケージュールが自分でも正確に把握できない状況でもあります。
なので正確に何日に投稿──という判断が付け辛いです。
今考えている一番予定通りに上手く進んだ場合としましては、10月の1、2、3日に投稿。
4、5、6、7日休みから、8日再開から7日投稿で休み分を取り戻して、10日から通常運行に戻る──という予定です。
ですが私自身ちょっと判断が難しい状況ですので、最悪の場合10日まで投稿が出来ないかもしれませんし、その期間内にイレギュラーな投稿があるかもしれません。
10月10日(水)までは、やや不規則な状況になると思いますので、ご了承いただければ幸いです。




