第578話 眷属化推進活動中
「やっぱり、まずは魔王種候補たちから眷属化を進めていきたいな」
「眷属化した上で魔王種になって貰えば、危険もないし純粋に強力な戦力が増強されるからね」
先ほどシュベ太と清子さんは眷属化が終わったので、現在竜郎の元にいる魔王種で未だに眷属化されていないのは闇の精神体──黒田、光の精神体──光田、カバそっくりな──ヒポ子、吸血鬼の──千子、人狼の──ウル太、回復などの支援特化の──ウサ子。
またそこから少し派生して半神種は、シロクマに似た──白太、大天使王──エンター、大悪魔女王──亜子が存在する。
これらの魔物達は特に強力な種なので、是非仲間として連れていきたいところである。
などということを愛衣と話し合っていると、豆太に乗った彩人と彩花が近くまでやって来た。
「「たつにぃ、何してるのー?」」
「キャンキャン!」
「んー今は眷属化する魔物について愛衣と話していたんだよ」
「「眷属化?」」
「キャンキャン!」
彩人と彩花は厳密には同じ存在なのだが、まるで双子のように一緒に首を傾げ、豆太は話は聞いちゃあいないが相変わらず可愛く元気だ。
そんな無邪気な2人?と1匹に、今話していた事を聞かせてみた。
すると──。
「「ねーねー。豆太もやってー」」
「え? 豆太をか?」
「「お揃いにするのー」」
「キャンキャン」
豆太は眷属ではなく従魔であり、彩人と彩花は竜郎の眷属である。
なので豆太を眷属にすることで自分たちと『お揃い』にしたいと言う事だろう。
「豆太はそれでいいのか?」
「キャウ~~ン? キャンキャン!!」
「何にも解って無さそうだねぇ。でも元気があって大変よろしー!」
「「よろしーー!」」
「キャン、キャゥ~~ン!」
「眷属? 何それおいしいの? 食べものなら欲しいよ!」と言った感情が伝わってくるあたり、言葉を尽くして語って聞かせても正確に理解してくれそうにない。
だが野生とは程遠い甘やかされ放題の豆太。従魔と言う関係よりも、眷属となったほうが案外幸せなのかもしれない。
「それじゃあ、やってみるか」
「「やったー!」」
豆太の眷属化をするべく天照の杖を持って解析していく。
今までの超が付くほど複雑な固有属性構成の数々が嘘のように、実にシンプルな構成で纏まっていた。
元となった魔卵が等級2だったのだから、それも致し方ない事なのだが。
けれどしっかりと、ほんの少しだけ入っている神力の欠片もあった。
(これだけシンプルだと、神力を弄ってみてもいいかもしれないな)
(────)
天照の演算結果も、これなら失敗する事も無いと太鼓判を押してくれた。
いずれ蒼太たちに何らかの処置を施すのなら、ここで感覚をつかんでおくのもいいかもしれない。
ということでやってみることにした。
構成量が少ない分、非常にやりやすい。特に困ることなく順調に変質しバラバラに散っている神力を集め繋げ血管のように薄く属性構成に広げていく。
すると豆太の体が光り始める。「大丈夫?」といった視線が竜郎に集まってくるが、それに大丈夫だと頷き返す。
そうしている間にも豆太の輝きは増していき……竜郎の作業が終わると同時にそれも収まった。
「う~~ん。毛並が良くなった?」
「「ちょっとおっきくなった気もする~!」」
「確かに……。それ以外は大した変化は見られないな。
だが前より生まれる時に混ぜた神力が体に馴染んでるはずだ。
豆太はどうだ? 変な所とかあったりするか?」
「キャンキャン!」
特になく、調子もいいようだ。眷属としての繋がりもしっかりとあるし、失敗もしていない。
そこで改めて解魔法で豆太の変化を細かく調べてみることにした。
「おっ、前より軒並み数値が増加してるな。
以前は相性が良ければ等級4の魔物に勝てるか──って所だったが、今なら等級4程度の魔物なら対等に渡り合えると思う」
「元が等級2の狼ちゃんだったことを考えると、大分出世したねぇ。
でも半神種とかではないんだよね?」
「ああ、違う。そもそも半神に至れるほどの神力は注いでいないからな。土台が違うから無理な話さ」
けれど裏を返せば、土台さえしっかりとあれば、この方法で半神系ではない存在も半神へと押し上げられると言う事でもある。
そこで竜郎は少しだけ大きくなった豆太に抱きつき、そのモフモフを堪能している彩人と彩花に視線を送る。
この2人ならば、それが可能なのではないだろうかと。
何せ素材は当時最高の物を使っていたし、創造の際に結構な神力も消費した。
それを考えれば、この子達の中には半神格者へと至る種子が眠っている可能性が高い。
「ちょっといいか。彩人、彩花」
「「なあに?」」
「2人を──というか、彩を調べさせてほしいんだが」
「いーよー」
竜郎のお願いに対し速やかに1人の状態に戻ると、黒髪で中性的な翼の無い少年──彩になってくれた。
半分の状態ではステータスも半分になってしまうので、半神の種子を探すのならこちらの方がいいはずだ。
そう思いながら竜郎は彩を《侵食の理》で解析していき、その固有属性構成を調べていった。
するとやはり、けっこうな量の神力の属性構成が内包されている事が判明した。
けれどそれでも半神格者でないのは、おそらく元となっている存在が半神に至れるような存在ではなかったために、ただ内包されているだけに留められたのだろう。
けれど竜郎の《侵食の理》をもってすれば、その種子がちゃんと体の中に眠っているのなら侵食し変質させて半神格者の形にすることも出来るはず。
(だが念のため、他の半神格者たちのデータを集めて、それを参考にしながらやった方がいいだろうな)
豆太と違って彩は固有属性構成量も多いし複雑だ。今すぐにいじるのはややリスクが高い。
なので蒼太の時同様、また後回しにすることに決めた。
(なんだかどんどんやる事が増えていってる気がするが……、それでもやれることがあるのならやっておいた方がいいか)
今もリアは頑張って竜郎たちの装備品や眷属たちの装備品にも着手し始めてくれている。
妹が頑張っているのに、兄の自分が怠けるわけにもいかない。
竜郎は気合を入れて頭の中の予定表に彩の事も追加しておいた。
「もーいいの?」
「ああ、ありがとな。また今度頼むかもしれないから、その時もよろしくな」
「解ったー。それじゃあ、豆太とお散歩してきていい?」
「ああ、いいぞ」
竜郎がワシワシと頭を撫でると少し嬉しそうにはにかんでから、また彩人と彩花に分裂して眷属化した豆太に乗って去っていった。
「それじゃあ、お次は今度こそ魔王種ちゃん達の眷属化だね」
「ああ。パワーレベリングにも早い所入っていきたいし、ここからは巻きで行こう」
まず呼びだしたのは光田。黒田は今はパートナーとなった悪魔吸血鬼──ガウェインと共にダンジョンに潜っているはずなので後回しだ。
面と向かって眷属化について丁寧に説明していき、了承も得ることが出来た。
そうして光田から始まり、ヒポ子、千子、ウル太、ウサ子。と順番に個人面談の様な事をして、それぞれの意見を聞いたうえで全員から了承を得ることが出来た。
これで魔王種組は黒田以外は全員、眷属化に成功した。
続いて半神種の魔物達も面談し、白太、エンター、亜子ら3体全員スムーズに事が進み眷属化を済ませることが出来た。
それと同時に魔王種候補と半神種と言う存在の、貴重な固有属性構成のデータも取れたので竜郎的には大満足の結果である。
「実際に魔王種候補とか半神種とか、調べてみて何か違った?」
「そうだな。今回得られた情報から解ったのは──」
魔王種候補たちには総じて似通った構成部分があり、それが魔王種という存在へ至れる構成なのだろうと言う事が判明した。
半神種たちにも同じように、半神種としての似通った部分があったと言う事も。
また卵の段階では魔王科に属していた半神種──エンターと亜子。
この2体には魔王種候補としての構成部分もあるのではと少し期待していたが、残念ながら存在しなかった。
というか、その構成部分が収まっている場所が同じ場所にあり、2つ同時に収めるとその存在としての範囲に収まりきらず、結果ただ崩壊させるだけという最悪の結果を生みだすと天照の新型魔力頭脳による演算結果が出てしまった。
それは恐らく、魔王種化した後でもそうなるのであろう。
このことから、魔王種と半神種というのは、同一個体に同時に存在する事はないと解った。
なので千子、ウル太はやりようによっては半神種にかなり近づくか、もしくは至ることが出来そうではある個体ではあったが、もし半神種に至ってしまった場合、その2体はレベル300での魔王種化という、もう一段階の進化が出来なくなるようだ。
どちらが強いかと言えば半神種に軍配が上がる所ではあるが、半神種は魔王種候補の時の強化体。
魔王種化する事で得られたはずの強力なスキルなんかが覚えられないと言うデメリットもありそうなので、どちらがいいとは決めづらい所である。
「半神魔王種! なんてゆーぼくのかんがえたさいきょーのまもの──的なのは出来ないって訳だね」
「だがどちらも強い事に変わりはないだろうし、魔王種にあう神力の属性構成の当てはめ方ってのもあるかもしれない。
だから半神よりの魔王種だとか、魔王種よりの半神種──なんてのなら出来るかもしれないぞ」
「そっちに期待だね。それじゃあ、最後にガウェイン君とこにいる黒田に会いにいこっか。そろそろダンジョンから出てきそーな頃合いだし」
そう話がまとまった所で、ダンジョンの入り口がある場所まで歩いていく二人。
するとそちらの方から戦闘音が耳に入ってくる。
だが竜郎と愛衣は特に警戒した様子も無く、そちらに目を向けると、ルナによって一時的に召喚された植物の魔物達相手にランスロットが必死で応戦していた。
「まだまだルナの守りは抜けそうにないな。
まあ、ほぼ無尽蔵にあるエネルギーを使って、無限にバリアやら魔物やらを出してくるんだから、かなり無理っぽいが」
「でもほぼ毎日一回はチャレンジしてるよね。
すっごく頑張り屋さん、尊敬しちゃうよほんと」
「そうだな。それに抜けないからと言って、無駄になっているわけでもない」
ランスロットは多種多様な植物の魔物を呼び出せるルナに対し、鍛錬を願い出た所からこの習慣は始まった。
ルナもランスロットの真っすぐな心意気が気に入ったようで、毎回ちゃんと相手をしてあげている。
そして毎回ルナに近づくことも出来ずに終わるのだが、その度に経験を積んでレベルやスキルだけでは強くなれない部分を鍛えていた。
ルナもそれが解っているので、毎回手を変え品を変え相手をし、ランスロットの経験をより豊かにしようと考えてくれているようだ。
「──ぐあっ!?」
竜郎と愛衣が遠目にランスロットの奮闘ぶりを眺めていると、目の前の木の魔物を3体いっぺんに倒した瞬間、突如横から飛んできた草の魔物の鞭のような攻撃に吹き飛ばされる姿が目に入った。
「………………だいじょーぶ?」
「うむ! このくらい、へっちゃらだ!」
「……なら……良かった。でも……倒したからって……油断しちゃ……だめ」
「ぐぅ……我もまだまだ未熟であるな。だが次はもう今の失敗はせぬぞ!」
「……うん。……頑張って」
だが痛がる様子も無く、今の戦闘をもう一度頭の中で反芻し、どうすれば良かったのかを考え始めていた。
その向上心の高さに愛衣が先ほど言っていた様、竜郎も頭が下がる思いだった。
──と。そんな風に邪魔にならないよう2人が見ていると、ダンジョン入り口から黒田という漆黒の外套を身にまとったロン毛のドレッドヘアの大男が出てきた。
竜郎達が探していた人物、ガウェインである。
満ちたりた表情をしているあたり、大分ダンジョン内で暴れてこれたのであろう。
「よお、ランスロット。やってんな」
「む。ガウェインか。また負けてしまったよ」
「だが前の自分より強くなってんだろ? また今度、模擬戦を頼むぜ。
当然、次は俺が勝たせてもらうがな! ふはは!」
「ほう……言ってくれるではないか。今のところ黒田の助力が無ければ我が優勢。
さらに我は日々、成長しているのだぞ。それなのに乱暴な戦闘しかできないお前が勝てるとでも?」
「ああん? 俺だって毎日成長してんだよ。次こそ目にもの見せてやるぜ!」
「望むところだ!」
繊細な技術の上で成り立つ美しい戦い方をするランスロット。
豪快で全て力で押し通そうとする雑な戦い方をするガウェイン。
どちらも一長一短な所はあれど、今のところ力を柳のように綺麗に押し流すランスロットにガウェインは勝てない様だ。
実戦ではいつも黒田がフォローしてくれているので、ついつい技術をおろそかにしてしまうのが原因かもしれない。
だがランスロットも戦いの中で考えすぎて、逆に悪手になると言う事がある。
なのでお互いに考えさせられる事があるのだろう。口喧嘩している様でも、互いに認め合い切磋琢磨し合っている関係でもあるのだ。
なので普段はこのまま放っておく所なのだが……。
「んじゃあ、今すぐやろーじゃねぇか!」
「よかろう。後悔するでな──」
「ちょっと待った!」
「ぬ」「ああん?」
水を差されたような顔で見られてしまったが、このままでは黒田の眷属化が遠のいてしまう。
竜郎は急いで今にも戦闘を始めそうな2人に、事のあらましを説明していくのであった。




