第575話 奈々城
幼城──もとい、奈々城を作るべく、レベリングの為の訓練場とは別の空間を拡張していく。
「奈々はどんなところに自分のお城が有ったらいいと思う?」
「うーん……そうですの~………………──空飛ぶお城とかカッコいいですの!」
「まさかのラピュ○!?」
しかも城と言っているが厳密には奈々の姿を模した居住空間。
はたしてそれはかっこいいのだろうかと、竜郎は心の中でツッコミを入れてしまう。
だが愛衣も「いいねー!」などと言い始め、他の面々も興味深げに見てみたいと賛同したので空飛ぶ幼城?で決まりの様だ。
「でも本当に空飛ぶナナ城なんて出来るんですかね、兄さん」
「さあなあ。けど理論上──いや、厳密な理論を説明しろと言われても困るが……、とにかく《創造主・急》の称号効果による自己世界の創造は、物理法則も無視できたはずだから、創造時の消費エネルギーさえ考えなければいけるだろ」
「楽しみです。見たことの無い物と言うのは、何か私の発想の刺激になってくれるかもしれませんし」
リアもナナと同じようにニコニコしていて、心から楽しみしてくれているようだ。
愛衣も同じように盛り上がっている様子でもある。竜郎は期待に応えるべく、これは気合を入れなければと改めて気を引き締め直した。
それから各々でどんな城で、どんな世界観にするのか細かいところをつめていき、完成予想図をリアが頭に思い描いたモノを紙にして出してくれる魔道具で作ってくれた。
「こんなんでどうでしょう」
「ああ、それでいいと思う。これなら作れるだろうしな。
他の皆はどう思う? 反対が無いなら、この絵の案でいこうと思っているんだが」
「私はこれでいーと思うよ!」
愛衣を筆頭にカルディナ達やレーラ、イシュタルも異存はないようだ。
と言う事で竜郎は、さっそくこの空間の隣にもう一つの空間を押し広げるようなイメージで、《強化改造牧場・改》を発動させていく。
そして十分な広さが確保できたところで、何もない無の世界にリアの完成予想図通りの世界が構築されていく。
「ふぅ……。これで何とか出来たはず──ととっ」
「大丈夫? たつろー」
かなり現実離れした世界を一気に構築したせいで、思いのほか竜郎の保有魔力や竜力、神力に至るまで吸い取られていき、ふらついた所を愛衣が優しく抱きとめてくれた。
そんな今の彼女の顔は少し心配そうである。竜郎は愛衣に密着したことで一気に回復していく感覚に気持ちよさ気に浸りながらも、優しく大丈夫と微笑みかけた。
「予想以上に一辺に減ったものだから体が吃驚したんでしょうね。
新しい空間は気になるけれど、少し休んでから行ったほうがいいわ」
「それがいいですの。おとーさま、少し休むですの」
「ああ、ありがとう。奈々」
一番楽しみにしているであろう奈々がそう言ってくれるのが嬉しくて、竜郎は目を細めて小さな彼女の頭を撫でた。
それから約10分後──。
「よし。大分回復した。それじゃあ、幼城──じゃなくて、奈々城のお披露目に出発だ」
「レッツゴーですのー!」
キラキラとした目で片腕あげて叫ぶ奈々に皆が優しい笑みを浮かべながら、隣の空間へと行く為のかまぼこ型の入り口を開き、全員で仲良くそこを潜った。
ちなみにフレイヤは自分のログハウスを見ておく必要があるから、またの機会にと言い、お気に入りとなった枕を抱きしめそちらへ行ってしまった。
潜った瞬間。まず最初に襲ってきたのは、高い所から落ちる様な浮遊感。
つまり、行った先には地面が無く下に向かって自由落下を始めたのだ。
だが竜郎たちは自分たちで飛ぶ手段があるにもかかわらず、何もしないで落ちていく。
すると、遠くから白い2メートルほどの幅を持つ雲が複数ヒューンと飛んでやってくる。
そして竜郎たちの下にさっと雲たちが回り込むと、ぽふんと全員の体を優しく受け止め斜め上に上昇を始める。
自分たちで飛んだ方が速いのだが、初めと言う事も有りそのまま身を任せて進んでいく。
「おー! こんなのもちゃんと出来てるんだねー。
雲の上に乗るとかドラ○モンの世界みたい!」
「それも『あにめ』とか言うやつなんだよな、アイ」
「そーだよ、イシュタルちゃん。日本に帰れるようになったら、色んなアニメのDVDを買ってきてあげるよ。
モニターとデッキさえあれば、電源はリアちゃんの方で何とかしてくれるみたいだし」
「それは楽しみだ! ありがとう、アイ」
「いーってことよっ」
愛衣が男前にイシュタルへと返事をしていると、竜郎達を乗せた雲たちが向かっている方向に巨大な物体が見えてきた。
「わたくしのお城ですの! かっちょいーですのー!」
「ピィューー!」「ヒヒーーン!」「良かったっすね! 奈々姉」「「────!」」
奈々の姉妹たちも、そのリアルな巨像に絶賛しながら目を大きく見開いた。
もちろん竜郎や愛衣たちも、リアの作った完成予想図では見ていたものの、それが実物大で実際に目の前にあるとなると、驚きを隠す事は出来なかった。
それは幼女形態の奈々を細部までリアルに再現した、500メートルクラスの巨像。
しかもこちらは竜水晶製ではなく、塗装も完璧にほどこされたフィギュアのような幼城──ではなく奈々城だ。
大人バージョンの奈々にしようかという案も出たのだが、本人的には普段の姿で再現してほしいとの事だったので、その意見を尊重した結果でもある。
ポージングとしては足は肩幅に開き、かっこよく武器である双牙を逆手に持って体の前で腕をクロスさせ、不敵に笑う《成体化》──幼女形態の奈々。
それは実物の奈々をそのまま拡大したような精巧さで、3D映像を空中に映していると言われても信じてしまいそうなほどである。
──けれど、少し幼女の時の奈々と違う点もある。それは背中の翼だ。
今の奈々も《神体化》出来るようになった事で存在の格も上がり、《成体化》状態の幼女姿でも小さな漆黒の翼がピョコンと背中に生えている。
けれど目の前で宙に浮かぶ巨大奈々の背には、大人の時に生えているような立派な黒翼が一対生え、それだけが動き羽ばたいて城自体が空を飛んでいるように見せていた。
「このカッコいい風ナナ城以外にも種類が有るのよね?」
「ですね。確か……この空間から全員いなくなって、次に入ると変わるって感じでしたっけ?」
「そう言う風に作った空間だから、そうなっているはずだ。
俺も初めてだし実際に見てみないと確証は持てないが」
そう。実はこの奈々城。竜郎達がこの空間に入り直すたびに、ランダムで奈々城のポージングが変化するような無駄ギミックが施されている。
それはお城のポージングを1種に絞れずに出した、苦肉の策でもあった。
またそれなら巨大ロボのように動かせたら──という案も出てきたが、そこまでやると今の竜郎のエネルギー保有量でも足りるか微妙になって来るので諦めた。
ちなみにその他のポージングとしては、奈々の杖の役割をしてくれているキングカエル君を抱きしめている可愛い系。
手を組んで祈りをささげる神聖系。寝転がりながら飛んでいるダラダラ系。
両手を胸の前に組んで仁王立ちする凛々しい系。両手を上にバンザイして満面の笑みを浮かべる、やったね系──などなど、他にも可愛いポーズや戦闘中の一場面を切り取ったかのような勇ましいポーズも多種類用意されている。
まさに物理法則まで無視できるからこそ出来る芸当だろう。
雲に運ばれながら更に近づいていくと、細部も良く見えるようになってくる。
顔の近くまで雲に乗ってやってくると、肌の質感まで実にリアルに再現してあるのが良く解り、まるで巨大な奈々がもう一人ここで生きているかのようだった。
「凄い迫力っすね~。今にも動き出しそうっす」
「翼以外は動かないけどな」
また奈々城以外の風景はと言えば、上は青空が広がり、外の時間とリンクして昼と夜を繰り返す。
下を見下ろせば奈々城の50メートルほど真下に今、竜郎達が乗っているような触れる雲で出来た大きな雲島が浮かんでいる。
この雲島は千切って自分の好きなサイズにして乗り回す事も出来れば、粘土のように好きに形を変えて遊ぶこともできるし、魔力や気力を流せば形を固定する事も出来るので雲のお家なんかを作る事も可能。
さらに下はフワフワした柔らか素材なので、どんなに弱い存在が転んでも怪我をしないようになっている。
雲島を抜けた先の下はと言えば、遠目に陸地や海の風景がゆっくりと流れている。
ただしこれは奈々城や雲島が動いているわけでもなければ、一番下に地面があるわけでもない。
ただの雰囲気づくりの一環としてリアルな映像が流れているだけにすぎず、雲島から落下して一番下まで落ちると強制的に雲島に戻るよう世界を設定した。
遥か下に広大な地面も作れないことは無いだろうが、そこまで作りこむとこれまた竜郎のエネルギーが持たないので映像とした。
続いて気温。見た感じかなり高い場所にあるように見えるし、実際にこの標高にあればかなり寒いのだろうが、ここは作られた空間であり竜郎の好きに創造できる場所だ。
いつでも春の麗らかな空気と風が流れる快適な設定になっている。
「え~と、それで中に入るには~~~ここであってる? たつろー」
「ああ、おでこの真ん中あたりだ」
意外と物議を醸したのは、入り口の位置。
竜郎なんかは口から入ればいいんじゃないの? と思っていたが、それはなんか嫌だと皆から反対された。
他にもおへそやら鼻の穴、目が外れてそこから──なんてものも提案したが、そのどれもが却下されてしまう。
なまじ人型の、それも可愛らしい女の子の形をした城を作ってしまったものだから、いろいろと女性陣に取っては難しい所の様だ。
かといって腕や足に扉を付けてしまうと、せっかくここまで精巧に作ったのにもったいない気がする。
そこで最終的に入り口は作らず、おでこの中心に触ると中に転移される仕組みを作った。
さらにそこから細かく分岐もしており、奈々城の中の○○へ行きたいと具体的な場所を思い浮かべながら触ると、そこへ転移するようになっている。
ただし個人の部屋は中ではなく、その部屋の目の前に飛ぶだけだが。
また何も思い浮かべなければ、人間でいう頭──脳のある玄関ホールに飛ばされる仕組みだ。
さっそく愛衣が率先して何も考えずに、奈々城のおでこを撫でるように右手で触れる。
すると愛衣と手を繋いでいた竜郎も一緒に、一瞬にして消え去った。
それを見た他のメンバーたちも、おでこに触れて中へと入っていった。
「景色がいいわね~」
おでこから飛ばされた先はデフォルト設定されている奈々城の頭の中。レーラが思わず感嘆の声を上げるほどに、そこの景色は壮観だった。
この奈々城は、外から中は見えないが、中からはマジックミラーのように鮮明に外が透けて見えるようになっている。
なので外側に面している部分からは広く広がる空の風景を、視界いっぱいに収めることが出来るのだ。
かなり広い頭に当たる場所にある玄関ホールから首の方へと歩いていくと、ポールの先に水晶玉がくっ付いたようなワープポイントがある。
これと同じものが各所に設置されており、外に出たり各部屋の前に行けたりする。
さらに人間でいう骨の部分に無重力空間の通路が通っていて、転移での移動でなくても奈々城の隅から隅まで移動が可能。
試しに首の骨に当たる辺りから背骨を通り、腰骨から足骨を通って足先の空間にまでいってみた。
中は無重力空間なので軽く進行方向に力を加えるだけでスイスイ移動できた。
そうして足先の親指に当たる部分にやってくると、そこにあるワープポイントから外の雲島の上に出た。
すると直ぐにフワフワとした感触が足元に伝わってきた。
その感触に思わず頬を緩めながら、イシュタルの脳裏に一人の人物の顔が思い浮かぶ。
「ここに寝転がったら気持ちよさそうだ。フレイヤなんかが来たら、真っ先にやるんじゃないか?」
「あははっ、間違いないね。雲をいじって、ごろ寝スペースとか作っちゃいそう」
イシュタルや愛衣にそんな噂をされて、一つ空間を隔てた向こう側でフレイヤはベッドで寝ながら、くしゃみを一つした。
そんな事とは露知らず、竜郎は赤みが差してきた空に気が付いた。
「っと、もうそろそろ日が暮れるな。フレイヤを回収して夕飯を食べに戻ろう。
そこで他の眷属たちにもフレイヤを紹介しておかなきゃいけないし」
「まだ眷属化云々も知らない子もいるしね。それに──あう……」
竜郎が夕飯の話をしたからか、愛衣のお腹がタイミングを見謀らったかのように、ぐぅと可愛らしく空腹を訴えかけてくる。
愛衣は少し恥ずかしそうにお腹を押さえ「てへへ」と笑い、それに竜郎は可愛いなあと彼女を抱きしめた。
「ふふっ。お腹もすきましたしね。今日はこの位にして、帰ったらごちそうでも作りましょうか」
「やった!」
「それでは名残惜しいですが、ひとまず帰るですの!」
「だな。その前に訓練場に寄ってくる必要はあるが」
「今頃ぐっすり寝ちゃってそうっすね~」
「まあ、眷属化して直ぐにレベル1000まで上げさせられたんだし、思っている以上に精神的疲労もあったでしょうから仕方がないでしょう」
レーラがそう締めくくり、竜郎たちはフレイヤを回収してからカルディナ城へと戻っていくのであった。




