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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編
575/634

第572話 フレイヤ

 眷属たちは一部ジャンヌ城の方に残り、基本メンバーは全員カルディナ城のある領地までゾロゾロ戻ってきた。

 そして周囲には野生の魔物くらいしかいない開けた砂浜までやってくると、竜郎はさっそくフレイヤを《強化改造牧場》から呼び出した。


 すると優雅に竜郎に微笑みかけて、出会った時のようにスカートの端を抓んでお辞儀してくれた。

 それに返事を返しながら、竜郎はこれからすることを一応、彼女にも伝えておくことにした。



「あー……説明しても解らないかもしれないが、今からフレイヤ。君を俺の眷属にする」

「──」



 言葉とテイム契約のパスを通してのイメージ伝達の両方で伝えてみると、ちゃんと理解できたのか笑顔で頷いてくれた。

 そして帰ってきた感情は早くやってくれと急かすようなものまで混じっていた。



「ほんとに解って────いるみたいだな」



 何だかあまりにもあっさりと受け入れるものだから、強制だけれど理解はして欲しいと言う竜郎の自己満足の為にもう一度説明しようとすると、今度は両手を広げて「さあどうぞ!」と言わんばかりに受け入れ態勢を取ってしまった。



「この子、普通の魔物よりずっと頭いーみたいだし、自分でもそうすることが自分にとっていいことだと解ってるんじゃないかな」

「その可能性は高いな。というか、そこまでの知性があるならシステムがインストールされてもおかしくない様な気がするんだが……」



 どこか腑に落ちない気持ちを抱きながらも小型ライフル杖を手に持ち、天照に《神出力体》を発動して貰い、最高の状態で《侵食の理》を発動させた。


 フレイヤは危険な存在だと言う事もあって扱いを保留にしていたせいで、《強化改造牧場》内でのトレーニングはさせていなかった。

 なので今もまだレベル1──なのだが、それにしては固有属性構成量が膨大で竜郎は驚かされる。



(これがその辺のイモムーだったら魔力頭脳無しでも一瞬で終わりそうなんだが、やはり最高位の魔物ともなるとレベル1でも凄いんだな)



 何と言っても等級10の魔物であり、さらに竜郎によって生まれる前に強化された存在でもある。

 なのでレベル1でも、なかなかにボリューミーな構成量なのは仕方がない事だろう。


 結局、警戒していたのが馬鹿みたいに思えるほど大人しく受け入れられ、少し想定以上に時間がかかったが問題なく最初の工程は終了。

 フレイヤの固有属性構成が手に入った。


 そこで竜郎は今後の為にもと、その固有属性構成を色々と調べたり、天照の時との違いなども魔力頭脳の演算力を使いながら比べてみた。

 するとそこから、かなり密なデータが取得できた。


 中でも厳密には同じではないが、構成配列パターンが似通った部分があり、それこそが神格に関わる部分なのだと解ったり、スキル構成や元々の魂が持っているポテンシャルなどに当たる部分は非常に興味深い物だった。


 そしてその中から、もう一つ気になる事も見つけた。

 それは恐らく知能に関わる固有属性構成部分。


 なんと、この魔物の知能指数とでも言えばいいのか、とにかくそう言った部分が天照や月読とほぼ変わらないと発覚した。

 そこから導かれる答えはただ一つ。

 このフレイヤという存在は、どうやってかは知らないが知的生物にはシステムをインストールするという世界のルールをあざむいて、魔物のフリをしているだけの人間・・だったのだ。



「お前……」

「──」



 竜郎が気付いたことに気付いたようだが、「ばれちゃいましたか?」とでも言うように茶目っ気たっぷりに笑いかけてきた。

 そこに悪意は無く、何故か結ぶことも出来ているテイム契約のパスからも悪い感情は伝わってこなかった。



(後で話を聞かせて貰うからな)



 竜郎がそう伝えると、フレイヤは微笑みながらコクリと素直に頷いた。

 それに毒気を抜かれ苦笑してしまいながらも、竜郎はさっそく眷属化を施していく。

 相手も眷属化の意味を人間としてちゃんと理解した上で受け入れたというのは把握できたので、こちらも遠慮はしないと一気にそれを推し進めていく。


 固有属性構成で魂を形作る部分。そのさらに中枢部分。

 そこを完全に竜郎の眷属の形に変質させてしまえば良いだけだ。

 それも《理の理解者》の称号効果なのか、漠然と理解することが出来た。


 なのでその理解したイメージを新型の魔力頭脳に渡していき、そこにある魂の根幹を司る固有属性構成の配列パターンを侵食し変質させていく。

 その作業にだけ竜郎は集中していくと、最後の構成を変質終わった瞬間、胸の辺りがほんの少し温かくなり、もう一つの繋がりが自分の魂に生まれたのを実感できた。



(意識しながら眷属にすると、こういうのもハッキリと感じ取ることが出来るのか)



 そんな益体やくたいも無い事を考えながら、フレイヤへの《侵食の理》の行使を打ち切った。

 当の本人は満足そうに微笑みながら、手をグーパーしたり肩を回してみたり、体に不調はないか確かめている様子。



「それでフレイヤ。お前は人間だったんだな。なんでそれを隠していたんだ?」

「…………隠すと言うよりも自己防衛ですわ、ご主人様」



 竜郎の言葉に中性的というよりは、やや高めの女性の声でフレイヤが流暢なイルファン大陸語で返事をしてきた。



「のわぁ!? 喋ったよ! たつろーが何かやったの?」

「いいや、なんか最初から人間だったみたいだぞ」



 その言葉に全員がギョッとしながらフレイヤに視線を向けた。



わたくしが生まれた瞬間に、何かわたくしにとって良くないと思える強い存在の気配を感じましたの。

 だからこれは不味いと思い、自分が知性の無い存在であることを装う事にしましたの」

「いやいや、装うと言ってもシステムは自動的に万人に差別なくインストールされるものなのよ?

 いったい何をしたらそんな事が出来ると言うのかしら」

「それは《崩壊の理》ですわ、レーラさん。

 あらゆる生物に反応する得体のしれない力が、何かをわたくしに入れようとするものですから、それで弾いてしまいましたの。

 どうやらそのおかげで知性が無いと言う証明になったようなので、結果的には好都合でしたわ」

「流石はタツロウと同じことわり持ちだな。非常識を普通にやってみせるじゃないか」

「お褒めに預かり光栄ですわ。竜のおうイシュタル陛下」

「そんな事まで知っているのか。というか魔卵からでも、俺からの情報を受け取れると言う事か?」

「ええ。なので言葉と人間関係を最優先で求めましたの。

 我が身を守るにはどうするのが最適か、それはご主人様方の言葉や関係性が解らないと判断が付かない事もあるでしょうし」

「なるほどですの。それに確かに最初からシステムがインストールされた人間では、テイム契約のように縛る物が契約魔法位しかないですから、今よりももっと警戒されていた可能性はありますの」



 奈々がそう言うように、テイム契約よりも契約魔法の方が神達は拘束が足りないと判断したことだろう。

 というのも魔物相手にしか使えないテイム契約はその分束縛力も高く、さらに竜郎のスキル《強化改造牧場》内にいる限り常に契約更新し続けている様な状態なので、2重の意味で非常に強力な拘束力を持っていた。


 だが相手に知性があり、縛るものが契約魔法だけの場合。

 常に契約更新などしていれば、竜郎がそちらに拘束されてしまうので実質不可能。

 さらに知性があるが故に、器用に竜郎にばれないよう少しずつ綻びを《崩壊の理》で作りだすという可能性も無いわけではない。


 なのでもし生まれた時点でシステムがインストールされていた場合、何らかの解決策が見つかるまで今よりももっと警戒され厳重に監視、もしくは監禁されていた可能性もあったのだ。


 それを考えれば竜郎の《強化改造牧場》の中でのんびりと自分の住みやすい環境で、食べる物にも困らず暮らせる広い場所での生活ができる魔物状態の方が、フレイヤ側からみれば正解を掴み取ったと言ってもいいだろう。



「というかテイム契約ってけっこー雑なんすね。システムさえインストールされてなきゃ、人間相手にも簡単にかけられちゃうわけっすから」

「まあ、そのおかげでわたくしは悠々自適に暮らせてましたから、文句はないですわ」



 そう言ってフレイヤは話を締めくくった。


 もう竜郎の眷属として生まれ変わった以上、どう頑張っても世界を害そうなどとは思えないのだから神達も安心だ。

 自分を見ていた神達の視線の気配も無くなり、フレイヤは肩の荷が下りたとばかりに力を抜いてリラックスした表情を取る。

 その力の抜き具合に、どうりで早く眷属化してくれとばかりにアピールしてきたわけだと竜郎は思った。


 そしてさらにフレイヤは、もう大丈夫だろうと《強化改造牧場》内では無かったのだが、外に出てから数分おきにやってくる世界からの知性の判別を弾くのを止め、それを受け入れていった。



「システムのインストールが終わったようですの」

「みせて貰っても構わないか?」

「ええ。もちろんですわ。ご主人様」



 竜郎達のパーティに入って貰い、そのステータスをこの場にいる全員で確かめていくと、以下のような構成になっていた。



 --------------------------------

 名前:フレイヤ

 クラス:----

 レベル:1


 気力:1050

 魔力:1050

 神力:1000


 筋力:1010

 耐久力:1010

 速力:1005

 魔法力:1010

 魔法抵抗力:1010

 魔法制御力:1005


 ◆取得スキル◆

 《崩壊の理》《縛封鎖蛇》

 《魔力護体》《自癒他絶》

 《天駆》《極感知》《聖弓》《邪槍》

 《天降無限魔槍》《地這魔刃》

 《体値上昇領域》《魔値上昇領域》

 《体値下降領域》《魔値下降領域》

 《生者治癒 Lv.1》《生者病傷 Lv.1》

 《槍術 Lv.1》《呪傷 Lv.1》

 《超吸精 Lv.1》《超与精 Lv.1》

 《ひっかく Lv.1》《魔硬爪 Lv.1》

 《爪襲撃 Lv.1》《魔力砲 Lv.1》

 《魔爆球 Lv.1》《魔力収束砲 Lv.1》

 《恐怖付与 Lv.1》《速力上昇 Lv.1》

 《超々速魔力回復 Lv.1》

 ◆システムスキル◆

 《アイテムボックス+4》《マップ機能+4》

 残存スキルポイント:3

 ◆称号◆

 《神格者》《理の理解者》

 --------------------------------




「えーと…………ずるくない?」

「俺が生まれる時にスキルを与えまくったからな!」

「威張る所なのか、そこは……」



 イシュタルにも呆れ顔をされる竜郎であったが、こうなってしまったのだからしょうがない。

 今更このレベル1にして大量にあるスキルを消す事も出来ないのだから、強力な眷属が加わったと開き直るのが吉であろう。


 それから大体名前で解りそうなスキルはスルーしていき、珍しそうなスキルに注目していく。


 まずは《極感知》。これは極限まで研ぎ澄まされた感知能力。これがあったからこそ、システムをインストールしようとする世界の意志を妨害することが出来たのだろう。


 《体値上昇領域》は気力、筋力、耐久力、速力を上昇させる領域を作ることが出来るスキルで、《魔値上昇領域》は魔力、魔法力、魔法抵抗力、魔法制御力を上げる領域を作るスキル。

 また下降は上記の値が下がっていく領域を作れる。


 《魔力護体》は魔力の膜で自身を包み守るスキル。

 《自癒他絶》は大天使が使っていた、周囲に自分を中心にして球状に強力な攻撃を仕掛けながら自身だけ回復すると言うスキル。


 そして最後。《崩壊の理》の横にある《縛封鎖蛇》というユニークスキル。

 これは自身を中心にして灰色の頭と尻尾は蛇、体は鎖という存在を大量に生み出し、敵対者に絡みついて捕縛しつつスキルの使用を制限するという足止めや無力化に最適なものだった。


 こうしてザックリと見ていった感想としては、やはりフレイヤはシステムがインストールされる前同様、中衛で自分も攻撃しつつ、味方の補助をし敵の足を引っ張ると言う八面六臂な戦い方が得意なようだ。



「ちなみに《縛封鎖蛇》が、システムを与えられてから覚えたスキルですわ」

「俺達で言う初期スキルだな。全然初期じゃないが……」

「最初からスキルがてんこ盛りでしたからね」



 魔卵から竜郎の《強化改造牧場》による強化をほどこされてから、人間となってシステムをインストールされるという非常に稀有な存在。

 さらにフレイヤの場合は初期スキルとして与えられる容量も他と比べてずっと多かったのだから、こうなって然るべきだろう。



「まあ色々とあったが、これから眷属として俺達を支えてほしい。

 よろしくなフレイヤ」

「はい。よろしくお願いしますわ、ご主人様。

 あ──」

「どうしたのフレイヤちゃん?」

「いえ、そのですねアイさん。こうしてシステムをインストールされ、テイム契約が切れてしまった今。

 わたくしは、もうあの快適空間には戻れないのだなと、ふと思いまして」

「そんなに快適な空間だったんすか?」 

「ええ。それはもう世界からの干渉も無い上に食と住居も保障されて、悠々自適な毎日でしたので……」



 そういうのでどんな所だったのか聞いてみれば、《強化改造牧場》がフレイヤが住むのに適した空間だとして作ったのは、近くに川が流れる自然豊かな土地で、そこには小粋なログハウスが建っていたんだとか。


 そしてフレイヤはそのログハウス内で、ぐーすかぴーすかゴロゴロしたり、川辺に寝そべりお昼寝したり──といった暮らしを満喫していたらしい。

 なにせ最低限の食べ物や飲み物は望めば竜郎の魔力を消費して出てくる世界。

 天気、気温、湿度に至っても最適な環境となっているために、《強化改造牧場》の中はまさに食っちゃ寝するには最高の空間だったことだろう。



「まさか俺のスキルの中で、そんな日常が繰り広げられていたとは……」

「ほ、他にする事も無かったのですから、仕方のない事だったのですわっ。

 お、おほほほほー」



 なまじ女性型だけに覗くのも悪い気がして一度も確認したことが無かったので、竜郎は一切気が付くことは無かった。

 だがそれが悪いと言うわけではない。トレーニングすらさせて貰えなかったのだから、本当にそれ以外にする事も無かったのだ。


 けれどフレイヤは出会った頃から優雅で貴族のような振る舞いをしていたものだから、ずっとゴロゴロしていたというのはイメージとかけ離れていた為に驚いただけ。

 存外、都会で華やかな生活をするよりも、田舎でのんびりした日常をすごすのが好きなタイプなのかもしれない。



「まあ、それはいいや。フレイヤの眷属化もちゃんと終わったし、これからはレベル上げもしてもらう事になるんだから」

「ええ、望むところですわ! わたくしがいれば百人力という所を御見せして差し上げます!」



 怠け者だと思われるのは心外だったらしく、ふんすっと気合を入れて声高らかにフレイヤはそう宣言したのであった。

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