第569話 等級神との契約
フレイヤ。それは《崩壊の理》を持つ天魔の真祖。
神をもってしても、生まれない様に鍵を変える様な危険な存在である。
「そこまでは理解して貰えておるよな?」
「ああ、何かあったら迷わず殺せと怪神に言われてるしな。
それくらいには危険な存在なんだろう?」
「うむ。ということで、お主ならまだ信用が置ける故にいいのじゃが、ただの魔物で、しかもそれを縛っている鎖がテイム契約のみというのは、こちらとしても不安材料でしかない。
そこで、ここでも《侵食の理》の登場じゃ!」
「えー本当にそれで大丈夫なの~?」
「もちろんじゃ!」
もう竜郎は何もつっこまずに、等級神のノリに従う事にした。
「まず《侵食の理》で天魔の真祖の──あー……フレイヤだったか?」
「ああ、フレイヤであってるよ」
「うむ。そのフレイヤを《侵食の理》で侵食し、ただの従魔ではなく魂を変質させてお主の眷属にしてしまえばいいのじゃ!
そうすればどんな状況であろうとも、お主の意に反する事は絶対にしなくなるのじゃよ」
「《崩壊の理》で眷属のパスなんかを崩壊させる事とかはできないのか?」
「まず眷属がそのパスを崩壊させようとも思わんし、もしそれを壊してしまえば自身も滅びる」
「それって、俺が死んだら眷属たちは皆、滅びるって事なのか?」
「いいや。無理やり壊せば魂も崩壊し自らも滅びるが、お主が死んだ場合は綺麗にパスが切れて、お主と繋ぐものが無くなるだけじゃ」
「それじゃあ、俺が死んだ後にフレイヤを残した場合は? 結局自由になるのか?」
「眷属であるのは変わらんよ。セテプエンイフィゲニアが死してなお、その眷属たち、またはそれに近い存在が手を出せないのと同じこと。
お主が死んだとしても、お主が嫌がる事を眷属はできない。
故に、お主がいつか生きるのに飽いて死ぬ時が来たとして、その時にフレイヤが生き続けていたとしても、崩壊の理をみだりに使用しこの世界が壊れるような事はせんじゃろう」
「なるほど。それで眷属化か……。あれ? それってもしかして、他の魔物でも出来るのか?
それとも、そっちも半神系の魔物とかじゃないとできないとかか?」
「いいや、眷属化するだけなら固有属性構成さえ解析できれば、どんな魔物でもできる。
魔物でなくても──それこそ、そこいらに歩いている人間でも眷属に出来てしまうのだからのう」
「……それってヤバくないか? ああ、でも吸血鬼系のスキルにそんなのがあったし、似たようなモノか」
「あれは一度殺してしまい、別の存在に一から作り直しておるから生前とは違った形に変異してしまうがのう。
だが《侵食の理》の場合は魂を生きたまま侵食し変質させ、眷属に塗り替えパスを繋ぐ。
故にこちらはありのままを全て手中に収めることが出来ると言う事じゃな」
しかもそれは《侵食の理》によって、相手の固有属性構成を理解してしまえば、誰にでも出来てしまう。
世界を壊すという壮大な危険さよりも、こちらの方がよっぽど身近で竜郎は恐ろしく感じた。
「まあ、それは良いとしよう。みだりにそれを使うつもりはないし」
「うむ。お主ならそう言ってくれると信じておったぞ」
「そりゃどうも。だがどんな魔物も眷属にできるって事は、うちの魔王種候補たちを眷属化させれば魔物でもあの森に連れて行って大丈夫なんじゃないか?」
「もちろんじゃ。魂レベルでのつながりと、システムで後付けしたテイム契約とではまるで違う。
眷属として繋がった魔物であるのなら、多少凶暴性は増す事があったとしても、お主の言葉を聞けなくなることはありえん。
本能レベルで従うようになるからのう」
「それは良い事を聞いたな。それなら魔王種化させたシュベ太達も連れて行けば、戦闘員が一気に増やせる」
眷属+魔王種+竜たち。このモノらを全て《強化改造牧場》を侵食の理で応用したパワーレベリングでレベル1000程度にまで上げて行けば、足手まといになることは無いだろう。少なくとも戦闘の補助は出来るはずだ。
しかもそれだけの数がいれば、未知の敵と相性のいいスキル持ちもいるだろう。
それだけこちらの勝率はさらに上がる。
あとは寄ってたかって数の暴力で圧殺してしまえば、オールコンプリート。
竜郎たちは元の──壊れなかった未来に繋がる世界に帰界することが出来ると言うわけだ。
「じゃが、いくら数で勝っているとしても油断はするでないぞ」
「いつもそれを言うよな。解ってるって」
「それだけ心配しておるのじゃよ」
「ああ、ありがとう。それも解ってるつもりだよ、等級神」
ここまでお膳立てしてもらって、出来ませんでしたでは恰好がつかない。
出来る範囲で準備を重ね、世界を相手取れるほどの最強の布陣でアムネリ大森林に突入しようと心に決めた。
「ほかに聞いておきたい事はあるか? 無いのならわしと契約を交わし、その後にそのスキルを託そうと思っているのじゃが」
「そうだな……眷属化が出来るっていう事なら、例えば半神格者でもない存在を半神格化させる事とかは可能か?」
「難しい質問じゃのう。それは個人によるとしか言いようがない。
その個人の状態で半神格者に至れるだけの力の種子があるのならば、それを芽吹かせてやればいいだけじゃ。
だが半神格化させられるだけの何かがその身に無ければ不可能じゃろう。
まあ、後者でも成長や後天的に手に入れたスキルによってなれるように──なんて事はあるかもしれんがのう」
「それは魔物も同じことか? 半神系の魔物とかもいるし」
「同じじゃ──と言いたいところじゃが、こちらは人間より確率は低いかのう。
魔物はシステムによる成長が無い故、生まれ持った資質が全てであると言える。
故に生まれた時から、そういう素養がないものはいくら成長させても、お主の《侵食の理》で後押ししても意味はないじゃろう」
「なるほどね。それじゃあ最後にもう一つ。力の種子とやらは俺でも解るか?」
「最初は何となく、そして後は『あるモノ』と『ないモノ』の違いを直に感じ理解できれば、おのずと解って来るじゃろう」
「自分で実際にやってみて理解するしかないって事か」
「こればかりは感覚でつかむしかないからのう。儂が言葉で説明したとしても、本当の意味では理解できんじゃろうて」
「解った。ありがとう。俺からの質問はとりあえずこんな所かな」
「そうか──ではタツロウよ」
そこで等級神は老人の姿ではなく、光翼の白い大蛇に早変わりし、こちらを見下ろすように睥睨してきた。
それに竜郎は圧倒されそうになりながらも、足に力を入れ踏ん張って、心を強く持って目をそらすことなく見つめ返した。
それに等級神は一瞬だけ嬉しそうにニヤリと笑った。
「これよりお主にこの世界における《理》を一つ授ける。
じゃが、それは儂ら神にとってもリスクのある行為でもある。
故に、それを受け取りたいと願うのならば、儂に魂をかけて誓って貰う。
1つ。この世界を壊そうとしない事。
2つ。敵対していない神の生み出した眷属に対し、その《理》を相手の許可なしに──もしくは欺く心を持って使わない事」
神の生み出した眷属とは、現役のクリアエルフ。イシュタルやエーゲリアなどの真竜。神が御使いのスキルを与えた者が主に該当する。
何か不思議な力を使っているのか、それを竜郎は説明もされていないのに、するりと頭で理解できてしまう。
「3つ目は、もう一つの《崩壊の理》を持つフレイヤに対し、そのスキルでもって眷属に染め上げる事。
4つ目は、儂や魔神が止めろと言った時は、そのスキルの行使を止める事。
以上4つの誓いを、等級を司る第2位格──等級神の元で立てて貰う。
タツロウ・ハサミ。最後に、その4つの誓いに対し可否を問う。
どうじゃ? このスキルを欲し、今の誓いを立てることが出来るか?」
その問いかけと共に不思議な記号や模様の描かれた、巨大な魔方陣が等級神と竜郎の間に間仕切りのように虚空から現れる。
これが魂にかけて誓うと言う神との契約という事なのだろう。
そして竜郎はもう一度、今の言葉を考えていく。
(1つめ。これはもちろん、そうするつもりはない。
ちゃんと世界に帰れた後は、こっちと行き来する予定なんだから、自分の楽しみを自分で奪う事なんてできるわけがない。それに何より愛衣が悲しむ。
そして2つめ。敵対している場合は最悪使ってもいいという事みたいだし、俺だって下手にちょっかいをかけて神の恨みを買うなんてタダで配っていてもいらない。
3つ目は俺にストッパーになれって事なんだろうし、そうする事でフレイヤも神達から敵意や猜疑心を向けられることも無くなると言うのなら必要な事だろう。
かわいそうかもしれないが、これは俺も強制的にやらせてもらおう。だからOKと。
そして4つめ。これは俺が意図していなくても、この世界に影響を与えるかもしれないから、万が一のストッパーに等級神と魔神がなるってことだろう。
この2柱なら人柄?神柄も知ってるし、問題ないはず。──よし)
ちゃんと契約内容を反芻してから、竜郎の腹は決まった。
「ああ、その4つの項目を守るとここに誓おう」
「ならば儂も、タツロウ・ハサミに《侵食の理》を授けると誓おう」
向かい合う竜郎と等級神の間に合った魔方陣が輝きを増していき、横半分に切れ目が入ると上半分が等級神に、下半分が竜郎に向かって、解けた糸のように魔法陣に描かれた謎の記号や模様が両者に吸い込まれていく。
(なんというか、不思議な感じだな)
一瞬だけ漠然と窮屈な感情が湧き上がるが、その後により等級神と密接になったというか、身近な存在になった感じがし始める。
すると竜郎の耳にアナウンスが流れ始める。
《スキル 侵食の理 を取得しました。》
《称号『理の理解者』を取得しました。》
《──────────────クラスが追加されました。
竜魔産みし魔神の系譜 は第2クラスに挿入され、新たに 等級神の系譜 が第1クラスに追加されました。》
《スキル レベルイーター+α から 多重レベルイーター+α に置換されました。》
《称号『神格者+1』を取得しました。》
「は?」
「ふむ。今ので儂との繋がりも強くなって、儂の系譜にも入った様じゃのう」
「えーと? まず《侵食の理》はシステムを介して取らなくて良かったのか?」
「それをシステムの取得欄に乗せたくなかったのじゃ。それに今回は技能神も説得済みじゃから問題は無い」
「それじゃあ、もう一つ。さっきの言いかたから察するに、理を得たから等級神の系譜に入ったわけではないのか?」
「うむ。どちらかと言えば、それは魔神や物質神、命神の領域じゃしのう。儂とはあまり関係はないのじゃ。
じゃが今、儂とお主の間で神ですら従わなければいけない契約を結び、儂とお主の魂に繋がりが出来た。
これはスキルからそうなったのではなく、純粋に存在がそうなった故に、システムが適応して勝手にもう一つのクラスを作ったのじゃろうな」
竜魔産みし魔神の系譜は、竜郎の持つステータスから。等級神の系譜は、竜郎自身の魂から。
経緯がどちらも違い、被せることが出来ないと判断した竜郎のシステムは、持ち前の適応力の高さを発揮し順応。
クラスを増やしちゃえばいいんだと判断し、勝手に改良した末に竜郎は世界初のクラス2つ持ちになってしまったようだ。
実際にステータスのクラスの項目を確かめてみると──。
名前:タツロウ・ハサミ
クラス1:等級神の系譜
クラス2:竜魔産みし魔神の系譜
レベル:1784
──と、名前とレベルに挟まれてクラスが2つ表示されていた。
ちなみに最初にあった竜魔産みし魔神の系譜が1ではなく2なのは、等級神の方が格が高いから、だそうな。
「それはシステムを管理してる神様側からすると、何か問題があったりとかは?」
「まあ、いいんじゃないかのう。とはいえ、儂のスキルなんぞ《レベルイーター》くらいしか作っておらんかったから、スキル的には大した恩恵は与えられんかったが」
「この多重レベルイーターってのは?」
「急になんか作れと要求が来たから、適当に作っておいたぞ。
なあに、ただ1度に1つだった黒球を、1度に複数個──今のお主ならば5つくらいなら制御できるじゃろう。
同じ存在に使うのなら、もう少しいけそうじゃが」
「同じ奴に何個も黒球を当てて意味があるのか?」
「何を言っておる。1つで吸い取るより、複数で吸い取った方が当然吸収速度も跳ね上がるというものじゃ」
「それはSP集めもさらに楽になりそうだな!」
数に特に制限はないようだが、竜郎が一度に扱える数には限りがあるらしい。
というのも、今までは1つの情報を得て吸収していたのに、5個出せばその5倍の情報を処理しなくてはならない。
当然、スキル維持による集中力も増すので、一度に100体の魔物からレベルを頂くぜっ! なんて事はキャパシティオーバーで出来ないと言う事だ。
けれど同じ個体に当てるのならば1つの情報に統合され、複数個で1つのスキルレベルを吸ったり、複数のスキルを同時に吸ったりなんていう事も出来るようになった。
ただ後者の場合は複数体に使った時と同じくらいの難易度に上がるので、制御が難しいとの事。
また続けて等級神が称号《理の理解者》と《神格者+1》についても説明してくれた。
それによれば、《理の理解者》は理の理解力、制御力が上がる。
《神格者+1》は単純に神力の上がり幅が上昇。全ステータス+1000から2000に上昇。
また神格者特有の威圧感も2倍近くになるので、抑えるのに慣れない間は一般人の住まう土地には問答無用でひれ伏されたくなかったら、いかない方がいいと言われてしまった。
もちろん、どこぞの御老公さま状態になるのは嫌なので、竜郎は素直に頷いておいた。
「説明はこれくらいかのう。後は自分で実際に使って確かめていくしかないじゃろう」
「そうだな。自分でも色々とやってみるよ。それじゃあ、そろそろ──」
「うむ。アイやその他の者たちも待っておる様じゃしのう。
ではタツロウ。先の件、なるべく早めに頼むぞ」
「ああ、リアの新型魔力頭脳が使えるようになったら、直ぐにでもやってみるよ」
「じゃあまた」「ではな」
最後は同時に別れの挨拶を交わし、竜郎の意識は元の体へと戻っていくのであった。
次回、第570話は9月19日(水)更新です。




