第567話 実験の続きと急な呼び出し
悪魔何だか吸血鬼何だか良く解らないが、将来的に強くなることは間違いない存在が生みだせたことに満足しながら、竜郎は次の創造実験に映っていく。
「お次はアーサーの時の素材を流用しつつ、大天使の素材をそのまま大悪魔にしたらどんな竜が生まれてくるのかチャレンジしてみたい」
「ってことは竜族創造ってことだね。んーと、確かアーサー君の時の素材は──」
アーサー創造の際に使った素材は、大天使の心臓:大天使の脳:大天使の全身骨格=4:4:2。
ニーリナの心臓:ボス竜の脳:ボス竜の魔石×2:ボス竜の骨:アンタレスの鱗:アンタレスの牙:アンタレスの爪:ボス竜の目:ボス竜の肉。だった。
なので今回は、大天使の素材の方だけを大悪魔に変えて創造してみようと言う事になっている。
素材は例のごとく既に昨晩の内に用意してあるので悩むことなくシートの上に並べていくと、《天魔族創造》に《魔族創造》を重複させて、そこに《竜族創造》を合わせた重複混合創造を行使した。
するとガウェインの時同様に素材が蠢き始める。アーサーの時もそうだったが、かなりの量の力を吸い取られていく。
だがやがて、それは人型の形を取り出していき──。
「──ん。よろしく主」
「ああ、よろしく」
外見年齢は15、6歳で、身長は大体155センチあるかないかくらい。
灼熱色で絹糸のように細く滑らかな長髪を風にたなびかせ、その紫の瞳で竜郎を見つめながら整った北欧系の顔をピクリとも動かさずに無表情で挨拶してきた。
その時に背中から生えたカラスのような濡れ羽色の翼2対4枚、それに挟まれる様にして生えた1対2枚の漆黒の竜の翼──計6翼を、同時に一度バサリと動かし風が起きる。
服装は露出が激しく、豊満な胸元しか隠れていない様な黒のキャミソールに、少し風が吹けばショーツが見えそうなくらい短い丈の紫のミニスカート。
あとはダボダボの黒銀のジャケットを前全開で、袖は通しているが肩に引っ掛け着流した格好だ。
ただしスカートの下にはしっかりとペチパンツが履かれていたのが、翼を動かした時の風でたなびいたスカートの裾から見えたので、動き回っても痴女と間違われることは無いだろう。
「お腹が冷えそうな格好だねぇ。でも竜種ならそんな事ないのかな?」
「そうだと思うっすよ。というか、最初から人型形態って事はアーサーと同じ人竜って珍しい竜種みたいっすね」
「それも、わたくしと同じ邪竜ですの! 仲良くするですの」
《神体化》している大人版奈々がたたたっと近寄るや否や、そう言って握手を求めた。
すると彼女はすっと手を出して、その手をぎゅっぎゅと握った。
「──ん。よろしく、おねーちゃん」
「この子はいーこですの~」
「くるしい……」
顔は無表情ながらも素直な性格の様で、奈々はすっかり気に入ったらしくその体を抱きしめた。
1レベルと言ってもかなり高位の竜なので、そうそう苦しくなることは無いのだが、相手は高位の竜ですら足蹴にできるほど強くなった奈々。手加減はしていても少し苦しかったようだ。
それに気が付き、奈々は直ぐに体を離した。
「ふむふむ。これで人竜も聖竜と邪竜が揃ったな。
まあ、だからなんだと聞かれたら困るんだが」
「どうせなら揃えたいもんね」
「まあ、そう言う事だな。んじゃあ、とりあえずステータスを見せて貰ってもいいか?」
「──ん。いいよ」
名前を決める前に特性を知っておきたかったので、とりあえずステータスから先に見せて貰う事に。
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名前:----
クラス:----
レベル:1
竜力:1102
筋力:510
耐久力:510
速力:505
魔法力:512
魔法抵抗力:512
魔法制御力:507
◆取得スキル◆
《見極必中》《竜邪極砲》《竜魔鋼体》
《武技の冴え》《火魔法 Lv.1》
《闇魔法 Lv.1》
◆システムスキル◆
《アイテムボックス+4》《マップ機能+4》
残存スキルポイント:3
◆称号◆
《半神格者》
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スキル構成からしてほぼアーサーと同じだが、アーサーが持つ認識相手の攻撃を強制的に逸らすユニークスキル《見極必流》が、《見極必中》になっていた。
また《竜聖極砲》は《竜邪極砲》に変化。水魔法は無く、代わりに闇魔法を持っている。
「この《見極必中》ってのもユニークスキルみたいだな」
「おお、当たりだね!」
「やった」
無表情でも小さく喜び6枚の翼をパタパタさせる邪竜人の少女に、やはり表情に出ないだけで意外と子供っぽい子なのかもと思いつつ、竜郎はそのスキル内容を見ていく。
そうして解ったのは《見極必中》とは、目視で認識した相手に確実に攻撃を当てることが出来るスキルらしい。
例え相手の方がどんなに速力で勝っていようと、攻撃を放てばどこかしらに時空を歪めて確実に当たる。ただし当たる場所は選べない。
さらに相手の耐久力などが変わるわけではないので、そもそも当たった所でダメージにならない攻撃だった場合は大した効果はない。
なので、これを野生のイモムーか何かが持っていたとしても何ら恐くないだろう。
──が、この少女のように《竜邪極砲》などというバ火力を叩きだす攻撃スキル持ちが所持した場合、ちょっとシャレにならない効果を発揮する。
「それはなんとも凄いというか、羨ましいスキルっすね」
アテナのその言葉に少女の翼のパタパタがさらに速くなり、むふーと嬉しそうに頬を高揚させていた。
「この子もどっちかというと前衛タイプか。それもアーサーよりも守りが薄く、攻めが強いって感じだな。
んーでもそうする名前はどうするかな。戦いの女神はアテナが貰ってるしな」
「そうっすね」
「なら燃えるような赤い髪から、火に関係した女神様から選べばいいんじゃない?
ちょうど火魔法も覚えてるしさ」
「火に関係した女神か、ちょっと調べてみるか」
そうして竜郎はスマホのもはや名前辞典と化している辞書アプリを立ち上げて、そのような女神の名前がないか調べていった。
「あー……それでいくと、名前として合いそうなのはケルト神話のブリギッドかギリシア神話のヘスティアかな。
ただヘスティアは火の女神と言うより、炉の女神ってイメージが強いみたいだが」
「名前の響きだけで聞くと濁点の多いブリギッドちゃんだと、何だかお堅い雰囲気のイメージだなぁ。
んでヘスティアちゃんって方が柔らかい感じがして、この子には合ってる気がする。
そこんとこ本人的にはどお?」
あれこれ話しているよりも本人に決めて貰った方が早いと愛衣が水を向けると、本人はゆっくりと首を傾げ腕を組み少しの間、目を瞑って考えにふける。
そうした後にようやく決まったのか、紫色の目を突如カッと開けて竜郎をしっかりと視線に捉えた。
「──ん。ヘスティアの方が好きかも」
「どっちも気に入らないなら別の案も考えるぞ? それでいいのか?」
「ん。問題ない」
「なら決まりだな。改めてよろしくな、ヘスティア」
「ん。よろしく、主」
こうして新たに邪人竜──ヘスティアが加わった。
ヘスティアだと、どちらかと言えば聖竜の方があっている様な気もした竜郎だったが、そこまで目くじらを立てるほどでもないかと軽く流した。
そこで竜郎は一度空を見上げる。
まだまだ明るくもう一回くらい創造を試してみてもよさそうだと判断し、最後に番外編として、かねてから気になっていたものをやってみることにした。
「まだ時間もあるし、ちょっとゴーレム竜を作ってみたいんだ。
カルディナはまだ大丈夫か?」
「ピューーィ!」
ガウェインとヘスティア創造でかなり力を使っているが、大丈夫だと長女カルディナが代表して答えてくれた。
ならば話は早いと、まずは《創物族創造》用のゴーレムコアを用意する事にする。
以前倒した盾の魔王種のコアは復元してあるが、今回は使わずに竜郎の持つ《人形魔法 Lv.20》をカルディナ達と共有して作ったゴーレムコアを使うつもりだ。
「肉体用の素材となる固体には星天鏡石を5個使うから、ゴーレムコアも5個生みだそう」
カルディナ達にスキル効果で《人形魔法 Lv.20》を貸し与えていき、魔力が尽きたら崩壊する使い捨てのゴーレムコアを5個作り上げた。
使い捨てと言っても、ここで直ぐに使ってしまうので質的には何の問題も無い。
そうして魔法で作った即席コア5個と巨大な星天鏡石の原石を複製した物を5個並べる。
「竜の方の素材はどーするの?」
「そっちは──」
そちらは、ニーリナの心臓:毒竜の脳:毒竜の魔石:ボス竜の魔石:毒竜の骨:アンタレスの鱗:アンタレスの牙:アンタレスの爪:毒竜の目:毒竜の肉。
と基本的に毒竜ベースにしてみた。理由はなんとなくだそうだ。
「よしやるぞ──」
準備が整うとすぐさま《竜族創造》+《創物族創造》の重複混合創造に移行する。
そうして出来たのは、一言でその見た目を現すのなら星天鏡石ならぬ星天鏡骨の骸骨竜。
「──────」
「キラッキラッだね!」
全長8メートルほどの大きさで、星天鏡石で作られた骨格を剥き出しにした4足歩行で背中から骨の翼を生やした、やや首が太めで長い竜。
その体は愛衣が言った様に日の光を浴びてキラキラと、多種多様な色の星のまたたきのように輝いている。
さらに肋骨の奥に収められ厳重に守られたゴーレムコアらしきものが赤、青、黄、緑──などなど様々な色の光を絶えず放って、闇夜では相当に目立つこと間違いない派手なイルミネーションのような骸骨竜だった。
密かに待ち合わせ場所にいてくれたら解りやすいだろうな、と竜郎が思ったのは秘密だ。
「この子はシステムとかインストールされてないの?
雰囲気からして半神系なのは解るけどさ」
「んー……システムはインストールされてないっぽいな。それどころか感情すら無いみたいだ」
「そうなんですの? でしたら完全にただのゴーレム竜と思えばいいんですの?」
「そういうのとも少し違うっぽいな」
「とゆーと?」
愛衣が可愛らしく小首を傾げて竜郎に尋ねてくる。
「なんというか。今はただ空っぽなだけって事なんだと思う。
だからこれから知識を教え込んでいけば、のちのち感情や知性も生まれてくるかもしれない。
そこが《竜族創造》も混ぜた要素でもあるはずだ」
「じゃあ、こいつもいずれ人間に至るかもしんないんすね」
「かもな」
それからスキルを確かめてみれば、《超堅牢体・極》や《竜外殻再生》などと言うとにかく頑丈さを前面に出した竜の様だ。
攻撃スキルとしては生まれたばかりという事もあって、《かみつく》やら《ひっかく》程度しかない。
この辺がシステムをインストールされなかった。魔卵から《強化改造牧場》の恩恵を受けられなかった弊害だろう。
とはいえ、この成りでも立派な半神系の竜種。これから鍛えれば、どこまでも強くなっていってくれることだろう。
「この子はオスとかメスとかないみたいだね。名前はどうしよっか」
「せっかく半神系だし、いずれ人間に至るかもしれないから神様の名前から貰っとくか?」
「ゴレ男とかGO太とか、ホネドランなんて候補もあるよ?」
「う、うーん……。そっちは良いのが見当たらなかったらにしような」
「はーい」
そうして竜郎が選んだ名は『テスカトリポカ』。アステカ神話の神からとった。
その神が表すものが夜の空、夜の翼、黒耀石、美など、この竜の外見に合うような言葉があったから。
またテスカトは日本語に訳すと鏡の意味があるそうなので、星天鏡石に似た何かで出来た骨の体にはピッタリだろう。
ただ愛衣曰く「間違えそうな名前だから私はテスカって呼ぶね」と言っており、スッピーのようにフルネームではなく愛称で呼ばれる事の方が多くなりそうだ。
こちらはシステムがインストールされていないので、テイム契約を交わし《強化改造牧場》に入って貰った。
こうして、この日はガウェインやらヘスティアに色々と教えながら過ぎていった。
そして──それから数日の時が経った。
ジャンヌ城の内部を竜郎たちが整えたりしつつ、ガウェインやヘスティアもすっかり領地にも妖精郷にも慣れ、皆とも打ち解けてきた頃。
リアが満面の笑顔で、ジャンヌ城のリビングで昼食後のフローラが入れてくれた美味しい紅茶をたしなんでいる所に飛び込んできた。
「兄さん! 遂にアマテラスさんとツクヨミさんの体──実用性の高い新型魔力頭脳が完成しました!」
「おおっ! やったな!」
「凄いね! リアちゃん!」
これでアムネリ大森林に行くためのピースは揃った。
後は準備を整え、最後の大仕事に乗りかかるだけとなる。
早く見せたいとばかりに竜郎や愛衣の手を引っ張るリアに連れられて、ジャンヌ城を出る竜郎と愛衣。そして元々リアと一緒にいた奈々とカルディナたち。
レーラやイシュタルも途中で聞きつけてきたのか、既に外で待機していた。
どうやらジャンヌ城の前の庭先で、これからお披露目してくれるようだ。
竜郎達も庭先に出て、ではお披露目ですと言わんばかりにリアが《アイテムボックス》から新型魔力頭脳を取り出そうとした──その時。
竜郎の意識が、ふと遠のいていった。
気が付くと、竜郎は見覚えのある砂漠風景が目に飛び込んできた。
そして頭に黒い一本角、深紅の理知的な瞳、仙人のように垂れ下がった長い顎ヒゲ。
背中から光翼が生え、プラチナ色の燐光が舞い散る白い大蛇のような存在が目の前にいた。
「首が疲れるから人間の形態になってくれないか? 等級神」
「ここは精神世界じゃぞ? 首が疲れる事など思い込みにすぎん。
じゃが、まあいい。──ほれ、これでどうじゃ」
「ああ、助かるよ」
深紅の瞳と黒い角が生えた、白髪白髭のザ・仙人像な老人──等級神が竜郎の目の前にやってきた。
「それで、なんで急に俺を呼んだんだ? 愛衣達が心配するじゃないか」
「そっちは武神やらに説明を頼んでおいたから問題はない。
じゃが、突然呼んでしまって申し訳ないのう」
「まあ、事前に一言ほしかったがそれはいいさ。色々と世話にもなっているしな。
それで、いつもみたいに念話?みたいなのじゃなく、ここにわざわざ呼んだ理由を聞かせてほしいんだが」
「ああ。解っておるよ。ここに呼んだのは、ちゃんと面と向かって目と目を合わせてアレについて説明しようと思ったからじゃ」
「アレ?」
「そうじゃ。ちょっと前に怪神が口を滑らせておったじゃろ?
お主に、とあるスキルを与えるかどうかで会議中だとか何とかのう」
「あーそういえば言っていたな。色々と忙しくて忘れてたよ」
「忘れてほしくはないのじゃが……まあ良い。
アレは少々人の身に与えるには危険なスキルじゃから、こうしてちゃんとお主の後見神として儂自らが説明することになったのじゃ」
「説明するって事は、その危険なスキルを俺にくれるって事でいいのか?」
「まあのう。お主がそれを欲し、最後に我々の都合の悪い事にはソレを使わないと魂に誓ってくれるのなら、渡してもいいと言う結論になった。
そしてそれを授けるのなら、あのドワーフの娘──リアが新型の魔力頭脳を完成させた今がちょうどいいと思ったわけじゃな」
「それで今なわけか」
納得がいったと肩の力を抜きつつ、竜郎はぴんと背筋を伸ばして真剣に聞く体勢を取った。
「それじゃあ、等級神。その危険なスキルについて、聞かせてくれ」
「うむ──」
これにて第十章 東奔西走 全十編の終了です。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。




