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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十編 妖精郷

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第565話 ダンジョンの飛地解放

 ちゃっかり魔王種の魔卵を手に入れてから、竜郎達はすぐさま戻り、今はまたニカノロフ本家の応接室でソファに座り、当主ヴァルラムとその直系の孫カールルと向かい合っていた。

 そしてまずは気になっているであろう物から、竜郎は机の上に並べていく。



「これがまず、ニカノロフ家が代々繋いできた魔物の魔卵です。

 右側の5個がオスで、左側の5個がメスになっています」

「おおっ! こんなにもっ」

「すげーー! メスもあるんだって、じーちゃん!」



 小さくともその重要性は理解しているのか、カールルも嬉しそうにはしゃいでいた。

 ヴァルラムも目を潤ませて、うんうんとしきりに孫に頷いていた。

 だが喜ぶのはまだ早い。竜郎のターンは終わっていないのだから。



「そして次に、こちらがこの種とは別の生属性の猿魔物の上位種の魔卵です。

 こちらは回復力を広く浅く生属性のスキルをかけられる──と言った感じの魔物で、特別にメスが産まれにくいだとか、オスが産まれにくいと言う事も無いので安定して繁殖させられるかと。相性的にはどうですか?」

「触ってみても?」

「ええ、もちろんです」



 竜郎が差し出した新たな未知の魔物の魔卵をそっと手に取り、目を閉じて何かを感じ取ろうとし始めた。

 5秒くらい魔卵を持って目を閉じたままの状態が続き、ヴァルラムはそっと目を開けた。



「この魔物も、うちの一族にとって非常に相性のいい魔物の様だね。

 これも頂いてしまっていいのかい?」

「ええ、どうぞ。それで次ですが──」

「まだあるのかい!?」「おー! 見せて見せてー!」



 目を白黒とさせるヴァルラムとビックリ箱でも楽しむかのようにはしゃぐカールルを前に、竜郎は軽い説明と共にニカノロフ一族に有用そうな魔卵を並べていく。

 普通のテナガザルの魔卵。ビックテングザルの魔卵。猿小人の魔卵。猿人の魔卵。


 その中でニカノロフ家が使えそうだったのが、テナガザルとビックテングザル。猿人系は生属性の魔物ではあったが、何故か相性はそれほど良くないらしい。

 またテナガザルはテイマー系なら誰でも使役できそうだが、ビックテングザルはニカノロフ家でも才能に恵まれた存在でなければ制御は難しいだろうとの事。

 ようはシュルヤニエミ家でいう、マリッカの様な麒麟児限定になりそうと言う事だろう。



「えーと、あとはこういった魔卵もあるんですが、相性がいいかどうかだけ見て貰えませんか?

 猿ではないですが、今まで出してきたどの魔物よりも強力な生属性の魔物なんですが」

「そ、それは……」



 それは兎小人の魔卵にして魔王科に属する魔物。惹かれるように手を伸ばし触ろうとしたヴァルラムだったが、あと数センチという所で背筋に悪寒が走り直ぐに引っ込めてしまった。



「おそらくそれが猿の魔物であったとしても、我々に御することは出来なかったと思うよ。一体それは──」

「治癒能力に非常に優れた魔王種の魔卵です。といっても、魔王種になるには300レベルになる必要がありますが」

「……やはりそうか」

「魔王種ってなにー?」

「とーっても強い魔物の事だよ。カールル君」

「そうなの!? でも、うちじゃ無理なのかぁ。ざんねーん」



 不貞腐れるように口を尖らせるカールルに対し、愛衣は手を伸ばしてよしよしと頭を撫でた。

 その光景にどこかピリッとした空気が霧散していき、また柔らかな雰囲気が戻ってきた。



「それじゃあ、これはうちで孵化させてみる事にします」

「タツロウ君なら大丈夫なんだね」

「ええ。問題ないですよ」



 竜郎が──もっといえばその周りの人物たちが、尋常でない力を有している事は初めて歓迎会で見た時にほとんどの妖精たちは気が付いていた。

 だからこそ、他の妖精種達が魔王種に関わりのある魔卵に手を出そうとしたら全力で止めただろうが、竜郎なら大丈夫だなと安心して受け入れたようだ。



「しかし、それにしたってこちらが貰いすぎだな。いくら絶滅種の魔卵を、今回の事でタツロウ君たちが手にいれられたと言ってもね」

「一番の目的がそれでしたし、あとはお節介のようなものですから気にしないでください。

 怪我や病気を治せるあなた達が力を付ければ、その分この妖精郷はより皆が安心して暮らせる場所になるでしょうしね。

 僕らは僕らをあれだけ歓迎してくれた、この地に住む人々には幸せでいてほしいと思いますから」



 その竜郎の言葉に、ヴァルラムは優しく微笑みかけると深々と頭を下げた。



「………………ありがとう。君から貰った魔物達で、我々ニカノロフ一族は、この地に住む者たちを癒し続けると誓おう」

「ええ。そうして貰えると僕らも嬉しいです」



 そこで竜郎と愛衣と順々にヴァルラムは握手を交わし、カールルも手を伸ばしてきたので、そちらの小さな手とも握手を交わした。



「また何か困った事が有ったら、うちを訪ねて欲しい。我が一族はいつでも歓迎するよ。

 まあ、君たちにどうしようもない事が我々にどうにかできるとも思えないがね」

「いえ。僕らだって知らない事は沢山ありますから、その時はよろしくお願いします」

「ああ。何でも聞いてほしい。それに用が無くても遊びに来てくれてもいいからね。気軽に訪ねてきてほしい」

「ぼくが渡した魔物達の経過も気になりますし、また来ますね。それでは」

「またきてねー! にーちゃん! ねーちゃん!」



 ブンブンと手を振って見送ってくれるカールルと、軽く手を振るヴァルラムに見送られながら、竜郎達はジャンヌ城へと帰っていった。




 翌日。いよいよ妖精郷にてダンジョン飛地解放の時が来た。

 やり方は昨日の内にルナからレクチャーを受けているので問題はない。


 関係者たちが集まる中で、迷宮管理者の称号が足して1以上になる人員──《迷宮管理者 3/5》を持つ竜郎と愛衣が、ジャンヌのダンジョン庫──略してジャンヌ庫の内部中央に立っていた。



「それじゃあ、ここに開きます。いいですね?」

「えぇ。お願いするわぁ~」



 関係者とは迷宮管理者の称号を持つ全員と、プリヘーリヤとそのお付き。そして今日から、ここで見張りをすることになる若い妖精兵たち。

 沢山の視線にさらされながら、竜郎と愛衣は互いに目と目を合わせて頷きあうと、竜水晶の床に向かって手を翳す。


 そして自分たちの中にある《迷宮管理者》の称号を意識しながら、そこに扉を開くようなイメージを送っていく。 

 すると竜郎と愛衣の手の平からキラキラとした光の粒子が飛び出し、床に降り注いでいく。

 その粒子は竜水晶の床面に吸着していき、他の粒子と結合して間を生めるように広がって光の泉と化していく。



「これでいいのかな?」

「さあ。感覚的には出来たと思うが」

「……ん。……出来てる」

「──うおっ。ルナか」



 竜郎達の領地内にある妖精樹か、こちらの妖精樹の周辺にしか行けないルナだが、どうやらダンジョンの飛地を作ることが出来れば、その周辺にも活動範囲を広げることが出来る様だ。

 突如、ダンジョンの飛地である白光する泉から頭が、にゅうっと出てきたルナに面喰いながらも、プリヘーリヤに無事できたことを告げた。



「ありがとぉ~。これでいちいち外に出なくても、妖精郷内でもダンジョンの素材が手に入れられるわぁ」



 妖精郷にダンジョンは無い、というか出来ない。なので魔石を手に入れようと思えば、妖精郷の外に出て確保してくる必要があった。

 けれどもうその必要もないと言う事で、妖精郷を統べる女王としても新たな資源供給場を得たことを喜んだ。



「それじゃあ、あとはこの辺にでも救護室と、見張り番の人の休憩所でも作っておきますか」

「頼めるかしらぁ。この水晶は私たちじゃ、どうにもできないみたいだしぃ」



 もし妖精たちで作るとしたら水晶の上に杭打ちも出来ないので、乗せるだけ、接着剤で張り付けるだけという微妙なつくりになってしまう。

 なので最初から竜郎サイドで作る予定だった。


 中央には竜郎たちの領地にあるダンジョンの入り口として存在する、光の湖よりも小規模な光の泉。

 この大きさなら隅に救護室と休憩室分のスペースを取るのは余裕だろう。


 救護室は慌てていても直ぐに解るようにと、闇魔法で色の性質だけを歪めて白色の竜水晶に。

 内装としてはベッドを置くスペースを広く確保しつつ、傷口や汚れを洗い流す作業場、緊急性はないが怪我や何らかの問題を負った人用の診察部屋。

 他にも収納スペースを多く確保しつつ、生魔法使い達もくつろげる小部屋も用意。

 

 逆に見張りの人達の休憩所はジャンヌ庫の内側と同じ色の竜水晶で、良く見ないと何処か解らない様にわざとする。



「怪我して慌ててる時に間違えてそっちに入っても困っちゃうからね」

「見張りの休憩所なら、見張りの人だけ解っていればいいしな」



 中は仮眠も出来るようにベッドスペースと外が見える窓付きの休憩室を分けて作り、あとはここを使う各員で自由に模様替えをしてくれと言うスタイルだ。なので特別に手を加えなかった



「助かったわぁ。ありがとぉ、タツロウ君」

「いえ、これくらいなら大した手間でもないので部屋の間取りなどに関して問題が有ったら言ってください。けど他に必要なものとかは──」

「ええ、もちろんこちらで全て用意するわぁ。そこまで甘えるわけにもいかないものぉ」



 見張り番要員として来ていた妖精兵たちも竜郎が用意した休憩室を気に入ってくれたようで、あれが必要だの、これが必要だのと何を部屋に置こうか話し合いを始めていた。

 だが救護室の方は生魔法使い達が来ていないので、閑散としているのが目に付いた。



「そういえば、生魔法使いの派遣の件はまだ?」

「立候補者がいたから、そちらに人員の確保は頼んでおいたわぁ。

 他の生魔法使い達の伝手もある家だからぁ、任せておいても大丈夫なはずよぉ」

「それなら安心ですね。それで、その生魔法使いの人は何と言う?」

「ニカノロフよぉ」



 悪戯っ子な表情でプリヘーリヤはふふふと笑った。



「え?」



 それはつい昨日、魔卵の件で会ったばかりの家の名だ。なので知ってはいるが、面喰って目を丸くする竜郎。



「実はどこからかタツロウ君たちの開くダンジョンの近くに救護室を設けるって話を聞いたみたいでぇ。

 昨日、城まで訪ねて是非、我が一族に任せてほしいって言ってきたのよぉ。

 その時に詳しい話も聞いたけどぉ、もの凄く感謝していたわよぉ。

 だから私からも改めて、我らが同胞の悩みの解決してくれて本当にありがとう」

「どういたしまして──というか、お礼なら本人たちから聞きましたので、それで十分ですよ」

「ふふ。でも私からも言いたかったのよぉ」



 竜郎たちがニカノロフ家を去ってから、さっそく才能はあれど適した魔物を行き渡らせられなかったテイマーの素質を持つニカノロフ一族の者たちを集め、優秀な者に優先して魔卵を渡していったと言う。


 それから無事孵化させることに成功し、テイム契約も滞りなく交わすことが出来た。

 なので今現在、若者を中心に新たな魔物について調べたり、どう世話をするのがいいか試行錯誤しながら調べ始めている最中なんだとか。


 そして既にテイム契約を交わした魔物がいる当主やその近縁の者達は、竜郎達の近くにいれば恩を返せる時が来るかもしれないと、たまたま聞きつけた救護室の話を聞いて城へとすっ飛んで行った。


 そうして後に、このジャンヌ庫にはニカノロフ家の優秀なテイマー兼治療師が常時詰めてくれることになり、かつてのように妖精郷にニカノロフの名が知れ渡る事になるのであった。

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