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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十編 妖精郷

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第563話 ニカノロフ家訪問

 以前、領地散策の際に豆太と共に猿の魔物を大量に殺した事を覚えているだろうか。

 そのことをしっかり覚えていた竜郎は、一度ジャンヌ城に戻って、その魔物の魔卵から生魔法の猿型魔物を作ってみることにした。


 そうして愛衣と2人で手を繋ぎ森林浴を楽しみながら歩いて戻っていくと、ジャンヌ城の空の方から戦闘音が聞こえてくる。

 何事だと急いでジャンヌ城に戻ってくれば、そこでは大人の鎧を着た妖精達と蒼太やニーナが大空を舞台に戦っていた。


 何か勘違いをされてしまったのかと一瞬慌てるが、良く見れば双方本気で戦っていない。まるで稽古の様だ。

 さらにその下の芝生地帯ではワニワニ隊やウリエル、アーサー、人間形態のミネルヴァも大人の妖精たちと手合わせしていた。


 そしてそれを子供たちが遠巻きに「すげー!」などと歓声を上げながら見学しているし、いつの間に来ていたのかプリヘーリヤと、そのお付の妖精ものんびりと芝生に座ってそれを眺めていたので、不味い事態ではないと直ぐに理解できた。



「「こんにちは~」」

「はぁい、こんにちはぁ」



 竜郎たちが挨拶すると、プリヘーリヤも返してくれる。

 そうしたところで竜郎はこの事態について詳しい事を聞いてみると、どうやらダンジョン解放について話をするために、そのジャンヌ庫の番をしてくれることになった妖精兵たちも一緒に連れてきたんだとか。


 まあ、自分の職場環境は見て貰った方がいいだろうし、妖精兵たちが来るのは構わないし理解も出来る。

 だが何故、その妖精兵たちと蒼太たちが戦う事になったのかが解らない。



「あの子たちはぁ、うちでも特に血気盛んな若い子達だからぁ。強そうな子達を見て戦ってみたくなっちゃったみたいねぇ」

「あー、そういうことですか」



 基本的に妖精という種は戦うことよりも、もっと平和的な事を好む傾向にある。

 けれど妖精たちの中でも全体の1割程しかいない物理職に適性を持つ妖精は、戦う事を好む傾向にあると言う。

 それも若い妖精は特にそれが顕著なんだとか。

 もちろん他の適性をもっている妖精でも、戦う事が好きという者もいるので絶対ではないのだが。


 あらためて竜郎と愛衣は空を見上げて、妖精たちの戦い方を見てみる。

 練度は高く、本気ではないが攻撃してくる蒼太やニーナの動きを見極めて、その小柄な体格でしっかりと応戦している。

 あれならダンジョンに入っても問題なさそうだ。


 空での2体の竜と大勢の妖精たちの戦いという、ファンタジー映画さながらな大迫力映像をスマホで動画撮影しながら楽しんでいると、ようやく手合わせも終わったようだ。

 蒼太やニーナは疲れ一つ見せないが、妖精たちはヘトヘトになって空から降りてきた。



「お疲れ様でーす。水どうぞー」

「おおっ。ありがとうございます」



 竜郎が魔法でパパッとコップに水を注いで、疲れ果てた妖精たちに水を配っていくと、一番階級が上であろう男性の妖精が代表してお礼を言ってきた。

 さすが偉い地位についているだけあって、他の者たちよりも疲労度合いは少ないようだ。


 蒼太とニーナも労っていると、地上で戦っていた面々も終わったのか集まって来たので、そちらにも水を配っていった。

 そうして落ち着いた所で竜郎は、まったり寛ぎモードのプリヘーリヤに本題を切り出した。



「それでダンジョン開放について話しに来たと言う事ですが、どうなりましたか?」

「あぁ、そういえばそれを話しに来たんだったわぁ」

「忘れないで下さいよ……」

「ふふふ、ごめんなさぁい。え~と、それでこの子達はいつでも見張りに立てるそうだからぁ──って、いっても今は無理そうだけれどぉ……」



 妖精兵たちは竜郎の眷属や従魔相手に稽古して、すがすがしい表情を浮かべながらも芝生の上に転がって立てられそうにない様子。

 それにプリヘーリヤは苦笑しながら視線をやった。

 竜郎や愛衣も、確かにこれでは今すぐはムリだろうと笑うしかなかった。



「それじゃあ、明日にでもジャンヌ庫の中にダンジョンを開こうと思います。

 あと提案なんですが、中はダンジョンの入り口を開いても空きが出るくらいの広さになっているので、できたらすぐに治療が受けられるように生魔法使いなんかが詰める救護室を用意しておくのもいいかもしれません。

 死ぬ直前のダメージは無かった事にできますが、それ以外は普通のダンジョンのままですし」

「それもそうねぇ」



 例えば死ぬ直前に死因とは関係のない別の傷を負っていたり、のちのち死につながる様な重傷を負ってしまったので帰還石で外に出たり──なんて事も想定される。

 そんな時にダンジョンから出て直ぐに治療を受けられれば、もしもの時も安心だろう。

 その安全第一な考えにプリヘーリヤも賛同して、治療が出来るスキル持ちを交代で見張りの人員の他に追加して詰めて貰う事になった。



「ああ、それとプリヘーリヤ様にも一応聞いておきたいのですが──」



 ついでに生属性の猿の従魔と相性のいい、ニカノロフ一族について聞いてみた。

 するとそこまで問題になっていたのかと、プリヘーリヤ自身も驚いていた。

 やはりテイマーを多く輩出する家系同士の横の繋がりがあったからこそ、聞けた話の様だ。



「それで、タツロウ君ならぁ、何とかできるのかしらぁ。

 あの家は昔から治療に長けた人材が生まれる事が多いから、お世話になった人も多いのよぉ。

 出来れば助けになってあげてくれると嬉しいわぁ」



 どうやら妖精郷における医者のような事もしている一族の様で、全盛期には従魔と共に様々な傷や病を癒して回る有名な一族だったとか。

 しかし最近はその名も廃れ、今は小さな個人医院くらいの範囲で活動しているらしい。


 だがこれで竜郎が手を貸せば、かつての名声も取り戻すことが出来るかもしれないとプリヘーリヤは考えたようだ。

 そこまで劇的な変化をもたらせられるかは竜郎としては疑問だが、魔物に関してはこちらも出来る限り便宜を図り、絶滅種という生魔法系のスキルを使う珍しい猿の魔卵を手に入れられそうなので、とりあえず関わる気は満々だ。


 そんな事をプリヘーリヤと話した後、彼女はまだ城に戻ってやることがあるからとお付の人に引っ張られるように連れられ、他の妖精兵たちともども帰っていった。


 さてどうしようかと竜郎が考えた所で、まだ帰る時間まで充分あるので、さっさと生属性の猿魔物の魔卵を作っておくことにした。

 蒼太とニーナには幼竜組4体をだして、他の妖精の子供たちと遊んでいてもらう。ウリエル達眷属組も好きに行動していて貰う。



「それじゃあ、とりあえず魔卵作りからだな」

「魔卵が無いと属性変換も出来ないしね」



 以前大量に殺した猿の死骸からオスだけで作った魔卵。メスだけで作った魔卵を作ってみる。

 するとオスだけを素材にした方はオスの魔卵に、メスだけのほうはメスの魔卵に──と、完璧に産み分けることが出来た。

 数だけは沢山あるので復元ポイントをケチるのと同時に、一個をコピーすると双子のような存在になってしまうので、同種でも何か個性が生まれるかもしれないと一つ一つ《魔卵錬成》で作っていって雌雄5:5の合わせて10個の魔卵を作成した。

 猿たちの等級は2。けっこう低いが初期スキルに与えられるスキルを見る限りでは繁殖能力に優れているようだ。

 それは属性を10個とも変えても同じで、これならとりあえず適性のある子に渡す魔卵が何も無いという自体は無くなるだろう。



「それじゃあ次だ」

「え? これで終わりじゃないの?」

「いいや、これはあくまでオマケだ。本命はもう一匹の方だよ」

「もう一匹? …………──あっ、ボス猿だね!」

「その通り。一匹だけこの猿たちを率いていたボス猿がいたからな。体も大きければ、強さも猿たちよりも強かった。

 あいつなら、ちゃんと育てれば一線級の魔物にもなれるはずだ」



 さらに竜郎がハーピーの群れのボスにして亜種のハピ子を領地でテイムした時に、その配下である通常のハーピー達まで従えることが出来た事例がある。

 そこからも、やりようによってはボス猿1匹とテイム契約を交わすだけで、数十匹の猿たちを統率することも出来るようになる可能性が非常に高い。

 それだけでもボス猿と普通の猿の両方を用意する意味があるだろう。


 竜郎は1匹だけしかないボス猿の素材を取り出し、綺麗に修復してから複製。必要なだけ脳と心臓を用意して魔卵を作成した。

 等級は4。800以上の猿を従えさせるだけの力を持っていたのだから、それだけあってもおかしくはないだろう。



「あとは、こいつを生属性化したらどうなるかだが」



 猿の方もそうだったが、こちらも一応複製してからボス猿の魔卵の属性を変換した。

 ちなみに猿とボス猿、どちらも元の属性は無属性だ。


 そうして出来上がった魔卵を《強化改造牧場》に入れて、どんな魔物が出来たかと覗いてみる。

 元の魔物はテナガザルに似た風貌をした猿で、普通の猿たちは生属性にしても大して見た目は変わらなかった。

 けれどこちらのボス猿の方は、巨大テナガザルの見た目が少し変化していた。


 具体的に言うと、まず全体的に筋肉が落ちてヒョロッとした痩せ型へ。口を開けた時に見えた鋭い犬歯も短くなり、ゴリゴリの前衛から後衛らしい風貌に変化。

 その代わりに全体的に毛が長くなり、特に顎の下は仙人かと言う程に長いアゴヒゲを垂らしたかのような毛が下へと垂れていた。



「なんか、印象がだいぶ変わったね。スキルはどんな感じ?」

「あーやっぱり、元のボス猿が覚えていた《槍術》《弓術》《筋力増強》なんていう物理職系のスキルは軒並み覚えにくくなってるみたいだ。

 けど一定の範囲内にいる存在の治癒力を高める《治癒向上領域》だったり、相手の治癒能力を下げる領域を作る《治癒低下領域》。

 傷口をジワジワ広げる《負傷悪化》や毒なんかの効き目の進行速度を上げたり出来る《病状悪化》──なんてスキルもあれば、範囲内の負傷者を癒す《治癒領域》に毒の周りを遅くしたりもできる《病状遅延》なんてのもある。

 ただ、強力な──それこそ一瞬で傷や病気を治すような回復スキルは持ってないみたいだが」

「薄く広くって感じかな。でも治癒力を高める領域を広げられるし、最低限のことは出来そうだね」



 愛衣の言葉に竜郎も大きく頷いた。けれど竜郎は、このボス猿の真の力は、やはり数の力が使えるところだと思った。


 このボス猿は、やはり同種系統の猿たちを大量に纏め上げる力を持っていた。

 そして生属性化した猿たちは、1匹1匹は大した治癒スキルはないが、群れで一斉に治療に取り掛かる事で大傷でも数の力で直ぐに治すことも可能だろう。

 ただ群れで真価を発揮するとなると、どうしてもそれだけかさばると言う事でもある。

 なので狭い空間に連れていくと、逆に邪魔になる可能性はあるだろう。



「それでも妖精郷なら土地はいっぱいあるみたいだし、その点は問題なさそうだよね」



 それもそうだと竜郎は作ったばかりの魔卵を《無限アイテムフィールド》に収納し、まだまだ日が暮れるには時間がたっぷりあるので、善は急げとニカノロフの一族が住まう地区へと行ってみることにした。


 行ってみると言っても、ニカノロフ家はそれほど遠くはなかった。透明管に入って十数分でついてしまう。

 やはり土地があり余っている妖精郷なのか、今ではそれほど名が知られていないと言われるニカノロフ家も、名門シュルヤニエミ家の土地より幾分か小さい位の規模で木の家々が建っていた。


 外に小さな男の子の妖精がいたので、ニカノロフ家の一番偉い人に会いたいんだけど──と飴玉片手に話しかけてみた。

 すると飴を直ぐに頬張りながら「こっちだよ! にーちゃん! ねーちゃん!」とこちらの腕を引っ張って一番大きな木の家の前まで連れてきてくれた。

 そして遠慮も何もなくバンと扉を開くと、男の子は竜郎たちを玄関口に置き去りにして家の中に向かって突撃していく。



「おじーちゃーーん! お客さんだよー!」

「ん? 客? 誰がきたんだい、カールル」

「えっと、えーと……? わかんない!」

「わかんないて……お前なあ……。と、あなたたちは……」



 カールルと呼ぶらしい男の子に腕を引かれてやって来た、その祖父──にしては若々しい青年の様の風貌だが、その妖精が竜郎たちを見て目を丸くした。



「どうも、こんにちは。突然お邪魔してしまって申し訳ありません。

 僕は竜郎、波佐見です。そしてこっちの可愛い女の子が愛衣、八敷です」

「やあやあ、知っているよ! 私も君たちの歓迎会にいたからね!

 あの時振る舞ってくれた食材はどれも最高だったよ。ささっ、とりあえず上がっておくれよ」

「「おじゃまします」」

「どうぞどうぞ」

「どーぞー!」



 非常に朗らかな笑顔と、元気な笑顔に迎え入れられ竜郎と愛衣の2人は客間へとそのまま通された。



「それで本日の要件はなにかな? 私にできる事なら協力するよ」

「えーとですね。その前にこれを見て頂きたいのですが」

「これは?」

「シュルヤニエミ家の当主代行からの手紙です」



 現在の当主はイェレナらしいのだが、彼女は竜郎の領地に行っているので、彼女の父親が元当主として今は代行を務めていると言う形になっている。

 シュルヤニエミの名に一瞬驚いた顔をするが、イェレナの父とは知らない仲でもないので、ニカノロフの当主──ヴァルラムが手紙を検め始めた。


 読み進めていく度にヴァルラムの表情は硬くなっていき、読み終わるとそっと手紙を畳みなおして机に置いた。

 そして恐る恐ると言った風に顔を上げて、竜郎と視線を合わせた。



「この手紙に書いてあることは本当なのだろうか?」

「細かくどんな事が書いてあったかまでは存じませんが、魔卵が一つでもあれば、滅びかけているニカノロフ一族の魔物を、また増やす事は可能だと思います」



 《無限アイテムフィールド》による複製。《強化改造牧場》による雌雄の変換。これだけで、一個から雌雄ともに大量に生み出せる。



「お、おお……。って、あれ? 今、魔卵が一つでもあればと言ったかい?」

「はい。言いましたけど………………それが?」



 嫌な予感がすると、竜郎は顔を引き攣らせ冷や汗が頬を伝う。

 そしてよく見れば、ヴァルラムも同じように顔を引き攣らせ冷や汗を額に浮かべていた。



「……まさに昨日、そこのカールルに最後の魔卵をあげて孵化させてしまったんだが……」

「最後……ということは、もうその魔卵は……?」

「どこにもない……」

「えぇ…………何て間の悪い……」



 代案と言うか、もともと渡すつもりで作ったテナガザルのような猿とボス猿の魔卵は作ってあるので問題はないと言えば無い。

 だが、せっかくの絶滅種の──それも妖精郷で変異した魔物の魔卵を手に入れられる機会を逸してしまったことに、竜郎は脱力せざるを得なかったのであった。

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