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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十編 妖精郷

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第562話 シュルヤニエミ家訪問

 竜郎たちがジャンヌ城に帰ってくると、爺やたちの方は既に視察は終わったのか、爺やはジャンヌ城の前でお祈りを、フローラは妖精の奥様方に囲まれて井戸端会議に花を咲かせていた。



「あっ! ごっ主人様ー! おっかえりー♪」

「ああ、ただいま。そっちはもう仲良くなれたみたいだな」

「うん♪ みーんな良い人たちだったからねー♪」

「やだよぉ。フローラちゃんがいい子だから、私たちも仲良くできたのさぁ」

「「「「「そうよそうよぉ」」」」」

「えーほんとー♪ 皆、ありがとー♪」



 見た目は少女のように若いのに、やたらとおばちゃん臭い妖精の奥様方にフローラは嬉しそうに笑いかけた。

 すると奥様方の一人が竜郎を見て何かを思い出したのか、手に提げていたバックから何やら取り出し渡してきた。



「うちの子達が飴貰ったって言うから、これお返しに貰ってちょうだいな」

「え? そういうのは別に良かったんですが」

「いーんだよ。たいしたものが用意できたわけでもないんだからぁ」



 他の奥様方からも色々とクッキーやらケーキやらプリンやら、妖精郷の様々な茶葉などなど、嬉しい物を色々と頂いてしまった。

 こっちがメインの目的で訪ねてきてくれたようだが、フローラの社交性の高さが爆発し直ぐに意気投合。

 それからは、ずっと話に夢中になってしまったらしい。

 なんだかこういう御近所づきあいのようなモノもいいなあと、心温まる一時だった。



「またお話しよーねー♪」

「「「「「またねぇ」」」」」



 晩御飯の支度があるとかで、奥様方は仲良く去っていった。



「ふふっ、今晩のデザートには困らないね」

「そうだな。ありがたく頂くとしよう。それとこれはフローラにお土産だ」

「わーい♪」



 フローラに渡したのは、これまた妖精郷固有の果物で、一言で表すのなら皮ごと食べられる桃のようなもの。

 味は少し酸味があるが、甘くて美味しい。うちでも育ててみようと果実をいくつかもいできたと言うわけだ。


 むこうではジャンヌが直接爺やにその果物を渡しており、爺やはどうやったら永久保存できるか本気で考え始めていたので、ジャンヌは「あんた……」と言った感じで項垂れていた。



「それじゃあ、今日は一旦帰ろうか。さっきリア達から《アイテムボックス》経由で手紙が届いたんだが、向こうで泊まって来るって言ってたから」

「では私だけでも、ここに泊まっていきましょう。もしリア様方がここに戻ってきても、お世話が出来るように」



 別にリア達なら自分たちだけで何とでも出来ると思うのだが、爺やはキリッとした顔でそう言った。

 だがその奥底に透けて見えるのは、まだジャンヌ城から離れたくないという欲望からくるものだったことを誰もが察し、誰もが突っ込まなかった。


 爺やの寝具や最低限必要そうなものを置いて、竜郎たちはまた一度カルディナ城へと帰っていった。

 その日の夕食はフローラに頼んで妖精郷で手に入った葉野菜と買い置きの豆腐に白牛の牛肉、そしてキノコ──リヴィッシューを沢山いれた鍋を頂いたのだが、それはとても絶品だったそうな。




 翌日。今度は昨日来れなかったメンバーを連れていく。

 眷属からは紅ドレスの天使ウリエルに、聖人竜のアーサー。索敵が得意な竜種ミネルヴァが参入。

 従魔からは蒼太、ニーナ、ワニワニ隊も、たまには領地以外の場所へとお出かけしたそうに見えたので連れてきた。

 ワーム隊はそれほど興味なさそうだったのと、芝生に穴をあけられても困るので残していった。


 代わりに《強化改造牧場》内で毎日修行して、今も順調にレベルを上げていっているシュベ太や清子さん。シロクマの白太を向こうの防衛に当てて、眷属はいつも竜郎の影に潜んで力を貸してくれている鬼武者幽霊の武蔵。フローラやランスロット、彩を居残り組に回した。


 そうしてやってきたウリエル達も妖精たちに遠慮なく近寄られ歓迎されたり、爺や程ではないにしてもジャンヌ城の景観に驚いたりしていた。

 また蒼太やワニワニ隊、ニーナを庭に出現させると恐がるかもと思っていたが、男の子の妖精なんかは特にはしゃいで蒼太やワニワニ隊に張り付いていた。


 ニーナはおすまし顔で佇んでいる姿が綺麗に見えたのか、こちらは女の子の妖精たちに人気なようだ。



「それじゃあ従魔たちも問題ないみたいだし、今日はイェレナさんとこに魔卵の交換をしに行って来るかな。

 今朝、行きがけに話した限りだと、シュルヤニエミ一族の本家にも話は通してくれてるらしいし」



 昨日もそうだったが、今日イェレナは竜郎たちの領地の方でお仕事中だ。

 正直、妖精樹の何を調べているのか竜郎にはさっぱり解らないが、色々と楽しそうに過ごせているらしい。



「もう樹属性の大トカゲちゃんは用意できてるの?」

「ああ。昨日のうちに作っておいた。あとオマケもな」

「おまけ?」



 真っ赤な巨大火蜥蜴を樹属性に変換すると、予想通り真緑の鱗の巨大蜥蜴となった。

 相性的には巨大火蜥蜴の方が強そうだが、パワーや潜在能力値なら同等なので、こちらも強さとしては十分だろう。


 そして竜郎のいうオマケとは、普通の火蜥蜴から作った普通の樹蜥蜴。

 大した手間でもなかったので、引っ越しの挨拶に渡すタオルや洗剤感覚──といったら蜥蜴たちに失礼になりそうだが、これからもよろしくという意味で渡すつもりだ。


 今回はただのトレードなので、他のメンバーは好きに過ごしてもらう事にして、竜郎は愛衣と手を繋いで向かう事にする。



「それじゃあ、行って来るな」

「行ってらっしゃいませ。主様」



 フローラの時とは打って変わって落ち着いたウリエルの笑顔に見送られ、竜郎は愛衣と一緒にお隣さんのシュルヤニエミ一族の土地に足を踏み入れた。



「「こんにちはー」」

「はーい。あらあら、いらっしゃい。2人とも。イェレナから話は聞いているわ」



 イェレナに聞いていた沢山ある中でも本家──ひときわ大きな妖精建築の家のドアをノックすると、イェレナに良く似た女性の妖精に出迎えられた。

 彼女はイェレナの母、マリッカの祖母にあたる人らしい。

 挨拶もそこそこに直ぐ中へと招かれた。そうして通された先で待っていたのは、イェレナの父でこちらも見た目は非常に若い男性の妖精。

 イェレナどころか、マリッカの祖父だと言われなければ、絶対に兄弟か何かだと思っただろう。



「おおっ、まっておりましたぞ。タツロウ殿、アイ殿」



 名家だと聞いていたが、変に格式ばった所も無く朗らかな雰囲気で出迎えられて、竜郎たちも肩の力を抜きながら挨拶を返し、促されるままに客間のソファーに腰かけた。



「それで本日は魔卵の交換をしに来たということで良いんでしょうかな?」

「はいそうです。それでさっそくですが、こちらが僕らが用意した魔卵です」

「ほお。ヨルンの時と似たような力を感じますな。確かに亜竜で間違いなさそうですぞ」



 現物を見て改めて納得してくれたイェレナ父は、イェレナ母に言って4つの魔卵を持ってきてもらい、それを竜郎たちの目の前に並べてくれた。

 調べてみると確かにイェレナが連れていた従魔2種と同じ姿形の魔物で、その雌雄両方を用意してくれた事が解った。

 双方求めていたものを手に入れたので、特に時間もかけることなくあっさりトレードは終了した。



「それと、こちらも良かったらどうぞ。近所にやってきた挨拶と、イェレナさんにはお世話になっているので、そのお気持ちとしてお受け取りください」

「ん? これはなんの魔卵ですかな?」

「亜竜ではないただの樹蜥蜴の魔卵の雌雄です。亜竜は懐かせにくいとの事でしたので、こっちなら需要も多いのではないかと」

「それはありがたいのですが、ほんとうによろしいので?」

「ええ。その為に用意した物なので」

「さようですか。ならありがたく頂戴しましょう。ですがならば、こちらからもイェレナがお世話になっている礼をしなくてはなりませんな」



 こちらの物はあっさりと受け取って貰ったのに、こちらが逆に断るのは失礼かもしれないと断りの言葉を飲み込んで竜郎は頷いた。

 そうしてまたもイェレナ母に持ってきた貰ったものは、1メートル半ほどの細い木が植えられた、直径40センチ程の植木鉢。

 それを机の横の見えるところに置くと、さらに竜郎たちの前にイェレナ母が木箱をそっと置いた。



「この木になる実を使うと、こういう物を作ることが出来ますよ。是非、食べてみてくださいな」



 イェレナ母が木箱の蓋をとると、中には薄緑色の大きい飴玉サイズの球体が数個収まっていた。

 食べてくれと言われたので、竜郎と愛衣は一瞬目を合わせてから、どちらからともなく一粒ずつ抓んで、色合いから抹茶的な味がするのだろうと口の中に放り込んだ。

 しかし、それを舌の上で転がすと表面が溶けて甘い味が口の中いっぱいに広がっていくではないか。間違ってもこれは抹茶ではなく、その味はまさに──。



「「チョコだ!」」

「チョコレートとは少し違うのですが、味は似ていますし、そちらの方が美味しくないですかな?」



 チョコレート。それはこの世界の地上でも百貨店に行けば、少し他の菓子類よりもお高いが普通に売っていた。

 2人もお金に余裕が出来てからこの世界のチョコを食べてみたが、日本で食べたチョコと同じくらいの良質な味だった。

 なので文句など一つもなかったのだが、この謎の緑チョコを一度でも食べてしまうと不満に思ってしまうだろう。それくらい、これまで食べたどのチョコよりも美味しかった。


 もちろん竜郎や愛衣も量産品のチョコ以外にもお土産でもらったり、偶に親が奮発して購入してきた高級チョコなんかも食べたことはある。

 だが、間違いなくこちらの方が美味しいと言える。


 竜郎と愛衣が幸せそうに頬を緩めて味わいながら、かみ砕かずに舌の上で転がして飴のようにジワジワと溶かして食べていく。

 その年相応の反応を、イェレナの父と母は微笑ましそうに見守っていた。



「この小さな木を育てれば、これが作れるようになるんですか?」

「この木は大きくなると沢山の実を付けます。それを使えば確かに作る事は出来るでしょう」

「その……作り方を教えて貰ったりとかは……」

「基本的な工程はお教えいたしましょう。ですが、この特別な緑チョコの作り方は我が一族の秘伝なのでお教えできませぬ。

 なので基本的な所から、自分たちの発想で新しいチョコを作って頂きたい。

 我々はもうこれが最高の作り方だと思っているが、もしかしたら他の作り方──妖精郷の外のものも一緒に使う事で、より美味しい物が生まれる可能性もありますからな。

 それで、これを貰っていただけますかな?」

「えっと……いいんですか? 実はけっこう珍しい物だったりしません?」

「我が一族にとっては、そう珍しい物ではありませんな。

 この木の作り方も知っていますし、増やすのも容易ですから気にしないでいいですぞ」

「ああ、そうなんですね。なら、ありがたく頂戴いたします」

「ああ、ただ。この木、またはこの木から増えた木や種を、タツロウ殿とその家族以外に譲渡しないでいただきたい。これは我が一族だけが持つ木ですからな。

 もちろんチョコにしてから誰かに渡したり売ったりするのは、一向に構いませぬが」

「お約束いたします。たとえ増やしても僕やその家族以外には渡しません」



 こうして緑チョコの木を竜郎は手に入れた。

 そしてついでにこの木の来歴も尋ねてみると、結構凄い物だった事が判明する。


 まずこの木は元々チョコ風味のする美味しくない実を付ける木だったのを、イェレナ父の祖父の父が妖精郷にある他の木と合成したり、品種改良に品種改良を重ね、独自の理論で作り上げた傑作品らしい。


 そんなに大変なら普通にこの世界のカカオの木を美味しくすればいいのでは、と思うかもしれないが、半ば趣味のようなモノだったらしく効率は求めていなかったそうな。

 そうして出来上がった緑チョコは、普通にカカオから作るチョコよりも簡単に、普通に地上の百貨店などで市販されている量産品のチョコよりも美味しく出来るようになり、祖父の父はそこで満足した。


 だが今度はその息子。イェレナ父の祖父が、もっと美味しくできないかと緑チョコを研究し、既存のチョコを凌駕する最高級緑チョコを作りだすことに成功。

 それからその最高級緑チョコは妖精郷では王室御用達で、庶民も奮発すれば買える程度の値段で購入できるようになる。

 またエーゲリアやイシュタルもその緑チョコを好むので、竜大陸にも少しだけ流通していて、まさに妖精郷と竜大陸の一部でしか存在しない幻のチョコとなった。



「ほんとに凄い木ですね。えっと……何か困った事があったら相談してくださいね。

 出来る限りお力になりますから」

「ほっほっほ。それはありがたいですな。亜竜の事で相談する事もあるでしょうし、これからも娘や孫ともども仲良くやっていきましょうぞ」

「はい。是非に」



 竜郎とイェレナ父はがっしりと握手を交わし、ふと目が合った愛衣とイェレナ母も同じように微笑みながら握手を交わした。


 それから竜郎たちは緑チョコの木をしまうと、今度は他のテイマーを多く輩出している一族について語れる範囲で詳しく聞いていく。

 聞いた限りでは属性縛りだけが多い印象を受けるが、一部の一族は属性プラス魔物の形態まで選ぶ必要がある所もあるんだとか。

 例えを適当に出すと、火属性であり尚且つ馬の魔物のみ相性がいい──だとか、水属性であり尚且つ鳥型の魔物のみ相性がいい──みたいなことである。


 だが相性の幅が狭い分、テイム契約による容量は少なく済むので低レベルでも強い魔物を従魔にできたりもするようなのでメリットもちゃんとあるようだ。



「だいたい種類に困っているのは、そういう一族が多いですな。

 さすがに何十種類も──というのは大変ですが、それでも2種類くらいは候補が欲しい所ではありますからな」

「ほうほう。でもその辺も僕らなら何とかできそうですね」



 竜郎のスキルを使えば属性は何でもクリアできるので、相性のいい形態の魔物を探せばいいだけなのだから。



「それは羨ましいですな。ですがそう言う事なら、ニカノロフ一族の所に是非行ってもらいたいところ」

「そうなんですか?」

「ええ。実はあそこの家は今──」



 ニカノロフ一族。この一族もシュルヤニエミ一族のようにテイマーの素質を持った子が生まれやすい家系だ。

 相性のいい魔物は猿型で尚且つ生属性というもので、1種類だけ見つけて繁殖させていたのだが、現在様々な要因が重なって雄ばかりを数頭残すだけとなってしまい、魔卵を生めない状態になっているんだとか。


 しかもその魔物。既に地上にも妖精郷の森にも存在しない絶滅種らしく、今では新たにメスを探して育てる事も出来ずに、このまま次世代に残す相性のいい魔物は諦めるしかないのでは……と問題になっているそうだ。



「それは助けてあげたいですね。その絶滅種の魔物も気になりますし」

「おおっ、そうですか。なら紹介状を渡すので、それを持って暇な時にでも会いに行ってくだされ」



 本当は魔卵トレード交渉も、イェレナの一族だけを最初にやって、後は全部終わらせてからのんびりするつもりだった。

 けれどそのニカノロフ一族は、新世代に渡すための魔卵が手に入らずに困っているのだという。

 リアの方ももう少しかかりそうだと聞いているので、ここは予定を一つ追加して、今度はニカノロフの一族を訪ねる事にしたのであった。

次回、第563話は9月5日(水)更新です。

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