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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十編 妖精郷

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第561話 妖精郷での採集

 また新たにやって来た人たちを見つけた妖精たちは、なんだなんだと好奇心旺盛に目を輝かせてやってくる。

 妖精や小妖精の子供たちは特にそれが顕著で、遠慮なく近寄ってきては話しかけてきてくれる。

 それに極上蜜(普通)で昨日の夜に作っておいた小さな飴を渡していくと、もの凄くいい笑顔で元気いっぱいに「ありがとぉ~!」と皆お礼を言ってくれ、竜郎や他の面々もホッコリした──とある1人を除いては……。


 別に口に出して言っているわけではないのだが、いつもはロマンスグレーな雰囲気で落ち着いている爺やが、今日はそわそわそわそわと落ち着きがない。

 今も自分だけでもジャンヌ城を見に行ってしまおうかと言う誘惑から、何とか抗っている状態だった。



『早く行ってあげよっか』

『だな』



 そこで竜郎はいつの間にか大人たちまで列をなし始めた妖精たちに苦笑しながら、大量の飴をフローラとランスロットに渡した。

 この2人なら妖精に近いので、他の面々よりも初見で打ち解けやすいだろうという人選だ。



「まっかせてー♪」「了解したぞ! マスター」



 2人も快く請け負ってくれたので、竜郎たちはその場を任せてジャンヌ城まで歩いていった。



「お……………………おぉおおお………………。これぞ楽園…………」

「楽園て……」



 わざわざ空を飛ばずに歩いてやって来る道中、初見は近くで見たいからとずっと下を見てやってきた爺や。

 竜郎に視線を上げるように言われて、真正面から開けた竜郎たちの土地一面を地上から視界に収めた──その第一声が、それである。

 竜郎が思わず小さな声で突っ込みを入れたが、爺やは目の前に光景に夢中で全く気が付かれなかった。


 爺やは、さっそく遠巻きにそれぞれ細かい所に目を向けていく。

 まず見たのは手前に建つ大人サイバージョンのジャンヌ支店と、子サイバージョンのダンジョンの入り口を守るジャンヌ庫が見つめ合う姿。

 そしてなんだか絵のようなものが描かれた芝生の先には、一番大きな聖竜状態のジャンヌ城。

 爺やからしたら、この地だけで違ったパターンのジャンヌ像を3つも拝めるジャンヌパラダイスと化していた。


 もっと言うのなら、ここを聖地として認定してしまったのかもしれない。

 もの凄く穏やかな顔で微笑み、手を合わせて拝み始めているのだから……。



「爺や。地上から見るのもいいが、空から見るとまた違った風に見えるぞ」

「むっ。さようでございますか? では、失礼して──」



 爺やは背中の天使の翼をはためかせ、馬のような下半身で宙をかけるように空へと飛んで行く。

 それに竜郎たちもついていくと、「こっ──これはっ!?」と、芝生絵とジャンヌ城、ジャンヌ支店、ジャンヌ庫全てを視界に収めて感動にむせび泣いていた。



「この──この絵はどなたが──」

「デザインはリアだよ。あとは俺がソレを芝生で再現したんだ」

「リア様……貴女は──────天才ですか!? いえ、天才ですね!!

 ジャンヌ様の御像があることを考慮された草の絵画と言っても過言ではないでしょう!」

「あの……もう、そういうのは昨日でお腹一杯なんで──」

「そして──」



 リアが話を切ってしまおうとするも、話を被せられてどこがどう素晴らしいのか。

 懇切丁寧にデザイナーのリアに語りながら絶賛してくれていた。

 だが。最初は恥ずかしそうにしていたリアも、ずっと聞いているとくどくなってきて、まるで死んだ魚の様な目になっていた。

 なのでジャンヌが割って入って止めさせた。


 リアはジャンヌに抱きついて、ありがとうございます! と礼を言うと、ジャンヌは「ごめんね、うちの子が……」と少し申し訳なさそうに鳴いたのが印象的だった。




 そんな一幕がありながらも芝生の上に座って、豆太に乗って駆け回る彩人と彩花、竜王種の幼竜と、その傍系の幼竜達4体が子供の妖精たちと遊んでいるのを見つめて寛いでいると、飴を配り終えたフローラやランスロットも合流した。



「では、私は奈々と一緒にお城に行ってきますね。研究所に行くための許可証を貰ってきます。もう用意して貰えているはずなので」

「ああ、解った。リアも奈々も気を付けてな」

「はい」「はいですの」



 全員揃ったという事で、今日はリアと奈々とは別れて行動する。

 そして竜郎たちは、妖精郷ならではの素材収拾に出かける事にする。


 しかし爺や、フローラはジャンヌ城やジャンヌ支店、ジャンヌ庫などを見て回り、何が必要か、どれだけ小天使や小悪魔、人型ゴーレムが管理するのに必要か、などをカルディナ城を管理してくれている爺や達の目で調べて貰う予定となっているので、この2名もお留守番だ。



「それじゃあ爺やたちも頼ん──」

「おまかせくださいっ!」

「お、おう。あんまり気張りすぎない様にな──って、もういない……。

 フローラ。あんまり爺やが暴走しすぎない様に見張っておいてくれ」

「りょーかいだよー♪ ご主人様たちも頑張ってきってねー♪」

「ああ。なんかお土産でも有ったら持ってくるよ」

「あはっ。たのしみー♪」



 終始明るいノリのフローラに見送られ、竜郎達は透明管に入って妖精郷の湖を越えた北部へと移動していった。




 移動した先は綺麗に整備された芝生も無ければ、妖精の住んでいる木の家も無い、ただただ大自然が広がる森だった。

 森の入り口までは透明管が通っていたが、そこから先は無いので自分たちの力で進んでいくしかない。

 だがある程度力の付いた妖精なら、この森を飛び回れるくらいの脅威度なので散らばって探索しても大丈夫だろう。


 と言う事で今回は珍しい素材取集を目的としているが、森林浴も兼ねて各々好き勝手に森の中を探索して貰う事にした。

 もし誰かが迷子になっても竜郎の《完全探索マップ機能》で探し出せるので、そちらも問題ない。

 竜郎はいつもこういう時は一緒なので、たまにはと天照と月読にも自由行動を取る様に言って杖を手放しコートを脱いだ。

 そして装備なし状態で愛衣と、そして幼竜4体と一緒にピクニック気分で森へと入っていった。



「キュッキュ~!」

「キュュー……」

「ギャギャゥー」

「ギャーゥ」

「あんまり離れるなよー」



 ヴィント種のヴィータとその弟分アヴィー。ソルエラ種のソフィアとその妹分のアリソン。

 そんな幼竜組が先陣を切って竜郎たちの前を進んでいく。

 初めてみる森に少し臆病な気質のあるアヴィー以外は、興味津々といった様子ではしゃいでいる。



「この辺には今のところ魔物はいないんだよね?」

「ああ。ちゃんと調べてるからそれは大丈夫なんだが、ぶっちゃけこの子達なら普通の魔物くらい自力で蹴散らせそうだ」

「まー、ちっこくても竜の王様やってる人と同じ種族だからねぇ」



 話していたら少し興味がわいたので、竜郎と愛衣が見守る中で魔物を一体ひっかけて戦闘して貰ってみることにした。

 竜郎が解魔法での探査で手頃な魔物を見つけると、闇と呪魔法による幻覚で弱そうな獲物に扮した闇の塊を走らせおびき寄せる。


 やってきたのは全長1メートル半程のサイズで、くちばしが岩のようにごつごつとした鳥の魔物。

 それがゆったりとした飛行で獲物だと思っていた闇の塊を大きな両足でガシッと掴んだと思えば、幻覚は解けて目の前に4体の幼竜がいる事に初めて気が付いた。



「──クィェーー!!」



 自分よりも小さい4体の幼竜を前にしても、相手は子供と見くびらずに空へと逃げようとする鳥魔物。



「キューー!」



 しかし幼竜一のやんちゃ坊主ヴィータが物怖じ一つしないで、鳥魔物の周囲に乱気流を巻き起こしながら、自身は風の補助も借りて素早く飛んで右上から叩き落とすように竜巻を身にまとい回転体当たり。

 鳥魔物は乱れた気流に翼を取られて上手く飛べなくなった所に、体の大きさ以上の力でぶつかられ地面に強く体を打ち付けた。



「キュゥ!」

「キュ~!」



 すかさず弟分のアヴィーに合図を送り、2体で鳥魔物の周囲をクルクルと飛んで《風爪襲撃》という風の爪の斬撃を飛ばしてダメージを与え地面から離れられないようにする。



「「ギャゥー!」」



 そこへいつの間にか鳥魔物を挟みこむような形で回りこんでいた、ソフィアとアリソン。

 その後ろ足よりも大きく太い前足に圧縮した土を纏わせてグローブのようにし、ナックルウォークで握った拳を地面に叩きつけるようにして四足歩行で突撃していく。


 その瞬間を見計らってヴィータとアヴィーが攻撃を止めると、鳥魔物の目の前で2本足で立ち上がり、走った勢いそのままにソフィアとアリソンは2人同時にプレスするかの如く右こぶしを振りぬいた。



「──ギィェ」

「「ギャゥギャー!」」



 キツイ一撃をお腹と背中の辺りに貰って苦悶の声を上げながらも、それでも空へと逃げようとする鳥魔物に向かって、右こぶしを引き戻すと同時に左拳を前に出してまた殴る。

 2撃目には耐えきれずに鳥魔物が崩れ落ちた所で、空からヴィータとアヴィーも突撃し、4体で一斉攻撃。

 それで鳥魔物はあっけなく蹂躙されてしまった。そうして死んだ鳥は、4体に新鮮なうちに貪られていく。



「うわぁ……凄い光景。正に弱肉強食って感じ。

 にしても圧勝だったね。なんてゆーか、この子たち戦い慣れてる?」

「しょっちゅうニーナや蒼太と一緒にいるみたいだし、そこで戦いかたなんかを教えて貰っているみたいだぞ?」

「へー、そーなんだ。ニーナちゃんもすっかりお姉ちゃんだねぇ」



 竜郎はニーナや蒼太が弱らせた魔物を使って、狩りの訓練をしていると他の眷属たちに聞いたことがあった。

 そうやって4体での連携や敵に対しての注意の引き方、殺し方などを実地で学んでいるようだ。


 あっという間に骨になった鳥の魔物の死骸を一応回収し、主に口周りが血まみれになっているヴィータたちを水魔法で洗って綺麗にすると、再び森の散策を再開した。


 道中、何度かヴィータ達の食事兼戦闘を見守りながら探索していると、さっそく目的のものを発見した。

 それはこの地ではリザンティエと呼ばれる、ジギタリスという地球にある花によく似た釣鐘状の花を連ねて咲かせる植物で、はなびらの色は綺麗な薄青色だ。


 この花の部分を加工すると、以前ダンジョンで手に入れた魔力回復薬のようなものが出来るんだとか。

 また草の部分を加工すれば、生魔法を使わなくとも傷を一瞬で治す薬も出来るらしい。


 まさに一つで二度おいしい妖精郷固有の植物だ。

 それがここには数十本規模で咲き誇っていたので、そのうち何割かを採集させてもらう事にする。



「おっ、ありがとう。ソフィア」

「ギャゥ~~♪」

「アリソンちゃんもね」

「ギャゥ♪」



 竜郎が土魔法で根っこごと丁寧に抜き取っていると、それを見ていた土に愛されし竜王種でもあるソフィアとアリソンが、見よう見まねで掘り返すのを手伝ってくれた。

 ヴィータとアヴィーも何かした方がいいかもと思ったのか、心地良いそよ風を吹かせてくれたので、そちらにもお礼を言いながら4体の頭を2人で撫でてあげた。


 幼竜達のおかげで直ぐに十分な数を採集できたので、今度はまた別のものを探しにいく。

 暫く森をのんびり散策していると、目的のものをまた見つけた。



「おー。ほんとに空に浮いてるね。たつろー」

「実際にはの部分が透明で見えにくいってだけで、浮いてる訳じゃないんだけどな」



 それはリヴィッシューと妖精たちに呼ばれているキノコの一種。

 間近で見ないと解らないくらい透明の柄が樹の幹に張り付いて、薄茶色の傘を持っているので遠目には傘だけが浮いている様に見えるのが特徴的だ。


 リヴィッシューは滋養強壮にも効くうえに、非常に美味しいと言われているもので、食べ方は地球で言うシイタケのような感じで料理に使えるらしい。

 生のものは焼いてよし、煮てよし、揚げてよし。干したり、出汁にしたりすることもできるので、妖精郷ではポピュラーな食材となっている。

 だがこれも妖精郷固有種のキノコなので、この地から出てしまうと入手はかなり困難になるんだとか。

 なので外に見識を高めに行った妖精たちは、この味を恋しがっている者も多いだろうともプリヘーリヤが言っていた。


 それを聞いた竜郎は、これは栽培し将来的には地上でも当たり前に食卓に出てくるようにしたいものだと思ったようだ。



「ならマリッカさんも食べたがってるかもね」

「かもな。今度会ったら御馳走してあげよう」

「だね! 私はお鍋で食べてみたいなぁ」

「鍋か……。それもいいな。あー腹減ってきた」



 他にも特殊な加工をすると、吸精などによって吸われた生気の回復薬も出来るらしい。

 良いものを手に入れたと顔をホクホクさせながら、他にも聞いていた珍しい素材を探していき、程よい所で探索を終えて皆と合流。

 それから転移でジャンヌ城へと戻っていったのであった。

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