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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十編 妖精郷

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第559話 拠点をつくろう

 やって来たのは、ほんとうに直ぐそこだった。

 妖精樹から歩いて10分程度の場所で、明らかに竜郎たちの為に開けたであろう植物も生えていない剥き出しの大地が広がっていた。


 そしてその近くには周りの妖精家屋(木の家)よりも、ひときわ大きなお隣さん家が数軒並んでいた。



「あの大きなうちは?」

「あれは私たち、シュルヤニエミ一族の土地と家々よ。妖精樹に近い所の方が管理しやすいでしょ?」

「ああ、そういうことですか。確か由緒正しい一族だって言ってましたしね」

「ってことは、こっちでもイェレナさんとはお隣さんだね! よろしくね!」

「ふふっ。ええ、よろしくね、アイちゃん。ちなみに手前から2番目の家が、マリッカちゃんの実家よ」

「へー! マリッカさんもご近所だ。って言っても、ここには今は住んで無いけど」



 知っている顔が近くいた方がいいだろうと言う配慮もしてくれたようだ。

 それから正確な土地の広さを地図付きで教えてもらうと、かなり広かった。

 こんなにいいのかと聞くと、妖精郷と言う空間は妖精樹の成長と共に拡張され続けているので、土地には全く困っていないらしい。

 なので妖精樹から徒歩10分と立地条件は非常にいいということ以外は、土地というものはそれほど貴重ではない様だ。


 これならカルディナ城に匹敵するジャンヌ城を建てた上で、別途お店や広い庭も作ることが出来そうである。



「ここにしたのはぁ、皆が集まりやすい妖精樹から近い場所にダンジョンの入り口を開いてほしい~ってのもあるんだけどねぇ」

「けど子供たちは入れない様にしておいた方がいいですよね」

「そうねぇ。やんちゃな子もいるしぃ、勝手に入ろうとする子もいるかもしれないからぁ」

「ならダンジョン用の建物を作って、その中に入らないと行けない──みたいにするのがいいかもしれませんね」

「そう言う事なら、見張りの人員はこっちでだすわぁ」

「助かります。それじゃあ、さっそく拠点を建てちゃってもいいですか?」

「えぇ。どうぞー。私たちも見学してていーかしらぁ」

「構いませんよ。それじゃあ、カルディナ達も手伝ってくれ」



 月読の竜水晶系統のスキルを皆で共有すれば、その分頑丈で早くイメージ通りのものが建てられる。



「今回はジャンヌちゃんのお城なんだよね。形はやっぱりサイさんの方?」

「あ──。そういえば《神体化》《真体化》《成体化》《幼体化》とあるが、ジャンヌはどの形態がいいんだ?」

「ヒヒーーン? ヒヒン!」

「どれでもいいよ。だそうですの」

「うーん……。そう言われるとこっちが悩むな。愛衣はどの形態がいい?」

「えー? どのジャンヌちゃんも好きなんだけどなぁ」

「ヒヒーン♪」



 ジャンヌはそう言ってくれる愛衣に嬉しそうに飛びついて、その胸にダイブして頭を撫でて貰う。

 愛衣はよしよしと愛でながら、いい案が浮かんだとばかりに目を大きくした。



「そうだ! お店も建てるなら、お城を《真体化》ジャンヌちゃんの聖竜。お店を《成体化》のサイさんバージョンにするってのはどーかな?」

「あー。それがいいかもな。もしカルディナ城の近くにお店を作るなら《成体化》の鳥の形態の店を建ててもかっこいいだろうし。

 そのシリーズで考えて行こうか」



 ということで、まずはお城作りから。

 建設場所は貰った土地を四角形で表すのなら妖精樹から向かって奥寄り中央で、土地を大胆に使う事にする。

 学校の校舎くらいの規模で、高層ビルくらいの高さにはなるかもしれない。


 しっかりと土台を固めて基礎をリアの指示のもと作っていき、そこへ本体よりも大きな《真体化》ジャンヌ像を建てる感じで一気に竜水晶を生成し形を作っていく。


 足元からどんどん上に上るように、総竜水晶の聖竜の姿のジャンヌが出来あがっていくのは壮観だ。

 見学に来ていたプリヘーリヤや、その他の妖精達も歓声を上げたり口をポカンとあけたりと、面白そうに見学してくれているようだ。



「よし。外観は完成したな」

「はやいのねぇ~。こんなに大きくて頑丈な建築物が直ぐにできちゃうなんてぇ~」

「僕らも色々成長しまして、出来ることも増えましたからね」



 今度は内装に取り掛かるために玄関を作っていく。

 作るのは2か所。2本足で立つ両足の甲が一番入りやすいのだが、どちらか一方だけではバランスが悪い気がしたからだ。

 細かなデザインなどは後でいいので、今は形を整えるのを優先して扉を付けておく。

 そして安全性を考慮した厚さを残して内部を切って収納。もしくは外側部分の水晶に圧縮して強度を高め、空間を広げていく。


 そのまま中に入り、ちょうど中央辺りにまでやって来た。

 《真体化》ジャンヌを模したお城なので、横にも大きいが上により高く伸びる形となっている。

 なのでエレベーターは必須とばかりに中心部に高速昇降機を取り付けて、各階層を作って2階、3階と上に上がりながら内部を広げていく。

 カルディナ城を作った時よりも能力もエネルギーも上がったおかげで、大した時間を掛けることなく数十階建てのジャンヌ城が出来あがった。


 総竜水晶製で頑丈さは言うことなく、ちゃんと外から中が見えない様に加工しつつも、眩しすぎない程度に小さく光を反射して煌めく美しさも兼ね備えた、竜郎自身自画自賛したくなるような美しく堅牢な城に、誰もが目を輝かせて見惚れていた。



「それじゃあ、今度はお店でも作りましょうか。具体的な開店日はいつになるか解りませんが」

「ええ、タツロウ君たちに余裕が出来てからでいーわぁ」



 こちらの建設場所は妖精樹から向かって手前、左寄りの場所に、同じように今度はお腹をぺたんと地面につけた《成体化》ジャンヌの形をした竜水晶の建物を作っていく。

 こちらはジャンヌ城ほど大きくはないが、それでもお店としては十分な大きさを持つ広さで作ってみた。

 今の商品のレパートリーではスカスカになりそうだが、後で小さいから作り直そうとなるよりはいいだろう。


 入り口は妖精樹のある方角から向かって右を向いている、ジャンヌ支店のお腹の辺りに設置する。

 裏側にも付けて、こちらは関係者用の入り口にしておいた。


 内装は商品も置いてないのに決めようもないので、最低限の魔道具が設置できる空間や、区分けだけして作業を終了した。

 一応3階フロアまであって、背中は屋上にもなる様にはしておいた。


 次にダンジョンの入り口を作る。こちらも手前側で妖精樹の方から見てちょうどお店の反対側に位置する場所。

 モデルは子サイバージョンのジャンヌで、小さな丸っこいフォルムの子サイが、お店の大人サイと向かい合うように左を向いてお腹を地面にぺたんとつけた格好で作った。

 お店のジャンヌよりも小さいので離れた場所から見ると、ちょうど親子のサイが見つめ合っているように見えるようになっている。


 こちらは右横腹に入り口を1つだけ作り、そこから以外は中に入れないようにする。

 後はその子サイ竜水晶内部にダンジョンの入り口を開いて、プリヘーリヤなりなんなりが許可を出した者だけが入れるように規制すれば、実力が及ばない者が入る事も無いだろう。


 今必要な建物を一通り建造し終わり、改めて空を飛び少し下がった場所からその辺一帯を俯瞰で見つめてみる。

 するとリアが、直ぐに気になる点を発見したようだ。



「うーん。お城とかお店とかは綺麗ですけど、ちょっと景観が寂しい気がしますね」

「言われてみればそうだな」



 竜郎達様に用意された土地は、どういう風にでも使えるようにと地面には草一本生えていない剥き出しの大地が広がった状態だった。

 他の場所は綺麗な芝生が広がっているのに、ここだけ剥き出しの地面となると、よりいっそうジャンヌ城やジャンヌ支店が浮いて見えた。



「うちにも芝生とか植えたほうが良さそうだね。それとも花で埋め尽くす?」

「花だと踏みにくいからなぁ。だから芝生の方がいいんだろうが、ただ芝生を生やすだけってのも面白くない。

 ふーむ………………花? うん、そうだな。リア、一つ頼みたい事が」

「なんですか? 兄さん」



 そこで竜郎のアイディアを話すと、愛衣は勿論、仲間達や妖精郷の面々も見てみたいと目を輝かせ始めた。

 その様子にリアは自分で本当にいいのだろうかとプレッシャーを感じながらも、頭に思い描いたモノを魔力で作った紙に写して排出する魔道具を取り出した。


 そしてああでもない、こうでもないと数分悩みながら、何枚かの写し紙を出しながら考え込み──ようやく納得のいく一枚を竜郎に見せてきた。


 それを覗き込む竜郎や愛衣、そして他の面々も、これはいいと大絶賛。早く見たいと今度は竜郎に皆が視線で圧力をかけてきた。

 一方リアは緊張感から解放されて、奈々や近くにいた妖精たちと歓談を始めていた。



「よし。それじゃあ、いっちょやってみるか」

「頑張って! たつろー」

「ああ、任せとけ」



 リアが渡した紙をじっくりと見つめ、竜郎は自分の《無限アイテムフィールド》に入っていた芝生の種子を沢山取り出した。

 そして天照が入っている魔力頭脳の杖を起動して、竜郎のイメージ通りに闇と樹魔法で品種改良していく。


 それが終わると今度は竜念動で細かく場所を調整しながら、その種を地面に撒いていく。

 撒き終わったら土魔法で土地一帯に設置された種を、位置がずれないように少し地面の中に埋め込む。

 後は最後に樹魔法で発芽させていき、芝生たちの成長や増殖する向きなどを微細に調整していく。



「「「「「おー!」」」」」「「「「「わーーーーーー!」」」」」



 老若男女問わず空から見ていた全員が一斉に歓声を上げて、眼下の光景に目を丸くする。


 何もなかった剥き出しの大地。今、そこには多種多様な色に改良された芝生で描かれた、美しい花々の模様が描かれていた。

 大地をキャンバス。芝生を絵具に見立てて、リアがデザインしてくれたイメージ画を見事にそこに写しこんで見せたのだ。


 魔力頭脳の計算能力のおかげで、細部にまで完璧に描かれたその光景は、もはや一種の芸術作品と言ってもいいほどの光景になっていた。

 しかも事前に建てていたジャンヌ城、ジャンヌ支店、子サイのダンジョン用の建物まで、空から見た時に芝生絵の一部となるようにデザインされているので文句のつけようもない出来だ。



「いいわねぇ~~~! やっぱりドワーフの感性は並じゃないわ~~!」

「プリヘーリヤ様。ドワーフだからじゃありません。

 うちの妹──リアだからこそ描けた一品です!」

「にっ兄さん! 恥ずかしいですっ」



 胸を張って女王に言い切る竜郎に、リアはやめてと言わんばかりにその裾を引っ張った。

 だがリアにとっての敵は竜郎あにだけではなかった。



「いいじゃん。これをデザインして見せたのは実際にリアちゃんなんだから!」

「姉さんまでぇ~~!」

「ふふふぅ~。兄バカに姉バカなのねぇ~。

 でも確かに、これはドワーフと言う種族ではなく、彼女一個人の作品よねぇ~、とても素晴らしいわぁ」



 そこにあるのは本物だと、リアの事を知らない者達まで凄い凄いと言い始め、リアは奈々の後ろに隠れて顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうにしていた。

 奈々はそれにしょうがない奴ですの。と言わんばかりに苦笑したのだった。




 とりあえず今、やっておきたかったことはやれたので、これからどうしようかと思っていると、プリヘーリヤから妖精郷のお城へ来ないかと誘われた。

 妖精のお城と言うものを一度は見てみたかったので、竜郎たちは二つ返事で了承した。


 場所は竜郎達の貰った土地から北東の方角。

 妖精樹を中心に考えると湖は北。ジャンヌ城があるのは南側で、妖精城があるのは真東といった所らしい。

 距離的にはそこそこ離れているので、さっそく木の上に通っている透明管を使っていくことになった。


 空を飛んで高い木の上にまで行き、入りたい所で手を当てて魔力を通す。

 するとミョ~ンと奇妙な音を立てながら人1人、入れるくらいの穴が開き、そこから中に入っていく。

 さてどれだけ強い風が流れているんだろうかと身構えると、管の中は微風状態。

 これでは小柄な妖精たちであっても運べないだろう。

 竜郎たちがどういうことだ?と首をかしげていると、一緒について来てくれているイェレナが詳しく教えてくれた。



「この中では宙に浮いている人に反応するようになっていて、この中でジャンプしたり飛翔を使って飛ぶと──ほら」

「おおっ。風がピンポイントで強くなってる」



 竜郎が精霊眼で見てみると、仕組みは解らないが管に足を付けている者達は微風のままで、足を離した人に対しては強風が吹きつけるという奇妙な状態になっていた。

 竜郎は試しに重力魔法で浮遊してみると、とたんに風が強くなってぴゅ~っと奥へと押し流されてしまった。



「あははっ、おもしろーい!」



 それを見た愛衣が飛翔のガントレットを装着して空に浮かぶと、同じように竜郎の元へと風に押されて飛んできた。

 それから少し練習して感覚をつかむと、飛べないアテナは子トラ状態になって愛衣に抱っこされた状態で、リアは蜘蛛足の移動補助魔道具で空を蹴りながら、それぞれ管を通る風に押されて妖精のお城へと飛んで行くのであった。

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