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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十編 妖精郷

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第557話 妖精郷への手土産選び

 二人で仲良くデートに出かけたと思いきや、新種の魔王種やら半神級天族、魔族。

 そして神によって鍵がかけられていた神級天魔の真祖などまで作ってきたと言われ、リビングで休んでいたイシュタルに何してきてんの? といった目を向けられてしまった。


 それから気持ちを切り替え竜郎は明日、妖精郷に持っていくお土産について考えていく。

 本日集まった、お土産考案メンバーは竜郎と愛衣、イシュタル。

 そして竜郎の眷属にして妖精の要素も持っている上にイェレナともそれなり親しい、ドリュアスのような植物の足を持つフローラと、ちびっ子妖精少年のランスロットの5人。

 他のメンバーは各々の時間を過ごしている。



「まあ言うてもララネストは鉄板だよね」

「そうだな。いきなり2は刺激が強いし、ララネストで感動できなくなるから止めておいた方がいいだろう」



 ララネスト2は本当に涙が出るほど美味しい食材だが、やはり最初はララネストで感動を味わってほしい。

 そうしなければ人生で感動できる機会を一度失ってしまうと言っても過言ではないのだ。


 そしてイェレナに聞いた所によれば、妖精は妖精樹の実だけで十分生きていけるが、他の食材が食べられないと言うわけではない。

 肉でも魚でも野菜でも、個々で好き嫌いはあれど、基本的に竜郎達が食べられるものなら何でも食べられると思っていい。

 なのでお土産で持っていく食材は、美味しければ何でもいいという方向性で考えていく事にしている。


 ということで簡単に一つ目は決まった。



「そういえばタツロウは最近、牛の魔物の養殖も始めたんだんじゃなかったか?

 以前食べたあの牛の肉は美味かったぞ」

「ああ、あの白牛な」



 以前、竜太陸で戦った偽神種の魔物が生み出した白い牛。

 竜郎はあの牛の魔卵を作って、密かに《強化改造牧場》に牛牧場を作っていた。

 今はまだ規模もそれほど大きくないので偶に自分たちが食べるように数頭屠殺する程度で留めているが、いずれは外にも牧場を作って乳製品などにも手を出したいとも考えている。



「《強化改造牧場》内で順調に魔卵も産んでくれてるし、ララネスト程じゃないが肉としてはかなり美味い。

 あとで何頭か絞めて、いいところを持っていこうか」

「ロースにカルビ、ザブトン、シャトーブリアン……じゅるぅ、私も食べたくなってきちゃった」

「じゃあ、今日は焼肉にでもするか」

「うん!」



 こうして2つ目も決まっていく。ちなみに鶏や豚も似たような魔物の死体を持っていたので数種魔卵を作って食べてみたが、舌の肥えた今の竜郎たちが納得のいく味を出す魔物は今のところいないので今回は見送りだ。



「いずれは見つけてみせる!」

「肉は大事だからね! お母さん、鶏肉大好きだし!」

「うちも皆、好きだしな。そこら辺は是非探しに行こう。

 あとお義父さんは肉は大丈夫だよな?」

「え? お父さん? 何でも美味しい美味しい言ってるイメージしかないなぁ。

 なんのお肉が好きなんだろ」

「もっと関心もったげて! お義父さん泣いちゃうぞ!」

「お、おう……」



 などと2人で盛り上がっていると、イシュタルがおずおずと手を上げる。



「うちの帝国にも是非、輸入してほしいのだが……」

「もちろんOKだ。イシュタルが許可してくれるのなら、うちの直営店を建ててもいいかもしれないな」

「それはいいな! 私も出来る限り協力しよう」



 輸送はいちいち竜郎がやらなくても、今後繋がれるリアが発明した転移魔道具で解決するだろうし、トップが信用できるイシュタルなので、こちらとしても安心だ。

 密かに妖精郷にも直営店を建てられたらいいなとも思っている竜郎からしても、竜大陸にも販路を広げられるのはなかなかに魅力的な案だった。


 実は今回のお土産は、もちろん歓迎してくれる事へのお礼でもあるのだが、こういうものがありますよという宣伝も兼ねていたりする。

 だからできるだけ色々なものを用意して、向こうの反応も見てみたいのだ。



「そこでララネストに次ぐ珍しいうちの特産品、極上蜜の出番なんだが、今回はこのバラ美ちゃん達から取れる蜜だけで作った特別な極上蜜を試食してみたいと思う」

「おー、遂に量産できたんだね」



 バラ美ちゃんは竜郎の眷属で、バラに似た植物の魔物だ。その元となった蜜を直接飲ませて貰ったことがあったが、それは非常に香り高い蜜だった。

 なのでバラ美ちゃんのスキルでもある株分けをつかって《強化改造牧場》内で増やしていき、今では大量に増えてきている蟻蜂女王と同じ区画に住んでもらい、その蜜だけで作った極上蜜を──と着実に量産体制を整えてきた。

 そして、ついに大量にその蜜を手に入れることが出来るようになったのだ。


 竜郎はその特別な極上蜜の入った大きな竜水晶製のビンを取り出して、その蓋をあける。

 するとそれだけで、非常に香しい花の香りが周囲に漂い始める。



「なんだか美味しそーな匂いかも♪ フローラちゃんも早く食べたいな♪」

「美味しいのなら我も食べてみたいのだ!」

「ああ、沢山あるから問題ないぞ」



 人数分のスプーンと皿をフローラに用意して貰い、その上に蜜を垂らしていく。

 全員にちゃんと行き渡った事を確認すると、いよいよスプーンを手に持ち蜜を掬って顔の前に持ってくる。

 それだけで濃密な香りが鼻に入り込んでくる。期待が高まる中で、全員が同時にそれを口に運んだ。



「「「「「────!?」」」」」



 その瞬間、5人に衝撃が走った。



「ぐぇっ!?」「べっー!?」「むぐぅっ──」「美味しー♪」「みぎゃー!?」



 竜郎が感じたことを文章で表すのなら、まるで香水を口の中にぶち込まれたかのよう。と表現するところだろう。

 味云々の前に、これでは臭いの爆弾だ。とてもではないが人が口にしていい代物とは思えない。

 すぐさま流し台に駆け込んで、4人は水で口をゆすいだ。



「な、なんじゃこりゃ!? 食えたものじゃないぞ」

「ねー。なんか美味しい通り越して苦い? 臭いのせいでそう感じるだけ?」

「いや、味も恐らく我々の舌には合わなかったと思うぞ。

 なんというか……甘苦しょっぱい? 複雑すぎて良く解らない味だった」

「マスター。我も流石にあれはきついのだ……。妖精たちに、これを出すのは止めておいた方がよいぞ」

「みたいだな──と言いたいところだが、一人だけバクバク食ってるやつがいるんだが……」

「うまー♪ うまうまー♪ 御主人さま! これサイコーだよぉ♪」



 竜郎たちはまだ鼻が馬鹿になって舌がピリピリしているというのに、フローラただ一人だけは心から美味しそうに自分の分の蜜を平らげ、他の4人がいらないと見るやそちらの分まで手を出していた。



「えーと……なんで? 本当に美味しいの? フローラちゃん?」

「さいこーだよぉ? なんでまずいの~? うまうま♪」

「これは恐らく、植物の要素が多いからかもしれないな。

 タツロウの従魔でもある蟻蜂女王達はどんな反応だったんだ?」

「いや。普通に自分たちの食料としても食べていたみたいだぞ?

 だから少なくとも嫌ってはいないはずだ。不味かったら別の物を欲しがるだろうし」

「フローラ姉上の味覚は普段作っている料理からしても真面まともなはずであるから、やはり種族的な好みと言ったところかもしれないぞ、マスター」

「種族ねぇ。ってことは虫さんとか植物系の子達なら、美味しく感じるのかもしれないね」

「いい案だと思ったんだが、ニッチな商品になりそうだなぁ」



 この世界にはフローラのような植物の魔物から人間になった人たちもいれば、昆虫系の魔物から人間になった人もいる。

 そう考えればまったく需要が無いわけではないだろうが、それでも一部の人達にしか受けは良くない様で少し残念だった。

 けれどそんな竜郎を見て、フローラが改めて思った事を口にしてくれた。



「ん~確かにこれは人を選びそーだけど、バラ美ちゃんパイセンの蜜のやつと他の花の蜜をブレンドすれば、ご主人様たちでも美味しく食べられると思うな♪」

「そうなのか? 私には、これが普通に食べられるようになるとは思えないのだが……」

「それじゃあ、試しに普通の極上蜜とブレンドしてみたらどーかな♪

 フローラちゃんの考えが間違ってなかったって解ると思うよ♪」



 ならばやってみよう。竜郎は普通の極上蜜を取り出して、新しくフローラが用意した皿の上に垂らしていく。

 そしてバラ美ちゃんの蜜のみで作った極上蜜──略称バラ蜜をフローラが止めるまで少しずつ流し込んでいった。


 だいたい極上蜜とバラ蜜の比率が4:1くらいに混ぜ終わった所で、フローラがスプーンで蜜を掬って味見してみる。



「うん♪ 完璧♪ さっすがフローラちゃん♪」

「自分でそこまで言うという事は、そうとうフローラ姉上は自信がある様だな」

「もちろんだよ、ランスちゃん」

「ちゃん付けは止めてくれと言っているだろう!」

「そーだっけ?」



 などと姉弟でじゃれ合っている間に、竜郎たちはスプーンでブレンド極上蜜を掬って口の前に持ってきた。

 ランスロットもそれに気がついて慌てて自分の分を掬い、皆と一緒に味見してみた。

 すると──。



「「「「「──あ」」」」



 普通の極上蜜でも花の香りが後味と共に鼻から抜けていく感じがあったのだが、これは口に入れた瞬間に花の香りに口内が包まれる。

 けれど先ほどと違って暴力的な臭いの爆弾ではなく、やや強くは感じるものの、それがまたこの蜜の個性という範囲に収まっていた。


 これらの感想を纏めると、甘さは少し控えめになったが、これはこれで美味しい。という結果になった。



「料理や使うものによって、蜜の種類を使い分けるといいかもしれないな」

「個人的には、こっちのパイセン蜜ブレンドの極上蜜は紅茶とかに入れると美味しいかも♪」

「あっ、いーねそれっ! 飲んでみたい!」

「そう言うと思って、既に用意してまーす♪」

「本当にノリが軽いと見せかけて細かな所にまで気の利く娘だな。私のメイドとして欲しいくらいだ」

「ふふーん♪ フローラちゃんはご主人様にお仕えしてるから無理だよ♪ ごめんね♪」

「ふっ、気にするな。言ってみただけだからな」



 さてフローラが入れてくれた、この世界の紅茶に砂糖代わりとして、このブレンド極上蜜を入れていく。



「おー! これは美味いぞ、フローラ姉上! 我は寧ろ砂糖や普通の極上蜜を入れるよりも好きかもしれぬ!」

「ほんと、なんか紅茶っていうよりハーブティみたーい。これはこれでいーかも」

「ああ。これなら沢山の人が受け入れられそうな味だ。美味いな……」



 紅茶の持っていた香りと蜂蜜の香りが絶妙に混ざり合い、新たな飲み物に昇華させていた。

 聞けば、この紅茶の種類の選定もフローラが自分の記憶にある味からどれが一番合いそうか選んだものらしく、彼女のその舌の正確性に改めて感心させられた。

 そして今後、料理関係の相談はフローラも交えてすることにしようと思った瞬間だった。



「よし。今日からフローラを料理部門の部長に任命する」

「え? ぶちょー? なにそれーおっもしろそー♪」

「まあ、役職なんてのは今のところないから深く考えなくてもいいんだが、こういう食材や料理に関して色々とアドバイスをして欲しいって事だな」

「おー♪ やるやるー♪ フローラちゃんにおっまかせー♪」



 本人も大分ノリノリな様子なので、これからも遠慮なく相談していこうと思った竜郎なのだった。



「これなら妖精郷へのお土産に出せそうだね」

「ああ。普通の極上蜜と、こっちのブレンド極上蜜の2種類もお土産の中に入れておこう」



 他には米食文化の無い妖精郷の人達に米を広げようと、リアが作った精米機ならぬ砕米機で普通のお米サイズに均等に砕いたものを袋に詰めて、こちらもお土産の中に入れていく。



「将来、日本のお米も植えてみるのもいいかもしれないな。魔法栽培なら米作りも簡単に出来そうだし」

「米農家の人が聞いたらパンチされそーだね」



 後は普通に様々なフルーツの詰め合わせ、ララネストの殻の粉末で作ったお煎餅。

 そんなものたちを用意していき、決まったお土産たちを大きな箱に詰めていく。



「これだけあればいいだろう」

「いや、むしろ多くないか……?」

「そうなの? イシュタルちゃん」

「まあ、タツロウたちにとっては試供品も兼ねているのだろうから、それでもいいのか」

「そういうこったな。色々と妖精たちの味の好みとかも知っておきたいし」



 食とは人生において必ず必要になる物だ。そこを上手くつくことが出来れば、より親密な関係を妖精たちと築くことが出来るだろう。


 そうしてお土産セット作り上げると、もう時間は夕飯時。

 リアや奈々に連れられリビングにやって来たので、そのまま食事の時間に変わっていき焼肉パーティを楽しむと、そのまま解散となった。




 夕食を取り、一服した後でお風呂に入りさっぱりした竜郎と愛衣は、2人でベッドに寝そべりゆっくりしていた。

 そんな時、竜郎はふと閃くことがあり、上半身をむくりと起こした。

 そして改めて、バラ蜜の極上蜜が入った水晶瓶を取り出した。



「どったのたつろー。そんなの出して」

「いや、ちょっとな」



 それを少しスプーンに垂らして、小さな火魔法であぶっていく。

 すると部屋の中に花の香りが充満していく。



「おー、アロマキャンドルみたい!」

「ちょっとこのままだと強すぎるから、風魔法で上手く散らしてるんだけどな。

 この辺も調整次第で、そういう商品が作れるかもしれない──とまあ、これはオマケだ」



 加熱して水分を飛ばした蜂蜜に、今度は氷魔法を使って冷やして飴のように固形にする。

 それを小さく数ミリサイズに割ると、口に放り込んだ。



「むぐっ──これでも結構きついな……」

「飴ちゃんにするなら、極上蜜の方でやればいいのに」



 臭いの強さに竜郎が眉をひそめる姿を見ながらそう言うが、自分も竜郎から小さな欠片を受け取って口に放り込んだ。



「むー。やっぱ美味しくはないね」

「ああ、だが──。愛衣、もう全部食べちゃったか?」

「うん。小っちゃかったしね。それが──むぐ」



 愛衣の話を聞き終わる前に竜郎は、その唇に自分のそれを押し当てた。

 そしてそのまま深いキスを交わしていき──暫くした後に唇を離した。



「どうだ?」

「なんか──チューがめっちゃ爽やかになってる!?」

「だろ。これ、口臭ケアにも使えるんじゃないか?」



 普段から、しょっちゅうキスをしている二人は割と口臭ケアは小まめにやっているので問題ないが、世の中にはそれで悩んでいる人も大勢いる。

 これをもう少し食べやすく改良してタブレットのように口にしやすくすれば、これもまた売れるのではないかと考えたわけだ。


 これは良い考えだろと竜郎がドヤ顔で笑いかけると、うんうんと頷いてくれていた愛衣の顔が直ぐに思案顔になってしまう。



「うーん。でもさ、たつろー」

「なんだ? なにか問題があったか?」

「口臭ケアとしてはいーんだよ。でもぉ……そのぉ……」

「その、なんだ?」



 言い辛そうにしている愛衣に不思議そうな顔で問い返すと、ポツリと小さな声で答えてくれた。



「爽やかすぎてさ。その……エッチな気分にはなり難いね」

「むっ!? それは盲点だった! えろろーという名誉ある称号を持っていながら気付かないとはなんたる不覚!!」

「称号だったの!? しかも名誉なんてないから! 不名誉だからっ!」

「これはもう、愛衣の為にエッチな気分になる薬の開発も──」

「しないでいいよっ!! ばかっ、えろろー!」

「良いではないか。良いではないか」

「それじゃあ悪代官だよ! もーまったく……しょうがないんだから。

 別にそんな薬なんかなくたって、たつろーが、ちゃんと自分の力でそういう気分にさせてくれればいーでしょ?」

「──う、それもそうか。男として、そんな物に頼る様じゃダメだな。自分の魅力で勝負しないと」

「そーゆーことだよ♪ ──ん」

「──んぐ」



 愛衣は優しく微笑むと、そっと彼の口に自分の唇を押し当て直ぐに離れると、悪戯っ子の顔でニコリと笑う。



「そう言う気分になった?」

「なった──」

「──ん」



 今度は竜郎から愛衣を抱き寄せ、その形のいい唇に軽いキスをする。

 そして直ぐに離すと彼女と至近距離で、おでこを合わせ目と目で見つめ合う。



「そっちはそう言う気分になりましたか?」



 竜郎の気取ったその言いかたに、愛衣は顔を赤くしながら──。



「……なった」



 そうして2人は、今宵もまた長い夜を過ごしていくのであった。

次回、第558話は8月29日(水)更新です。

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