第556話 天魔という種
「ってことは、存在自体はしてたんだねぇ。
言われてみれば、なんだか凄そうな気配が……する気がする……ような? ごめん、やっぱ解んないや」
「まあ、魔卵の状態だから良く解らないよな。本当は合成だけして帰るつもりだったけど、とりあえずシミュレーターで見てみるか」
等級10の魔物と言うのは一体どんな存在なのか。
そんな好奇心に駆られて竜郎は複製してから《強化改造牧場》に収容し、シミュレーターを起動した。
するとそこには非常に整った美しい中性的な顔立ち。瞳の色は右が金、左が黒銀のオッドアイ。
そして、やや長めのショートカットで灰色の髪をした女性が映し出されていた。
顔立ちは中性的ながら、すぐに女性だと解ったのは格好のせい。
彼女はゴシック調で黒地に白のフリル、肩の開いたテールカットのワンピースドレス──と、解りやすく女性の格好をしていた。
ちなみに足元は頑丈そうで、蹴られたらさぞ痛いだろうゴテゴテしたロングブーツを履いている。
そんな女性型魔物の魔卵になったわけだが、竜郎と愛衣には少々気になる点があった。
「うーんと……翼が無いけど、この子は何の種族なの?」
「だよな。翼がある同士の合成だから、何かしら羽があると思ってたんだが……えーと?」
考えてもしょうがないと、竜郎は種族名を表示させてみてみれば──。
「魔王科、特級天魔種……? 特級って事は元になった第一級の天使と悪魔よりも上って事か? 良く解らないが、羽は無くても天魔らしい」
「そういえば羽が無い天魔といえば、うちには彩君がいたっけ。それじゃあ、いてもおかしくないね。
……で、どうする? たつろー。いっちょ生み出してみる?」
「ちょっと興味があるな。それに等級10の魔卵での、神竜魔力による魔卵変質孵化もやってみたい。──延長戦いってみるか」
「おー!」
となれば、まずは能力値を強化していく。
レーダーチャートを見る限りでは、魔法よりだが物理攻撃も出来ないわけではない、いわゆる中衛タイプといった感じ。
空を飛ぶ際には、《天駆》というスキルを使えば自在に空を走り回れるようだ。
他には聖、邪両方の系統のスキルが使えるのが特徴的で、癒しもできれば呪いも出来る。
なので、この魔物を真ん中に置いて、適当なメンバーで前後衛を固めれるだけでも盤石なパーティが組めそうだ。
そんな事を考えながら、良さげなスキルを初期スキルとして大量に設定していく。
「なんか、めちゃくちゃ容量が多いな。最初からどんだけ覚えられるんだよ」
竜郎が驚くほどに設定できるスキルの量が多く、伊達に等級10ではないのだなと改めて思い知らされた。
ようやく限界までスキルを付与出来た所で、さっそく孵化の準備だ。
こちらも何があってもいいように、あらかじめ戦闘も出来るようにしてから神竜魔力を練りこんでいく。
そして《強化改造牧場》の内に収容されている魔卵へと、それを注ぎ込んでいく。
「うおっ──こいつは……」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。せき止められるどころか、寄越せと言わんばかりにドンドン吸い込んでいくから驚いたんだ」
「おぉー。なかなか元気な子みたいだね」
口では軽口をたたきあいながらも、警戒だけは怠らずにそのまま続けていく。
すると以前同様にせき止められるような感覚がやってきた。
竜郎はそれを無視して、その壁をぶち壊す勢いでさらに供給量を上げていくと、あっさりとその詰まりは崩れ去り、破裂するかしないかの瀬戸際を渡り始めた。
そんな状況だと言うのに、何故かこの魔卵はもっともっとと言わんばかりに吸い込んでいくので、竜郎の意志に関係なく勝手に許容量を超えて破裂しそうになると言う事が何度も有り、今まで以上に調整作業に集中せざるを得なかった。
途中、冷や汗をかきながらもなんとか孵化寸前までこぎつけた。
竜郎はもっとちょうだい、もっとちょうだいと訴えかけてくるような魔卵に対し、これ以上は流石に無理だから止めとけと強引に量を絞っていく。
実際に向こうが要求してきたままに続けていったら、この魔卵は産まれることなく大爆発を起していた事だろう。
完全に竜郎からの供給がストップし、その魔物は竜郎の《強化改造牧場》の中で孵化をした感覚が伝わってくる。
現状ではまだテイム契約も繋がっているので問題はなさそうだ。
愛衣と目を合わせて、直ぐに攻撃、防御、逃走、どの手も取れるように準備してから目の前にそれを呼びだした。
「────」
するとその女性型の魔物はニッコリ友好的な表情で微笑むと、スカートの端を抓んで優雅にお辞儀した。
竜郎と愛衣も思わず毒気を抜かれて、これはご丁寧にどうも──とでも言わんばかりに会釈し返した。
「えーと、等級10の魔卵でも変な事は起きないみたいだな。頭も凄く良いみたいだし」
「これでシステムはインストールされてないの?」
「テイム契約は繋がったままだし、システムはインストールされてないみたいだな。
でだ。お気づきだろうか、愛衣さんや」
「うん。まあね。この子、半神系統どころじゃないよね、絶対」
「……みたいだな。今、改めて種族のところ見たら、神級天魔[真祖]種──だってさ」
「へー神様級なんだぁ……。てか、それも気になるけど真祖って何?」
「さぁ? 意味合い的には天魔という種の原種ってことなんだろうけど、詳しい所まではな。
レーラさんとかに聞いてみれば──」
解るかもしれない──。そう竜郎が口に出しかけた所で、不意に頭の中に直接語りかけてくる存在が現れ止まってしまう。
『こら、たっつん。そう何個もパカパカ鍵を解くんじゃないよー、まったくー』
(……鍵? なんのことだ? 怪神)
愛衣は竜郎とアイコンタクトを取っただけで、神様の誰かが話しかけてきたと悟り口をつぐんだ。
『その神級天魔の真祖の事だよ~。ちょっと危険だから、世界も勝手に生み出さない様にこっちで鍵かけてたのにー』
(……そんなにやばいのか?)
『まあ、たっつんのこと気に入ってるみたいだし、テイム契約中は滅多な事は起きないはずだけどね。
ちょっとその子のスキルみてみなよー。たっつんの知らないスキルを覚えてるからさー』
どうやら神級に──さらに真祖に至った事で覚えたスキルがあるらしい。
なんだろうと竜郎が契約のパス越しに確認してみると、そこには《崩壊の理》というスキルを新たに覚えている事が発覚した。
(《崩壊の理》? なんじゃこりゃ?)
『うん。まー最初にその子の成り立ちを聞いてよー。順を追って説明するからさー』
(解った)
『まず天魔っていう種はねー。最初の構想としては、聖と邪の両方を持った存在を生み出してみよーって所から始まったのー。
それだけの存在なら、さぞ世界力も必要とするだろうしー、私たちも新しい種を生み出す事が楽しかったからねー。
そこで命神を筆頭に他の神々も協力してー、聖と邪という互いに打ち消し合う存在をその身に宿すー、言うなれば矛盾した存在を創りだすことに成功したのー。
けどねー。そこで聖と邪が完璧なバランスで混ざり合った場合、どんな現象が起きるのか誰も知らなかったんだけどー、その存在が産まれたおかげでどういう事が起きるのか判明したのー』
ここまで来ると何となく察しはついてきたが、竜郎は特に口を挟まず最後まで聞いていく。
『それは崩壊ー。魔法だろうが物質だろうが衝撃だろうがーその全てを壊す理を発現したのー』
(それは……確かにヤバいな……。聖と邪の混合魔法みたいなもんか?)
『まあ、そうだねー。といっても、魔法と言うのはアタシたちが型に嵌めたモノであって、理はもっと根本にあるもの。
クリアエルフなんかがスキルも無しに魔法が使えるみたいにー、そもそもあるこの世界の理を利用してるって感じなんだけどねー』
(すまん。良く解らない)
『まあ、これは感覚的なものだから、それでいーんだよー。
でもこんな力を魔物なんかにホイホイ使われたら、それこそアタシたちが作ったこの世界が壊れちゃいそうでしょー?
そんなことされたら、まーた最初からやり直しになっちゃうー』
(それだけは絶対にやめてほしいな)
『そうなのー。だからー、命神が勝手に産まれない様に鍵をかけておいた存在なんだよー。
そんでーせっかくだから聖と邪を分けて、それを総じて天魔種と呼ぶ存在に変えたんだー。
そんなわけでー基本的にこの世界は天族と魔族のハーフでもー、そんな存在は産まれない様になってるわけー』
(ん? でもそれでいくと、うちの彩もヤバいのか?)
『あー。そっちは大丈夫かなー。半神格者にでもなったら話は変わって来るけどー、それくらいの存在にならないと、まず《崩壊の理》は使えないからー』
(逆に言うと、半神格者にでもなれれば《崩壊の理》が使えるようになると)
『まー、真祖じゃなくてーそこから変質した存在だしー、半神格者になれても限定的なものにはなるだろうけどねー。
それくらいなら、まーいーかなーって、アタシたちも許容できるくらいのねー』
実はそんな凄いポテンシャルを秘めていたのかと、彩が豆太と遊んでいる姿からは想像できないなと苦笑する。
『けど、その子は本格的に使いこなせちゃうからー、絶対に何の対処もしないでアムネリ大森林なんかに連れてっちゃだめだよー。
もし暴走したらー、きっちり殺してー。
それが約束できないなら、ここで殺してほしいくらい』
最後の言葉は、間延びしたどこか不真面目にも聞こえる言いかたではなく、恐ろしく冷たい世界の調整者たる威厳を持っていた。
それに対して、竜郎は間を置くことなくハッキリとその答えを口にする。それが生み出したものの責任だとばかりに。
(解った。約束する)
『………………………………はぁ』
竜郎の心の底まで見通しているのかというほど沈黙が続いたかと思えば、怪神にため息をつかれた。
『まあ、たっつんなら、ちゃんとやってくれるでしょーから、これくらいの忠告で済ませるんだけどねー。
うーん……。やっぱり、あの話を早く進めないとだめだなぁ』
(あの話?)
『まあ、ちょっとねー。こっちでも色々と、たっつん達にどこまで深く協力するかを話し合っているんだけどー。
たっつんに、とあるスキルを与えるか与えないかで会議中なんだよー』
(俺にか?)
『そうそー。ぶっちゃけー《崩壊の理》に匹敵するほどやばーいスキルだから、慎重にならざるを得ないんだよー』
(何でも壊す力に匹敵するほどヤバいスキル……? そんなの俺に与えて大丈夫なのか?)
『普通は絶対にダメだよー。でもー、それを覚えるとー、戦力的にもかなり幅が出てくるんだよねー。
最後の戦いを生きて終わらせてほしいからー、出来るだけ力を付けてほしいんだよー。ちなみに、最初にそれを言い出したのはー等級神だよー』
(等級神が……)
《レベルイーター》に始まり、色々とこちらに便宜を図ってくれる1柱の存在に、改めて竜郎は感謝の念を送っておいた。
返事こそ帰ってこないが、その思いはちゃんと届いたことだろう。
さて。竜郎がヤバい魔物を生み出してしまった──という所までは理解した。
だが最初に怪神が話しかけてきた感じだと、まるで他にもやった事があるみたいな言いかただったことを思い出した。
それを目ざとくと言うか怪神は感じ取って、何か言う前に先んじて説明してくれた。
『なぁに、すっとぼけんのー? 竜王種に決まってんじゃーん。
成長するだけで神格者になれる存在なんて、鍵かけとくに決まってるでしょー。
それがイフィゲニアが生み出したいって言ってきた時に決めた条件でもあったんだからー』
(ああっ! 竜王種もそうだったのか。ん? だが何でそんなに簡単に鍵が解けてるんだ?
俺は普通に竜族創造を、俺が出来るスキルの範囲内で使っただけだぞ?
それはこの天魔種の真祖にも言える事だが)
『何ていうのかなぁ。絶妙に鍵の穴をすり抜けてくるような、普通の人間なら出来ない事をしてくるもんだから、開けられちゃう時があるみたいなんだよねー。
これもたっつんにスキルを与えすぎたせいでもあるんだけどー。あははー』
(あははーて……なんか軽いな。それでいいのかよ)
『アタシたちの総意は、たっつんだから、まあいいか。ってとこだよー。
それだけアタシたちは、たっつんを信頼してるって事ー』
この世界に何も知らずに来た竜郎と愛衣が、一番最初に強い力を与えられても簡単に人を傷つけたり、殺したりしない心の持ち方。
どんどん強くなっていく過程でも、横柄にならずに弱い人間であろうと、向こうの態度が普通ならばちゃんと対等であろうとする姿勢。
そんな最初からの行動も見ていた神達は、竜郎たちが思っている以上に信頼してくれているのだ。
『それにー、人間に与えたシステムにー、どんなスキルをどれだけ与えると、どういう事象が起きるのかー。
そんな新しい発見もちょいちょい見つかってきてるから、アタシたちとしても実は助かっていたりもするんだな~これが』
(俺はデバッカーかよ!? まあ、好き勝手にやらせて貰えてるから文句はないが……)
『ふふふー。完璧だと思ってたシステムにー、まだまだ改良の余地があるって解ってきたしーこれからも、よろしくねー♪』
(はいはい。デバッカーでも何でもやらせていただきますよ。
でもその代り! 竜王種とか、他の魔物とかも、一切自重はしないからな!
また変な鍵開けても怒らないでくれよ! 絶対だぞ!!)
『うん。いーよー。好きにやっちゃってー。その方が面白い情報が得られるかもしれないしー』
(なら契約成立だ!)
言質は取った! もう何も心配はない! と言わんばかりに竜郎は小さく拳を握ってガッツポーズ。
なにせ神から許可が得られたのだから、地上に住むどんな存在よりも確実だ。
それを見た愛衣は、何かいいことでもあったみたいと気が付いて、にこっと笑いかけてくれた。
そうして竜郎は怪神との会話を終えて、愛衣にその会話の内容を話し、よかったねー、ヤバいスキルってなんだろねー、などとひとしきり言い合った後に、ニコニコとこちらを見ている神級天魔種[真祖]の女性の名前を考えることにした。
命名──フレイヤ。
魔卵から生まれた魔物につける○○子シリーズも考えていたのだが、愛衣が考えた名前はどれもしっくりこなかった。
そこで、せっかく神級なんだからと女性の半神格者たちに付けるときに使っている女神様シリーズから取る事にした。
司るのは生と死、愛情と戦い、豊饒、魔法。ここでは生と死に着目し、真逆の理を持ち合わせているという点がしっくりときて、その名に決めた。
名前を付けられた本人も、愛衣が最初に出していた名前たちと比べて反応も良く、とても気に入ってくれたようだ。
こうして竜郎はフレイヤを《強化改造牧場》に戻すと、愛衣と一緒に今度こそ本当に妖精郷に向かうための準備をするべく、カルディナ城へと帰っていったのであった。




