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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九編 邪神教

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554/634

第552話 アレとも決着

 4枚の翼を失い左腕が一部抉れた状態にもかかわらず、まだまだ元気な大悪魔。

 もうカルディナが《幼体化》状態で隠れても危険なだけなので、総力戦と言わんばかりに愛衣とアテナに守りを任せ、カルディナと奈々とリアがチクチクとダメージを蓄積させていく。


 《吸精》と《恐怖付与》という厄介なスキルも併用してきたが、吸精は奈々が竜吸精で相殺し、恐怖付与はカルディナがアンチ魔法を作って相殺しているので影響はほとんどない。

 と、そんな風に順調に事が進んでいると──。



「タツロウ! アレが来るぞ! 一旦全員を下がらせろ!」

「了解!」

「────ッァァァァァァァア!」



 アレ──とは、自分を中心にして周囲を球状に吹き飛ばす《邪爆球》という、近距離戦で最も警戒が必要な大悪魔のスキルの事だ。

 だがこちらは向こうのスキル構成を既に把握したうえで、1歩先を常に先読みしているので退避のタイミングが計りやすい。


 竜郎は称号《響きあう存在》の効果を使って、愛衣を媒介にカルディナ達ごと転移魔法を発動。

 一瞬でこちらに連れ戻した瞬間、大悪魔を中心に半径15メートル程の距離を黒い球体で覆い隠し、完全に広がった所で内部で爆発。


 それは予備動作無しで一瞬で広がり爆発し、発動者本人は無傷だが中に誰かいた場合、痕跡すら残さず消滅させられる程の威力を持つという、非常に恐ろしいスキルだった──のだが、事前に察知し距離を取ってしまえばどうと言う事も無い。


 攻撃が完全に終わったのを見計らって、直ぐに転移で舞い戻って猛攻撃を再開。

 消し去ったと思っていた相手がまた現れて驚いた顔をするが、ちらりと竜郎の方へと恨みがましげな視線を送ってきた。

 どうやら誰が愛衣達を逃がしたのか気が付いたようだ。


 だが竜郎に攻撃を仕掛けようとしても愛衣達に阻害されて叶わず結局あきらめ、目の前の相手に集中していった。


 そうこうしている間に、竜郎とイシュタルによる仕込も、そろそろ終盤に差し掛かってきた。

 だが大悪魔の方は、こちらの狙い通りまだ気が付いていない。



『そろそろいけそうだ。愛衣達の方も準備しておいてくれ』

『はーい』



 向こうにも念話で現状を伝えていき、数秒もしたところで目標量に到達。

 竜郎は柏手を打つ様に手を合わせて、その音を音魔法で拡大して周囲に響かせる。


 大悪魔はその音に何だ?と、ちらりと竜郎の方へ視線向けた途端、体がどんどん重くなっていく。



「──?」



 足の一本一本。指の一本一本。肺や胃、心臓などの内臓に至るまで本来、気にならない体の部位が、とんでもなく重くなっていく。

 重さで地に付けている足が地面にめり込んでいく。

 立っている事もままならずに膝をついて、しまいには手も地面につけてしまう。

 体全てが重くてしょうがないのだ。


 だがそんな事情を竜郎たちが加味してくれるはずもない──というか、それは竜郎とイシュタルのせいなので予定通りだ。

 手を付き地面に這いつくばる悪魔に向かって、先ほど防御に回っていた愛衣やアテナも全力攻撃モードに移行する。

 愛衣は《神体昇華》で髪をプラチナに染め上げて、全ての能力を底上げした状態で思い切り竜纏の拳でぶん殴る。

 アテナも鎌を振り回し、奈々やリアもここぞとばかりに、やりたい放題攻撃を加えていく。



「アレが来るぞ!」

「オーケー!」



 動けないとなると《邪爆球》位しか近距離での有効的な攻撃は出来ない。

 けれどイシュタルに察知され、竜郎に転移させられ愛衣達は範囲外にどいて、攻撃が終わるとまたタコ殴りだ。

 その身は見る見るうちに傷を負っていき、その傷口に追い打ちをかけて、さらに広げていく鬼畜の所業。


 そしてその時になって初めて、大悪魔は傷口から銀色の砂が少しずつポロポロと零れ落ちている事に気が付いた。

 その砂は一粒一粒が異常に重く、零れ落ちては地面にめり込んでいっていた。



「────!」



 そこでようやく大悪魔は自分の体が重くなった原因を察した。

 よく体の傷口を観察すればキラキラとした銀色の砂が体内に大量に入り込んでいるではないか。

 だが今更気づいて掻きだそうとしても、その手は重くて持ち上がらない。恐らく指先に至るまで入り込んでいるのだろう。


 薄れる意識の中で「どうやって──」と魔物なりの頭で考えるが理解する事は出来ず、そのまま力なくうずくまった。

 そこまでくると空から雨霰と降り注いでいた邪槍も、地を這う邪刃も消えてなくなった。


 それを見届けた竜郎は、サッと近寄ってレベルイーターを当ててスキルレベルを頂いていく。



--------------------------------

 レベル:3043


 スキル:《衰退の果実+3》《天降無限邪槍+2》

     《地這邪刃+1》《暗視 Lv.20》

     《飛翔 Lv.8》《ひっかく Lv.20》

     《邪硬爪 Lv.20》《邪爪襲撃 Lv.20》

     《邪矢 Lv.20》《邪力砲 Lv.20》

     《邪力収束砲 Lv.20》《邪爆球 Lv.20》

     《邪暗球 Lv.20》《大邪暗球 Lv.20》

     《吸精 Lv.20》《恐怖付与 Lv.20》

     《魔法力増強 Lv.20》

-------------------------------



(さっ三千!? 俺達の倍くらいあったのか……、レベルの無いスキルも軒並みプラス化してるし。そりゃ強いわけだ。

 上手く今回の作戦が嵌って助かったな)



 今回立てた作戦は、何とか動きを封じ込められないかという発想から始まった。

 まずこの大悪魔の体の中に入り込んでいた砂の正体は、イシュタルの銀砂に竜郎の重力魔法を呪魔法の精霊魔法で付与したもの。


 ではどうやって体内に入れたのかと言えば、最初は呼吸。そして後からは傷口からも少しずつ体内に入り込ませた。

 それに大悪魔は気が付かなかったのか? と思うだろうが、そこはこの大悪魔のスキル《衰退の果実》のおかげだと言えよう。


 この《衰退の果実》というスキルは虚空から黒い果実を取り出し、それを握り潰す事で黒い粉を周囲にばら撒き、敵対者に対して強力な弱体化をかけていくというスキルだ。

 竜郎はこの黒い粉に注目し、まずイシュタルの銀砂を闇魔法で一粒一粒コーティングして黒い粉に偽装した。

 そうする事で大悪魔はよくよく調べない限り、自分のスキルによって出来たモノとそうでないモノとを区別できなくなる。


 もし大悪魔に人間並みの思考力があったのなら、若干濃くなった黒粉の領域を不自然に思ったかもしれないが、そこまでの知能は無い上に愛衣達との近接戦に気を取られていたので、終始ばれることは無かった。


 イシュタルがさりげなく銀砂を操り、相手の呼吸と共に黒粉に偽装したソレを吸い込ませていく。

 戦闘中と言う事もあって呼吸は荒く体も大きいので、その分、吸い込む空気の量も多い。

 どんどんと知らぬ間に大量の細かな銀砂を吸い込まされていき、それを喉に、肺に胃に腸に蓄積させていく。

 だが──この時点では、まだ竜郎が呪魔法の精霊魔法で付与した重力魔法は待機中なのでほとんど重さを感じない。


 そしてリアやカルディナが大きな傷を負わせたところで、さらにそれは加速していく。

 3メートルという巨体の血管は太く、そこから血の流れに乗って全身に入り込んでいく。

 剥き出しになった骨も銀砂でコーティングするように、ちょっとずつ張り付いていった。

 こうして全身、大悪魔の体中に銀砂が十分な量蓄積されたのを精霊眼で観て、竜郎は手を鳴らして呪魔法の精霊魔法に合図を送る。


 合図が聞こえた呪魔法の精霊魔法達は一斉に重力魔法を解き放ち、砂の一粒一粒にとんでもない重量をかけていく。

 これが普通の魔物なら内臓や皮膚を突き破って砂が零れ落ちそうなものだが、そこはこの大悪魔の耐久性が勝るだろうと解析して解っていたので問題ない。

 けれど、いくらレベル3000オーバーの化物だと言っても、魔法型の大悪魔はその重量には耐えることが出来ずに動けなくなり、今に至った──と、そういうわけである。



--------------------------------

 レベル:3043


 スキル:《衰退の果実+3》《天降無限邪艙+2》

     《地這邪刃+1》《暗視 Lv.0》

     《飛翔 Lv.0》《ひっかく Lv.0》

     《邪硬爪 Lv.0》《邪爪襲撃 Lv.0》

     《邪矢 Lv.0》《邪力砲 Lv.0》

     《邪力収束砲 Lv.0》《邪爆球 Lv.0》

     《邪暗球 Lv.0》《大邪暗球 Lv.0》

     《吸精 Lv.0》《恐怖付与 Lv.0》

     《魔法力増強 Lv.0》

-------------------------------



 レベルの無いスキル以外を急いで吸い取っていき、そろそろ奈々の《滅竜神の放恣》も限界が近くなってきている。

 吸精に対抗しなくて良くなったので、さっきよりはましなのだろうが、それでも辛そうだ。


 竜郎は急いで皆に吸い終わった事を告げると、血まみれでボロボロになった状態で蹲って動かない大悪魔に向かって一斉に攻撃し──その首を落とした。



 竜郎は、《『レベル:1784』になりました。》と。

 愛衣は、《『レベル:1784』になりました。》と。

 カルディナは、《『レベル:906』になりました。》と。

 ジャンヌは、《『レベル:906』になりました。》と。

 奈々は、《『レベル:906』になりました。》と。

 リアは、《『レベル:1784』になりました。》と。

 アテナは、《『レベル:906』になりました。》と。

 天照は、《『レベル:905』になりました。》と。

 月読は、《『レベル:905』になりました。》と。

 イシュタルは、《『レベル:907』になりました。》と。

 レーラは、《『レベル:1788』になりました。》と


 それぞれのレベルアップなどのリザルト報告が脳内に響き渡る。これで戦闘終了だ。

 その途端、奈々の《神体化》が一気に解けて、《成体化》状態の幼女に戻ってぐったりと地面に寝転んでしまった。

 今回は相手のデバフ対策や吸精対策もしながら、戦闘にも加わってと八面六臂の活躍を見せていたので無理もない。


 竜郎は寝転ぶ奈々を横向きに抱き上げて、お礼を言いながら魔力を注いでいった。

 愛衣も竜郎の横で奈々の頭をよしよしと撫でていくと、奈々は嬉しそうにほにゃっと表情を緩めてその行為を受け入れた。

 カルディナ達は、いいなあとは思いながらも今回の功労者なので、何も言わずにそっと見守った。


 十分魔力を注ぎ込み奈々を労った後、竜郎は大悪魔の素材を血の一滴すら残すことなく回収していった。

 これで簡単に完全復元が出来る事だろう。彼は最高級の悪魔素材が手に入った事でニヤニヤが抑えきれていない。

 それを面白がって、愛衣は彼の頬をつんつんと突いてきた。



「たつろー変な顔してるぞ~」

「おっと、失敬。これでまた新たな魔物が生み出せそうだと思ったらついな」

「ふふっ。そういうとこも可愛くて好きだよ♪」

「俺は可愛いんじゃなくてカッコいいと言われたいんだが……。

 それに可愛いと言ったら愛衣しかいないだろ。少なくとも俺にとってはそうだし」

「えぇ~そんなことないよぉ」



 などとまんざらでもない顔で竜郎の腕に巻き付いて、今度は愛衣がニヤニヤ顔を抑えきれていなかった。

 そこがまた可愛いんだ! と竜郎は一人眺めてニコニコしていると、業を煮やした等級神から催促の連絡が入ってきた。



『いつまでイチャイチャしとるのじゃ! はやくやつの根絶じゃ!!』

「お、おう。そうだな。それじゃあ、等級神、サポートを頼む」

『任せておくのじゃ!』



 等級神はもうノリノリだ。根絶したくてしょうがないらしい。

 若干その勢いに乗り遅れた感はあるが、その気持ちは竜郎とて同じこと。

 等級神の指示を聞きながら、相変わらず愛衣を腕に巻きつけた状態でウロウロと歩きまわる。



『そこじゃ! もう少し右──そこじゃ! そこで残留思念を──ああ、左に動きおった!! こやつ本当にムカつくのう!!』

「口頭で向きを指示し続けてくれ。俺は残留思念を吸い取る事も意識しながら、世界力を魔物化すればいいんだろう?」

『その通りじゃ。では頼むぞ、左──左──下──前上────────』



 細かな方角を指示されながら、そのつど綿飴屋のように杖をくるくる回しながら微調整して集めていく。

 等級神曰く、かなり丁寧に吸い込めているとの事。竜郎のアラクネ天魔に対する思いが強いのも影響しているとか何とか。


 そしてそんな風にウロウロしながら集める様を傍から見ていたレーラは、何でただの残留思念がそこまで存在を残したうえで動き回れるんだと、驚愕の表情を浮かべていた。

 それくらいありえない事を、この残留思念は根性と執着心のみでやってのけているのだ。

 けれどもう──これで終わりだ。



『右──そこで大胆に掻き集めるのじゃ! よしっそこだ! いけっ、いくのじゃタツロウ! よーーーーーーーーし!! かんっぺきっじゃっ!』



 等級神がこの場にいたらガッツポーズとか取ってるんだろうなと、少しおかしなことを考えながら最後に竜郎は、もう一度確認する。



「これで全部だな?」

『うむ、完璧じゃ。欠片一つ残さず、その世界力の渦の中に入れられた。後はそれを別の存在に変換して、一瞬で殺しつくせば大丈夫じゃな。

 それでは頼んだぞ!』

「ああ、こっちも本気でいくよ。カルディナ達もこっちへ」



 そう言ってカルディナたちも近くに集め杖の先端についている、その小さな世界力の黒渦の近くに集まって貰う。

 そうして皆でスキルを共有化していき、最大レベルでの聖雷炎を起こせるように準備をしてから杖から切り離した。

 するとそれは形を整えていき、20センチほどのクモの魔物が現れた──瞬間、ボオォッ!とものすごい勢いで聖なる雷と炎が入り混じった柱が天に向かって立ち昇り、塵一つ残さず消し飛ばした。



「結果は──」

『────────完璧じゃ。今、儂はかつてないほどにすがすがしい気分じゃよ……』

「ふぅ。皆! 処理は完璧だったようだ! これであいつとはおさらばだ!」

「やったね!」

「私は初対面だったが、あれは流石にないからなぁ」

「研究してみたい気持ちもあったけれど、あれは触れるべきじゃないわよね。面倒事が増えるばかりでしょうし」

「そうですの!」「そうっすね~」

「ピィューー!」「ヒヒーーン!」「「────!」」



 などなど、皆がそれぞれ喜びや安堵の気持ちに浸っていると、1人黙っていたリアが言い辛そうにそっと手を挙げた。



「あのぉ~」

「ん? どうしたリア? リアも喜んでいいんだぞ」

「ええ、本当にそれはもう、アレを消滅させることが出来たこと自体は嬉しいんですけど。

 あの末端の信者達に埋め込まれた邪物質も回収しておいた方がいいのではないでしょうか?

 さすがにそこまでは無いとは思いますが、念には念を入れておいた方が……」

「………………まじか」

「まじです」



 せっかく終わったと思ったら、今度は信者たちを処理する必要が出てきてしまった。

 この国境と国境の境目と範囲は決まっているので全部探し出せるだろうが、信者の数はそれなりに多い事だろう。

 ありていに言ってしまえば面倒くさい。そしてもう一人、念を入れるなら協力を仰がなければならない。



(ってことで等級神……。爽快感に浸っていたところすまないが……、一応そっちにもないか見てくれ……)

『ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! なんなのじゃあああああああああああああああああっ!!』



 本体から離れて残留思念を残す事などまず不可能だが、それでも最後までちゃんと確認をして安心しておきたい。

 そんな思いは等級神も同じなので、一度雄たけびをあげると、若干力のない声で「了解した」という返事を貰えた。


 そうして竜郎たちは、邪神教信者たちに埋め込まれた邪物質の回収の為にと再び信者たちの元へと赴き、その悲惨な最後を目にすることになるのである──。

次回、第553話は8月22日(水)更新です。

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