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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九編 邪神教

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第551話 微調整作業、最後の相手

 竜郎たちが外に出ると、先ほどあの空間があった辺りが歪んでいき、しまいには盛大に闇領域が音も無く爆ぜて、その中にいた全ての物質を消滅させた。

 残ったのは奇妙にぽっかりと開いた、明らかにさっきまでいた空間よりも小さな大穴だけ。

 どうやら本当に信者もろとも空間を破裂させ、こちらに何一つ渡さない様にしたらしい。



「兄さん! 世界力が勝手に魔物化しようとしてます! はやく制御を!」

「解ってる!」



 しかも破裂させる時に中にあった高密度の世界力をギュッと圧縮したものだから、世界が勝手に許容量を超えたエネルギーを魔物化させようとしていた。

 竜郎は急いで穴の中に飛び込んでいきスキルを使う。そして自分の杖で世界力をかき集めて主導権を握り制御していく。



「まさか、最後の嫌がらせにここまで含まれていないよな」

「それは無いんじゃない? さすがに。むこうはこっちの事情なんて知らないだろうし」

「だよなぁ……」



 むしろ死んでなお無自覚でここまで地味に嫌がらせできるあたり、神自らに邪魔だと言わしめただけはある。

 竜郎はどっと疲れた様子で世界力を綿あめのように杖に巻きつけ終ると、空いた穴を土魔法で埋めて整地しながら上に戻った。



「さて、一先ずアレの事は忘れて目の前のことに集中していこう」



 大本命が一つ残っているが、細かな調整作業はこれで最後となる。

 ここまできて油断して死んでしまっては意味がないので、これまで以上に気合を入れ直して準備していく。


 竜郎や愛衣、レーラにイシュタルも完全武装。

 カルディナ達も《神体化》し、リアもゴーレムに乗り込んで、いつでも全力戦闘が出来るようにしておいた。


 それを見届けてから竜郎はふと思った事があったので、分霊神器である予知竜眼を周囲に浮かべているイシュタルに問いかけた。



「なあ、イシュタルのそれでどんな魔物が出てくるのか観る事ってできないのか?」

「ああ、それか……。実は以前のカバの時にやってみようとしたのだが、魔王カバと言う存在に確定してからでなければ、その未来だけがポッカリと空白で観ることが出来なかったんだ」

「ということは、この世界力の時点ではまだ未来が決まっていないと言う事なのかしら」

「そうかもしれないな。というか未来が決まると言うのも良く解らないがな……。

 まあ、そういうわけでハッキリ言ってしまえば、現状で未来に生まれて来るであろう存在の情報を得るのは無理だ」

「むー。それができたら楽そうだったのになぁ。残念」

「すまないな、アイも」

「ううん、全然いーよ!」



 どうやらカンニングは出来ない様なので、そこはすっぱりと諦めて竜郎は何もない荒野のど真ん中に立って必要な分だけ世界力を吸出し、余分な分を散らしていった。


 この際にアラクネ天魔の残留思念用に使う分も計算に入れないといけないからと、等級神と一緒に微調整するのに少し時間がかかってしまった。

 ここでもアイツが影響してくるのかと、地味に余分な作業をさせられた竜郎と等級神は、絶対にこれが終わったら完膚なきまでに滅ぼしてやると互いに誓い合った。


 そんな風にして竜郎と等級神の仲が深まった所で、いよいよ魔物化の時間だ──と思っていると、いつものように等級神が激励の言葉をかけてきた。



『強敵との戦闘も後2回じゃ。残りも油断せずにゆくのじゃぞ』

(ああ、解ってるよ。心配してくれてありがとう、等級神)

『うむ。魔神もいっておったが、儂もお主を気に入っておる。出来ればお主達が望む未来を手に入れてほしいからのう。

 それがせめてもの償いでもあるのじゃから』

(ここまで色々してくれているんだから、もう償いだのなんだのと気にしなくてもいいんだぞ?)

『む? そうか? ならちょっと相談なんじゃが……』

(相談? まあ、いいけど……何だ?)

『もし全てが上手くいっても、お主達はこっちの世界にも度々来るつもりではいるのじゃろう?』

(うん? まあ、そうだな。自分達の暮らしていた世界も大好きだが、こっちの世界も色々と面白いからな。

 終わったら色々と趣味に走るつもりだ──が、それがどうした?)

『実はなタツロウよ。システムの導入や真竜の世界力循環によって、この世界は随分と安定してきた。

 だがそれでも今回お主達が対処したように、ポツポツと世界中に小規模ながら世界力溜まりが発生してしまっておるのじゃ。

 お主達の都合のつく範囲で良い故、それらの処理にあたってくれまいか?』

(え? さすがに命がけの戦闘をそう何度もやるのは……)



 今は自分たちの世界がかかっているから自らを危険にさらしてまで事に当たっているが、それが全部終わってからもレベル2000だ3000だという化物と命がけの戦闘をするのは御免こうむりたい。

 だがしかし、それは等級神の方もちゃんと解ってくれていた。



『安心するのじゃ。こちらもそんな難易度の高いことを終わってからも、させようなどとは思っておらん。

 せいぜいがレベル100~500くらいの魔物を作って倒してもらうだけじゃ。

 そうそう今の様なレベルで世界力が溜まる事などないしのう。

 あったとしても今回のように細かな調整作業をする必要が無いのなら、他にもやりようはある。

 それにじゃ! その中には、お主が大好きな魔王種も出てくるかもしれんぞ』



 魔王種を出しとけば食いつくと思うなよ! ……と思いつつも、ついつい惹かれてしまう竜郎君。



(むむ! 確かにその程度のレベル相手なら、イシュタルやレーラさんとかがいなくても十分こなさせそうだしいいかもな。他にも珍しい魔物の素材が手に入れられるかもしれないし。

 愛衣達とも相談して良いっていうのなら、都合のつく範囲で手伝ってみる事にするよ)

『おおっ! そうかそうか! ありがとのう、タツロウよ』

(いや、いいよ。それじゃあ、そろそろ──)

『おっと──そうであった。邪魔したの、頑張ってくれ』

(ああ、任せてくれ。それじゃあ)



 なかなか魔物化しない事に不思議そうな視線を向けて来る面々に、軽く片手をあげて目で合図してから、竜郎はゆっくりと杖に巻き付いていた大量の世界力を切り離す。

 そして急いで皆のいる場所に転移して、その動向を見守る。



「……………………」

「大天使に始まり、大悪魔で締めって感じ何すかね……」

「何だか、かなりやばい雰囲気ですの──」



 それは人形のように感情のこもっていない美しい女の顔で、黒銀色の足元まで伸びた長い髪と紫色の瞳。

 羊のような丸まった長い2本の角が頭から生えている。

 豊満な胸元とすらりと伸びた足を大胆に出した露出の激しい漆黒のドレスを身にまとい、背中からは8枚4対のカラスのような濡羽色の翼を広げていた。


 それだけなら、普通にその辺りを歩いていれば天魔の綺麗な女性がいるなあ、くらいに思われるだろう。

 が、その身の丈は3メートルと普通の天魔と言う種族にしては巨大すぎた。

 そして、その身から放たれる禍々しい力も──。


 そんな大悪魔が右腕を上に伸ばし、何もない虚空から黒い果実をその手に握った。



「強力な弱体化スキルが来ます! 大変でしょうが、ナナが対処を──」

「やってみますの!」



 何が来てもいいように身構えていると、グシャッとその果実を握りつぶす。

 するとパンッ──と風船でも爆ぜたような音が聞こえ、周囲に黒い粉を撒き散らされた。


 竜郎はそれを吹き飛ばそうと風を巻き起こすが、まるで幻だとでも言うのか吹き飛ぶことなく大悪魔を中心に広範囲に黒粉が広がっていく。


 奈々はそれに負けじと《滅竜神の放恣》を発動。

 黒い粉が舞い散る空間ごと自身の暗黒空間で覆って、竜郎たちに出来る限りの強化バフをかけ、大悪魔に対しては大量の弱体化デバフや毒をお見舞いしていく。


 すると向こうのデバフとこちらのバフ対決では、わずかに負けて竜郎達のステータスが少しだけ下がってしまう。

 対して向こうはデバフを魔法抵抗力だけでほとんど弾き、さほど影響は受けていない様子。


 それでも真面まともに食らっていたら半分以下のステータスにされていただろう事、多少とはいえ格上の相手の力を削いでいる事を考えれば奈々の大健闘だろう。

 けれどそれを褒めている余裕などない。


 大悪魔の足元から鮫の背びれのような形をした漆黒の刃が、四方八方に何本も地面を這いながらこちらに迫ってくる。

 もし奈々が向こうのデバフを大幅に相殺してくれていなかったら、躱せなかったであろう速さでだ。


 竜郎たちは急いで上に飛ぶ──と。



「上もだ!!」



 今度は空から大量の黒い槍が降ってくるのを予知したイシュタルの声が響き渡る。



「「はあああっ!!」」



 竜郎と愛衣が息ピッタリで上空に向けて、気魔混合での巨大な盾を展開して防いで見せる。

 地面には海から飛び出たサメの背びれのような刃がウヨウヨと這い回り、空からは大量の槍が降ってくる。

 悪魔自身からも黒いレーザー光線や黒球を投げつけられ、そちらにも気を抜けない。

 最早安全圏など何処にもなかった。


 さらに悪い事に奈々の《滅竜神の放恣》もレベル上昇によってかなり長時間行使できるようになって来たが、それでもずっと持たせる事は出来ない。


 リアが簡単に纏めた大悪魔の能力から、こちらの攻撃を利用するようなスキルは無い事。

 さらに中~遠距離型の戦闘スタイルが得意で、近距離戦はそれほど得意ではない事。

 それらの情報を聞きながら、竜郎は愛衣と何度も壊された盾を張り替え作戦を急いで考え皆に伝えていく。



「それじゃあ、さっそく頼む!」

「ヒヒーーン!」「了解よ!」



 まずはジャンヌとレーラの攻撃から今回の作戦は始まる。

 防御は他の面々に任せて、レーラは氷の巨大な塊をジャンヌの目の前に作り上げると、その場から直ぐに離れる。

 それを見届けたジャンヌは《星砕神竜撃》を発動させながら、《分霊神器:巨腕震撃》の6本腕と自身の2本の腕で持ったハルバートを、巨大な氷塊に向けて思い切り叩きつけた。


 恐ろしく硬く作ったはずの氷は破裂するかの如く砕け散り、大地に向けて細かな氷塊の雨を降り注ぐ。

 大悪魔は近距離戦が得意でないと前述したとおり、耐久力は魔法抵抗力と比べたらかなり低い。

 耐久力の高い魔物なら大したダメージにならなくても、この大悪魔にならその氷塊の一つ一つも地味にダメージになってくれる。



「──っ!」



 ダメージが入ると言う事は痛いと言う事。痛いと言う事は、それを気にすると言う事。

 上を向いて落ちてくる氷塊を、その手についたナイフのような黒爪で弾いて対処し始めた。

 だがそれでも空から降る槍は収まらないし、地面を這いずりまわる刃もそのままだ。

 けれどその間だけは、大悪魔自身から飛んでくる攻撃が止んだ。



「今!」



 その隙をついて愛衣、アテナが先行して奈々とリアが続き、一気に距離を詰めていく。

 そして地を這う黒刃に当たらない様に、空を飛んだまま大悪魔に肉薄した。


 空から降る槍は愛衣達を守るように竜郎、ジャンヌ、レーラが防御し、イシュタルが予知で不測の事態を回避出来るように待機するのと同時に、竜郎と共に今回の作戦の重要事項をこなしていく。



「────!!」

「ふっ──とっ──やっ!」



 当然、近くに来られたら迎撃しようと、その大きな手についた黒爪を振り回すが、愛衣が鎧から出る黒い気力で作った盾で全て受け流す。

 それにアテナも《幻想竜杖》で愛衣の扇の天装──幻想花に変化させたものを持ち、《竜神幻想闘術》で愛衣の《扇術》やその派生スキル《反射》を駆使して、こちらも防御に加わる。


 攻撃能力に優れた愛衣とアテナを防御に専念させたが故に全体の火力は落ちたが、相手の攻撃は危なげなく、いなすことが出来た。


 そうして正面から2人が引き付けている間に、リアが真横から攻撃に加わる。

 今のゴーレム機体は麒麟型。なのだが、その背中には騎乗したゴーレム騎士が乗っていた。

 これはリアが《物質具現化》で一時的にくっ付けた、機内から操れる第二の魔力頭脳を搭載したゴーレム人形。

 数秒しかもたないが、壊されてもまったく惜しくない存在なので、いくらでも捨て身の攻撃が出来るという利点がある。


 両手に一本ずつ手にした、これまた創造した特別な螺旋の溝が入った槍を突きだす。

 愛衣やアテナに攻撃する手を緩めて大悪魔は、そちらを弾こうとするが防御組の二人に邪魔される。

 槍は問題なく大悪魔の左腕に突き立つが、相手の耐久力を破れずに先端数ミリ薄皮に刺さっただけ。これでは何の意味もないのだが、あいにくこれはただの槍ではない。



「まだです!!」

「──!?」



 腕に突き立てられても何ともないと理解し、そちらを無視して再び厄介な愛衣やアテナに視線を戻そうとしたとき、槍の持ち手が盛大に爆ぜてゴーレム騎士の腕が吹き飛ぶと同時に、さらに深く大悪魔に突き立った。

 それでも数センチ刺さっただけ──けれど爆発による突進はまだ終わりじゃない。

 バンッバンッバンッバンッ──連続で爆発音を響かせながら、槍を少しずつ短くしながら、回転も加わりドリルのように腕を抉り掘り進んでいく。


 そして最後に数十センチまで短くなった──もはや槍というより棘のようになったソレが奥深くまで到達した所で、最後の大花火が打ち上がる。



「────ッ"」



 それは聖なる力が宿った火と爆発の混合魔法を、リアが創造で再現し槍の先端部に仕込んだ魔道具爆弾。

 腕肉を大きく吹き飛ばし、骨がむき出しになる。

 想像を絶する痛みを覚えたのか、紫色の大きな瞳を真っ赤に染めて怒りながら、そちらに手を伸ばす。

 だがふと感じた気配に気が付き真逆の方向に目をやると、まさに奈々が、その眷属のダーインスレイヴを牙と融合させた状態で《かみつく》を放ってくる寸前だった。


 気が付けたのなら躱すのは造作もない。残念だったな──とでも言いたげに口角を上げながら、迎撃では愛衣とアテナに邪魔されるのはさっきのリアの攻撃で理解しているので、今度はバックステップで躱そうとする。



「ばかめ──ですの!」

「──!?」

「ピュィーーーー!!」



 突如自分の背後から《神体化》カルディナが現れ、《天翔竜神刃》でもって8枚ある翼の片側4枚を全て背肉をごっそり削ぎながらいっぺんに切り落とした。


 何故?いつの間に?──と大悪魔は思った事だろうが、なんということは無い。

 ここに来る前に《幼体化》して雛状態になり、奈々の首裏にくっ付いて潜み、リアと奈々という2枚の囮を使って注意を削いだところで一気に《神体化》。

 それから後ろに回って切った、と言うだけのこと。


 つまり奈々は最初から当たればいいなくらいの気持ちでいただけで、その本命を隠す役割をするのが主目的だったのだ。


 そしてそんな光景を空から降る槍を迎撃しながら解魔法で確かめていた竜郎が、イシュタルと目を合わせながらポツリと呟いたのであった。



「もう少し──」

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