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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九編 邪神教

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第548話 3つの奇跡

 金髪碧眼でド派手な黄色に赤の大きな刺繍の入ったローブを着たエルフの男──アーレンフリートは、何もない荒れ地に立って隣にいる白痴のように口の端から涎を垂らす背が小さく病的に痩せ細ったドワーフと人のハーフの男──モーリッツ・ホルバインを蹴飛ばした。



「あー……あー……うぅー……」

「はぁ。もう君はいらない。そこいらで野垂れ死ぬといい。ではな──」



 それだけ言い残してアーレンフリートは無様に転がったまま、うーうーあーあー呻くだけのモノを捨ててどこかへ去っていってしまった。


 かつてリアの《万象解識眼》を利用し巨万の富と権力を得た商人だったというのに、今は蹴られたことも意に介さずに、何時間経っても立とうともしないで転がったまま仰向けに空を見つめ呻くだけのモーリッツ。

 やがて日は落ち暗闇に周囲が染まり始める。すると、数人の黒い布を頭からかぶった人間が近寄ってきた。



「何だコイツ? 生きてるのか?」

「生きてるみたいだが……気持ちの悪い奴だ。狂ってるぞ」

「だから家族に、こんな人気のない場所に捨てられたのかもしれないな」

「なあ、こいつを生贄として連れて行ってはダメだろうか?

 こいつならいなくなっても誰も気がつかないだろうし、問題にもならないんじゃないか?」

「たしかに、いつもいつも他部族の人間では邪神様も飽きてしまわれるかもしれない。

 たまには違うモノを用意するのもいいかもしれないな」

「それじゃあ、とりあえず運んでいくか」



 この者達は邪神教の信者で、生贄ではなく今日は食糧調達のために狩りに来ていた。

 けれど思わぬ収穫を得たために、自分たちのいる邪神教の集落の一つに帰っていった。

 モーリッツを見たその集落の管理者は最初こそ気味悪がって追い出そうとしたが、最終的に生贄を回収しに来る上級信者に見せて判断を仰ぐことにした。

 それからモーリッツは上級信者が来るまでの数日間、粗末な食べ物と水を無理やり口に流し込まれて生き延びた。


 モーリッツの状況から足が付くことは無く、また邪神復活の折に殺してもらう住民の血が流れた存在を今のうちに与えられると言う事が気に入ったようで、直ぐにそれを連れていくと言ってモーリッツを邪神の御座と呼んでいる場所まで連れてきた。


 そこは竜郎達のいる未来とは違い、人気の無い荒れ地の中にある洞窟の中だった。

 その最奥に大きな社があり、その中には5平方メートルほどの大きさで厚みのある真っ黒な石板が収まっていた。

 これを信者たちは邪神の御座と呼んでいた。


 邪神の御座は何人もの生き血をすすって赤黒く染まっており、禍々しい邪気すら立ち上らせていた。

 その上にモーリッツは裸にされた状態でうつ伏せに寝かされ、最上級信者に見守られる中、上級信者の執行人が魔物の骨を削って作ったナイフを手に取った。

 そしてまずはモーリッツの手首を左右順番に、ゆっくりと切り裂いていく。

 次は足首を、横腹を切り裂き噴き出る血を余すことなく邪神の御座に吸わせていく。

 御座はまるで吸血鬼のように血を貪欲に吸いこんでいき、一滴たりとも零さない。


 血がなくなっていき、モーリッツは段々と意識が遠のいていく。

 薄れる意識の中で、モーリッツの魂が肉体から離れだし世界に漂う世界力の海に還ろうとする。

 普通ならそれで世界力の海に揉まれて、魂という存在も溶けて混ざり消え去るだけの運命だった。

 けれどこの御座はそれを許さない。強欲にも血だけでは飽き足らず、その魂までも引き寄せ自分に取り込んでいこうとした。


 するとその瞬間、魂が表層に出かけたショックからかモーリッツの意識がほんの少しだけ意志を取り戻した。

 そうして願ったのは、死にたくない──俺はもっと欲しかったんだ! 欲しい!欲しい!欲しい! ──と、もう何が欲しかったのかも覚えていないが、ただひたすらにそれだけを叫び死に抗おうとした。


 すると突如、怖気が走るような、男とも女ともとれるキーキーとした耳障りな声が聞こえた。



『へぇー。君も欲しいぃモノがあるのかぁい?』

『そうだ! 俺は──俺は──何かが欲しいんだ! でも……思い出せない……くそっ! でも欲しい欲しい欲しいんだ!!』



 アーレンフリートによって壊されていたモーリッツの精神は、少しだけ戻ったことで自分が元々強く思っていた事だけを思う存在になっていた。

 それは地位が欲しい。お金が欲しい。称賛が欲しい──そんな欲望。

 だがそれ以上に強く求めていた何かがあったはずなのに思い出せなかった。

 なのでただただ子供のように、何かも解らないモノを求めて心の声をナニかにわめき散らす。



『うんうん。わかるよぉ~その気持ちぃ。ワタシも欲しいものがあったはずなのにぃ、最初は思い出せなかったんだぁ。

 でも今ならわかるんだぁ。そしてそんなワタシと繋がれたって事はぁ、君も同じなんじゃないかなぁ』

『同じ……?』

『うん、そうだよぉ。同じだよぉ。君は人を求めてるんじゃないかぁい?』

『ひと……そうだ。人が欲しいんだ!』



 欲して止まなかった誰かがいた事を思い出すが、モーリッツはそれがどんな者で何人いるのかさえ解らない。



『だよねぇ。だったらワタシと同じだよぉ。沢山たぁ~~くさん、人を殺したいんだよぉ。その為に人を求めているんだよぉ。そうに違いないよぉ』

『そう……なのか? あぁ、なんだかそんな気がしてきた……』



 かろうじて精神が残っている時に最後に行ったのは、ハンマーでのドワーフ一家撲殺。

 その事がモーリッツの精神を無意識に引っ張り、ナニかの言葉に誘導されていく。



『そうに決まってるよぉ。嬉しいなぁ。もしかしたら君となら繋がれるかもしれないよぉ。

 君とならもう一度ワタシは何かになれる気がするよぉ。

 だからさぁ……君の体をワタシにくれないかぁい?』

『俺の体を……?』

『そう。君の体をだよぉ。そうすれば君もワタシとして生き延びられるしぃ、今よりもっと沢山の人間を殺す事だってできる様になると思うんだぁ。

 君もそれは嬉しいだろぉ?』

『ああ、嬉しい。そうすれば俺は沢山の人が殺せるのか?』

『うん、殺せるよぉ。凄く凄くたぁ~~くさん!』



 モーリッツの壊れた精神は、いびつに歪み形を取り戻し始めた。

 そして最後に死にたくない。人が欲しい。そんな気持ちだけを持って、そのナニかの言葉に頷いた。

 するとモーリッツの精神と石板に宿っていた何かが混ざり合って融合していく。

 

 これがもし普通の人間であったのなら、アーレンフリートに出会う前のただのモーリッツであったのなら、このナニかに呑みこまれ、声が聞けたとしても発狂するだけだっただろう。

 しかし精神をこれ以上ないほどに壊されて、純粋な欲望だけしか持たない存在になっていたからこそ、そのナニかと対等に話し合うことが出来、またその体を共有する事も出来たのだ。 

 ──そして完全にそのナニかと混ざり合い同じ存在に至った瞬間、モーリッツの意識が飛んでいった。




 モーリッツはまるで夢の中にいるかのように、ナニかの感覚を通して身に覚えのない光景を俯瞰で見つめていた。



「よし。後はあそこのゲイジュツサクヒンとやらを回収して、本番だ。

 皆まだ疲れてはいないよな?」



 そう言ってからモーリッツが出会った記憶に無い少年は、アラクネ天魔の首と体。そして禍々しい人の刺さった棘が黒く染まった、濃厚な邪力を放つ物体を《無限アイテムフィールド》にしまった。


 それを誰にも気が付かれる事も無く見ていたのは残留思念、世界のゴミ、世界力の不純物などと呼ばれる、もはや何者でなく決して何にも影響をおよぼせない存在。

 絶対に死にたくない。もっとゲイジュツを愛でたい、もっと人を殺したいんだ。

 そんな身勝手で純粋な、とてつもなく強い執着だけが油汚れの染みのように、世界にこびり付いて浮遊しているだけのナニかでしかない。


 その後。少年とその仲間達は大天使と戦い始め、見事討伐し去っていった。

 一度だけ少年は戻ってきたが、潰れた人間の体を元に戻して地中深くに埋めると直ぐにまた何処かへ行った。

 それをナニか──アラクネ天魔から生まれた残留思念は、じっと側で見つめていた。


 時間の感覚など無く、それからどれだけの時が流れたのかは定かではない。

 ただ自分と言う世界のごみでしかない存在を保つのに、それは必死だった。


 何せ残留思念という存在すら定かでないモノは、普通それほど長くない時間の経過と共に世界中どこにでもある世界力の荒波に揉まれ、攪拌かくはん拡散されて消えていくだけのちっぽけなともしびでしかないのだ。

 もしこれで生前の体があったり、自分と深い所縁ゆかりのある何かがあれば、それに張り付きゾンビや幽霊、精神体などの魔物にその身を昇華できる可能性もあったのだろうが、それは全て少年──竜郎によって回収されているので不可能。

 そんな状態で残り続けるなど、消えかかった蝋燭の火を風雨吹き荒れる嵐の中で消さない様に死守する行為に等しい。


 だがコレはそんな本来ならあり得ない事象を、あり得ない程強い執着心だけで1万年近くも残り続けた。

 そしてそれだけ時が経っても消えそうになる我が身を、ただひたすらに保ち続けるだけと言うのは地獄のような日々といっても過言ではないだろう。

 だというのに、いつまでもいつまでも、それは決して諦めることは無かった──。



 捨てる神あれば拾う神あり。そんな諺が日本にはある。

 それはまさにそんな言葉通りの出来事だったのだろう。


 その時代、ゴオロウロ族という部族があった。

 ゴオロウロ族というのは、様々な戦いによって壊滅した先住民族たちが寄り集まってできた部族だ。

 なのでナハムが愛したピアヤウセ族の子孫達も、それなりに多く存在していた。


 そしてそんなピアヤウセ族を祖に持つ者の中に、ペシエオという名の男がいた。

 その男は別段すぐれた何かがあるわけでもなく、容姿がいいわけでもない何処にでもいそうな青年だ。


 そんなペシエオは日々に不満を抱えていた。

 何故ならナハムという素晴らしい英雄がいた部族の末裔だと言うのに、何故今の自分たちはこんな情けない負け犬の様な生活をしているのかと。

 かつて勇猛果敢に悪魔と戦い、さらなる繁栄をもたらしたナハムという英雄が今ここにいれば、このような惨めな思いはしなかっただろうと。


 そこでペシエオは思いついた。ナハムという英雄を復活させられないかと。

 ここで自分が──とならない他力本願な所が、自分が特別優れているわけではないとわきまえている凡人たる所以ゆえんだろう。

 けれどそれからとった行動は、いささか普通ではなかった。


 彼はこう思ったそうだ。失った命を取り戻したいと思ったのなら、今ある命を捧げ祈り続ければ復活してくれるのではないか──と。

 だがもちろんナハムに近しい命、ペシエオに身近な命である人間など殺せない。

 そんな事をしたら、あっという間に彼は他の者に殺されるだろう。


 また命が大きそうな魔物も無理だ。精々自分が捧げられるのは、そこいらにいる虫や小動物が精一杯。

 そんな考えからペシエオは、まずは小さな虫を沢山捕まえてきては自分で頑張って加工したナハムの御座と呼んだ石板の上ですり潰し祈りを捧げた。

 「どうかナハム様。哀れな同胞の子孫たちのために再びそのお姿を現しください」と。

 それは小さな虫に始まり偶に小動物、さらに極稀に運が良いと中型犬くらいの動物なんかを罠で生け捕りにし、その御座の上で何度も何度も殺し祈り続けた。


 そんな事を何日もしていると当然、何をしているのかと尋ねて来る者もいる。

 そこで彼がナハムという英雄の復活を祈っているのだというと、そのやり方をほとんどの者に意味がない。気味が悪いから止めろと言われた。

 けれど中にはナハムと言う英雄に憧れていたピアヤウセの末裔や感化された部族民などが共感し、ペシエオの作ったナハムの御座に生贄を捧げ始めた。


 段々と増えていく英雄信仰は、ゴオロウロ族の族長には不気味に思えたらしい。

 それを止めないのなら今すぐ出て行けと──当時ペシエオを開祖とした『英雄教』と名付けられた宗教に嵌った信者達も含めて言われてしまい、当然彼らは出ていく事を選択した。


 それからも他部族からのあぶれ者を信者に加え、少しずつだが小さな集団と呼べるだけ大きくなり『ヘルロエ』と部族語で英雄の意味が込められた名の集落を立ち上げた。

 規模も微妙に大きくなり、この時代になって少しずつ増えてきた魔法使いの中で土系統の魔法が使える者がいたので、頼んで御座の石を付けたし大きくしていって貰い、一度に多くの生贄を捧げられるようにもした。

 だがもちろん、その時は生贄と言っても自分たちで捕まえてこられる範囲なので精々が中型犬くらいの魔物だった。


 ……けれども虫から動物、魔物に至るまで何年も何十年も、その上で何回も命を奪った事で、その石板はほんの少しだが呪具化してしまっていた。

 それだけならまだ弱いし、これからもその程度の事なら大した呪具にもならずに済んでいたのだろう。

 けれどそれは、数多の命を捧げて出来た呪物という所が不味かった。



『………………美しい』



 大陸内を漂いながら自身を保ち、何とか存在を長らえてきたアラクネ天魔の残留思念は、たまたまヘルロエ族のナハムの御座を見つけてしまう。

 そしてその呪具の在り方を、心から美しいと感じてしまった。


 その瞬間──残留思念に強い意志が宿った。それはかつて自分が作っていた作品以下でしかないが、その本質がよく似ていた。

 そんなゲイジュツサクヒンを作っていたことすら記憶にないのに、呪具は強く強く残留思念を引き寄せて、遂には残留思念の受け皿となりえてしまった。



『あぁ……。なんて心地がいぃんだろぉうねぇ』



 おぼろげな、ただ生きたい、殺したい、美しいものを愛でたい──そんな意志だけだった存在が、自分の受け皿を得てより強くこの世界に固定化されてしまう。

 そして別段何の影響力も無い極小の力しか持たなかった呪具は、その時より段々と強力な呪具へと変質していった。


 それからはとんとん拍子に事が運んでいく。

 もう存在を保つために必死になる必要がなくなったソレは、自分を崇める信者たちにもっといい生贄が欲しいと願い始めた。

 元の意志が元だけに本来なら直ぐに人間を──と考え出しそうなものだが、ソレはあくまで呪具。

 そこまで具体的な考えなど持っていないので、生き物の命さえ吸えれば満足できてしまうようになっていたのだ。

 だが呪具として成長するに従って欲望も大きくなっていく。


 開祖ペシエオは既に何百年も前に死に、今はその子孫が率いている部族を何とか強化し、生贄がもっと豪華にならないだろうかと本能レベルの思考で考える呪具。


 そこで波長の合う存在に自分の欠片を食べるように念じてみた。

 すると上手く合う存在が1人だけいて、その者は生贄を尖った石で殺す時に欠けた呪具の小さな欠片を何も考えずに飲み込んだ。

 するとどうだろう。今までの自分以上の力が出せるようになったではないか。

 その事を皆に話すと、他の信者たちも呪具の欠片を食べた。

 呪具はそこいらの石を置けば勝手にくっ付いて吸収し、補修する能力が生まれていたので傷が出来ても直ぐに治る事は今までの経験で理解していた。

 なので信者達は迷うことは無かった。何故ならそれをまた、御座が望んでいると思ったから。


 そうして力を手にした英雄教のヘルロエ族は、より強い存在を捕ってきては生贄に捧げ、余ったもので自分たちの生活を豊かにしていった。


 生活が豊かになると当然人も増えていく。他部族から英雄教に入りに来る者までいて、その勢力はさらに巨大化していった。

 人が増えたと言う事は生贄も増えると言う事。呪具もさらに力を増していき──ついに生前のアラクネ天魔に近い思考が生まれ始めた。


 そんな呪具が願うのはただ一つ。人間を生贄に寄越せ。というもの。

 これまた波長の合う者──当時は巫女などと言われている存在にそれを伝える。

 もう呪具無しでの生活など考えられないヘルロエ族は、新たに教わった呪具の大きな欠片を腹の中に直接埋め込むと言う行為を行い、先住民族程度になら圧勝できる力を手に入れた。

 ならばもう呪具の思いのままだ。力を手にいれ酔いしれた信者たちに人を連れてこさせ、月に何度か自分の上で殺させることで満足していった。


 そんな者達を他部族はやがて邪神教と呼び始め、また数百年後にはヘルロエという部族名が消え、さらに時が経つと英雄教という名前すら消えていき、本物の邪神教へと変わってしまった。


 そうして人を供物に捧げられることで呪具は満たされていた。

 ほんの少し生前のアラクネ天魔のようにもっと欲しいと思うこともあったが、それでも人が与えられた時の感動にその感情は押し流されて、月に数度のお楽しみで収まっていた。

 これからもそれで呪具は満足し続け、このまま何もコレに起きなければ、未来永劫壊れるその時まで変わらずそれで済んでいた事だろう。


 けれどその何かはやってきてしまう。

 モーリッツ・ホルバインという肉体を持った存在と強く結びついてしまう。


 モーリッツの体と呪具は精神的にだけでなく、物質的にも互いに溶け合い混ざり合っていく。

 そうしてそこに出来上がったのは、ぐちゃぐちゃの黒い肉の塊に獣の目と口が付いたナニかだった。


 そしてソイツが最初にしたことは、モーリッツを殺した男を喰らう事。

 すると少し頭が晴れやかになっていくので、もう1人食べてみた。

 また自分に足りない何かが満たされた気がした。

 そして気が付いた。もっと自分に足りない物を食べて行けば、いつかちゃんとした体を持つことが出来るようになるのだと。


 仲間が目の前で食われたと言うのに恐れることなく、神が復活しようとしていると本気で思っている邪神教の信者は我が身を喰らえと言ってくる。

 だが信者は貴重な手駒。減らすのは馬鹿のする事。

 

 邪神と呼ばれるナニかになったソレは、さらに信者を強化していき自分の指定する生贄を持ってこさせるようになった。

 それはもう人間だけに収まらず、ありとあらゆる魔物に動物まで持ってこさせて喰らっていく。


 そうして元アラクネ天魔にして呪具にしてモーリッツの体はあらゆる生物の形を取り込んでいき、今のような醜い豚のような顔、獅子のような体、馬のような前足、牛のような後ろ足、人間の腕を太くして引き伸ばしたかのような尻尾、コウモリのような右翼、鶏のような左翼──という化物になっていった。


 アーレンフリートに徹底的に精神を壊されたモーリッツ。

 ありえないほどに執念深いアラクネ天魔の残留思念。

 ナハムの英雄伝説を知るピアヤウセ族の末裔ペシエオが思いついた生贄の儀式。


 それらが奇跡的に噛み合わなければありえなかった存在は、歪に世界を歪めて世界力溜まりを作り上げていったのであった。


 そして邪神と言うナニかは、もう直ぐ自由に動き回れる体を手にすることが出来る状態にまで至っていた。

 完全に体を手にすることが出来れば、その強さは魔王種に匹敵する。

 あとは自分に都合のいい信者だけを残し家畜の様に飼い殺し、好きなように生きられる。

 ただの思念から、そんな所まで数万年と言う月日をかけて上り詰めていた。


 ただ。それは成功したとしても、いつかは真の神の御使いやクリアエルフに滅ぼされる運命だっただろう。

 けれど少なくとも、それらが来るまでの間に何十万と言う人を殺す事も出来るはず。

 それこそ運が良ければ、百年位は望むがままに振る舞え大往生の果てに死ねる可能性すらあった。


 ……のだが、まあそれは、ここに竜郎達が来なければの話である。

長くてごめんなさい……orz 過去最高の文字数になったかもしれません……。

主人公たちとは関係ない回想だったので、1話に纏められないかなと思ったらこんな事に。


短く纏めると、

アラクネ天魔の残留思念と、ピアヤウセの末裔の男が作った呪具、おバカになったモーリッツの体

この3つが奇跡的に出会って融合して化物になって世界力を集めちゃった。という感じです。


明日からは竜郎たちの視点に戻ります。

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