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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九編 邪神教

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第547話 気味の悪いナニか

 邪神教の総本山に繋がる信者を見つける事を目的に調査を再開したわけだが、現在、竜郎と愛衣そして天照と月読の4人は獲物を探してうろついていた黒ずくめの男たちを尾行していた。


 そうして着いたのはイヤクグホ族の集落と似た雰囲気ながらも、家畜や物資などが非常に豊富な集落だった。

 中には奴隷のように働かされている他部族の民らしき人間も大勢いて、非常に苛立つ光景でもあった。



『いったい何様のつもりなんだろうね、邪神教の信者って』

『とりあえず邪神とやらの加護は早々にこの世界から無くしたいな』



 邪神教の加護のおかげで魔法抵抗力も一般人からしたら高くなっていたが、それでも竜郎が本気でやった呪と闇の認識阻害を見破れるはずも無く、侵入者が堂々と集落内を探索する事を許していた。


 何か目的に繋がる物はないか見回りながら調査していき、それと並行して出来るだけ偉そうな人間も探していく。



『あ、たつろー。あいつが1番偉そうだよ』

『ん? ああ、ほんとだな。1人だけ格好も違うし服に赤い線が入ってる』



 外見年齢は50そこそこで、痩せ型体型の男。

 他の者たちは頭から黒い布をかぶって目の所に穴をあけて──といった雑な格好だったが、その者は何処であつらえたのかカソックのような祭服を着ており、それには縦に一本赤い線が入っていた。


 その男は集落の奥に建てられている一際大きな土家ではなく石造りの家の前に立ち、6人ほどの黒ずくめ達にかしずかれ何かの報告を聞いていた。


 なんの報告を受けているのか聞くために、竜郎たちは躊躇することなく男の横に立って堂々と聞いていく。



「それでは生贄が足りないではないですか。どう責任を、お取りになるつもりですか?」

「そ、それは──。ですが捕えに行った連中がほとんど帰ってこないんです!」

「帰ってこないのなら別の人間をやればいいでしょう。役に立ちませんね、あなた達は。

 そんな事では私のように2つ持ちになれませんよ? まったくいつもいつも──」

『2つ持ち? 何のことかな』

『あー。今調べたら、こいつの腹の中には2つも異物を入れてるっぽいな。

 多分それを2つ入れられてるってのが、こいつらの中ではステータスになるんだと思う』

『あんなの2つもお腹にいれてんの!? ひぇ~~』



 愛衣はお腹を片手で押さえながら、竜郎の腕にギュッと抱きついた。



『でもその代り、ちょっとだけ他よりも強くなってるみたいだ。さすがに2倍って程じゃないから、入れる意味があったのかどうか疑問だが』

『ちょっとだけなんかいっ! まあ、沢山あって凄いだろっていうアイテムだと思えばいっか』



 などと念話で話していると少し離れたところから、こちらに向かってくる他より強い──それこそ2つ持ちと偉そうに語っていた男よりも強い反応に竜郎が気が付いた。

 精霊眼でそちらを見て確かめてみる限りでは、レベルにすれば60くらいはありそうだ。



『おっ、もしかして総本山を知ってるやつのご登場かも知れないぞ』

『それじゃあ、そいつの後を付けて行けばいいかもね』



 しばらく偉そうな男の真後ろで椅子を置いて呑気に待っていると、竜郎がそれなりに強いと思った人物が他の信者に地に頭をついて敬われながら集落の奥までやって来た。

 ボディービルダーのような肉体の160センチほどの身長の恐らく男。

 恐らくと言うのは2本の赤いラインの入った祭服を着たうえで、イスラム教徒の女性が顔を隠す時に使うニカブに似た被り物をして目だけしか見えなかったからだ。



「これはペルリュ様、ようこそいらっしゃいました」

「うむ。それで今宵の生贄はどうなっている? 邪神様のお目覚めが近いのだ。早く連れてこい」



 その偉そうな声は、低く間違いなく男だと解る物だった。

 聞く者に威圧感のある声色でもあったので、細い男は平身低頭謝りながら事の次第を報告していく。

 何故か生贄を探しに行った者達が帰ってこない。だから生贄はまだ用意できていない。

 けれど許可が降りるのなら家畜のように繁殖させた人間たちや、奴隷なら直ぐに用意できる──と、そんな内容を。


 けれどその報告を聞くにつれて不機嫌そうな雰囲気を隠しもせずに、唯一見える目を尖らせ貧乏ゆすりまで始める始末。

 報告している男は離れるわけにはいかないので震える声でしゃべり続け、他の信者たちは少しだけ距離を取り始めていた。



「この役立たずが!」

「──ごぼっ──がっ──ぐべっ」

「復活間近の邪神様に、家畜人間や奴隷を与えろだと? 馬鹿も休み休み言え! 愚か者がっ!!」

「がぅ──ぐぇっ──も"っ──や"べっ──っで──ぐだっ──」



 殴る蹴るとやりたい放題。もはやサンドバッグか何かだと勘違いしているのか? とすら思う程にだ。

 だが痩せ型の男も存外頑丈で、止めてと懇願する割には全く死にそうにない。



『強さはそんなに変わらなくても、耐久力は大幅に上がっているのかもしれないな。

 もしくは2個目からは個体差があるとかか』

『えーとさ。それよりも、いつまでやるつもりなんだろうね、これ。見ていて気持ちのいいものじゃないんだけど』

『と言ってもなあ。俺達がここで出るわけにはいかないし、どうやって隠しているか解らないから出来るだけ自然のままに案内してほしいしな』



 ということで暫く見守る事、数分。ようやく小柄な筋肉男ペルリュも落ち着いたのか、殴るのを止めた。

 そこですかさず、2つ持ちと自慢していた痩せ型の男は土下座のような形で謝り倒した。

 ペルリュも舌打ちしながらも、それを見て完全に頭が冷えたようだ。



「──っち。仕方がない。今回は俺の分は用意できなかったと報告するしかないか。

 だがもし次もこのような事があれば、貴様を1つ持ちに降格、もしくはそれ以下の奴隷に落とす事もあり得るからな! 覚悟しておけ!!」

「はっ、ははぁ~~」

「気分が悪い。もう帰るぞ! いいか、次は無いからな!」

「ははぁ~~」

『よしっ、後を付けるぞ』

『あいあいさー』



 肩をぷんぷん怒らせながら集落を出ていく男の後に続いて、竜郎たちもそこを出ていく。

 その途中で痩せ型男が今度は自分がやられた事を周りの1つ持ちの信者にし始めたのを探査魔法で知った竜郎は、この邪神教という宗教はどこまでも腐っているんだなと心から思った。


 後を付けている男は集落を出るやいなや、周囲に目をやって誰も見ていない事を確かめると自分の足で走り出す。邪神の加護の恩恵もあってか普通の人間では走ってついていくのは無理そうだ。

 けれど竜郎たちは普通に軽く走って少し後ろをついていく。



『生贄がいたらどうやって運んでいくつもりだったのかな?』

『今でも本気じゃないだろうし、あそこにいた先住民くらいの強さの人達なら1人でも十分なんだろう。

 それに人数を増やすと情報漏洩に繋がるしな』

『徹底してるねぇ。ところで、あそこのマッチョさんは一体何個異物を埋め込んでるの?』

『えーと……まじか、4つも腹の所にいれてるぞ。

 さっき2個でもあれだけ偉そうにしてたんだから、4つだと確かに相当な位の人物なのかもしれない』

『逆に言っちゃうと、それくらいの人じゃないと本拠地は知らないって事かもね』



 もしこいつがハズレでも、今度からは異物を埋め込んでいる数の多い奴を探せばいいなと結論付けて尾行に専念した。



『おっ、レーラさん達だ』

『え? ああ、ほんとだね』



 男を追いかけていると、さらに別の男を追いかけているレーラ達を見つけた。

 向こうも認識阻害の魔道具を使っているので尾行は容易だ。

 他にもリアやイシュタルのチームも別の男を追っているのが見えてきた。

 どうやら全員それらしい信者を見つけて付いてきたようだ。竜郎と愛衣が手を振ると、向こうも手を振り返してくれる。


 そんな事をしている間に信者同士も互いの存在に気が付いて、さらに誰も生贄を連れていないことに訝しげな表情を取りながら、尾行されていない者も合わせて6人の狂信者達が近寄っていく。



「おい、生贄はどうした?」

「あなたこそ、どうしたんですか」

「俺は担当の地区の奴らが集め損ねて……」

「何だと? お前もか?」

「ということは、まさかお前も──」



 尾行してきた信者同士でお前もお前も合戦を始めてしまい、たいした情報は得られそうになかったので竜郎達も仲間同士で情報を共有していく。

 すると、やはり竜郎以外の面々も同じような経緯からここに来るに至ったようだ。



「さすがに誰も連れて行かないと言うのは不味いのではないですか?」

「くそっ、こんなことなら家畜人間でも奴隷でもいいから連れてくるんだった!」

「今から戻るか? それとも1つ持ちの連中を供物に捧げてしまおうか?

 それなら下等な家畜人間や奴隷よりはましだろう」

「それは良い手かも知れないな。やつらも邪神様の供物になれるのなら本望であろう」



 さも良い事を言ったとでも言わんばかりの雰囲気に、愛衣は思わず竜郎に念話を飛ばしてきた。



『ええっ!? 階級が低いって言っても同じ宗派の仲間だよね。なんで当然みたいな顔で言ってるの?』

『もうなんというか……そう言う奴らとしか言いようがないな』



 結局6人はその後自分たちの担当の邪神教集落とでも言うべき場所に戻り、そこから信者を3人ずつ見繕って来た道をまた戻り始めた。

 生贄に選ばれた信者はさぞ悲嘆にくれるだろうと思っていたのだが、顔には心から笑みを浮かべて邪神の加護4つ持ちの男たちに無抵抗で着いていく。



『なんで今から殺されるっていうのに、嬉しそうにしてるの……?』

『こいつらにとって邪神に捧げられるというのは、それだけ嬉しい事なんだろうさ。理解は出来ないけどな』



 連れ去られるときに、信者たちがまず最初に口にしたのは、揃って『私でいいんですかっ!?』だった。

 それは社交辞令でもなんでもなく、まるで宝くじにでも当たったかのようにはしゃいでいる姿は本当に不気味だった。


 1つ持ちの走る速度に合わせているため走る速度は遅くなっていたが、それでも1時間ぐらい走った所で目的の場所に着いたようだ。

 そこは辺りには目印になりそうなものは一つも無く、ただ周囲と同じようなものが広がるだけの荒れ地。

 竜郎はマップ機能をもっているので、またここに来いと言われても迷わず来れるが、この者達はそういったシステムの機能を使っている形跡も無かった。


 それなのに一切迷うことなくここに真っすぐやってきて、6人の上級信者は18人の下級信者たちを後方に下がらせて6角形になるように並び始めた。

 そして綺麗に6人が位置取ると、祭服の襟元から奇妙な模様が掘られた金属製のアミュレットを取り出し、そこへ腹に埋め込んだ邪物質から邪力を流し込んでいく。



「「「「「「我らが神の御座へと導きたまえ」」」」」」



 全く同じタイミングで6人がその文言を口にすると、アミュレットが黒く輝き地面に向けて黒い光線を放つ。

 その6方向から放たれる光線は上級信者たちの立っている場所を、線で繋いでいくかのように地面に染み込んでいき6角形を何もない大地に描いていく。

 するとその6角形の中に6人の持つアミュレットに彫られた幾何学模様と同じ模様が黒い線で浮かび上がったかと思えば、その部分が消え去り地下へと伸びる階段が現れた。


 ただ生贄になると言って連れてこられた下級信者たちは、その光景でさえ感嘆の声を上げたり感動に涙を流していた。

 とても今から死ににいくような雰囲気ではない。



「さあ、お前たち。我らと共に来るのだ」



 一斉に「はい」と静かに返事をすると、上級信者に続いて下級信者が階段を下りていく。

 竜郎たちも下級信者たちに紛れて、堂々と邪神の御座と呼ばれている場所であろう隠し拠点に潜りこんでいった。



「うっ。酷い臭いです…………」

「解魔法で調べた限りだと、人と何かの体臭と、血と香の類が混ざった臭いみたいだな。確かに酷い」

「くちゃーい!」



 リアが思わずえずきながら鼻を押さえ、竜郎や愛衣、レーラやイシュタルも顔をしかめながら鼻を抓んだ。

 認識阻害はかかっているので、竜郎達以外にそれに気が付いた者はいないので問題はないのだが、初めて入ったであろう下級信者たちでさえ平気な顔をしているのに怖気だった。


 そんな風に気味の悪い奴らに囲まれながら階段を下り終ると、そこには広い空間が広がっており、一際強い邪神の加護とやらを受けたと思われる、レベルにして80そこそこの強さを持った人間たちが20人近くもいた。


 その者達は黒の祭服に赤のラインが4本、銀のラインが1本入った服を着て、こちらは上級信者と違い顔を隠してはいなかった。

 さしずめ最上級信者とでも言った所なのか、上半身を飛び越えて邪神の加護によって首や顔にまで幾何学模様が浮かび上がっていた。



「凄いな、邪神の加護ってのは。普通の先住民をあそこまで強くできるのか」

「その代償として、生殺与奪を何かに握られている様ですけどね」

「そうなのか? リア」

「ええ。恐らくあそこまでいくと邪神とやらの外部端末──操り人形状態でしょうね。いちおう自分の意志は残っているみたいですけど」



 リアのその言葉にイシュタルは眉をひそめて口を開く。



「もはやそれは人間ではないな。だが腹の中にある奴を取り除けば元に戻るのか?」

「戻らないでしょうね。取りだしたらそこに残るのは廃人ですよ」



 嫌な事を聞いてしまったとばかりに、イシュタルはさらに眉根の皺を深くしながら、皆と一緒に広い空間を見渡していく。



「邪神の御座ってのは、あの階段の上にあるっぽいな。何か人間じゃない反応があっちからする」



 その空間の最奥には下ってきた方向とは逆に上る階段があり、その階段の上は垂れ幕のようなもので奥の空間を隠していた。


 連れてこられた下級信者たちは上級信者たちに促されながら、その階段の前に並べられていく。

 その間に1人の上級信者が最上級信者たちに、生贄が揃わなかった事などを報告していった。

 それを聞いた最上級信者たちの反応はと言えば──。



「何者かが邪魔をしているようだな」

「愚かな事よ。邪神様が復活のおりには、まず最初にそやつらを殺して貰わねばな」

「ああ、愚かなことよ。くくくっ──」



 まさかその邪魔者がここにいるとも知らずに、そんな事を話していた。

 そうこうしている間にも下級信者達が綺麗に階段の前に並び終わった。

 それを見届けてから最上級信者の中でも一人だけ王冠のようなものをかぶった男が、階段を上っていき垂れ幕の前で止まり振り返った。



「今より、邪神様に生贄を捧げる儀式を執り行う。

 まだ不完全ではあらせられるが、その御身を見られることを光栄に思いながら死ぬといい!」

「「「「「ははぁーー!」」」」」



 18人の下級信者が一斉にこうべを垂れたのを満足げに見守りながら、垂れ幕の前にいる男が、その隅に垂れ下がっていたロープを引っ張りその幕を上げた。


 するとそこには──。



「なに……あれ……? ──気持ちわるっ」



 そこにいたは全長4メートル程。醜い豚のような顔、獅子のような体、馬のような前足、牛のような後ろ足、人間の腕を太くして引き伸ばしたかのような尻尾、コウモリのような右翼、鶏のような左翼──と、まったくもって理解不能なナニかが寝転がっていた。



「気味が悪いな……。魔物とも少し違う。ほんとに何だあれは。

 リア、そっちは……リア?」



 リアの目ならば詳しい事が解るだろうと竜郎がそちらに振り返ると、そこには目を見開いて驚愕の表情を浮かべ、そのナニかを凝視する彼女の姿があった。

 そしてようやく現実を受け入れられたのか、パチパチと瞬きを数回した後──。



「モーリッツ・ホルバイン……何故あなたが……」



 そう、ポツリと呟いたのであった──。

次回、第548話は8月15日(水)更新です。

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