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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九編 邪神教

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第545話 狂信者

「襲われていたように見えましたが、大丈夫でしたか?」

「あ、ああ。助かった。礼、言う……が、お前たち、誰か?」



 男女3人の中で一番年かさがいっていそうな、40代半ばの髭が伸び放題でガタイのいい男が今度はこちらを警戒しながらそう問いかけてきた。

 言葉がカタコトなのは、普段彼らが話している言葉ではなく、ここイルファン大陸語でしゃべってくれているからだ。



「僕らはこの辺りで探し物をしていた冒険者です。あなた方は?」

「我々、この地、ずっと暮らしてる、イヤクグホ族」

「やはり先住民の方でしたか」

「先住民、呼び方、好きじゃない。我々はイヤクグホ族。イヤクグホ族と言ってほしい」

「ああ、失礼しました。それでイヤクグホ族の皆さんは、何故この怪しげな人達に襲われていたのでしょう。

 そちらに非があるのならば、僕らはこの黒い人たちに謝らなければいけませんし」

「我々、悪くない。こいつらイカレ。邪神教の狂信者」

「イカレ? イカレとはいかれている、頭のおかしい奴らと言う意味でのイカレですか?」

「そう。こいつら頭おかしい。そして最近、特にイカレ」

「といいますと?」

「元から邪神復活の生贄、とか言って、我々や他の部族たちを攫って殺した」

「ありゃりゃ、そりゃ確かにイカレだね……」

「ああ、だがそれは大体1年に数回程度だった。けど最近、月に何人も攫って殺そうとする」

「えーと、それが解っているのならどこかに訴え出るのはダメなんですか?

 明らかに危険思想の殺人集団ですよね?」



 竜郎のその言葉に先住民族イヤクグホの者たちは顔をしかめた。



「我々はどこにも属さない。だからどこの法も当てはまらない。我々死んでも、動くの同じ部族だけ」

「ということは、あなた方が何人死のうとも、国や冒険者ギルドなんかも動かないと?」

「そう。けどそれを選んだの我々」



 つまりヘルダムド国、またはリベルハイト国の国民ならば、襲われた場合国に訴え出れば調査くらいはしてくれるだろう。

 そして自分たちの国民にとって脅威となるのなら排除もしようと動くだろう。

 また国に属していなくとも、冒険者ギルドに属していればギルドに訴える事で何かしら対応はしてくれるはず。


 けれどこの者たちは、何かに属することを嫌がった人たち。

 酷い言いかたをすればヘルダムド、リベルハイト、冒険者ギルドを始め、何処の国にとってもこの人たちは人ではないとみなされるようだ。

 もちろん自国民や冒険者がいたずらに先住民たちを傷つけようとするのなら何らかのペナルティを与える事もあるようだが、邪神教も先住民族らしく、先住民同士の戦いは完全に関与する理由がない。

 だからこの事を竜郎が冒険者ギルドや国に訴えかけても、先住民が何十何百死のうともどこも動くことは無い。


 そしてそれが解っているからこそ、邪神教も先住民ばかりを狙うようだ。

 国民や冒険者に手を出し証拠を残せば指名手配。もっと酷ければ邪神教を根絶やしにされかねないのだから、襲わないよう徹底しているとのこと。



「うーん。それじゃあ、対抗できないとやられるだけなんだねぇ。

 でも気味悪いなぁ、あの黒ずくめの人たち……。目がいっちゃってるもん。

 あれ、たつろーの魔法のせいじゃないよね?」

「ああ、違う。俺の魔法は動きを封じているだけだからな」



 竜郎たちの視線の先では、瞬き一つしないで目をかっと見開いて、こちらをギロギロとした目で睨んできていた。

 普通なら恐怖や焦りなんかがあってもいいと思うのに、そんな色は一切なく、ただひたすらに憎悪を向けられているのだ。

 けれど竜郎たちにとっては、だからなんだと言う話でしかないので無視して視線を外しイヤクグホ族の男に再び話を聞いていく。



「えーと、そういえば最近特におかしくなったと言っていましたが、この辺りで何か変わった事でもあったんですか?」

「我々、知らない。でも、そいつら言ってた。邪神ナハムがもうすぐ復活すると。その関係で、生贄増えたのかもしれない」

「邪神──」

「「ナハム?」」



 邪神の後に続くナハムの言葉は、愛衣も同時に竜郎と口にしていた。



「えーと、その邪神教の神はナハムと言うんですか?」

「ああ、そう言っていた。それ、我々の部族でも有名。昔からずっとそう叫んで襲ってきていた。それが何だ?」

「いや、あの……ピアヤウセ族という部族に心当たりはありませんか?」



 竜郎達が唯一知っていて、関わった事もある先住民の部族名。

 そしてその時の長の名前はナトゥンカハムプファ・ピアヤウセ──皆からナハムと呼ばれていた男。

 この大陸の部族であり、名前が一致し、最後は神のように崇められていた人物の名と邪神の名が一緒であることが果たして偶然なのだろうか。

 そんな思いから出た男への問いの答えは、「ピアヤウセ……? 知らない」という言葉だけだった。

 それはもう一人の30代くらいの男も同じだった。


 だが一人。一番後ろにいた18歳くらいの女性だけは違った反応を示していた。



「知ってる。かも、しれない。私の友テテューの遠い祖先に、そんな部族がいたと言っていた記憶ある」

「テテューが? それほんとか、フュフ?」

「たぶん……。ちょっと聞いただけ、自信ない」

「えーと、それでもいいので、そのテテュー?さんに、お話をうかがう事は出来ませんか?

 僕らの探しているモノにピアヤウセ族が関わっているかもしれないので」



 その辺りはあまり突っ込まれても面倒なので、呪魔法で深く突っ込んでこない様に牽制しておいた。

 そのため、竜郎たちの探し物についてイヤクグホ族の3人が気にすることは無かった。



「お前たち、我々助けた。恩義報いるのは当たり前。テテュー、話していい言ったら、あわせる。それでいいか?」

「ええ。それで構いません」



 いざとなったら魔法を使ってでも聞きだすつもりだったが、そうする必要はなさそうだ。

 おそらくだが探している世界力溜まりは邪神教が関わっている可能性が非常に高い。

 そこに転がる信者をみても、その異常性はよく伝わってくるし、大概そう言う異常な所に今までもあったのだから今は、この部族で情報を集めた方が効率的だろう。

 ──などと竜郎が考えていると、さっきから竜郎たちと話している男が異常者8人を指差した。



「あれ、どうする気だ?」

「えーと……ヘルダムドとかリベルハイトに連れて行っても捕まらないんですよね?」

「ああ。こいつら我々、何人殺そうと、国にとって犯罪でない。逆に迷惑がられる、はず。

 もしお前たち、いらない言うのなら、我が部族で処刑したい。いいか?」



 もう一人の男や女も話に加わり、この邪神教徒たちがいかにイヤクグホ族はじめ、他部族に対して非道な行いをしてきたのか語って聞かせてくる。

 さりげなく嘘が付けない様に呪魔法を使っても話の内容は変わらないので、どうやら全て真実のようだ。


 簡単に要約すると邪神教の信者は女子供関係なし。

 今日は子供がいいと攫っていったり、今日は美しい女がいいと攫っていったり、今日は首だけあればいいと青年の首を皆の目の前で刎ね体を捨てて頭だけ持っていったり──などなど、やりたい放題。

 他にも神の使徒に供物を捧げろと食料や家畜を奪われたり、ここに畑を作るのは方角が良くないと突然言ってきて荒らしていったり、本当にどうしようもない連中のようだ。


 それなら他部族と手を組んで邪神教を倒せば──などと思うだろうが、邪神の加護を得ているらしく、彼らでは手も足も出ないと言う。

 しかも生贄がいなくなるのは困るからか、最低限部族が滅びない程度に加減されているので死力を尽くしてまで──とは思わなかった……というか、実際に死力を尽くして挑んだ他部族はあっさりと捕えられ、家畜のように繁殖させたり生贄に捧げられたりしているらしい。

 それを他部族に対して大々的に報告してくる嫌らしさもあり、戦うことに二の足を踏んでしまうようだ。


 そんな自分たちでは手も足も出せなかった連中が8人も転がっているのだから、自分たちの手で殺したいと思うのは当然のことなのだろう。

 人殺しの手伝いをしたようで気分は良くないが、それでもこの連中に対してはどの法も適応されないのだから私刑で対処するほかない。

 逃がせば報復として彼らが狙われるのは間違いないであろうし、ピアヤウセ族の末裔がいる部族となると、少し助けてあげたい気持ちも出てくるというもの。



「解りました。この連中は、あなた方との友好の証として差し上げます」

「「「あ、ありがとう!!」」」

「えっ、ええ、どういたしまして」



 予想以上に喜ばれ、竜郎は男二人に思い切り抱きしめられてしまった。女性は愛衣に抱きついている。

 この者達の所持品は検査済み。レベルもスキルもありふれたものだけなので、受け入れはしたが熱烈すぎて困ってしまう2人。

 ひとしきり感謝の言葉を投げかけられると、さっそくとばかりに狂信者に向かっていこうとする。



「あ、ちょっと待ってください! その人たちはさしあげますが、その前に調査させてください。

 その邪神の加護とやらが気になるんです」

「む? もちろん構わない。これ、お前たちの獲物。最後にくれるなら、文句ない」

「ええ、ちゃんと生きたまま渡しますし、なんならあなた達の暮らす場所まで運ぶのも手伝いますよ。3人じゃ大変でしょうし」

「あり──」

「ええ。それは聞いたんで大丈夫です!」

「そうか……」



 また抱きつかれそうになったので、竜郎は手を前につきだし先手を打って断った。

 すると何だか残念そうな顔をされ、「おっさん、あんた……そっちの人じゃないよな?」と心の中で呟きながら、さっそく狂信者たちに解魔法を使っていった。


 もともと何か変な反応だったのは間違いないし、邪神の加護という何かがあるのは間違いないのだろう。

 そこを詳しく知るために体を調べていくと、腹の中に何か異物があることが判明した。

 しかもその異物からは強力な邪系統のエネルギーを感じた。



「ちょっと失礼するよっと」

「────!」



 目だけで殺そうとでもしているのかと言いたくなるくらいの形相で睨み付けてくる男を無視しながら、竜郎は羽織っている黒い布をはぎ取り、上等な毛皮で出来た上着を脱がせた。

 するとヘソの辺りを中心に、そこから広がるように定規で引いたようなカクカクとした幾何学模様が全体に刺青が如く上半身いっぱいに刻まれていた。

 しかもヘソの辺りに切って無理やり縫ったような痛々しい跡がある事から、ここから手術モドキで無理やり体内に異物を挿入した痕跡も見られた。

 衛生管理もろくにしてないだろう場所でそんな事をして、普通なら死んでもおかしくないのだろうが、そこは謎の邪物質パワー?を得る事で何とかしているのだろう。生魔法使いもいるのだろうし。



「うひぃ~いったそ~」

「だなぁ。地球でも身体改造なんていう文化もあったから否定はしないが、自分がやりたいとは思えないな。

 う~ん、にしても……飲み込んだのなら吐き出させればいいと思っていたが、これだと切らないと摘出は無理だな」



 と言う事でサクッとレーザーでお腹の皮を切り裂き月読のスライム触手で御開帳。

 ヘソの下にあたる場所には、三角おにぎりのような形をした厚み2センチほどの黒い金属板のようなものが筋肉に張り付いていた。

 これが邪神とやらの加護の源とみて間違いないだろう。

 天照の竜念動で引っ張ってみると接着剤でも使ったのかと言う程べったりと筋繊維に張り付いているので、解魔法で調べてみると完全に接地面が溶けて癒着していた。

 これはもうしょうがないかと癒着した部分ごと切り取って摘出。直ぐに生魔法を使って傷を塞いだ。

 すると刺青のように上半身全体に描かれていた幾何学模様が徐々に薄れていき、最後には完全に消え去った。



「妙な反応も無くなったな。これで、こいつはもう普通の人間だ。

 ……にしてもこれはなんなんだ? コイツが埋め込まれていると人間が魔物みた

いな反応を示すようになるんだが」



 直接触れずに竜念動で浮かすようにして目の前に持ってきて観察していくと、邪力で出来た黒い気体が立ち上り始めた。

 それを感知した竜郎は、愛衣に下がるように告げた。



「なんか気味が悪いね。たつろーの解魔法じゃ何か解らない?」

「ああ、ナニかは解らない。けど体内に癒着すると、人でも天魔──もっと厳密に言えば魔族の魔物に近い存在になれるってのは解った。

 そのおかげで身体能力もグンと上がるみたいだな」

「ん? それじゃあ、あの人達がおかしかったのはソレのせいってのは無い?

 無理やり埋め込まれて変になっちゃったんなら、処刑は可哀そうな気もするけど……」

「いや。調べた限りでは、ただ強くなるだけで精神にまでは強い影響はないと思う。

 だから、まったく精神に異常をきたさないとは言いきれないが、元々なかった感情を植え付ける様な作用はないはずだ」

「あー、ってことはつまり、この人たちは真正のイカレさん達と……」

「まあ、うん……そうなるな」



 と2人で日本語で会話をしていると、それを見ていた男が話しかけてきた。



「その黒いの、なんだ? あいつらの体から出てきた」

「ああ、これはですね──」



 これが邪神教の加護の源であり、これさえなければただの人に戻ると言うことを説明していった。

 すると竜郎から離れて、不気味そうな目でその黒い物体を見つめていた。



「ってことで、こいつらから全部摘出していく事にします。

 そのほうが暴れられても、あなた方で対処できるようになるでしょうし、処刑した後に死体を焼いてもこれは残ると思うので僕らで回収しておいた方がいいでしょう」

「あ、ああ。是非、お願いしたい」

「ええ、任せてくださいよ。それじゃあ、今度は──」



 竜郎が黒ずくめの連中に視線を向けると、先ほどまで憎悪の視線を送っていたのに恐怖の視線に変わっていた。

 そして先ほど邪物質を取り除かれた男は、よほどショックだったのか呆然自失と言った様子。

 どうやらこの者達にとっては、命を取られるよりも酷な仕打ちのようだ。



「まあ、でもやるんだけどな」

「ヤバそうな物体だしね」



 だがそんな事情は竜郎には関係ない。先住民の人々を散々もてあそんでおいて、自分たちがやられる側になったから許してもらえると思うのはおかしなことだ。

 竜郎は容赦も情けもかけずに、全員の体から邪物質を取り除いていくのであった。

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