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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九編 邪神教

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第544話 誰のものでもない場所へ

 竜王種が一種。よくのソルエラ種を生み出した後に、もう一度同じ素材で先の《竜族創造》をなぞるように実行してみたが、生まれたのはやはり竜王種の傍系──親戚にあたる亜種だった。

 前足が後ろ足より大きく発達し角が2本「く」の字に前に突き出した四足歩行型ティラノサウス──と言う所までは同じだが、やはり顎の下の模様が無かったのだ。



「やっぱり同じ竜王種の2体目は無理か。けれど、これでなんとなく法則が見えてきたかもしれないな」

「同一個体の上級竜以上の心臓と魔石を両方そろえた上で、他の素材も同じ竜で構成していき、最後の1枠にニーリナさんの心臓を加えるってことね」

「うーん。ですが上級竜という指定だけでは弱い気もしますね」

「え? 弱いというのはどういうことですの? リア」

「だってですよ。確かに上級竜以上というのは、そこいらにいる存在ではありませんが、探せばいる所にはいます。特に竜大陸になら、それなりにいるのではないでしょうか?」

「まあ、そうだな。私も正確な数までは知らないが、それでも上級竜以上という括りでいいのであれば、それなりにいると言ってもいいだろう」

「と言う事はですよ。仮にも世界に6種しかいない竜王種を生み出すと言うのに、それだけ沢山いる上級竜の素材ならどれでも生み出せると言う事はないでしょう。

 それがたとえ、存在しないはずの魔石や心臓を用意できたとしてもです」

「たまたま、毒竜とダンジョンボス竜の素材がマッチしたって事はないっすか?

 ……まあ、ちょっと都合がよすぎるっすけど」

「そうです。私たちが、たまたま持っていた上級竜の素材だから出来たと考えるのは流石に都合がよすぎます。

 であるのなら、もう一つの共通点を仮説段階の竜王種創造の法則に入れた方がいいのではないかと考察しました」

「もう一つっていうと……もしかしてダンジョンのボスだったって所か?」

「その通りです、兄さん」



 毒竜は正式にダンジョンボスとなる前にダンジョンの個が破棄されてしまったので、厳密に言ってしまえばボスではなかった。

 けれどそうあれと生み出されたことには変わりはないので、ダンジョンボスと定義しても問題ないだろう。


 ということで現在の竜王種創造の法則の仮説を纏めていくと──。

 1、ニーリナの心臓を用意する。

 2、上級竜以上の竜種であり、なおかつ同個体の魔石と心臓の両方を用意する。

 3、2の竜の素材で残りの素材も埋めていく。

 4、ただし2の竜種はダンジョンボスであったことが前提条件である。

 ──こんな感じになる。



「確かめるには他のダンジョンのボス竜を狩って試してみたいな」

「けどさ、そんなに沢山ボス竜っているの? レーラさん」



 冒険者歴も長いレーラに愛衣が問いを投げかけると、彼女は顎に手を当て考えるそぶりを見せてから口を開いた。



「そうね。私が知っている限りだと、上級竜以上がボスとして出てくるダンジョンは2つあるわ。レベル10とレベル12のダンジョンね。

 あとは聞いたことは無いわね。探せば他にもあるのでしょうけれど」

「おおっ、でも確実に2つも候補があるのはありがたいな!

 その2つの素材を持ってきて、2つともで竜王種が産みだせたら、さっきの説はかなり有力なものになるぞ」

「今やってる事が終わったら、ボス竜狩りに行ってみるのもいいかもね!」

「だな! 目指せ竜王種コンプリート!」

「ピュィ~!」「ヒヒ~~ン!」「コンプリートですの~!」「コンプリートっす~!」「「────!」」



 カルディナ達も竜郎のテンションに押され、やる気満々なようだ。

 一方イシュタルは各竜王種たちになんと説明すればいいのだろうと、頭を抱えていた。もはや6種全部も有りえてしまうかもしれないのだから。

 だが直ぐに、はっとして顔を上げる。



「いや、だが待てよ。竜郎の子供とも言える各竜王種達と、我がイフィゲニア帝国の竜王種達が縁戚関係となれば、今以上の発展が望めるのではないだろうか」

「ああ、それは十分あり得るかもしれないわよ、イシュタル。

 だってあの子達は異世界の技術も今後取り入れて発展していくでしょうし」

「ふむふむ。私もそこは非常に興味が惹かれる。

 我が子を生み出すのにも手を貸してもらえるし、竜王種達とも密な関係となれば他国よりも優遇して貰えるのは間違いないだろう。

 ふふふ、これは案外いい案かも知れないな。

 よしっ、タツロウ! 私もこれからは全力で応援するぞ! じゃんじゃんやってくれ!」

「おう! ありがとな、イシュタル! 俺達も頑張るよ!」



 竜大陸を統べる帝国の現皇帝の積極的なGOサインも出たとなれば、もう恐いものはない。

 竜郎はこれからも自重しないで創造していこうと、今後の予定として心にしっかりとメモしておいたのだった。

 まあ、最初から自重する気があったの?と言われたら、彼は目を背けるだろうが……。


 ──さて。長い考察も済んだところで、新たに迎えた2体の幼竜に名前を付けていく事となった。

 イシュタル曰く、性別はどちらも女の子らしい。

 なのでソルエラの原種の子にはソフィア(ヴィータ君と同じく頭文字を取ってみたよ!)。

 傍系の亜種の子にはアリソン(アヴィー君と同じく亜種の『あ』とソルエラの『そ』が付く名前だよ!)──と、それぞれに名付けていった。


 ちなみに現ソルエラ種で竜大陸の一国を任されている竜王は男で、妻も子も無し。

 けれど即位したばかりの若者らしく、今は両親や周りのフォローで何とか回せているといった状態で、とてもではないが結婚がどうのこうの言っている場合ではないらしい。

 なのでヴィータ程、今後存在が明らかになっても直ぐに猛アプローチは無いだろうが、将来的にはソフィアとの婚約の打診も十分あり得るだろうとのこと。

 だが、そちらもあくまで本人の意思が重要なので竜郎は一先ずは防波堤となる気のようだ。


 こうしてこの日の創造実験では、ちびっ子妖精ランスロット。索敵が得意なランチア種の亜種ミネルヴァ。そして竜王ソルエラ種のソフィーとその亜種アリソンという結果を持って解散となった。


 その日の夜。竜郎たちはリビングに集まり、次の目的地について話し合っていた。



「次の目的地は173年後の未来。場所はヘルダムドとその隣国リベルハイトの間の、どの国にも属していない空白地帯──と言う事らしいわ」

「確かそこって先住民さんたちが住んでいる地域だよね」

「国に属することを拒否するが、かと言って戦争を起こす事も無く国の外で生きることを選択した人たちだな。

 最初に行った過去で会ったピアヤウセ族の子孫たちも、もしかしたらどこかにいるのかもしれないな」



 ナハムが谷底に飛び込む姿が脳裏に浮かび、ちくりと竜郎の胸を刺した。

 それを察してかどうかは定かでないが、タイミングよく隣の席に座っていた愛衣が竜郎の右腕をギュッと抱きしめた。

 嬉しくなった竜郎は彼女の頬に軽くキスをすると、愛衣は嬉しそうにはにかみながら彼の頬にキスをし返した。

 そんなイチャイチャ空間は無視したまま、レーラが話を進めていく。



「そうかもしれないわね。それともう一つ、重大な報告があるの」

「重大な報告っすか?」

「ええ。実は今回の未来改編で、この過去と未来を行き来してアムネリ大森林に時空を超えて集合した世界力の調整作業も終わりらしいの」

「ってことは、それが終わったら遂にアムネリ大森林へリベンジですの」

「もう神格者の称号もあるっすから前より楽に動けるはずっす!」

「ピュー!」「ヒヒーン!」「「──!」」



 奈々を始め、魔力体生物組はもう最後の山場に焦点を向けているようだ。

 以前はかなり厳しい状態で、竜郎や愛衣ほどに活躍できなかった事が悔しかったのかもしれない。

 だがまだもう一つ山場は残っているし、どうせ行くならラストはちゃんとベストの状態で向かいたい。

 現状ではまだ天照と月読が《神体化》と同義の《神出力体》を行使できないのだ。

 そう言う意味も込めて竜郎はリアへと口を開いた。



「リアの研究の方はどうだ? 星天鏡石で新型の魔力頭脳の縮小化は出来そうか?」

「そう──ですね。星天鏡石のおかげで、もう旧式並みの縮小化までのピースは揃ったと言っていいでしょう。

 あとはそれを上手く組み合わせていけば出来ると思うんですが……」

「ですが?」



 愛衣が、こてんと可愛らしく首を傾げた。それに竜郎は可愛いなあと全然関係ない事を考え始めた。

 そんな竜郎に苦笑しながらリアは続きを口にする。



「エネルギー問題です。普段使いなら兄さんたちなら賄えるでしょうが、私たちにとっても強敵となる相手と戦う時に莫大な量を吸い取られ続けるのは死活問題になりかねません」

「あー、それは確かにあるわね……。悠長に回復なんてさせてくれないでしょうし、こっちも大魔法を使うのに結構な消費をするでしょうし。

 性能が高い装備と言っても、それは困るわ」



 現在、レーラの杖もバージョンアップされて魔力頭脳が取り付けられているので、その便利さについては知っていた。

 だが、それでも強敵と全力で戦える時間が短くなるのは不味いだろう。



「ですよね。なので現在は世界力を空気中から直接吸出し、それをエネルギーとして利用。

 起動すれば理論上は永久に動き続けられる動力装置の開発を行っている最中です。まあ、まだ少々難儀してますが……。

 ですが、こちらもベルケルプさんの資料をあさって有効そうな技術をいくつか拝借しましたので、近いうちに形にできるかとは思っています」

「それはまた……すごいな」



 そう感嘆を漏らしたのはイシュタルだった。

 もはやリア1人で、この世界の技術レベルを大幅に超えている。

 それはベルケルプの遺産を受け継いだからというのも、もちろんあるのだが、それを自分の技術に昇華させるための彼女の努力は並大抵のものではないだろう。

 好きこそものの上手なれと言うが、技術とその情熱に対して称賛したのだ。



「そういえば、そういった技術なら妖精郷の技術者たちも研究していたはずよ。

 リアちゃんになら妖精独自の技術も教えてくれるかもしれないわね」

「ほんとですか、レーラさん!? 今すぐ妖精郷に突撃しましょう!」

「突撃は不味いですのリア。どうどう」



 馬を宥めるように、奈々がリアの背中を撫でながら生魔法を使って落ち着かせていく。



「ふしゅー………………ごめんなさい、取り乱しました」

「ふふ。いいのよ。でもまだ協議中なのよね。どこに家を建ててもらうかで」

「みたいだな。イェレナさんももう少し待ってほしいって言ってたし、待っている間に次の目的を済ませておくってのがいいかもな」

「ですね。どういった技術があるのか未知数ですし、今私が組み立てているものに付け足せるのなら、そのための調整なんかもいるでしょうし。

 できればそっちを知ってから作りたいですね」

「なら、先に未来に行って面倒事を一つ潰しとこっか」

「だな。ということで装備品のメンテが終わり次第、先に最後の──っていってもオーラスが残ってるが、とにかくあっちこっちいくのは終わりにさせておこう」



 魔王カバに装備品をまんべんなく痛めつけられていたので、メンテナンスだけはやっておかないとまずい。

 ということで、そちらをリアには優先して貰い、竜郎たちは次の目的地──173年後の未来に照準を合わせ今日の話し合いは終わりを告げた。


 それから数日後。メンテナンスも終わり、ピカピカに戻った装備品を身に着け、いよいよ出発の時となった。

 いつもの地下室から皆に見送られながら、イシュタルの記憶を頼りに未来へ転移。

 毎度未来へ来た時に訪れる竜大陸の森にやってくると、そのままイシュタルの眷属飛竜ルブルール先導のもと出国。

 出国後にルブルールとは直ぐに別れ、ジャンヌの背に乗りヘルダムドとリベルハイトの国境沿いに向かって行った。


 ヘルダムド国歴1202.4/12.光属の日。午前8時21分49秒。

 それが現在の日時である。光属の日と言う事もあって、本来日が昇っている時間でも大きな月が空に上がり、暗闇を照らしてくれている。

 そんな中、竜郎たちは国境沿いの空白地帯に降り立った。



「よし。まずは手分けして調査していこう。組み分けはいつものでいいよな?」

「ああ、それでかまわない」



 イシュタルを筆頭に、他の面々も特に異論はないようなので、そのまま組み分けし竜郎は愛衣、天照、月読の3人と組んで捜索のため他の組と別れて散っていく。

 経験上、地中にある事が多いので、そちらを念入りに調べながら愛衣と手を繋ぎ舗装されていない大地を駆けまわる。

 そんな風にして過ごしていると、ふと妙な反応が竜郎の探査魔法に引っかかった。



「ん?」

「見つかったの?」

「いや、そうじゃない。これは……人が人を襲ってる……いや、これは魔物か?

 なにか気になるな。とにかく見に行ってみよう」

「え? あ、うん。そうだね」



 要領を得ない言葉に愛衣は首を傾げながらも、竜郎に手を引かれそのまま現場に走って向かう。

 結構な距離があったが、今のレベルの竜郎ならば魔法を使わなくてもあっという間だ。



「先住民っぽい人が黒い奴らに襲われてるね。どうする? 助ける?」



 距離にして数百メートルの場所で目視で確認してみると、愛衣の言った通り先住民らしき獣の皮で出来た服を着た男2人女1人が、黒い布らしきものを頭からかぶった怪しげな8人組に追いかけられていた。

 黒ずくめの8人衆は先住民達を殺す気はないのか、ジワジワと追い詰め捕獲しようとしているようだ。

 だが竜郎は、その状況よりも黒ずくめ達の探査魔法での妙な反応の方が気になった。



「そう……だな。それに黒い奴らの反応が気になる。捕獲して調査しておきたい」

「解った。それじゃあ、行くよ!」



 100メートルちょっとの距離を一気に詰めていき、まず先住民たちの進行方向に回り込もうとしていた3人を愛衣が気絶させる。

 突如現れた愛衣に助けようとしている先住民も含めて驚きの表情を浮かべている間に、黒ずくめ達の後方から竜郎の土、闇、捕縛、封印魔法による土の鎖でがんじがらめ縛り上げてスキルすら使えない様に封じていった。

 これにより黒ずくめ達は言葉一つ発する事も出来ないようにされ、大人しく地面に転がされた。


 何が起こったのかも解らないままに、あっという間に無力化された黒ずくめ達と、呆然と立ち尽くす先住民たち。

 そこへ愛衣と合流した竜郎が、先住民たちに敵意が無い事を示しながら話しかけていったのであった。

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