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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八編 廃鉱の男

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第538話 怪神のお願い

 竜郎は、《『レベル:1442』になりました。》と。

 愛衣は、《『レベル:1441』になりました。》と。

 カルディナは、《『レベル:745』になりました。》と。

 ジャンヌは、《『レベル:745』になりました。》と。

 奈々は、《『レベル:745』になりました。》と。

 リアは、《『レベル:1440』になりました。》と。

 アテナは、《『レベル:745』になりました。》と。

 天照は、《『レベル:743』になりました。》と。

 月読は、《『レベル:743』になりました。》と。

 イシュタルは、《『レベル:746』になりました。》と。

 レーラは、《『レベル:1453』になりました。》と。



 毎度おなじみのリザルトを聞き流しながら、竜郎は事切れた巨大カバへと意味ありげな視線を送る。

 すると愛衣が真っ先に気が付き、その顔を覗き込んだ。



「どったん? たつろー」

「いや、カバってのが引っ掛かってな」

「なんで? カバさんはダメなの?」

「そう言うわけじゃなくて、俺が会った怪神もカバの姿だったんだよ。

 だから何か怪神に関係があるのかな~ってな」



 等級神たちに初めて会った時の姿は竜郎たちの次元に合わせたらそう言う姿になるだろうと言う、シミュレーションによって作られた仮の体でしかないのだが、そこで出会った怪神はミニカバそっくりだったのだ。



『たっつん、するどいねぇ~。今、そのことで連絡しようと思ってたところだよ~』

「その呼び方と喋り方に声──怪神か?」

『そだよ~』

「え? 怪神さんが話してきてるの?」

「ああ。だからちょっと待っててくれ」

「はーい」



 竜郎にぴとっとくっ付いて愛衣は口を閉じた。

 そんな愛衣の腰を抱き寄せ、頭を撫でながら竜郎は話の続きを聞いていく。



『まあ、たっつんが言ったよーに~、アタシとそこまで関係があるって訳じゃないんだけどさぁ~。

 なんとなくアタシが魔物だったら~って考えて作った子だから~、思い入れはあるわけ~』

(はあ。でもそれだと逆に、わざわざ連絡を取るほどの事でもない様な気がするが?)

『まあねぇ~。でもアタシの作ったお気に入り魔物ベスト3に入るくらい好きなの~。

 けど魔王種だからさぁ、なかなか現世にいさせてあげられないわけ~』

(まあ、魔王種クラスだとクリアエルフやら御使いやらが出張って、最優先で討伐しに行くだろうからな)

『そ~なの~。でもたっつんとこには、魔王種になれる子達が沢山いるでしょ?

 今のたっつんと私の最上級クラスのスキル《強化改造牧場》さえあれば、完全に魔王種化しても100体以上ちゃんと管理できちゃうし~』

(アムネリ大森林みたいなところに連れて行かなきゃ、大丈夫だろうな)

『うんうん。そこでなんだけど~。あの子をたっつんの従魔としてこの世に産んでくれないかな~。

 もちろん、改造とか神力とか使わずにちゃんとあのままでね~』

(せめて縮小系のスキルを付けたりとかはダメか?)

『スキル構成を弄ったり、純粋な強化くらいなら全然い~よ~。

 ああ、もちろんお願いするからには、ちゃんとお礼のスキルも用意して、取れるようにしてあげるから期待しててい~よ~。

 たっつんが気に入りそうなの作ってみたからさ~』

(是非やらせていただきます!)



 怪神の管轄と言えば魔物関連だ。そして竜郎が気に入るとなると、何か魔物に対して効果のある物や、魔卵や創造系スキルに関するものかもしれない。

 どうせ魔卵合成した魔物だけに限ってしまうつもりはないので、普通に初期状態の魔王種を生み出す事も検討していた。

 そうでもしなければ100体──というのはあくまで理想ではあるが、そこまで届きはしないだろう。だが努力はしてみたいのだ。

 だから竜郎サイドとしてもいつかやろうとしていた事を、先にやってしまうだけに過ぎない。

 なのにご褒美まで貰えるなんて断る理由はない。即決である。



(帰ったらさっそくやってみる! 待っていてくれ怪神!)

『そんなに急いでくれなくてもいいんだけど~。まあ、やる気がある時にやってくれればい~から~。それじゃ~ね~』

(ああ、また!)



 竜郎はすがすがしい気分で怪神との交信を終えた。

 それをなんとなく察した愛衣は、上目使いで竜郎を見上げて何だったのと目で聞いてくる。

 その姿が可愛かったので、とりあえず軽くキスをしてから皆にも話を──キスしてから──キスしてから──キスしてから──。



「早くしてほしいんだが……?」

「おっとすまねぇ! イシュタル」

「すまねー!」



 思わず何度もキスをリプレイしてしまった竜郎と愛衣は江戸っ子のような手振りで謝罪しておいた。

 その打ち合わせたかのような息の合いっぷりに、止めたイシュタルも笑うしかない。


 それから改めて今の話をし、ちょっと浮かれている竜郎にも納得がいったようだ。



「それはまあ、帰ったらやればいいと思うのだけれど……この鉱山はどうしたらいいかしら?」

「あー……それなぁ」



 魔王カバのせいでガッツリと抉れてしまった廃鉱山。真っ暗闇だったのに、今や外と繋がり空が見えるほど。

 戦闘音ももしかしたら外にまで響いていたかもしれない。



「とりあえず隠蔽工作をしておくか? 残っているとこから薄く伸ばして穴を塞ぐくらいなら出来るが?」

「調べれば誰かが魔法で何かをしたって事はばれるでしょうが……幸い邪魔コロのおかげで詳しい事までは解らないでしょう」

「ならちょっと直しておくか」



 空いた穴を塞ぎ、加工した空間も元の感じになんとなく寄せてパッと見普通に見えるようにしておいた。

 さて次は外でどんなふうに認識されているかが気になる所である。

 とりあえず認識阻害を全員にかけてから入り口まで転移で出てみると、そこにはたくさんの武装した人間が集まってきていた。



「あーやっぱ、なんかあった事はばれてーら?」

「みたいですの」



 突如目の前に現れた竜郎達に気が付くことも無い人々を見た愛衣の言葉に、奈々が相槌を打つ。

 このままここで姿を現すのは不味いかもしれない。かと言ってとんずらしてしまうのも不味い。こちらの名前は向こうも知っているので、許可証も返却せずに消えたらまず間違いなく何かを疑われる。

 未来の竜郎たちはかなりこの世界で名が売れているのは解っている事なので、数百年後に古い資料か何かが出てきて、後からいちゃもんを付けられるかもしれない。



(それはめんどうだな)



 それでもどうにかする力はあるが、変な遺恨を残していきたいわけじゃない。



「となるちょっと、すっとぼけ──または面倒だが演出だな」

「どうゆーこと?」

「えっとだな──」



 竜郎は今後の取るべき2パターンの作戦を全員に話しておいた。

 1つ目はすっとぼけてそのままバイバイ。証拠も無いのだしこれでもいいが、魔法の痕跡から何かを疑われるかもしれない。

 2つ目はランク持ちの冒険者だと言うのは伝わっているので、助力を求められた場合に使う手だ。こちらは面倒な分、疑われることは少なくなる。


 そうと決まれば竜郎達はここから離れ、かなり後方で認識阻害を取り廃鉱の方へと歩いていく。

 途中通行人に何があったんですか~? なんてとぼけた事を聞きながら。


 武装した人たちが集まっている入り口付近までたどり着くと、竜郎たちはそこにいた採掘ギルドの芋虫人間のギルド長に声をかけた。



「おおっ、御無事でしたか! あなた方がこちらの方へ来ていたと聞いて、何かあったのではないかと心配していたのですよ!」



 心配というより、よそ者が何かやらかしたんじゃないかと疑っていた──というのが正解だが、そんなことはおくびにも出さないギルド長。



「ああ、こっちに向かっていたんですが、途中で引き返して別の所に行ってたんです。

 それで一体何があったんですか?」

「いや、それがですな──」



 妙な魔物の鳴き声と戦闘による地響きがしていた為、何か危険な魔物がここに現れたのだろうと冒険者ギルドに要請して腕利きを集めて調査をすることになったらしい。



「そういえば、あなた方も腕利きの冒険者でしたな。

 どうでしょうか。報酬はお支払いいたしますので、調査だけでも請け負っていただけませんか?」

「そうですね。偶然・・この場に居合わせたのも何かの縁。やってみましょう」

『ってことは、2番目の手段だね』

『ああ、そういうことになるな』

「おおっ、それはありがたい!」



 などと円満にまとまりそうになっている所で、横から邪魔が入ってきた。



「おいおいギルドマスターさんよぉ。そんなガキ連れた女達のお守を俺達にさせる気かぁ?」



 何だか失礼な奴が出てきたなとそちらに目を向けると、3メートル近い巨躯を持つミノタウロスの魔人間と、その仲間のカマキリ、バッタ、リザードマンなどの魔人間たちが勘弁してくれよという感じで肩をすくめてせせら笑っていた。



「え? この人たちって私たちのお守が出来るくらい強いの?

 全然そうは見えないけど……凄いんだね!」

「…………んだとぉ? このクソアマァ……」



 竜郎たちのお守がしたいなら1人あたりレベル2000くらいは欲しい所。

 けれど目の前の男?達は一番レベルが高いミノさんでも70そこそこ。

 このメンバーでは非力な竜郎やレーラでも、でこピンで頭を吹き飛ばせるレベルだった。


 だが向こうにはそんなことは解らない。愛衣の本気で言っているのに嫌味にしか聞こえない言葉に、顔を真っ赤にして手をプルプル震わせ怒り心頭のご様子。

 さらにこのメンバーがここに集まった人たちのリーダー格らしく、よそ者が舐めやがってと周りの人達も喧嘩腰になっていく。



『愛衣はん! それは思ってても口にしたらアカン奴やで!

 まあ、向こうの態度も悪いし別にいいけど』

『いいんかい!』

『愛衣になんちゃらアマとか、許せんからな。可愛いアマとかだったらギリ許せたものを……』

『あれ? そう言う問題なの? てゆーか、結局ミノさんは強いの弱いの?』

『え~と……一般的に見たら……強いよ? なんとレベルは70くらいある』

『チートも無いのに凄いね! 相当努力したんだろうねぇ』

『まあ、それは素直に凄いよな。だが、だからと言って初対面の相手にとっていい態度じゃない』



 愛衣と竜郎がまるでミノさん達を気にせずに念話でそんな事を話していると、それが余計に火に油を注いでしまったようで拳をポキポキ鳴らしながら近寄ってきた。



「随分と自信がおありなようでけっこうな事だなぁ、ガキども。

 ここは一つ、先輩にご指導願えませんかねぇ? ああんっ?」

「ああん? って、チンピラかよ……。

 うちとしてはこれ以上ことを荒立てるつもりはないんだが、それでも指導とやらをして欲しいんですか?」

「ああ、是非して欲しいね」

「解りました。それじゃあ、そちらから何でも好きな攻撃してくださいよ」

「やっぱり舐めてんだろ……てめぇら──よぉ!」



 ミノさんは我慢できなくなったようで、竜郎から見ても遅いパンチが腹に向かって迫ってくる。だが竜郎は躱す事もしないで、それをそのまま腹で受け止めた。

 本来ならそれで竜郎が吹っ飛び、これからはもう舐めた口聞くんじゃねーぞ! で終わるはずだった。

 だが竜郎は軽く片足を後ろに下げただけで微動だにしない。それどころか逆にミノさんの拳がミシッと変な音を立てて骨折してしまった。

 それでも奥歯を噛みしめ悲鳴を上げなかったミノさんに、竜郎は少しだけ威圧を開放しながら彼の目を見つめていく。



「こっちもまあ、嫌味に聞こえる様な事を言ったかもしれませんが、そっちも初対面の相手に対して態度が悪かったですよね?

 これでお相子にするつもりはありませんか?」

「…………あ、ああ……すまねぇ……そうしてくれるとありがたい……」



 神格者の威圧を──それもレベルが1500近い人間のものを少しとはいえ受けているミノさんの足は、ガクガクと震えて立っているのが不思議なほどだった。

 それだけでも異常な事に気が付くべきなのだが、さっきから頭に血が上っている連中は冷静な判断が出来なかったらしい。

 ミノさんの仲間たちが一斉に群がってきた。



「ドルドム! 何ガキにひよってんだよ! 情けねーな、どけっ!」

「おいっ、よせ!」



 1メートルほどのバッタの魔物にしか見えない魔人間が、前足でミノさん(ドルドム)を強引に横に転ばせ竜郎の前に立った。

 足が震えて動けなかったミノさんはそれで簡単に倒れてしまうが、バッタに向かって手を伸ばして止めようとする。



「一回目はお相子で済ますために受けましたが、二回目まで受けるつもりはありませんよ?」

「じょーとーだ! 俺達は舐められたら終わりなんだっ──よ!!」



 ふとい後ろ足から繰り出されるバッタキック。そこいらの魔物なら、それで木っ端微塵にできる威力を持っている。

 だが竜郎に当たった所で痛くもかゆくもないだろう。けれど先ほど言った通り受けてやるつもりはもうない。


 ジュッ──。そんな音と共にバッタの太い後ろ足が消滅した。

 バッタの体は空振りした時のようにクルンと横向きに1回転して、横向きにバタンと倒れた。

 痛覚が鈍いのか、または無いのか痛くはないようだが、自分の足があった付け根の部分が真っ黒に焼け焦げているのを見て、信じられない様な目で竜郎の前に展開された赤光する灼熱の板のようなものを見上げた

 どうやらそれを蹴って足を溶かされてしまったらしい。



「お、おまっ……」

「まだ何かある様なら申し出てください。面倒なのでいっぺんにお相手します」

「「「「「────」」」」」



 もはや誰も文句は言えない。

 文化的な暮らしをするようになったと言っても、魔人間は魔物の色が強いだけに力が強い奴が偉いという風潮が本能レベルでまだ残っている。

 特に冒険者なんていう荒事を生業とする者達となると、より顕著だろう。


 バッタはここに集まっている冒険者たちの間では実質ナンバー2の実力者、ナンバー1と目されているミノさんにだって比肩しうる実力者。

 そしてやっちまったかと、倒れたまま足が震えて動けないミノさん。


 これをみればどちらが強者でどちらが弱者。どちらが上で、どちらが下か一目瞭然だ。

 一斉に皆押し黙って、竜郎たちを見る目が変わった。



「それじゃあ、ないようなら調査に向かいましょうか」



 そう言いながら竜郎はバッタさんの足を生魔法ではやし、ミノさんの骨折した拳も癒してみせる。

 すると自分に喧嘩を売ってきた奴にまで慈悲をかけてやるのかと、畏怖の方が多かった眼差しがキラキラとした目に変わり、絡んで来ようとする者は一人もいなくなった。



(なんだか落ち着かないが……これはこれで使えそうだな)



 竜郎は一人小さく口の端を上げたのであった。

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