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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二章 オブスル大騒動編

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第53話 武器調達

 その日の夜は、竜郎が小さな疑念を胸にしまいこんでお開きになった。

 今は寝巻に着替えて、すっかり就寝モードの二人である。

 けれど時間的にはいつもよりだいぶ早いので、ベッドの中で抱きしめ合いながら下らないことや面白かったことなどを飽きることなく話していた。

 やがてどちらからともなく眠りに落ちて、初めての極夜が終りを遂げていった。




 時間が午前十時を過ぎた頃、ようやく竜郎は目を覚ました。

 昨日は早くベッドに入ったはずなのに話が弾んでしまい、むしろいつもより寝るのが遅くなっていたのだ。

 しかし今日は決まった時間に用はないので別にいいかと、竜郎は丸一日ぶりの太陽に目を細めた。


 それから愛衣の寝顔を堪能した竜郎は、その柔らかそうな頬にキスをして生魔法で起こしていった。

 そうして竜郎に続いて目覚めた愛衣と一通りいちゃつきあってから、ようやく着替えて宿を後にした。



「今日は湖で夜を越すんだよね?」

「ああ、これで最後の湖の顔だ。

 素の絶景、夕陽に瞬く湖底、光り輝く湖面ときたら、いったい最後は何が来るんだろう」

「んー、でもこれで全部かと思うと寂しい気もするけどね」

「まあなあ」



 そんな風にしみじみしながら今日は宿では取らずに、朝食がてら屋台の広場に足を延ばしていった。

 そうしてたどり着くと、どこに入ろうかという話になる。そこで以前また来ると言って結局まだ行っていない、肉と書かれたあの屋台に行くことにした。

 中に入ると店主も二人のことを覚えていたようで、快く注文を受けに来てくれた。

 そこではまさに看板に偽りなしといった肉料理の洗礼を受け、腹を満たした二人は笑顔で店を後にした。



「やっぱり、がっつりいきたい時はあそこが一番かもね」

「そうだな。あの値段、あの味、あの量なら、日本にいた頃だったらしょっちゅう通ってたかもしれない」

「ふふっ、言えてるね」



 さっき食べた料理を思い出しながら二人は今日の目的の一つである、鍛冶師のおっさんの所を目指した。



「おっちゃん、やってる?」

「ここは屋台じゃねーぞ」

「うわっ、ちゃんと起きてる」

「ほんとだ。ちゃんと起きてる」



 初めて来た時の印象が強すぎて、てっきり鍛冶屋にいる時は大体寝ているのだと思っていた。なので二人は普通に驚いていると、おっさんがため息を吐いた。



「はあ……。おめーら、俺がいつも寝こけてばかりだとでも思ってたのか?」

「「うん」」

「即答かよっ。ちげーよ、ちゃんとやることやってっからな、俺は!」

「「へー」」

「ああ……どうでも良さそうですね」

「「うん」」

「もっとおじさんを労わって!

 案外この年のおじさんはガラスのハートの持ち主なんだから!」

「「へー」」

「おじさん、ちょっと外で泣いてきていい?」

「「ダメ」」

「仲良いなあ、お前らは!」



 おじさんは傷つきやすい繊細な生き物なんだぞ……と、おっさんが何やらぶつぶつ言っているが、二人はここにコントをしに来たわけではないのだ。

 なので愛衣が早速本題を切り出した。



「それで、用意してくれたっていう例のぶつは?」

「例の物? ああ、昨日言ってたやつのことか、それなら二階にあるぜ」

「それじゃあ、早速見せてもらおうか…」

「なあ、お前の彼女どうしたんだ?」

「気にしないでくれ、ただノリでやってるだけだから」



 こっちの世界では、どうやら通じない売人ごっこをする愛衣に対し、どうしていいか解らないおっさんは助けを求めてくるが、竜郎は説明するのも面倒だったのでそう言っておいた。

 おっさんも、それに特に意味がないことは伝わったらしく、「まあ、いいや」と言って二人を二階に案内した。


 二階にたどり着くと、そこは差し詰め武器庫のようになっていた。

 壁一面には剣や槍など、他にも色々な種類のものがコレクションでもするかのように掛けられていた。



「うわっ、凄いねこりゃ。店でも始めたらどう?」

「もう既にやってっから!」

「ああ、そうだった」

「おいこらっ、次になんか言ったら泣くからな、もうドン引くくらいに泣き喚くからな!」



 その光景を二人は想像し、これ以上おっさんを傷つけるのは控えようと目で語り合った。



「それで、どれがそうなんだ」

「剣は人気だからな。あそこの机に乗ってるので全部だ」



 そう言っておっさんは、部屋の中央に置かれた机を指差した。そこを二人が見れば、三本の剣が机の上に寝かされていた。



「え? なんで剣だけ?」

「なんでって、お前は剣術家なんだろ?」

「え? 違うけど?」

「は? じゃあなんで剣を使ってんだよ」



 愛衣とおっさんの間で飛び交うクエスチョンマークを幻視しながら、竜郎はフォローに入った。



「何かは言う気は無いんだが、特殊な事情があるんだ。

 他の種類の奴も良さそうなものを見繕ってくれないか?」

「特殊な事情ねえ……。まあいいけどよ」



 どこか釈然としない顔を見せながらも、ちゃんと商品を選びだしてくれた。そんな姿に愛衣が首を傾げながら、竜郎に念話を送ってきた。



『さっきの問答は、いったい何だったの?』

『いや、俺たちが特殊だってこと忘れてないか?』

『あー、そういうことか』



 この世界の人々が愛衣や竜郎のように何種類もスキルを取得してしまうと、後でSP不足に陥って中途半端、もしくはそれにすらなれない存在になってしまう。

 だからこそ、これだという一つに絞って極めていくのが、この世界の常識である。

 なので、おっさんは剣を崩したという情報で愛衣は剣を扱う人間とみなしてしまって、それによるすれ違いをさっきは起こしていたのだ。


 そんな風に理解した愛衣は、おっさんが選んでくれている間に机の上の剣を見ることにした。



「おっちゃん、こっちの剣を見ててもいい?」

「あ? ああ、いいぞ。でも壊すなよ」

「はいよー」



 許可を貰ったので、二人で机に近づきどんなものがあるか物色し始めた。

 まず三本並ぶうちの左の剣、これは刀身が銀色で鉄よりもツルツルした質感をしていた。持ってみれば鉄よりも軽く、竜郎でも振ることができそうだった。

 次に右の剣、これは柄から刀身に至るまでが全部真っ白な二メートル級の大剣だった。こちらは鉄の大剣よりさらに重く、頑丈そうである。


 そして最後に中央の剣。



「これはなんかすごいねぇ」

「ああ。武器というより、美術品みたいだ」



 それは全てがエメラルドに似た何かで造られた、とても美しい翠の宝石剣だった。

 刀身は一メートル前後で切れ味も良さそう。愛衣が持ってみると、ちょうど両脇の剣を合わせて二で割ったような程よい重さだった。



「これ、すごく手に馴染む…」

「でもこれだけ、異様にお高そうだな」

「あーそれに目を付けちまったかー」



 色々な種類の武器を見繕い終わったおっさんが、愛衣の手に持つ宝石剣を見ながらそう言って台車を引きながらこちらにやってきた。

 それから台車の上の物を全て机に乗せると、ふうと息を吐いて二人に向き直った。

 そこで愛衣はさっきのセリフの意図を聞いてみた。



「目を付けちまったかーって、これはなんか不味い代物なの?」

「不味いってのは当たってるが、それは主に値段の話だな。

 それ以外はこの店どころか他の所からしてもかなりの業物だぜ」

「値段って、具体的にいくらなんだ?」

「それ一本で、一億二千万は下らない」

「げっ」「わおっ」



 数千万クラスかと思いきや、さらに飛んで億クラスだったことに二人は驚きを口にした。



「まあ、高すぎて売れないから残ってんだけどな。

 だがこいつは丸ごと全部を気力との相性が最高ランクの、翠聖石すいせいせきで造られている。

 いくら嬢ちゃんの気力が化け物じみていたとしても、ちょっとやそっとじゃビクともしないだろうさ」

「そんなに良いものなんだ。ちょっと気力を纏わせてもいい?」

「いいが、念のため少しずつで頼むぞ!

 そいつは親父の遺産の中でも一番たけーんだから、慎重に扱ってくれ」



 それに愛衣が頷いて、まずは自分の体に気力を纏っていく。その際に竜郎はさっきの親父の遺産というのが気になった。



「あれって、親父さんが造ったやつなのか」

「正確には、親父たちが正解だけどな」



 そう言っている間に、愛衣は体に纏った気力をドンドン流し込んでいく。すると翠から蒼、紫、紅、銀、白金と変わっていき、最後には極彩色に光り輝く宝石剣になっていた。



「すげーな……」「綺麗……」

「おいおい……まじかよ……、極彩色なんて聞いたことねぇぞ……。

 そりゃ鉄の剣なんて、すぐ駄目にしちまうはずだぜ……」



 三者三様の感想を述べながら、愛衣はそれからゆっくりと気力を抜いていった。

 すると、さっきのものを逆再生するかの如く色を変えて元の翠に戻った。



「うん、確かにこれなら私でも本気でやれそう」

「じゃあ、ちょっと高いけど買っちまうか」

「買っちまうって、払えんのかよ」

「明日以降まで待ってくれるなら、何とかできる」



 おっさんは口をあんぐりと開けて暫くした後、ようやく意識が戻ってきたかと思えば、今度は子供のようにはしゃぎだした。



「まじかよっ、それ買ってくれんの!? よっしゃああああーーーーー!!」

「うわ、おっちゃんが壊れた」

「遺産が倉庫の肥しになっていたのに、多額の現金に変換されたんだ。これが喜ばずにいられるかよぉーー! よーしよしよしよぉーし!」

「ちょっと気持ち悪いが、そっとしておこう」

「そだね。んじゃ、その間に他のも見てこ」



 二人は飛び跳ねまわるおっさんを放置することにして、新たに追加された装備品を物色し始めた。

 しかし、どうしても宝石剣のインパクトが強すぎて他の物が見劣りしてしまう。

 そんな最中さなか、愛衣がガサガサと何か無いかと探していると、一つ変わった品物が目に入った。



「これは鞭……かな?」

「似ているが、少し違う気も……」


 興味深げに愛衣が手に持ったのは黒いグリップに、筋肉質な男の腕を二本束ねたくらい太い白銀のワイヤーが一メートル。

 その先端には三角錐の重りがワイヤーと融け合うようにして、癒着していた。

 それを二人が見ていると、ようやく戻ってきたおっさんが説明してくれた。



「ああ、それは鞭の先端に、投擲武器をくっつけた代物でな。

 完全に使いこなすには両方のスキルが必要になるとかいう、意味が解らん装備だ。

 俺もなんでこんなもんを親父が造ったのかは今でも解らん」

「へー、でも投擲と言うには少し短くない?」

「そうだよな。さすがに一メートル先くらいしか届かないなら、普通に切ったり殴ったりした方が早そうだし」



 そんなもっともな質問を投げかけると、おっさんはさらに武器の特性を語りだした。



「そいつは気力をワイヤーに流すと、細長くなってくんだよ。

 ちょっと的を出してやるから、やってみるか?」

「うん、やってみる」



 それは面白そうだと、愛衣は目を光らせて即答したのだった。

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