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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八編 廃鉱の男

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第537話 えげつない戦い方

「ナナ! 左だ!」

「──っぐ!?」



 イシュタルの声に奈々がすぐさま反応し、氷で左側を防御しながらその場から離れようとした。

 けれどその前に鞭のような何かに氷ごと左側面を打ち付けられ、壁際に飛ばされめり込んでしまう。

 カバの尻尾が一瞬で伸び、鞭のように使って叩いたようだ。

 大カバの頭がそちらに向き口を開け放つ。今、奈々の一番近くにいるのはジャンヌだ。



「ジャンヌ! そいつを止めてくれ!」

「ヒヒーーン!」



 竜郎が咄嗟に叫ぶのと、あのバカみたいなスピードからの突進が放たれるのはほぼ同時だった。

 ジャンヌは何とかカバの横っ面にタックルをかまし、右肩を潰しながらも軌道を少しずらすことに成功。

 だがそれでも奈々は奴の大口の範囲内から脱し切れていない。

 そこへなりふり構わずアテナがさらに追撃。右腕が思い切り折れたがまた少し軌道がずれた。

 ここまでまだ一秒もかかっていない状況で、竜郎は魔法を構築。

 あまりに時間が無かったので奈々を3メートル横にずらすだけの転移だったが、それでギリギリカバの大口の範囲内から脱することに成功。

 竜郎は急いで負傷した奈々、ジャンヌ、アテナを転移魔法で呼び寄せた。


 ──その瞬間、ジャンヌのいた辺りにカバが振り向くと、その口から黄色い気体のような息吹きを吹き付けた。

 その前にジャンヌは転移で移動していたのでノーダメージだったが、黄色い息吹きが当たった周辺はドロドロに溶けて無くなってしまっていた。



「あれは魔法すら溶かす《極溶の息吹き》というスキルらしいです!

 私たちの魔法抵抗力じゃ抗えない威力なの──きゃっ!?」

「リア!」



 また尻尾の鞭が異常な速度で迫ってリアの速度重視──麒麟型の機体に当たって天井に弾かれた。

 けれどこちらは既に解魔法レーダーを最大で放射し続けていたので、ギリギリ察知することに成功。

 リアの反応速度を超えた自動操縦によって、打撃の瞬間に自分から進行方向に飛んでダメージを軽減。

 天井に強くぶつかりながらも直ぐに立ち上がってその場から立ち退くと、カバが空を走って天井にかぶりついた。



「くそっ、これじゃあ魔法を構築する余裕すらないぞ」

「レーラ! 下だ!」

「──くっ」



 空気中に作った薄い氷を踏みながら氷瞬歩で天井付近にいたレーラに対し、また尻尾鞭が向かっていく。

 もうどんな攻撃かさすがに竜郎たちも理解してきたので、ここでレーラはいつでも張れるように準備していた氷の厚壁を何重に張りながら横へとダイブ。氷の壁の破壊によって稼いだ僅かな時間で離脱に成功した。

 その間に竜郎は奈々たちの治療を終えたのだが、カバは次に愛衣の方へと視線を向けながらイシュタルに尻尾鞭。


 イシュタルは鞭を躱す事に成功したが、他者への予知竜眼の結果を教えるのが遅れてしまう。

 カバは尻尾を適当に振り回しながら牽制し、愛衣に向かって額の4つ目の辺りから何かをマシンガンのように撃ちだしてきた。

 撃ち出されたそれは、額の4つの眼孔から放たれる眼球だった。



「ズモモ~~」

「──っひゃ」



 だがさすがに愛衣と言った所か、当たればまずいが真っすぐの軌道しか取れない弾に当たりはしない。ギリギリでその全てを回避して見せた。

 それに竜郎はホッとしながらも、こちらの攻撃の隙をうかがう。

 下手に攻撃して食われればそれだけ蓄えを増やし、攻撃の威力や回復のためのエネルギーにされてしまう。

 だが向こうは緩慢な動きに見えながらも、どうやら視野がかなり広い上に常に周囲に気を向けて隙を見せてくれない。

 さてどうしたものかと困っていると、イシュタルから朗報が届いた。



「タツロウ! 上だ」

「──!」



 月読のスライム腕が強制的に竜郎の位置をずらす。

 それによって竜郎は完璧に尻尾鞭を回避。その後もイシュタルの指示によって全員の回避がどんどんと楽になっていった。



「タイミングを完璧につかんだ! 私も含めて囮になるから、タツロウは攻撃に集中してくれ!」

「解った!」



 初見ではカバの攻撃の動きや速さ。その攻撃に対する竜郎たちの反応速度。などなど様々な読めない状況によって何秒先の未来を観ていればいいのか掴み損ねていた。

 けれどこれまでの攻撃によって、イシュタルはその全てのタイミングを頭に刻み込み周囲に浮かぶ予知竜眼を微調整。

 相手の攻撃と竜郎たちのそれぞれが最も躱しやすいタイミングでの指示出しを、ほぼ完ぺきに出来るようになったのだ。


 これによりこちらの被害はゼロになった。

 突進も尻尾鞭も極溶の息吹きも眼球の弾丸も、その全てを竜郎たちの躱しやすいタイミングで教えてくれるのだから当然だろう。



「これならいける! カルディナ!」

「ピィューーーー!」

「アテナもこっちへ!」

「はいっす!」



 竜郎とアテナはカルディナの背中に乗せてもらう。

 《親子能力共有化》で天照と月読も加えた5人で火、雷、射、真竜翼刃、魔弾、そして雷魔法を黄金色にして強化する燦然輝雷なども共有化して混合して何重にも重ねていく。



『愛衣! 右後ろ足首裏の皮を削ぐ! 追撃は頼んだ!』

『まっかせてー!』



 カルディナが竜郎とアテナを乗せたまま、探査やイシュタルの指示も聞きながら攻撃を避けまくりお尻側に回り込むことに成功すると、そのまま右後ろ足の足首に急接近。

 そこへ向かって5人分のスキルを共有化し重複させまくった超威力の魔弾を近距離から撃ちこんだ。

 すると分厚く硬い皮がようやく剥がれ中の肉が見えた。

 その瞬間にすかさず愛衣がやってきて、タイミングよく全力で皮のない足首を槍で貫いた。



「ゥ"モ"モ"ーーーー!」



 右後ろ足首の後ろ側が破壊され、自重でグキッと変な方向へと曲がって折れた。



「ピィュー!」「やったっすー!」

「やっぱりあそこならいけたな」




 全身硬い物理魔法耐性のある分厚い皮で覆われているカバであるが、その厚みは全て均一というわけではない。

 本物のカバの場合は知らないが、この魔物の場合、頭、首回り、背中、腹、お尻が一番分厚く守りが硬い。ここでは5人の共有化スキルでの混合魔法でも破るのはきつかっただろう。

 だが急所に繋がりにくいからか、足先の方は他に比べて薄くなっていた。

 竜郎とて、ただ手をこまねいて何もしていなかったわけじゃなく、ちゃんとその辺りを調べていたのだ。



「このまま全部の足首を折ってくぞ。イシュタルたちは引き続き牽制を頼む!」

「解った!」



 ちょろちょろと飛んでいるカルディナとその搭乗員たちが気になる様だが、威力はないが派手な攻撃をしてくるジャンヌや奈々、イシュタルやレーラのせいで気が散って集中させてもらえない。

 どこを優先して攻撃していいかも解らずにカバの攻撃は散漫になっていく。

 そんな攻撃が当たるはずも無く、竜郎達は難なくかわしていき──愛衣はコソコソと竜郎が遠隔でかけた呪魔法によって認識阻害をしながら足の周辺を隠密活動中だ。


 そして竜郎とカルディナたちが穴をあけ、愛衣が穿つという共同作業を3回繰り返していき、遂にカバは腹ばいになって動きを止めた。

 これが翼を使った飛翔ならば動けただろうが、空歩に類する足を使うスキルゆえに空を移動する事も出来ない。



「させません!」

「ズモ"ーーーー!」



 何でもいいから食べて回復をと床を食べようとするが、足首の傷に向かって高熱を加えた6重《竜力収束砲》をリアの機体から放たれ痛みで顔を上げる。

 そうやって食べようとするたびに傷口を抉って痛みで回復を邪魔しているのだ。


 愛護団体などいたら怒り狂ってきそうな戦法だが、こちらとて命がけ。

 汚かろうが卑怯だろうが、勝つために全力を尽くしているだけだ。


 そうしている間に魔力体生物組と竜郎はお尻の方へと回って、7人分のスキルを共有化し重ねて超威力の魔法を構築していく。

 何かまずい力が後方で練られている事に焦りを感じ、体を転がして逃げようとするも愛衣、リア、レーラ、イシュタルから執拗に傷口を抉られ足首がボロボロになっていく。

 尻尾の鞭もイシュタルのおかげでもう当たらない。



「この方法はあんまりやりたくなかったが……、あそこが一番効果がありそうなんだよな」

「わたくしも気が進みませんし少々気の毒ですが、しょうがありませんの」



 警戒は怠らないながらも、そんな事を言い合っている内に竜郎たちの魔法を限界まで重複させた魔弾が完成する。

 そしてよく狙いを定め、往生際悪く尻尾鞭を振るうために尻尾が上を向いた瞬間──カバの排泄口に向けてそれを打ち込んだ。



「モ"ーーーー!?」



 それはお尻から直腸を突き破り腹部まで来たところで、多種多様な──それこそ毒をも自重せずに撒き散らしながら大爆発。

 内臓に致命的なダメージを与え、カバは体のあらゆる穴から血を大量に噴出した。

 目も体内の爆発による圧力で内側から押し出され、血を撒き散らしながら全失。

 けれどそれでも尻尾を滅茶苦茶に動かし攻撃してくるあたり、さすが魔物の生命力と言った所か。

 だが最早瀕死の状態。本体を動かせるほどの余力は残ってはいなかった。


 竜郎はイシュタルの指示を聞きながら近づいていき、《レベルイーター》を当てていく。



 --------------------------------

 レベル:2001

 スキル:《暴食蓄積》《剛皮膚》《物耐性皮膚》

     《魔耐性皮膚》《かみつく Lv.20》

     《吸引 Lv.20》《超吸引 Lv.20》

     《瞬動突進 Lv.20》《伸縮尾 Lv.20》

     《鞭術 Lv.20》《空速歩 Lv.20》

     《極溶の息吹き Lv.20》《六視界 Lv.14》

     《眼球連射 Lv.20》《超嗅覚 Lv.20》

     《筋力大増強 Lv.20》《耐久大増強 Lv.20》

     《速力大増強 Lv.20》《魔王の覇気 Lv.20》

-------------------------------



(レベル2000越えとかまじでヤバい奴だったんだな……。

 まあ、そもそも今回はイシュタルがいなかったら、もっと苦戦しただろうし、これくらいはあるか。…………ん? 吸引?)



 他のスキル構成は何となくさっきまでの戦いでアレだろうなというのが察することが出来たが、今に至るまで吸引らしいスキルを使った所は見ていない。

 竜郎は嫌な予感がし、急いで超吸引から吸い出しにかかる。



「ズォォォオオオオォォ~~~~~~~」



 最後の悪足掻きとでもいうように尻尾の鞭しかやってこなかったカバが、急に口を開けて空気を吸い込み始める。

 すると頑丈に固めた部屋の床や壁が崩れ始め、口の中に吸い込まれていく。



「不味い──これだと鉱山を食べて回復してしまいますよ!」

『愛衣! 俺が吸引を吸い取っている間! 回復されてもいいから傷口からバンバン攻撃してくれ!

 回復されてもこっちが傷を負わせ続ければ問題ないはずだ!』

『はいよー!』



 愛衣は《神体昇華》し髪と目の色をプラチナ色に染め極限まで自己強化。

 さらに《体術》と《剣術》の気獣混合奥義《獅子竜剣斬》を発動し、飛翔のガントレットと宝石剣が融合した巨大な剣で、カバの足首からふくらはぎに向かって突き刺す。

 それと同時に奥に向かって突きの斬撃と《気力超収束砲》を混ぜ込んだ一撃を撃ち放ち、骨と皮の間の肉や腱を破壊しながら骨盤までヒビを入れさせた。



「皆! 回復されちゃうなら、こっちはそれ以上に攻撃していくよ!

 その間にたつろーが吸引ってスキルを何とかするから!」



 愛衣がまず行動で示したことで皆、直ぐに動き始める。

 愛衣と同じように傷口から攻撃を叩き込み、体の内部へと損傷を与えていく。

 廃鉱と呼ばれていた鉱山が見る見るうちに小さくなっていっている中で、内臓機能の回復を優先しているのか見た目には回復している様には見えない巨大カバ。


 けれどその分、4本の足の足首から上は完全に硬い皮とボロボロの骨以外の肉は消し飛ばされて機能していない。

 さらに竜郎がやったのを真似して、排泄口に空いた大穴から攻撃をバンバンと撃ちこんで内臓にダメージを与えていくえげつなさ。

 どっちが悪かと言われれば解らなくなりそうな光景である。


 しかしその間に竜郎は完全に《吸引 Lv.0》《超吸引 Lv.0》にまで下げてしまい、鉱山はちょっと残念なことになってしまったがカバの吸引は完全に止んだ。

 愛衣達はそれでも限界まで攻撃していき、再び瀕死の状況に追いやった。



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 レベル:2001

 スキル:《暴食蓄積》《剛皮膚》《物耐性皮膚》

     《魔耐性皮膚》《かみつく Lv.0》

     《吸引 Lv.0》《超吸引 Lv.0》

     《瞬動突進 Lv.0》《伸縮尾 Lv.0》

     《鞭術 Lv.0》《空速歩 Lv.0》

     《極溶の息吹き Lv.0》《六視界 Lv.0》

     《眼球連射 Lv.0》《超嗅覚 Lv.0》

     《筋力大増強 Lv.0》《耐久大増強 Lv.0》

     《速力大増強 Lv.0》《魔王の覇気 Lv.0》

-------------------------------



 レベルのあるスキルから全部吸い取り終ると、口の中にできた黒球を飲み込んだ。これで竜郎のSPに3045ポイント追加された。

 トラウゴットで減ってしまった分を入れてもお釣りが出る。


 カバは生きているのが不思議なくらい虫の息。早めに止めを刺してやるのがいいだろう。



「せーの!」



 皆で一斉にお尻に向かって攻撃を打ち込む。口からだと《暴食蓄積》が発動してしまうので致し方ない。

 動くことも出来ずに攻撃をその身に受け、内臓をさらにグチャグチャにされた巨大カバは──ようやく目の光を失ったのであった。

次回、第538話は8月1日(水)更新です。

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