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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八編 廃鉱の男

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537/634

第535話 彼こそ──

「悪いな。ここまで護衛させちまって。お前たちだけなら、もっと早く帰れただろうに」

「いえ、大した手間でもないですから」



 星天鏡石を手に入れてから、竜郎たちと男は廃鉱の外まで一緒に帰ってきた。

 だが、男が思っているほど時間は掛けていない。

 何故なら転移で入り口まで一瞬にして帰って来たのだから。

 しかし男は呪魔法によって、ここまでまっとうに歩いて帰って来たと思い込んでいるだけだ。



「さて、これでお別れ──ってことなんですけど、一ついいですか?」

「ん? なんだ?」

「実はですね。あなたから《鍛冶術》が覚えられないと聞いた時に、似たような事例を知っていたものですから勝手ながら調べさせてもらいました」

「はぁ? ──って、ちょっと待ってくれ。似たような事例を知っているだと?

 するってーと、なんで俺が覚えられないのか解ったのかっ?」

「ええ、まあ。そしてそれは、こちらの思っていた通りの結果でした」

「ごたくはいいから、とりあえずこれだけは教えてくれっ!

 ……俺は──《鍛冶術》を使えるようになるのか?」

「端的に言ってしまえば、星天鏡石で鍛冶術を覚えようとしても、あなたは鍛冶術を覚えられないでしょう」

「なん……だと…………。そっ、それじゃあ俺が苦労してここまで来たのは無駄だったって事かよっ!!」

「まあ、落ち着いて下さい」

「これが落ち着いていられるかよっ! だったらもう、こんなもんなんかいらねーよっ」



 《アイテムボックス》に入れていた竜郎たちと半分に分けた星天鏡石を、地面に叩きつけようと右手に持って振り上げた。

 しかし振り下ろすより前に竜郎に腕を掴まれ、それは叶わなかった。

 自分の腕よりも随分と細いのに、さらに相手は魔法職だというのにビクともしないあたり、かけ離れたレベル差を男は感じた。



「くっ。離してくれっ。俺はっ俺はっ──」

「だから落ち着いて下さいって。最後まで話を聞いて下さい。

 僕らはあなたよりも酷い状態の人にも会った事がありますが、その人は今は鍛冶師として元気にやっていますよ」

「──は?」

「僕らなら、あなたのソレを何とかすることが出来るんです」

「なに!? それは本当なのか?」

「ええ、もちろんです。こんな冗談を、あなたに言うほど性格は悪くないつもりですからね」



 これがもし出会ったばかりで、ただの子供だと思っていた時なら、それでも冗談だと思っただろう。

 けれどここに至るまでの数時間だけでも、このメンバーの規格外さは嫌と言うほど理解したつもりだ。

 だからこそ腕を掴んだまま、こちらを冷静に見つめてくる竜郎の言葉を信じることが出来た。



「俺は何をすればいい? 何を渡せば何とかしてくれるんだ?

 その話をしたと言う事は少なくとも、まったくやってくれる気が無いって事じゃないんだろ?」

「ええ。ですが僕らがあなたに望むのは難しい事ではありません。

 そしてもちろん、あなたの星天鏡石を渡せと言う事でもありません」

「ん? それじゃあ何が望みなんだ? はやく言ってくれないか?」



 男はてっきり自分の分の星天鏡石も渡せと言ってくると思っていただけに、先に違うと言われて怪訝そうな顔をする。



「まず、もし他人にどうして使えるようになったのかと聞かれても絶対に僕らの事は話さない、連想させるようなことも言わない。

 これは大前提として考えて貰いたいです」

「まあ、それはそうか。俺みたいな奴が他にどれだけいるかも解らねえし、ただの自分の怠慢を何かのせいにして、お前たちに会おうとする奴らも出てくるかもしれねえからな」

「はい。慈善事業団体というわけではないので、誰かれ構わず助けて回るつもりはありませんので」

「ごもっともだ。それで次は?」

「あなたが鍛冶術を覚えられる状態にするには、僕らの秘術を使う事になります。

 そして秘術と言うからには、誰にも──それこそあなたにも見られたくはない。

 なので僕らがソレをする間は、あなたには眠っていて貰います。

 以上があなたに求める事の全てです」

「…………ああん? それだけか? それだと、ただお前たちが善意で俺を何とかしてくれるだけのように聞こえるが……」

「いえいえ。僕らが思っていた以上に、あなたは僕らに利益をもたらしてくれた。

 だからこれは、貰いすぎた分を返すと思っていただければいいです」

「はあ……まあ、お前たちがそれで納得してるってんなら、俺に言う事はねーけどよ」



 男からしたら何のことかさっぱりの様だが、竜郎たちサイドから見れば先ほどの星天鏡石などちっぽけに思えるほどの情報を得られたのだから、これくらいはお安い御用だ。

 これでギブ&テイクの釣り合いがとれると言うもの。



「解った。お前たちの事は絶対に誰にも話さねーし、俺を寝かせるのも、寝ている間に何をしようとも文句は言わないとここに誓う。

 だからっ、だから頼む! 俺を鍛冶師にしてくれ!!」



 今この場においてだけ、この男が嘘を吐けない様に呪魔法をかけていた。

 だからこの言葉に嘘偽りは一切含まれていないと断言できる。

 ならばあとは、こちらが要望に応えるだけた。



「了解です。ならまずはここに寝てください」

「お、おお。解った」



 誰もいない事をカルディナに確認して貰いつつ、竜郎は土魔法で診察台のようなものを作ってそこに寝るように指示した。

 男は言われた通りにそこに寝そべり、少し不安そうにしていた。



「大丈夫です。次に目覚めた時、あなたの呪いは解けていますから──」



 それらしい言葉を言って、スキルを弄る様な事ではないと印象付けながら生魔法をかけていく。



「呪い!? そんなもの……が…………────」



 男は呪いという言葉にギョッとしながらも、直ぐに頭がぼんやりとしていき意識が遠のいていく。

 そして放っておけば丸1日寝ていそうなほどに深い深い眠りについた。



「よし眠ったな。それじゃあ、《レベルイーター》でマイナス分を吸い出してしまおう。俺達も他にやる事があるしな」



 そう言って竜郎は《レベルイーター》を発動し、口内に出来上がった黒球を男に吹き付けた。



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 レベル:49


 スキル:《万物解識眼》《鍛冶術 Lv.-18》

     《器用 Lv.1》《槌術 Lv.5》

     《土魔法 Lv.3》《火魔法 Lv.2》

     《土精の祝福+10》

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(レベル49……。戦闘が得意じゃないと言っていた割には、けっこう高いじゃないか。

 それに《土精の祝福+10》って、リアよりも+2高いぞ)



 実際には《万物解識眼》による鑑定業で荒稼ぎしたお金で、SP目当てに冒険者を雇ってレベリングをしたからなのだが、そんな事は知る由も無い。



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 レベル:49


 スキル:《万物解識眼》《鍛冶術 Lv.0》

     《器用 Lv.1》《槌術 Lv.5》

     《土魔法 Lv.3》《火魔法 Lv.2》 

     《土精の祝福+10》   

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 無事にマイナス分を全てを吸い出して、口の中に出来上がった黒球を飲み込んだ。

 するとリアの時以上に、胸の辺りがズンと重く冷え込むような感覚がした。

 リアはヤバさでいったら段違いだったが、こちらは単純にレベルが高いからなのだろう。



「それじゃあ起こすぞ」

「……………………ん……おお? もう終わったのか?」

「ええ、これで終わりましたよ。気分が悪いとか、変な感じがするとかは無いですよね?」

「あ、ああ。とくに変な感じはしねーな。んで、その……呪いだったのか?」

「詳しくはお話しできませんが、そのようなものだと思って貰って構いません。

 そして無事、それは取り払われました。今のあなたなら星天鏡石なんて使わなくても覚えられるはずですよ」

「ほ、ほんとか!?」



 ガバッと即席診察台から起き上り、転がり落ちるようにそこから降りてキョロキョロと周囲を見渡し始めた。

 おそらく何か試せる手頃なものが転がってないか探しているのだろう。

 見かねたリアが自分の《アイテムボックス》から、鉄のインゴットを取り出し渡した。

 今の彼なら、それでも直ぐに1レベルになれるだろう。何せ《土精の祝福+10》の恩恵を持っているのだから。


 リアからインゴットを震える手で受け取り、さっき自分が寝転がっていた即席診察台にそれを乗せる。

 そして右手の平を空に向けて、鍛冶術の金槌が出るようにイメージしていく。

 それはこれまで生きてきて、毎日のようにやっていたイメージトレーニング。

 今は出来なくてもきっと、いつかできるだろうと頭の中では完全に固まったイメージが存在するそれを現実の世界に引っ張り込んでいく。



《スキル 鍛冶術 Lv.1 を取得しました。》



「やっ──た──。やった、ぞ……うぅっ──」



 泣きそうな、かすれた声でそう言った男の右手には、紛うことなく鍛冶術によって構成された赤茶色の金槌が握られていた。


 そして左手に鍛冶炎を纏い鉄のインゴットになすりつけていく。

 鍛冶炎を纏ったインゴットに金槌を打ち付けると、粘土のように柔らかくなり打ち込むたびに形を変えていき──やがて一本の鉄の金槌が出来あがった。



「俺が、俺の力で打った初めての金槌だ──」



 まじまじとそれを手に取ってみつめる。普通に鍛冶術が使える者からしたら、そんなに感動するか、と言いたくなるようなただの鉄でできた金槌をだ。

 けれどそれは男にとっては長年、頭の中で思い描いてきた理想そのままだった。



「ここから、俺の鍛冶師としての人生が始まるんだ! やったぞ! 本当にありがとうっ!」

「喜んでもらえたようで何よりです。あなたなら、きっと素晴らしい鍛冶師になれると思いますよ」

「当たり前だ! 俺の目があれば誰にも負けねーくらい、すげー武器を作って見せる! 見てろよ! きっと──いや絶対に誰もが俺の作る物を欲しがるような存在になってやるからよ、その時は訪ねてきてくれや! ただで作ってやるからよ!」

「ええ、機会があれば是非」



 この男がこれからどんな人生を歩んでいくかは知らないが、恐らくもう竜郎たちと出会うことは無いだろう。

 ドワーフの寿命は約300年、男の年齢は30~40。それでいくと多く見積もっても、270年後くらいには天寿を全うしている。なのでどう見繕っても本来の時間軸に帰ってしまえば会う事はかなわない。

 けれど馬鹿正直に語る必要も無いと、竜郎は社交辞令で返しておいた。



「こうしちゃいられねえ! 俺は故郷に帰るぜ! イルファン大陸にあるヘルダムドっつー国のホルムズって所だ。覚えといてくれよ。

 そこででっけー店構えて待ってるからよ! んじゃあ、あばよ!!」



 そう言ってこちらの返事を聞くことも無く、男は走って廃鉱から去っていったのであった。






 竜郎たちと別れ1人になった男は、興奮で鳴りっぱなしの鼓動を抑えるべく一度立ち止まり深呼吸をした。

 そしてそれが終わると、廃鉱の方へと振り返り独り言を呟き始める。



「さすが未来人ってやつだな。どうやって過去に来たかは知らねーが、どうにもできなかった事をあっさりと解決しちまいやがった」



 男は竜郎たちが未来から来たことに気が付いていた。

 何故なら──。



「にしても……あの2人が着ていた鎧とコート。あんなスゲーもんを作れるようになるのか。

 やっぱ俺は鍛冶師になるべきだったんだ。諦めなくて良かった……ほんとうに……」



 彼の《万物解識眼》は、その物を誰がいつ作ったのかまで見通せる。

 物だけに限定されているのでリアの目程ではないが、それくらいまでなら見られるのだ。

 そして竜郎たちの装備品に目をやった時、改造はされているがその基本ベースになっている竜郎と愛衣のコートと鎧は、自分が286歳の時に作り上げた逸品だと理解したのだ。


 その時、男は衝撃よりもやっぱり俺は凄い鍛冶師になれるんだという安心感から驚くことも無かったので、竜郎たちは気が付いたことに気が付かなった。


 そして男はこう思ったのだ。こいつらは将来、自分の作品を受け取りに来るのだと。

 だから286歳になるまでに、あの鎧とコートを作れるようにならなければ──いや、それ以上の物を作れるようになってやると闘志を燃やしこの大陸を後にした。


 だが結局。男と竜郎たちは二度と会うことは無かった。

 彼はどこかで未来が変わってしまったのかと不安を感じながらも、いつか竜郎たちが自分の作品を手に取ってくれることを願い、知り合いの中でも一番信用できる商人にそれを預けた。

 もしそれで届かなくとも、似たような誰かに渡るように言づけて。


 そして311歳で家族や多くの弟子に囲まれながら、その生涯を終えた。

 竜郎たちに会えなかった、もう一度会って礼が言いたかった、すげー男になっただろうと自慢したかった──そんな心残りを抱えたままに。






 走り去っていく男の背を見つめながら、愛衣はポツリと呟いた。



「また会えるのかな?」

「たぶん会えないだろうな。あ、そういえば名前すら聞いてなかった」

「私は彼の名前を知ってますよ」

「そうなんですの?」

「ええ、ドワーフの誰もが尊敬する鍛冶師になる人なんですから」



 その言葉にレーラは、はっとしてリアを凝視しながら口を開く。



「ねえ、リアちゃん。それってもしかして……」

「はい。彼こそ──────」



 その男の名はトラウゴット・ラウエンシュタイン。

 将来、大陸どころか世界にその名を轟かせる偉大な鍛冶師となる男である。

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