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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八編 廃鉱の男

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第534話 発見!

 まず現在の竜郎の保有しているSP的には、恐らくマイナスになることなく吸い取り《鍛冶術 Lv.0》という努力でどうにでもなる状態にすることは出来るはずだ。

 さらにそこに《万物解識眼》が加われば鬼に金棒。直ぐに他者を追い抜き、素晴らしい鍛冶師になることだろう。


 だがしかし。現状彼は五体満足で《万物解識眼》を使いこなし、それでうまく立ち回ってお金を稼ぎ生きてきたはず。それも人よりも裕福な暮らしが出来る程度に。

 その時点で、この男はもう恵まれていると言ってもいい。

 たまたま生まれ持った資質で、それなりに楽しく生きられるのだから。


 となるとだ。別に竜郎がここで介入しなくても、この男は死ぬわけでもなくスキルを利用して、これまで通りお金に困ることなく一生を謳歌できるのは間違いない。

 ただ鍛冶師になると言う一番の夢は諦めなければいけないが、第三者視点からみればそれだけだ。

 落ち込みはするだろうが、時間をかければ立ち直る事も出来るだろう。


 それに世の中にはリアの時のようにどうしようもない状況の人もいるのだから、何でもかんでも出会ったから知ってしまったからと言って、こちらが不利益を被ってまで助けて回らなきゃいけないいわれもない。

 今後、もし複製ポイントをSPで変換できるようになったのなら、いくらあっても困らないのだから出来るだけ余計な事で消費は避けたいのだ。


 もちろんリアの時のように、明日をも知れぬ身だというならば竜郎も直ぐに助けると決断しただろう。

 今なら呪魔法で《レベルイーター》の事もどうとでも誤魔化せるし、それくらいには竜郎も他人に対して情はある。



「だが、これでもしあの人が本当に星天鏡石を見つけて、その半分を俺達にくれたのなら、その時は助けた方がいいと思う」

「……ですね。ぶっちゃけ私たちは彼の尻馬に乗っかっただけですし、星天鏡石が沢山手に入るのなら、それだけのお返しをしてもお釣りが来るでしょう」

「やっぱりリアも欲しいのか?」

「そりゃそうですよ! あの人がやっぱ止めたと言って帰ってしまっても、私はこの山を全て掘り返してでも見つけてみせますよ!」

「お、おう……そうか。なら俺達も頑張らないとな」

「はい! 頑張りましょう!」



 星天鏡石の名を聞いた時、もしかしたらそれならばニーリナの心臓を使った魔力頭脳の小型化に必要なパーツに使うことが出来るかもしれない。そうリアは考えた。

 現在の一番の目標であるそれが叶うかもしれない素材があると言うのなら、リアは何としてでも手に入れようとするだろう。鼻息も荒く、やる気十分な様子である。

 その意気込みに押されて、竜郎は思わず背中を後ろに反らした。


 それから周辺警戒は怠らないままに、愛衣達にもその事を伝えていった。

 そうしてやっと通常の護衛に全員が戻り、男の作業が終わるのを待った。



「ここでもない様だな。よし次のポイントだ」



 いらない石ころはポイッとそこいらに捨てて必要な事を紙に書いていく。

 どうやらその紙がポイントの記された地図の様だ。



「それがあなたの地図ですか」

「おう。お前たちのも同じもんなんだろう?」

「ええ、僕らのコレですね」

「おお、やっぱり全く同じものがあったんだな」



 竜郎はリアに頼んで、考えたものを紙に写して出してくれる魔道具でそれを複製して貰っていた。

 もちろん、追加で書き記されたであろう所は省いてだ。

 さらに《万物解識眼》で悟られない様に、何もこの地図に対して調べない様に呪魔法を使えば簡単にこの世界にもう一枚同じ地図があったと信じてしまう。

 何も不思議に思われることもなくゾロゾロと皆で、さらに奥へと向かって歩いていく。



「そういえば、なんでそんな地図があったんすかね。

 しかもそっちの地図は盗賊が持っていたんすよね?」

「ああ、それは俺も気になって調べてみたんだが、どうやらこの地図は採掘ギルドに依頼されて廃鉱かどうか調査に来た専門チームが書いたモノだと思う」

「そうなんすか? それじゃあ、そいつらは星天鏡石を独り占めにしようと採掘ギルドに廃鉱だと言ったって事っすか?」

「だろうな。おれの推測も混ざってはいるが──」



 ドワーフの男の調べた限りでは、ここを調査にきた連中が調べた結果、星天鏡石がある可能性が極めて高い事に気が付いた。

 その者らは時間が許す限り何日も入り浸って、この鉱山の情報を調べ回りながら地図を作った。

 だが調査期間中はギルドの人間も近くにいたので、大っぴらに採掘どころか調査も出来ない。

 だから向こうには解らないレベルで書いた結果、今の採掘ポイントが大量に書かれた地図になったと言うわけだ。


 そうして怪しまれない程度に当たりをつけ終わると、最後に依頼主である採掘ギルドに廃鉱だと虚偽の報告をした。

 後日、誰もいなくなった廃鉱でこっそりと星天鏡石を手に入れるために。


 ギルドからも通知が出され、完全に廃鉱になってから数か月後。

 調査チームは準備を万端にして深夜に廃鉱を目指した。

 ただそこで不測の事態が起こる。運が悪い事に盗賊に襲われてしまったのだ。

 まさかこんな時に出なくてもいいのにと、その者達も思ったことだろう。

 結局、全ての荷物と命を奪われ、地図も盗賊の元へ渡る。


 さらに盗賊たちは討伐されて、その根城にあった地図が流出。

 何十年も誰もその価値に気が付く事もなく何かの拍子に大陸を渡り、ドワーフの男の知人の店に流れ着き、それを手に入れた。

 ──と、そう言うわけだろう。というのが語られた全貌だった。



「実際にこっちに来て調べてみたが、ここを廃鉱だと言った調査チームは全員盗賊に殺されたと記録が残っていた。

 それも何故か採掘用の格好をしてだ。十中八九俺の推測通りで間違いないだろうよ」

「それはまた運が悪いやつらですの……」

「はははっ! だが俺達はついてるぜ! なんたってそいつらが欲かいて死んでくれたおかげで、星天鏡石が手に入るんだからな」

「まあ、そうですよね。僕らもこそこそと採掘しに来てるんですから、調査チームの事を悪くは言えませんし」

「そういうこった。気にせずに俺達は俺達の利益のために見つけりゃいいんだよ」



 もう悔しがる奴はこの世にいないんだからよ。そう言葉を締めくくって、男は新たなポイントを調べ始めたのだった。


 岩壁を調べては進み調べては進み──というのを何度も続けていき、もうかなりの時間が過ぎていた。

 時刻は既に夜も過ぎて明るくなり始めている事だろう。道中イモムークラスの弱い魔物が数匹出た程度で、ずっと後ろで作業を見ているだけの竜郎たちは暇で暇でしょうがなかった。

 けれどそんな時間も、やっと終わりが近づいてきたようだ。



「ここだ! これまで星天鏡石が採掘された場所と全く同じ条件が整っている!

 この奥、もしくはその周辺のどっかに埋まってるはずだ!

 お前らも採掘しに来たんなら道具は持って来ているんだろ?

 手伝ってくれ! ただし原石があった時に傷つけないように慎重にな」

「いや、近くにあるのが解ってるのなら僕がやりますよ」

「は? どういう……」



 竜郎は鶴嘴つるはしを手に持ったまま困惑する男を無視して、あると言っていた方角の岩壁に向けて杖を当てる。



「おいおい。魔力を通しにくい邪魔コロ混じりの鉱山で、魔法を使って穴を掘ろうなんてどれだけ魔力がぁああ!?」



 解っちゃいねえな、素人さんよお。とでも言いたげに肩をすくめて竜郎を諭そうとしていたのに、目の前では見る見るうちに硬い岩壁が粘土のようにグニャリとなって穴が掘られていく。

 しかも解魔法も使って、ただの岩壁を邪魔コロ、屑石と左右に分けて隅にどけるなんて、さらに無駄に消費が激しそうなことまでしていた。


 確かに穴の補強くらいは魔法が使いにくかろうと土魔法使いに頑張って貰うのだが、これほど大がかりに邪魔コロ混じりの岩壁を掘るなど、一般常識ではどれだけの魔力総量があれば可能か想像すらつかない。

 開いた口がふさがらないと言った風に、男は竜郎の直ぐ近くで呆然と立ち尽くした。



「ん?」

「──あったか!?」

「なんかそれっぽい反応を見つけましたが、少し下がっていてください。

 近くに魔物がいるようです」

「もしや、それは鉱石にべったりくっ付いてる感じか?」

「良く解りましたね。まさにそんな感じです」



 邪魔コロ混じりの岩壁なのに正確な情報を得られるレベルで解魔法を通している事に驚くべきなのだろうが、男はもう竜郎の非常識さに慣れたようだ。

 直ぐに頭を働かせて、鉱山に生息し鉱石に密着する魔物に当たりを付けた。



「おそらく寄鉱虫だ。特殊な鉱物に張り付いて寄生し、そのエネルギーを吸って成長する魔物だ。

 こいつらのせいで力を持った特殊な鉱物の反応が弱くなって、よほど近くにまで行かないと解らない様にされちまうんだ。よく見つけたな」

「魔法は得意なんで、これくらいは」

「しかし星天鏡石にずっとくっ付いていたとなると厄介かもしれんぞ?」

「といいますと?」

「寄鉱虫は寄生した鉱物のランクが高いほどに強くなっていく魔物なんだよ。

 最上級の星天鏡石にくっ付いてるとかなり強いぞ。大丈夫か?」

「へぇ。そんな面白い特性をもってるんですね。是非、素材を回収したいですね」

「そんなこと言ってる場合かよ! ──って、その余裕な表情を見るに、そっちに任せておけば問題ないんだな?」

「まあ、確かにその辺の魔物よりも強いかな?くらいなので、問題ないですよ。

 たった数匹程度ですから」

「1匹じゃねーのかよ!?」



 男が突っ込みを入れている間に、竜郎は寄鉱虫が張り付く星天鏡石(たぶん)まで穴を完全に開通させた。

 するとこちらの光に反射して、キラリと光る球体が複数こちらに向くのがみえた。

 それは寄鉱虫の目玉だ。数は6つで6体。単眼の虫の様だ。

 体は筒状で細長く硬そうな甲殻に覆われて、唯一甲殻の無い腹の下にある繊毛を動かして滑るように移動する。

 そして単眼の下にある飛び出た四つの牙をカチカチ鳴らしながら迫ってきた。



「ひぇっ。キモいよ、たつろー」

「確かに見た目がグロすぎる──1匹ぐらいテイムしようかと思ったが予定変更だ──死んでくれ」

「「「「「「────ピッ」」」」」」



 天照の杖から下から這いずる様な雷を放射し、甲殻の無い繊毛を通して裏側を電撃で焼いて殺した。



「瞬殺……。というか雷魔法って、いったい何属性使えるんだよ」

「まあ、色々ですよ」

「はあ。もう何でもいいや。それより星天鏡石はどこだっ?」

「まあまあ、念のため何があってもいいように僕らが行きますから、そこで待っててくださいよ。取ったりしませんから」



 いさんで穴に突入しようとする男を引き留め竜郎が前に出る。

 探査はしているが、それでも何かあった時には竜郎たちでなければ対応できないだろう。



「あ、ああ……。すまん、興奮しちまった。それじゃあ頼む」



 男の言葉に頷きながら、竜郎は愛衣と一緒に警戒しながら穴の中を進んでいく。

 道中、寄鉱虫の死骸を《無限アイテムフィールド》にしまいながら。


 そうして寄鉱虫が群がっていた辺りにやってくると、そこには周囲とは違いキラキラと星のまたたきのような光を放つ黒い鉱石があった。

 おそらくこれだろうと寄鉱虫がいた空間以外の埋まっている個所も全部含めて綺麗に不純物まで取り除いていくと、だいたい人間の頭一つ分くらいの大きさの黒い石が手に入った。



「なんかキラキラしててきれーだね」

「ああ、小さい光の粒が夜空の星みたいに見える」

「──あったかー?」

「ええ、今そっちに持ってきます!」



 見惚れている場合じゃなかったと、竜郎はその原石を持って仲間や男がいる場所まで戻っていった。

 その道中、こっそり《無限アイテムフィールド》に収納して複製し、オリジナルをまた手に持ちなおしたのは内緒だ。


 そして皆が集まっている中心部に、その石を置いていざ、お披露目である。



「コイツはたまげた……。これ全部が星天鏡石かよ……すげぇ……」

「この大きさは多分、世界初じゃないかしら。表に出しても値段なんて付かないわよ、これじゃあ。まあ、売らないんだけれどね」



 それは研磨も何もされていない、ごつごつとしたかっこ悪い形をした鉱石だ。

 けれど黒と若干の青を混ぜたような色の中に、赤、青、黄、緑、紫とさまざまな小さな小さな光が瞬いて、まるでその石の中に星空を閉じ込めたかのような、悪戯に飾り立てただけでは表せない自然の美がそこにはあった。

 このまま何もしないで飾っておいても、一つの美術品と言っても過言ではない。



「これで間違いないですよね?」

「ああ、間違いねぇ。それじゃあ、半分ずつって事でいいんだよな?」

「ええ、もちろんです。どうやって切り分けますか?」

「俺だと上手く半分にする自信は無いな。そっちで出来ないか?」

「じゃあこっちでやりますね。それなら愛衣、ちょうど真ん中あたりで真っ二つに切れるか?」

「うん。できるよ~──せいっ」



 愛衣は《アイテムボックス》から宝石剣を出して手に握るや否や、居合抜きのようにそれを振るってあっさりと鉱石を半分に切って見せた。



「何も手を加えてないとはいえ星天鏡石だぞ……。ダイヤの何倍硬いと思ってんだ。嬢ちゃんもこっちの兄ちゃんの同類だったのか」

「ふふふ、たつろーと私はいつも一緒だよ」

「いや、そう言う意味じゃねーんだがなぁ」



 竜郎の腕に巻き付いてのろける愛衣に、男は砂糖を吐き出しそうな顔でそう言った。

 それから不満が出ない様に、どっちがいいかは切っていない男に選ばせ分け合った。

 これにて竜郎たちと男の合同調査は終わりを告げたのであった。



『ねぇ、結局ここに世界力溜まりは無かったの?』

『ああ、ここには無かった。でも面白い事が解ったぞ?』

『え? なになにー?』

『実はな──────』

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