第533話 男の事情
「提案ですか?」
「ああ。だがその前に聞きたいんだが、お前たちは冒険者って言うんなら、それなりに戦う事は出来るのか?」
「え? ええ、まあ。自分たちで言うのもなんですが、ここの採掘権を人数分購入できるくらい稼げる力量だと思ってくれればいいかと」
「あぁ~、そう言ってくれると解りやすいな。
………………………………それに良く見ると、お前たちの身に着けている装備品……とんでもねぇ代物だな。
しかも使われてるんじゃなくて、ちゃんと使ってる跡だ……。
確かにただもんじゃねぇな、あんたら。流石ここを嗅ぎ付けて来るだけはあるぜ」
光で照らされているとはいえ、薄暗い坑道の中でちらりと見ただけでそこまで察する事の出来る男の力量に、こちらもただものじゃないと思い知らされた。
『ただの乗せられやすいおじさんじゃなかったみたいだね』
『その言い方はあんまりだと思うが……正直、俺もそう思ってた』
『でしょー』
念話で会話をしていると、ぎろりと鋭い眼光で男は竜郎に視線を向けてきた。
さっきからこの中で主導的に話していたからだろう。
「なあ、あんたら。俺と手を組まねえか?
俺は自分で言うのもなんだが物を見極める目は確かだし、この広い廃鉱を闇雲に探し回っているわけでもない。
本当にそれがあるのなら、1人でも絶対に見つける自信はある」
どうやら地図に書いてあることも、この辺りにあるのではないかという緻密なデータに元付いての推測によって出された予測ポイントでしかなく、その数は数十個以上あるのだそうだ。
なので、もしかしたらデータから外れた場所にずれている可能性すらある。
だがこの男なら、そんなずれも見越したうえで探し当てる実力があると豪語した。
なるほど確かにそう言う事だと、素人ではこの男より先に見つける事は出来ないだろう。なにせ解魔法ですら使いにくくなっているのだから。
けれどそうなると、竜郎たち側に疑問が出てくる。
「では何故、組もうなどと? 独り占めした方がお得じゃないですか。
会ったばかりで信じろと言う気はないですが、先に見つけられたからと言って、横から力任せにかすめ取る様な卑怯な事はしませんよ?」
するとしても一度《無限アイテムフィールド》に入れさせてもらって、複製するだけだ。オリジナルは勿論返す。これなら合法だ──たぶん。
「俺だってそんな奴らだとは見てねえよ。お前たちの力量なら、その気があるなら俺を脅せば済む話なのに、そうはしてこねえのがいい証拠だ」
最後の最後で裏切ってこの男を殺害し丸儲け、という手段もあるのだが、そこは考えていない様だ。
「だから本来なら、それじゃあ互いに頑張ろうぜって別れたいところではある。
だがな、星天鏡石の原石の近くには強い魔物がいる可能性が高いとみてる。
それ以外にもどこかに強い魔物が潜んでいるかもしれねぇ。
そして自慢じゃねーが、俺はまったく戦いには向いていない!
ぶっちゃけ喧嘩で勝った事も無いくらい弱いぞ! お前たちと会うまでビビりまくってたからな!」
「それはほんとに自慢じゃないですね……。
って事はつまり、あなたが見つける、僕らが護衛するという相互協力がしたいと言う事ですか?」
「そうだ。取り分は半々で……どうだ?」
「じゃあ、それで」
「…………あっさりとしてんな。ほんとにいいのかよ。星天鏡石だぞ?」
「いいですよ。探索と戦闘を半々で分けたと思えばいいでしょうし、もし何もいなければ僕らはただ儲けるだけですし」
「それもそうか……。他の奴らもそれでいいか? 後でもめるのは嫌だぞ?」
愛衣達にも視線を向け行くが、もちろん誰も否は唱えない。
ぶっちゃけ何処にあるかなど見当もついていないので、護衛で半分も貰えるなら礼が言いたい気分だ。
1日1ポイント溜まる複製ポイントを1使うだけで、半分はあっという間に元と同等の質量にする事だってできる。
それにだ。たまたま星天鏡石なんて珍しいものがあるかもしれない場所に、たまたま世界力溜まりが発現した──などとは思えない。
何らかの因果関係があってもおかしくないので、竜郎達の調査対象でもある。
『鉱物っていうと《創物族創造》や《無形族創造》の材料にも使えそうだしな』
『星天鏡石ゴーレムとか星天鏡石スライムとかが出来たりするかもね』
『素材としても一級品どころか特級品らしいし楽しみだ。是非ある事を祈ろう』
こちらも異存はない事を察してくれたようだが、念のためにと書面にもしたため、正式に協力関係がここに結ばれた。
道中共にしている間、無言でいるのもなんだとドワーフの男が話しかけてきた。
「お前たちは何で星天鏡石が欲しいんだ? 金……じゃあなさそうだが」
今、竜郎達が身に着けている装備品一つとっても、莫大な財が築けそうな代物ばかりだ。それを思い出して男は自ら否定し苦笑する。
「ですね。僕らの場合もし手に入れられたなら、装備品の強化に当てるつもりです」
「それ以上にするのか? 一体、何と戦う事を想定してるんだよ……」
竜郎としては魔物創造スキルの素材にも使う予定だが、そちらは黙っておいた。
しかし現状の装備品でもまだ足りないと言っている竜郎に、男は絶句してしまった。
今の装備品でも魔王種クラスが相手でもやっていけそうだというのに、それ以上を求めるとなると、もう男の頭では考え付かなかったのだ。
「強いに越したことは無いですからね。それじゃあ逆に聞きますけど、あなたは何故、星天鏡石が欲しいと思ったんですか?
そちらもお金って感じじゃない気がしますけど」
竜郎たちと初めて会った時に手に持っていた武器のハンマーや、今身に着けている軽装鎧やブーツに至るまで、素人目に見てもかなり金がかかっていると解る物だった。
大金が欲しいという欲を、それほどまでに持っているとは思えない。
ただ星天鏡石の特大原石となれば、そりゃあ一生遊んで暮らす事が出来る値段が付くだろうから、多少のお金持ちならそれを望む事もあるだろう。
が、金が欲しいというような俗な心意気では無く、この男は何かもっと別の信念があるように思えた。
竜郎の真っすぐな瞳に、それを見抜かれたと感じた男は正直に話す事にした。少し皮肉気に口元を歪ませながら。
「俺か……俺もお前らと似たようなもんだな。俺が星天鏡石を手に入れたら、この手で何かを作ろうと思ってる」
「──え?」と竜郎やリア、レーラにイシュタルも口には出さないが、男が自分の手でと言った所が引っ掛かった。
相手はドワーフ。鍛冶業に恵まれた種族であり、最高の素材を使って最高の一品を作り上げたい。そう思う事は決して不思議な事ではない。
だがそれは、ちゃんと自分で《鍛冶術》が使える者が言うセリフである。
──そう、この男は《鍛冶術》というスキルを持っていないのだ。
精霊眼で見抜いていた者達は、リアで見慣れていたスキルの色だけに直ぐに無い事に気が付いた。
ドワーフでも持っていない者も当然いるので、そこまで疑問には思わなかった。
そしてリアは《万象解識眼》で、彼の状態を観ていたから《鍛冶術》が使えない──いや、覚えられない事に気が付いていた。
その事に気付いたのかどうかは解らないが、彼はそのまま自分について語ってくれた。
「俺はなあ。何故か《鍛冶術》が覚えられないんだ」
「覚えられない? 条件は満たしているんですよね?」
「当たり前だ。それに俺は生粋のドワーフだぞ?
《土精の祝福》だってあるんだから、本来なら簡単に覚えられてもおかしくないはずだ」
鍛冶術を覚える条件は──《槌術》のスキルをレベル3、《火魔法》と《土魔法》のレベルを1以上。
後はその3つのスキルと引き換えにして習得する事が出来る。
だが生粋のドワーフは必ず《土精の祝福》を+4以上はスキルとして最初から与えられており、そのプラス値が高いほどに条件も魔法は覚えなくていい──など緩くなっていく。
そしてこの男の場合。精霊眼で見た限りでも、その3つの条件は確かに満たしていた。むしろ基準より高い。
レベル20くらいの魔物と1対1でなら勝てそうなくらいには。
さらに《土精の祝福》もリアと同じかそれ以上はあるだろう。
なので本来なら《槌術》だけをレベル3まで覚えれば、《鍛冶術》が取得できるはず。
だと言うのにシステムに鍛冶術が表示されないと言う。なので習得する事も出来ない──というわけだ。
けれどそうなると、何故《鍛冶術》が使えないのに最高の素材をわざわざダメにするような事を自分でやろうとするのかが気になった。
「何でって顔してんな」
「ええ、まあ。差支えなければ聞かせて貰っても?」
「いいぜ。ここまで話してお預けってのも可哀そうだしな」
はははっ──と乾いた笑いを挟んだ男の姿は、他人から見ても痛々しかった。
「鍛冶術ってスキルはよぉ。良い素材を、難しい素材を使う程に磨かれレベルが上がっていくスキルってのは知ってるか?」
「ええ。知っています」
「ならよう。俺みたいなシステムから取れない奴は、すげえ素材を使って修行すれば自力で取得できるんじゃないかって思ったんだ」
「実際に、そう言う方もいないわけじゃないですからね」
「おおっ、さすが同胞。解ってるじゃないか嬢ちゃん。
そしてそう言う奴らは、必ずと言っていいほど後に名を残すほどの鍛冶師になっている! それも知ってるだろ?」
「ええ……まあ……」
子供のリアですら知っているくらい実際にあった事なんだ。なら自分も絶対にそうに違いないと希望を感じ、男は嬉しそうに歩を速めた。
けれどそれに対し、リアは歯切れ悪く返事をしながら視線を横に逸らした。
確かに大きく見れば、そう言う状況で覚えた人たちと彼は同じだと言っていいだろう。
だがリアは知っていた。彼の場合は、星天鏡石だろうが何だろうが駄目なのだと。
「いやぁ。俺も頑張って色んな素材を手に入れてはだめにしてきたが、星天鏡石なら間違いないだろう! いや、絶対にそうだ!
──おっと、ここで止まってくれ。星天鏡石が近くにあるかどうかパターンを調べてみるからよ」
これまでのデータから、星天鏡石が近くに埋まっている可能性の高い地質の型があるらしく、ドワーフの男はそれを調べるために岩壁の成分を調べ始めた。
地図はあくまでここにありそうと言う、これまでの統計に基づいて導き出された指針であり、その沢山あるポイントからさらに細かく実地で調べる必要があるのだ。
その間こちらは護衛という形で周辺警護にまわるのだが、竜郎はリアに袖を引っ張られてこっそりと男から距離を取った。
そこで会話を聞かれたくないのか、リアは呪魔法を使うように言ってきた。
突然姿が消えてもおかしいので、土人形を即興で作ってそれを竜郎とリアに見立て、あたかもすぐそばで護衛をしているかのように錯覚させた。
その上で竜郎とリアの会話は、耳に入っても聞こえてないと認識するようにもしておいた。
これで大声で話しても、あの男に会話を聞かれることは無いだろう。
「それで話ってなんだ? まあリアの態度を見ていた限りだと、あの人の鍛冶術についてなんだろうけど」
「はい。まさにその通りです、兄さん。はっきり結論から言いますと、星天鏡石を使ってもあの人は《鍛冶術》を使えるようにはなりません」
「その理由を聞いてもいいか?」
「ええ。ですがその前に確認を。兄さんは精霊眼であの人を観て、見たことのないスキルの色があるのに気が付いてますよね?」
「ああ。だがなんというかリアの《万象解識眼》に似た色に感じたな。
最初は同じスキルかと思って、ちょっとびっくりしたくらいだ」
「そんな風に見えているんですね。ですが、それなら話は早いです。
実はあの人は《万物解識眼》という、生物や事象を見抜く能力はありませんが、その物体が何か観るだけで解ってしまう破格のスキルを持っています。
確かにあの目があれば、地図の暗号くらい無視して何か解るでしょう。
そして本当に存在するのなら、その地図とやらを書いた人たちよりも、さらに正確に地質を見抜き星天鏡石の在り処を見つけ出すでしょう」
「《万物解識眼》……。そんなスキル持ちだったのか。確かにそれは破格だな。
ん? ってことはだ。もしかして、あの人はその身にそぐわない超級スキルを初期スキルとして与えられた人って事でいいのか?」
「そうです。私の時とほとんど同じ──ということです。
もっとも、彼は私の時のように体が真面に動かせないと言う事も、異常に手先が不器用になるという事もなかったようですが」
「今も元気に壁を叩いているし、確かにリアの時とは違うペナルティを負っているんだろうな。……となると、まあ《鍛冶術》か」
身に余る力を身に付けてしまった場合、それを埋めるためにマイナスのスキルをあてがわれる。
リアの場合でいえば、《健康体 Lv.-5》《器用・特大 Lv.-10》だった。
ならば彼の場合はどうなのか。これまでの話を聞いていれば大体は察しが付く。
そもそも何故、条件を満たしているのに彼のシステムに《鍛冶術》が表示されないのか。
その答えは、今となれば簡単だ。何故なら彼は既に覚えているのだから、システムの取得欄を見てもあるはずもない。
ただし彼の場合は《鍛冶術 Lv.-18》。
そんな最悪の形として覚えてしまったようだ。
リアの目で観た限り、ここまでマイナスに振りきれてしまうと、もう自力でのスキルのレベリングではどうしようもないと言う。
さらにマイナススキルは何処にも表示されないので、SPを消費してのレベルアップも望めない。
まさに鍛冶師になろうとしている人物にとっては最低最悪の最後通牒だ。
お前は何をやっても、《鍛冶術》を覚えることはないと神から言われている様なものなのだから……。
しかしだ。この世界に1人だけ、それをどうにかする事の出来る人物がいる。それもその男の直ぐ近くに。
「どうしますか? 兄さん」
「どうすっかなあ……」




