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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八編 廃鉱の男

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第532話 誰かいる

 鉱山へ入るには採掘許可証がいるとは門兵のスライムさんの言。

 普通は採掘許可証は素人に──それも余所者には絶対渡されない。

 けれど、それにも裏道は存在する……。まあ、ようはお金である。

 採掘を取り仕切っている採掘ギルドに対して大金を積めば、手の平返しで許可証をくれるという。

 竜郎たちの身なりがいい事から、スライムさんも金持ちだと思ったのだろう。一番手っ取り早い方法を直ぐに教えてくれた。


 という事で採掘ギルドを《完全探索マップ機能》であっさりと見つけると、その石造りの無骨な建物へと入っていく。

 中に入ればかなり注目をされるが、無視して受付のリザードマンっぽい魔人間にギルド長と話がしたいと申し出た。

 身分証を提示し、冒険者でもそれなりに信用されているランク持ちですよとアピールしながら。


 信用のおける人間だと理解し、ちょうど時間も空いているからと直ぐに通してくれた。

 ギルド長は1メートルくらいの芋虫に、人間の手足を生やしたような存在だった。

 その芋虫人間が思っていた以上に流暢な男性の声で話しかけてくる。



「それで私に用件とはなんでしょうかな?」

「鉱山に入りたいので、採掘許可証を出してもらいたいのですが」

「理由は何でしょう」

「見学ですかね」

「それではお断りします。あそこは遊び場ではないのでね。

 ですが……誠意と言いますか、心付けなんかがありますと気が変わるかもしれませんがねぇ」



 とぼけた様子で芋虫の口をにやっと歪ませた。思っていた通り、業突く張りの様だ。

 ちゃんと竜郎たちが金を持っていそうなのを見抜いての言であろう。だがそれはこちらも望む事。



「もちろん。お礼はさせて貰うつもりですよ。とりあえず、これが僕らの感謝の気持ちです。用意して下さると言うのなら、それを全額さしあげます」

「おお、感謝の気持ちは受け取らねばいけませんなぁ。どれど──ぶっ」



 多少多めに入れておいたコインを手に、ギルド長は絶句していた。

 だが直ぐに「ぐへへ」と変な声を漏らし、揉み手で人数分の採掘許可証を竜郎達に用意すると約束してくれた。

 ギルド長はご機嫌で職員を急がせ、普通は数日待たされるところを数分後には人数分の採掘許可証を渡してくれた。

 気前よく大金を払っておいて正解だったようだ。こういう時にお金の力の凄さを思い知らされる。



「また、いつでもいらしてくださいねー!」

「はい。機会があればぜひ」



 ギルド長自らの見送りに適当に返事を返して鉱山へと向かう。

 鉱山が近くなってくると、許可のない者を入れないように壁が建てられている。

 だがちゃんと許可証は持っているので、気にする事無く出入りを見張っている兵の元へと歩み寄っていく。

 鉱山への道を封鎖している魔人間の兵隊に許可証を見せチップを渡し、内部のさらに詳しい情報も得た。

 どうやら完全に廃鉱になった山は1つしかないらしい。

 探す手間が省けたと竜郎たちは聞いた方角に急いだ。


 ついたのは廃鉱とでかでかと書かれた立て看板が穴の前に置かれた、閑散とした場所。

 この辺りではもう屑石しかとれないと見なされ、捨てられたのだから人がいても逆に怪しいが。


 さてそんな怪しい人間となった竜郎たちは、念のため認識阻害をかけてから廃鉱へと足を踏み入れた。

 明かりも無いので、竜郎の精霊魔法で皆に一つずつ光の魔力球を渡しておいた。



「中は結構広いね」

「ああ、それにかなり深いな」

「ピィューピィ」



 カルディナとの探査魔法では、かなり掘り進んでいることが解り、この中から世界力溜まりを見つけるのは大変そうだ。

 さらにこの鉱山、魔力を通しにくい地盤になっているらしく、地中探査が結構大変で範囲も狭くなっていた。なかなか厄介な廃鉱の様だ。



「ああ、たぶん邪魔コロが沢山あるんでしょうね」

「邪魔コロ? それはなんですの?」

「正式には遮鉱石って言ったと思うんですけど、魔力や気力などが通しにくい石ころの事です。

 解魔法使いで何処にどんな鉱石があるのか調べるのに、非常に邪魔な存在として鉱山関係者からは邪魔な石ころとかけて邪魔コロなんて呼ばれているそうです」

「魔力を遮断するのだとしたら、ある意味では有効活用も出来そうですの」

「実際に、どうしても知られたくない場所にこれを使って壁を作るなんて事もしていたはずよ。

 けれど魔力を通しにくいと言う事もあって、鍛冶師でも扱える人が少ないからとんでもない額が必要になるのだけれど。ただ混ぜるだけだと強度が出ないらしいしね」

「リアっちは扱えるんすか?」

「レベルもレベルですからね。扱う事も出来るとは思いますが、武器に使ったら最悪の性能になるのであんまり興味はそそられませんね」

「なるほど。魔力を通さない杖とか作って貰っても使い道がないしな」

「そう言う事ですね」



 竜郎がカルディナと解魔法と土魔法での探査を行使し無理やり調べていくと、かなりノイズが混じって全体像が覚束ない。

 だが細かな石ころ──おそらく遮鉱石らしきものが鉱山に大量に含まれていた。

 これじゃあ調べ難いわけだとうんざりしていると、ふと生き物の反応を捕えた。



(魔物か? …………いや、これは人?)



 それも魔人間ではなく普通の人らしき反応。

 だが得られる情報のノイズが酷くて今一ハッキリしない。



「どったの? たつろー」

「いや、なんか俺達以外にも誰か廃鉱内にいるみたいだぞ?」

「え? ここは廃鉱よね? 私たちが言うのもなんだけれど、なんでこんな所に」

「解らないが……相手は恐らく1人。動いている反応があるから、何らかの事件に巻き込まれて置き去りにされたとかじゃ無さそうだ。

 事前に準備をしているのか、周囲に荷物らしき物体の反応も多くある。

 自発的にここにきて何かをしているんだろう」

「それじゃあどうするのだ? いっそのこと私たちの方から尋ねに行ってみるか?」

「情報が少なすぎるしな。とりあえず認識阻害をかけたまま、様子を見に行ってみよう。

 害が無さそうなら、直接聞いてみるのもいいかもしれない」



 いざとなれば呪魔法で催眠術でもかけて自分たちとは会って無かった事にする事も出来る。

 ここで立ち止まっているよりも、謎の人間に接触した方が自分たちにとっても有益な情報が得られる可能性もある。

 そういう意図もあって、竜郎たちはその人間の元へと足を向けた。


 かなり深い場所にいるようだが竜郎たちの足で駆けて行けば、それほど時間もかからない。

 数十分かけてカルディナの先導の元、奥へ奥へと侵入していくと、やがて遠くの方に明かりが見えてきた。

 そしてその男の姿もまた、遠目に観察することが出来る距離にまでやって来た。

 こちらの明かりは消し、認識阻害をかけたままゆっくりと近づき様子を探る。



「ドワーフの男性の様ですね。たぶん年齢的に30~40歳くらいだと思います」

「そうなの? もっと若く見えるけど……」



 背が小さくずんぐりむっくりな体形。無精ひげを顔の周りに生やし、銀色の髪はややボサボサだが伸び放題ではなく、それなりに短く切りそろえられていた。

 肌は皺の一つも無く、まだ若々しいドワーフに見えたのだが、リア曰く見た目年齢は30歳は超えているとの事。

 レーラやイシュタルも解って無さそうなところ見るに、同じドワーフ種のリアだからこその感覚なのだろう。



「そもそもドワーフだって300年くらいは生きられますからね。

 人種よりも完全な大人の顔つきなるのに時間がかかるんですよ」

「ああ、そういえばそうだったっすね。んで──あの人は壁をベタベタ触ったり叩いたりして何をしているんすかね」



 アテナが言うような行動を今、目の前でしているのを見るに何らかの調査をしているように思える。

 金槌を出して表面の岩壁を採集していき、それらを地面に並べて明かりで照らしながら観察したりしている。

 いくつかあった最後の鉱物の破片を確認すると、もっと奥か? と独り言を呟きながら何かの紙を取り出し書き記していく。

 それも終わると自分の周りに広げていた荷物を荷車に乗せて、それを引きながら奥へとまた進んでいった。


 その光景を見ながら愛衣が口を開く。



「どう思う?」

「私には、やはり何かの鉱石を探しに来ているように見えるな。

 それもわざわざ、私たちのように採掘許可証まで買ってだ」



 ドワーフの男の荷物が載せられている荷車には、竜郎たちが首から下げているのと全く同じゲスト用の許可証がぶら下がっていた。



「でもここは廃鉱ですの。せいぜいリアが言っていた邪魔コロが採れるくらいなんじゃないんですの?

 でなきゃ廃鉱にする必要など有りませんし」



 採掘場の手前の兵に聞いた話では、もうろくな物が採れなくなったから廃鉱にしたと言っていた。

 専門の調査チームも呼んで確認して貰ったのだから間違いないだろうと。


 だがあのドワーフの男を観察していた限りでは、明らかに目的の何かがここにあると確信して来ているように思える。



「もう直接聞いてみたらどうかしら? 観た限りでは呪魔法をかけるのも問題なさそうなレベルのようだし」

「遠巻きに観察していても解らないだろうし、解るにしても結構時間もかかりそうだしなぁ。

 なら呪魔法は最終手段としても、とりあえず話しかけてみるか」



 周囲に男の他に誰もいないのは確認済みで、向こうにこちらをどうにか出来る様な戦力も無さそうだ。

 早めに世界力溜まりを発見しておきたい。そんな事情もあって、直接話しかけてみることにした。

 けれどいきなり後ろから現れて声をかけたのでは怪しすぎる。

 少し離れた位置から光源をちらつかせて、偶然会ったていで接触する事にする。



「まあ、こんなとこにいる時点で私たちも大概怪しいんだけどね」

「俺達くらいの見た目なら、ちょっとした冒険心で廃鉱に入ってみたって言って通じないかな。レーラさんとアテナは引率って事で」

「これだけ広い廃鉱内で偶然会うってのは、ちょっと難しい気がするけれど……」



 首をひねるレーラだったが、それ以上に言い訳を即席で考える事も出来なかったので、そのまま偶然を押し通す作戦で男の向かった方角──とは逆側に歩いてこちらからも距離を取る。


 そして向こうから見えないくらい遠くまで来ると、認識阻害を解いてドワーフの男からも見えるようにする。

 何食わぬ顔で光魔法で周囲を照らし男の方へとずんずん歩いていく。

 ガラガラと音を立てながら荷車を引いていた男が、ぴたっと立ち止まりこちらへ振り返る。

 どうやら光に気が付いたようだ。そしてハンマーを荷台から取り出し片手で持って身構えると、そのままの状態で待機し始めた。

 明かりもぶら下げたままなので、少なくとも隠れる気はないのだろう。


 それを確認してから、敵意が無い事を示すためにこちらから声をかけた。



「すいませ~ん。誰かそこにいるんですか~」

「ああ、いる! だから他へ行ってくれ! ここは俺が掘ってるんだ!」

「いやぁ~。すいません。僕らはもっと奥へ行くんで、気にせずに通り過ぎさせてください」

「むぅ……」



 何やら唸っている。どうやらあまり竜郎たちをこの先へと行かせたくない様だ。

 そうこうしている間にもさっさと間を詰めていき、いよいよ竜郎たちと男のご対面だ。



「なんだ。子供ばっかじゃないか。こんなとこまで来て危ないぞ。さっさと帰ったほうがいい」

「いえいえ、僕らはこう見えても冒険者でして、ちょっとくらい危なくたって平気ですよ。

 この先に何か新しい発見があるかもしれないじゃないですか」

「冒険者だと? だがここに入るには許可証が──あるな……」



 竜郎の下げている許可証を見て少しがっかりした顔になる。

 もし勝手に入ってきていたら、それを理由に多少強引にでも追い払えたからだ。



「だが何だってこんなとこに冒険しに来てんだ。ここは廃鉱だぞ? 何もありゃしない」

「へー……。それじゃあ、あなたは何でここで採掘をしているんですか?

 何にもないんですよね? あっ、実は凄いお宝が眠っているっていう情報でも手に入れました──とか?」

「な、なななな何故それを!?」

「えー……」



 冗談半分で鎌をかけただけなのに、ここまで解りやすく引っかかるなんて逆に罠なんじゃないかと疑いたくなる。

 だが、どう見ても向こうは本気で驚いている。これが演技だったのなら、そうとうな役者だろう。

 ならばと、竜郎はさらに鎌をかけていく。



「……その反応。もしやあなたもアレを狙ってここに来たのでは?」

「──!? ……まさかお前たちもか?」

「ええ、そのまさかですよ。まさかアレがここにあるなんて思いもしませんでしたが、僕らも確かな情報を得ましたからね」

「くそっ。あの地図は一枚だけじゃなかったのかっ!」

「ええ。そうみたいですね。あの地図は一枚だけじゃなかったみたいです。

 僕も驚きましたよ。あなたは何処で手に入れたんですか? 僕らは、とある人から買いました」

「俺は討伐された盗賊どもの根城にあったものが市場に流れた時に、知り合いの店にたまたま置いてあるのを見つけてな。

 暗号が解けないとただ鉱山の地図にしかみえないから、かなり安値で手に入れられた。

 しかしどこの鉱山なのか調べるのに手間取ったもんだ」

「ああ、確かに。あれは手間取りますよね。でもアレがあるとなると、諦めるのも──ねぇ?」



 解りますよね? とでも言いたげな意味深な顔で竜郎が声をかければ、ドワーフの男もうんうんと頷いてくれた。



「だよなぁ。まさか星天鏡石の特大原石が眠ってる可能性が高いなんてなったら、そりゃあ必死こいて探すってもんだ」

「ええ、せいてんきょうせき? があるんですからね。うんうん」



 竜郎からしたら星天鏡石ってなんぞや、という話だが、これで相手の目的が解った事になる。



『……ねー、たつろー。実は呪魔法とか使ってない?』

『いや、これが驚くべきことに一切使ってない』

『まじで?』

『まじで』



 こちらはただ話を合わせて言葉を発しているだけで、具体的なことなど一つも言っていない。

 だが向こうはそれで同じ目的なのだろうと信じ込んで、どんどん具体的な情報を話してくれるのだから、正直ちょろ過ぎる。

 このおじさんは良くこれまで身を滅ぼす程に騙されずに済んだものだと感心すらしたくなってきた。


 そんな男の迂闊さに驚いている者がいる中で、リアやレーラは星天鏡石という言葉の方が驚きだった。

 それは指先ほどの大きさでも国宝級。宝石としての価値もさることながら、武器や防具の素材としても鉱物の中でトップに躍り出るくらい貴重で稀少な鉱物だ。

 レーラですら長く生きてきて一度しか見た事がない、まさに世界最高ランクのお宝だ。

 もしその特大の原石があると言うのなら、そりゃあ独り占めしたくなってくるのも解るというもの。

 多少大枚はたいてでも採掘許可証の1枚や2枚安いもんだろう。


 と。おのおの色々と考えていると、今度はドワーフの男の方から「提案があるのだが……」という切り出しで、竜郎達へと話しかけてきたのであった。

次回、第533話は7月25日(水)更新です。

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