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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八編 廃鉱の男

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第531話 魔物の大陸

 創造実験から、はや12日が過ぎた。

 その間にアーサーやフローラはルシアンのお世話の仕方をウリエルから学んだり、爺やからは城の管理について説明されたり、ダンジョンに挑んだりと色々やっていた。


 それで一番驚かされたのは、フローラの異常な家事適性の高さだ。

 ノリは軽いが細かい所まで目が届き、料理も少し教えただけでどんどん吸収していく。

 お茶だけは爺やに一日の長があるので一歩及ばないが、それでも追い付くのは時間の問題だろう。

 ルシアンのお世話にしてもミルクのあげ方あやし方、寝かしつけやおむつの交換にいたるまで非常に手際が良い。

 さらに子供に好かれるタイプなのか、ルシアンも最初からかなり懐いていた。


 またアーサーの場合。家事適性はそれほど高くなく、育児も苦手そうだ。

 反面、やはり武芸事に対しての適性は非常に高い。戦闘においてのとっさの判断能力も高い。

 ただ高すぎて、ダンジョンでは竜郎に渡された適当な中堅冒険者レベルの装備品で挑んだのだが、アーサーの力量に合わずにことごとく壊れてしまった。

 全力を出すには、やはり良い武器を用意してあげる必要がありそうだ。

 その良い武器については竜郎とリアが何やら相談中だとか。


 竜王種の幼竜ヴィータは基本的に自由に城内をウロウロして、雑用をしてくれている魔物達にちょっかいを出してはウリエルに怒られている。

 以前は子パンダたちにもちょっかいを出していたが、こちらはなりは小さくとも元の魔卵の等級は高い。数の暴力によって抑え込まれ、痛い目を見てからそこにはちょっかいを出さなくなった。

 また蒼太やニーナと言った同族が気になるらしく、たまにその2体に遊んでもらっているのを良く見るようになった。


 ラプトルのマロンやフェネックのスカイも、問題なくうち解けてきた。

 マロンがジャンヌの眷属の金軍鶏小屋やペガサス小屋に近づいた時は不味いか──と思ったが、どちらも特に思う所も無いようで、食うか食われるかの関係にはならなかった。

 まあ、竜郎がこの城の住人には危害を絶対加えない様にと言ってあるのもあったのだろうが。


 さて、そんな風にして新規メンバーたちが忙しくしている間に、竜郎達は十分な休息と武装のメンテナンスも済ませ、次の目的地について話し合いを始めた。



「今回は332年前。お隣タブリア大陸にあるザッフィロール国の廃鉱らしいわ」

「廃鉱? 変な所に世界力溜まりが出来たっすねー」

「流れから行くと、また魔物の死骸か何かが埋まってるのが原因かもな。となるとまた穴掘りか」

「地下なんかの環境が変化しにくい場所っていうのは、世界力溜まりが起きやすい場所でもあるからな。しょうがないだろう」



 竜郎の愚痴というか思わず漏れた言葉にイシュタルが返した様に、やはり長い間、人の手が入らない場所と言うのは、それだけ世界力溜まりになる原因となる何かが放置されやすいのだ。



「そういえばお隣の大陸って、外見が魔物チックな人達の国ばっかりが集まった所って、いつだったか言ってなかったっけ?」

「ええそうよ、アイちゃん。見た目が完全に魔物ってなると、普通の人からしたら人間かどうか区別がつかないから自然に一つの大陸に集まっていった──って所かしらね」

「それじゃあ、町の外で魔物を見ても攻撃しない方が良さそうだな。下手したら人殺しにされかねない」

「それはあの大陸に行く上で最も注意しなくてはいけない事よ。

 だから皆も良く注意してね」



 タブリア大陸の住民は、外から来る者達は全てその事を理解した上で来ているという認識で動いているため、もし知恵ある人間の魔物を殺してしまえば外の人間だろうと勘違いだろうと問答無用で重罪として裁かれる。

 もしそれが嫌ならそもそも我らの大陸に足を踏み入れるな、という意志の表れでもあるのだ。

 なにせ彼らだって好き好んで一つの大陸に集まっているわけではなく、そうすることが全人類住みやすく自分たちの自衛にも繋がるからと言うだけなのだから。

 なので彼らの領分を侵すのなら、こちらもちゃんとルールを守らなくてはいけない。

 それがどんなに恐ろしい見た目をしていようとも、魔物=敵対生物ではないというルールを。



「でもまあ、正当防衛はOKなんすよね?」

「それはそうよ。でも過剰防衛にならない様には注意してね」

「そのさじ加減が難しいところですの」

「怪我をさせずに無力化すればいいんじゃないですか?

 今の私たちなら一般的に強い位の人じゃ相手にもなりませんし」



 リアのその意見は尤もだと一同頷いた。



「あとは自分たちと外見がかけ離れているからと言って、いたずらに驚いたりガン見したりしないようにも気を付けておこう」



 わざわざ外の大陸から来ておいて変な目を向けられたら、住民もいい気はしないだろう。

 その他にも色々と細々した注意点を話し合いながら意見を纏めていき、明日の朝に出発する事が決まった。




 翌日。ヘルダムド国歴1029年.4/15.水属日。

 外は生憎の雨模様だが、今日は別の時代に行く予定なので問題はない。

 いつもの地下室。見送りに来てくれた爺や、彩人&彩花、ウリエル、アーサー、フローラなどの眷属組も随分と数が増えてきたものだと内心感じながら、レーラの記憶を頼りに今より332年前まで転移して行く。


 下に引っ張られるような奇妙な感覚にも慣れ、目を開ければそこは海が見える砂浜の上だった。

 竜郎は直ぐに時間を同期して現在時刻を確かめると──。

 ヘルダムド国歴697年.7/17.土属の日。午前4時45分22秒。

 かなりの早朝と言う事もあってなのか、それとも元から人が来るような所ではないのか、周囲には誰もおらずシーンと静まり返っていた。



「ここは──」

「ギュリオオォォーー」

「うるさいわね」



 レーラが説明をしようとした矢先に、海の方からやって来た推定8メートルほどの半漁巨人がこちらの方にやってきた。

 こちらは呪魔法で認識阻害をしているはずなので、こっちに向かっているように見えるのは偶然なのだろう。

 突然の闖入者に若干眉を顰めながら、レーラは軽く手を振って氷の刃を飛ばす。



「ォッ──」



 その刃は何の抵抗も無く首を刎ね飛ばし、半漁巨人は出番から1秒も経たずに頭のない死体になって砂浜に倒れた。

 それからもういないわよねと言った風に周囲を見回してから、改めてここが何処かを説明してくれた。



「ここはタツロウ君たちの領地のあるイルファン大陸の南東の方角にあるセルパイク大陸よ。

 イルファン大陸の東方向にあるもう一つのお隣の大陸ね。

 ちなみに今回行く目的地となっている魔物大陸タブリアと、ここセルパイク大陸の間を通るようにして東に進むと、天魔の国のあるオウジェーン大陸に行くことが出来るわ」

「ってことは、こっから北に向かえばタブリア大陸に行けるって事か。

 ジャンヌ、さっそく頼めるか?」

「ヒヒーン!」



 もちろんOK! とでも言うように空駕籠を《アイテムボックス》から出して背負うと、竜郎たちが乗り込みやすい姿勢を取ってくれる。

 そのままお礼を言いながら皆が乗り込むと、ジャンヌは体を水平にしたまま翼を広げ空へと舞い上がった。



「それじゃあ、今頭が向いている方向から右に60度旋回──ストップ。

 その方角のまま真っすぐ進んでくれれば、タブリア大陸のザッフィロールとかいう国の真上につくはずだ」

「ヒヒーーン」



 ジャンヌは竜郎の指示を聞き届けると「はーい」とジャンヌ語で返事をしながら、目的地に向かって舵を切った。




 数時間もした頃。いよいよタブリア大陸の南端が見えてきた。

 ザッフィロール国はこの大陸の北東に位置するので、もう少し先だ。

 けれど念のために一度港に降りて入国許可証を貰いに着陸した。


 その際、入国管理をしている比較的人間要素の多い牛人の兵に、ここは魔物の人間の国ばかりが集まった大陸だと言う事をしつこいほど説明された。

 そして本当に入るかどうか、ルールがちゃんと守れるかの確認や、この大陸独自の法律などを説明される。

 さらに許可が出た後にもグレムリンの上位種らしき緑の肌の2メートル近い魔人間がすっと現れ、本当にびっくりして襲い掛からないか──などの抜き打ちチェックまでされてしまった。


 それらに結構な時間を取られながらも無事にやり過ごし、再びジャンヌの空の旅を楽しみながら目的地を目指した。


 やはり障害物も道も関係なく来れるので空路は早い。

 港の国を出て大して時間を掛ける事も無く、目的の国の国境壁までやって来た。

 ここの入り口は内陸側に位置しているので、まず外から来た人間がいきなり来ることはない──というのが常識なので、港ほどしつこい説明も無く、入国管理の兵も人種に近い種ではなくオーガに類するであろう明らかに魔物然とした赤肌の鬼だった。



「はいよー。気を付けていってきな」

「ありがとうございます。お仕事頑張ってください」

「おお! ありがとな、坊主!」



 身分証は冒険者ランク3くらいに設定したので、そこまで驚かれる事も無く、そしてオーガのおじさんを前にしても笑顔で話しかけたのが好印象だったのか、むこうもかなり気さくに接してくれた。



「やはりどこの国でも笑顔は最強の対人スキルだな」

「普通に笑いかけられて、嫌な気分になることはそうそうないしね」

「愛衣の笑顔は俺以上に最強だけどな」

「にこっ」

「可愛すぎるっ!」

「にこにこっ」

「うおぉー時よ止まれ!」

「お前らな。アホな事やってないで、はやく行くぞ」

「「はーい」」



 イシュタルに呆れた顔をされてもなんのその、二人は身を寄せ合いながら廃鉱を目指してジャンヌにまた乗せて貰った。

 今回指示のあった廃鉱は、タブリア大陸の北東部の国ザッフィロール。その中央付近にある鉱山の町のどこかの廃鉱だ。まだここからは距離がある。


 夕方になる前にジャンヌの空駕籠に乗ってその町の壁付近までやってくると、今度は入町診査だ。


 今、立っている門兵はもはや人型ですらない。

 2メートル近い大きさに、人が余裕で吸い込めそうな大きな口をもったスライムが、頭に兜らしきものを乗せていた。

 見た目はこれまで会ってきた人型の魔物の比ではないくらい凶悪だ。

 口の周りに円形に並んだ牙が恐怖心をさらに煽ってくる。


 おそらく竜郎達が身を守る力がない一般人だったら、間違いなく近付くことを躊躇していただろう。

 だがこのスライムが襲ってこようと軽くやりこめる自信はある。なので気にする事無く、大して並んでない列に並び自分たちの番が来たら笑顔で挨拶をかけていく。



「こんにちは~」

「コンニチワ~」



 少しごぼごぼとした、水中にでもいるかのような中性的な声音であいさつが返ってきた。

 笑顔で話しかけたのがやはり良かったのか、向こうは少し嬉しそうだった。

 つつがなく手続きが済み軽く情報収集もかねて世間話をしたところ、どうやら彼女(精神的に女性なのだそう)は同じ魔人間の赤ちゃんにも最近泣かれたことがあるらしく、軽く凹んでいたのだそうだ。

 そこへ人種の少年少女が親しげに話しかけてくれたものだから、気分が晴れあがったと感謝されてしまった。

 そんな事もあってか彼女は饒舌になり、この町の管轄である鉱山や廃鉱について色々と親切に教えてくれた。

 笑顔はやはり人間関係を円滑に進めてくれるようだ。



「これで迷うことなく回れそうです。ありがとうございました」

「キニシナイデ。ワタシモ、オハナシデキテ、ウレシカッタワ」



 最後に別れの挨拶をして竜郎達は町の中へと入っていった。

 町の中に入ると、にぎやかな喧騒が聞こえてくる。

 鉱山から取れる資源を主な収入源にしているからか、採掘帰りらしき薄汚れたがたいのいい魔人間が多く歩いていた。

 オーガにオーク、ゴブリンといった人型や、虫やスライム、犬型猫型と多種多様。

 むしろ竜郎達の様な外見の方が珍しいようで、ガン見はされないがチラチラと視線を向けられていた。

 ただここに宝石を買い付けに来たりする他大陸から来た普通の人間種もいないことは無いので、ちょっと見たら興味を失うくらいだ。

 まあ、中には美味しそうなものを見るように横目でコソコソ見て来る者もいるのだが。



「あ、お肉屋さんだ……」

「はやく通り過ぎよう。向こうも売り辛いだろうし」

「そうね」



 事前にレーラから説明もされていた事だが、こちらの大陸の肉屋には人種などの人間の肉も、それなりの高級食材として売られている。

 魔人間の中にはどうしても人間の肉を食べたいという種族が存在するからだ。

 まあ、こちらも魔物の肉を食しているし売ってもいるのだから文句も言えないだろう。


 もちろん肉はそこいらで狩ってくるのではなく、その殆どは他大陸から輸入して手に入れている。

 犯罪者やお金のために肉親の死体を売ったりと理由は様々だが、同じ人間の肉が店頭に並んでいるのは見たくない。

 店員も普通に人種の目の前で「人種の肉売ってます、今なら大特価!」などとは言いにくい。

 なので足早に肉屋の前を通り過ぎた。



「こういう所があるから、同じ場所に住まない方がいいんだろうな……」

「きっちりと住み分けする分には問題にはなり難いですからね。

 私なんて人種やドワーフ種、エルフ種に獣人種なんかの肉まで売っている大陸があるなんて今まで知らなかったくらいですし……」



 少し気分が下降しながらも、竜郎たちは気持ちを切り替え廃鉱がある町の奥へと急ぐのであった。

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