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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七編 集団暴走

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第528話 初めての竜族創造

 翌朝。朝食を軽く済ませた後は、さっそく砂浜までやってきて実験の準備を整えていく。

 今回の見学はいつもより多く、爺やを除くほぼ全ての人間がここにいた。

 また城内を徘徊している子パンダたちや、ニーナや蒼太なんかの従魔たちもここに集まっていた。



「ルシアン君も大分成長してきたね」

「ですね。最近は良く泣くようになって大変ですよ」



 愛衣の問いに、そう答えたのは我が子の様にルシアンを抱きかかえたウリエルだ。

 現在ルシアンは保育器から出されて、市販のエルフ用粉ミルクを飲むようになった。

 粉ミルクは近くの町の百貨店で購入していて、たいがいウリエルが買いに行ってくれている。

 町に入るための身分証は王都の冒険者ギルドに登録して取ったのだが、何故かその時にハウル王の近衛騎士レスが四方に手を回し、かいがいしく取得までサポートしてくれた。


 そんな彼はララネストの受け渡しの時にはほぼ必ず商人の護衛としてついてくるようになり、爺やが出てくると悲しそうな顔をするので、もっぱら卸しはウリエルの担当になっている。

 爺や曰く、あそこまで露骨に残念そうにされると気の毒になるから──だそうだ。


 ちなみに。

 近衛騎士がそんなに頻繁に王から離れていいのか。と思うだろうが、竜郎たちの身近な人物と自分の近衛騎士が良い仲になってくれれば国にとっても利になるだろうと、むしろ推奨してくれていたりする。

 けれどそんな彼の気持ちにウリエルはまるで気が付いておらず、「親切な人」というのが彼女の印象であり、恋愛感情を抱く以前の問題であった。

 ウリエルが鈍いのか、レスが奥手すぎるのか、はたまたその両方なのか、悩ましい所である。



「あ~~~う~~~」

「ふふっ、可愛いねぇ」



 そう言いながら愛衣はルシアンのほっぺをツンツンして微笑んだ。



「ええ、まったくです。もし奥様と主様の間に御子が出来たら、是非抱かせてください。

 この子のおかげで、多少ならお世話も手伝えるでしょうし」

「え~気が早いよぉー」



 などと愛衣とウリエルがルシアンを見ながら話していると、竜郎の準備も整ったようだ。



「それじゃあ、まずは初級編からやっていこう」

「どんな竜が出てくるか楽しみっす~」



 昨日決めた通り、まずは複製ポイントも痛まない既に沢山ある素材である紅竜アンタレスの鱗:爪:牙の3種を3:3:4の割合で用意した。

 砂で汚れてしまってケチがつくといけないので、ちゃんとシートの上に乗せて。



「では──」



 竜郎は天照の杖を掲げて《竜族創造》を発動させた。

 今回はノーマルな結果が欲しいので、下手な好奇心は後に取っておいて竜力だけで創造していく。


 どろりと硬いはずの鱗や爪、牙は液体のように溶けて混ざり合う。

 この辺りは他のと変わらないんだな──などと感じながら、竜郎は目の前の事に集中していく。

 ここから気を抜いて下手な詰まりを作ってしまうと、格が下がっていってしまうからだ。



「ふぅ──」



 気合と共に息が漏れ、竜郎は大量の竜力を注ぎこんで一気に最後まで押し込んでいく。

 すると混ざり合った液体が形を成していき、やがて一匹の竜がその姿をあらわにした。



「グォッ、グォーーー」

「ん? こいつは私の国にいるクリエと呼ばれる地竜種に似ているな。

 こちらの方が一回り程大きいが」



 その見た目を地球にいた存在で例えるのなら、ラプトルと言われる小型の肉食恐竜が近いだろうか。

 馬くらいの大きさ。前傾姿勢で頭から尻尾までピンと真っすぐ横一文字に立ち、顔は肉食を現す大きな口と綺麗に並んだ鋭い牙。

 体格からしたら小さな前腕から細長く伸びる三本の指についた、鋭いナイフのような鉤爪。

 全身を覆う鱗は滑らかで赤褐色だが、背中の部分だけは赤色で光の加減でキラキラしていて綺麗だった。



「へー。ちなみにそのクリエ?っていうのは、どういう竜なんだ?」

「うちの国では地上での運搬業をやっているイメージが強いな。

 格は下級竜でも下の方だが、頭は良く物覚えが早い。身軽で見た目以上に足が速く力も強い。

 空輸では運びきれないほど大きな──または危険な荷物を何体かで運んだり、町中をスイスイ進んで手紙を届けたり──なんてな」



 竜大陸ならば空を飛べる存在も多くいるが、重いものを持って安全に飛びながら運べる者というと限られてしまう。

 さらに空からでは降りられない入り組んだ場所などにも、竜からしたら小柄なこの種は簡単に進んでいける。

 なのでクリエと呼ばれる竜大陸の地竜は、町の郵便屋さんとして有名なのだ。



「でもこの子の場合、下級竜の範囲内ではあるけれど、その中では最上級クラスじゃないかしら」

「だよな。等級で行ったら4は絶対にありそうなくらいの力を感じる。おいで」

「グォ~」



 竜郎が手招きすると直ぐに意図を察して、のしのしとこちらにやってくる。

 大きな黄色い爬虫類の目でじっと見てくるその様子は、確かに頭がいいと言うだけあって利発さを秘めているように感じた。

 ただ竜大陸で暮らす人間のクリエほど知性は無いのか、システムはインストールされていない。



「この大きさなら馬みたいに乗る事も出来そうですね」

「リアちゃんなら4人くらい乗れそうじゃない?」

「がたいのいい男でも乗れそうだしな。ちょっと乗せてもらうか」

「あっ、ずるいっ! 私も私も!」



 恐竜に乗る。それは現代ではありえない事。

 しかし目の前にはまさに恐竜然とした存在が襲ってくることも無く、伏せるように身をかがめて竜郎と愛衣をその背に乗せると立ち上がった。

 竜郎と愛衣2人分の体重など意にも介さずに、砂浜という悪路もなんのその。風を切るようにして砂を蹴り、ザッザッと軽く周囲を走り回る。



「すごいすごいー! 私、恐竜に乗ってるー!」

「ちょっと揺れるが鞍とか付けたら普通に馬代わりになりそうだな」



 直座りで跨いで乗ってもステータスの耐久力のおかげで、お尻は痛くない。

 ならばトップスピードはどれくらいかと乗ったまま全力で走って貰えば、120キロメートル以上は出ていた。それも砂浜の上でだ。

 しかもリアが観た限りでは持久力も高く、トップスピードを維持したまま3時間は走れるだろうとのこと。


 また他にできる事はと聞いてみれば、口から火炎放射、または火の玉を吐き出し飛ばすなんてこともできるようで、これらは戦闘が苦手なクリエ種とは違う所だとイシュタルが言っていた。

 聞けば竜大陸のクリエは基本的にヒット&アウェイで攻めるだけで魔法のようなモノは使えず、勝てないならその健脚を生かして逃げるのが常套手段なんだとか。



「多分、素材元が極上だったから上位のクリエになったのかもしれないな」

「タツロウ君に聞いた竜族創造の仕組みからして爪と鱗、牙なんていう竜の素材では比較的に手に入れやすいものだけで作れば、恐らく竜ですらない亜竜──それも最底辺の魔物になっていたでしょうからね」

「かもしれないな。うーん、だとすると素材的に普通の奴で作った場合も確かめてみるか」

「とゆーと、どの素材を使うの?」

「最初に戦った魔竜の素材だよ。あれはレベルも吸っちゃったから、1レベルの個体の素材だし」



 今持っている中でも最低ランクの竜素材ならどうなるのか。を主点に置いて調べるつもりだが、恐らく目の前の地竜を超えることは無いと解りきっているのに、あえて弱い存在を生み出すのはもったいない。

 なのでどうせならと、今度は神力を混ぜたらどうなるのかを試してみることにした。


 先と同じように砂浜に敷いたシートの上に魔竜の鱗:爪:牙の3種を4:3:3の割合で置いていく。

 今回鱗が多いのは、純粋に一番あり余っているからである。


 先ほど最初の一回を終えたので、特に気負うことなくスキルを発動。

 神力を流して一気に整形。そうして生まれたのは──。



「キュンキュンッ」

「か、かわいいっ!」



 それは薄青色の毛をした、フェネックと呼ばれる動物に酷似した亜竜だった。

 だが亜竜と言いながらも竜要素はほぼ皆無。しいて言うのなら尻尾だけがトカゲのようになっているくらいか。あとは鱗の『う』の字も無い。

 格も等級にしたら2くらいしかないので、この領地内に放流すれば10分も待たずに美味しくいただかれてしまうだろう。


 しかしだ。見た目は非常に可愛らしい。大きさも30センチ以下と小動物サイズ。

 愛衣が抱っこすると「なに?」と言った風に、目をパチパチさせて首をかしげている。

 戦闘要員としてはばってんマークを付けたいところだが、もふもふ要員としてははなまるをあげてもいいことは愛衣の顔を見れば一目瞭然だ。



「神力を使っても、素材をちゃんと選ばないとこの位の強さになるって事か。

 神力さえ使えば亜竜でももっと強いのが出来る訳じゃないんだな」

「そりゃそうよ。気力、魔力、竜力──そのどれよりも強いエネルギーだけれど、何でもできる力と言うわけでは無いんだから」



 万年の時をかけて神力を保有してきたレーラがそう言うのなら、その言葉は正しいのだろう。

 竜郎は素直に頷き返し意識を次に向けていく。愛衣は変わらずフェネック(モドキ)にご執心の様だが。



「この種は私も知らないな。……なぁ、アイ。少し私にも抱っこさせてくれないか」

「え? うん。いーよ!」

「おぉ……」

「ちょっとイシュタル、私にも抱っこさせて」

「もう少し待ってくれ、レーラ」

「私も抱っこしてみたいです」

「わたくしもですの~」



 どうやら女性陣の心をもう掴んでしまったらしい。罪深い奴である。

 ただアテナはフェネックよりもラプトルの方が気に入ったらしく、そちらを撫でていたのだが。


 竜郎はとりあえずそちらは好きにさせたまま、今度はある素材を使って竜族創造を試みる事にした。



「次はこれだな」



 そうして出したのは毒竜の飛び散った肉体の破片を丁寧に集めて復元した素材。

 神竜魔力を使っての《復元魔法》により、まるまる1体分の体を作り直すことに成功したのだ。それは勿論、脳や心臓・・も含めてだ。

 何故か魔石でなく心臓になっていたのは疑問だが、おそらく体の肉片が飛び散り始めた時には魔石は無かったので、そこで何かしらの作用が起こっていたのかもしれない。

 けれどその心臓はニーリナの心臓ではなく、毒竜の素体相応の心臓だったのだが。


 さて、そうして入手したこれは現段階で竜郎達が持っている素材の中でも上位に位置するもの。

 さらに一体丸々というのが今回選んだ要因でもある。

 竜族創造はバランスよく揃えたほうがいいよ、というスキルというのはもう理解した所であるが、では全ての素材をバランスよく同じ竜の素材で揃えた場合、創造できる魔物は素材元と同じ、もしくは似たような存在になるか否か──ということを知りたかったのだ。


 竜郎はさっそくとばかりに《無限アイテムフィールド》の機能で複製してから分離で竜心臓、竜脳、竜骨、竜鱗、竜牙、竜爪、竜眼、竜肉に分けてシートの上に置いていく。

 そしてさらに毒竜から摘出した最初の魔石を入れて、これで計9個。あと一つこの中に入れられる。

 素材候補を全て揃えた段階で「バランスよく」は完璧な状態なはず。

 であるのなら、最後の1枠くらいは遊んでみるのも一興かもしれない。


 さらにここでせっかく覚えたのだから、《親子能力共有化》による、《竜族創造》の重複発動も試してみるのもいいかもしれない。

 竜郎もカルディナ達も相応に実力を身に着けてきているので、それでもエネルギー不足に陥ることは無いだろう。


 という事で魔力体生物組──カルディナ、ジャンヌ、奈々、アテナ、天照、月読の6人を呼んで竜郎を囲む様に配置。

 竜郎の竜族創造を共有化してその6人に貸し与えていく。



「どうだ? ちゃんと共有化されてるか?」

「ピィューー?」

「どうした? 皆、微妙そうな顔して」

「いや、とーさん。共有できたっちゃあ、できたみたいなんすけど……」

「《竜族創造【劣化版】》になっていますの」

「劣化版? 皆そうなのか?」

「ヒヒーーン」「「────」」



 どうやら全員《竜族創造》ではなく、《竜族創造【劣化版】》として共有されているらしい。

 ならば他の創造系スキルはどうなのかと試してみると、以下の様な結果となった。


 カルディナ──《鳥族創造》《創物族創造【微劣化版】》

        《水棲族創造【微劣化版】》《魔生族創造【微劣化版】》

        その他全て劣化版。


 ジャンヌ──《獣族創造》《天魔族創造【極微劣化版】》

       《植族創造【微劣化版】》《魔生族創造【微劣化版】》

       その他全て劣化版。


 奈々──《死霊族創造》《天魔族創造【極微劣化版】》

     《怪人族創造【微劣化版】》《魔生族創造【微劣化版】》

     その他全て劣化版。


 アテナ──《獣族創造》《創物族創造【微劣化版】》

      《怪人族創造【微劣化版】》《魔生族創造【微劣化版】》

      その他全て劣化版。


 天照──《魔生族創造》《創物族創造【微劣化版】》

     《無形族創造【微劣化版】》

     その他全て劣化版。


 月読──《魔生族創造》《創物族創造【微劣化版】》

     《水棲族創造【極微劣化版】《無形族創造【微劣化版】》》

     その他全て劣化版。



「恐らくスキルごとに相性があるのでしょうね。

 あとは、その種の創造に深く関係する属性魔法を持っているかなども関係してそうです。

 《親子能力共有化》も万能ではないんですね」

「だなぁ。創造系スキルは問答無用でちゃんと共有できるわけじゃないのか。

 でもそのまま劣化無しで使えるスキルもあるし、全く使えないわけでもないと。 ふむふむ──」



 そう言いながら竜郎は今調べた結果を紙に書いて正確に記録しながら、今後の創造実験をどうしていくのか考えていくのであった。

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