第527話 明日の予定計画
はてさて戻って来たるはカルディナ城。転移前の時刻は深夜だったが、こちらは昼頃と言った頃合いだ。
竜郎たちはいそいそとリビングへと歩いて向かい、椅子に腰かけた所で爺やがお茶を入れてくれた。
それを一口飲みながら、全員「ふぅ~」と人心地。
リャダスがどうなっているのかと不安だったために張りつめていた緊張感も、ようやくここにきて解れたようだ。
──と。そこで竜郎ははたと思いだしイシュタルへと声をかけた。
「そう言えばイシュタル。妖精魔王と戦っている時に、分霊みたいなの使っていたよな?
ついに分霊神器が使えるようになったのか?」
「は? 一体何のことだ?」
イシュタルは本当に何を言っているのか気が付いていない様だ。
その反応にイシュタル以外であの場にいたメンバー全員が、口をあんぐりとあけて絶句した。
なにせあれだけちゃんと使いこなし、周囲にいくつも浮かべて目立っていたと言うのに、まさか本人が気づいていなかったと言うのだから驚きだ。
なので竜郎が代表してイシュタルに自分のステータスを見てみるように諭した。
イシュタルはここにきてもまだ怪訝そうな顔で、自分のシステムを立ち上げてステータスを覗き込む。
するとスキルが列挙されている所に、ちゃんと《分霊神器:予知竜眼》と表示されていた。
「おおっ! いつのまに」
「ほんとに気が付いて無かったんだね、イシュタルちゃん……」
「ああ、全く気が付かなかったぞ。ふふっ、これで母上にまた一歩近づいたな」
ようやく自覚した本人は、殊の外嬉しそうに頬を上気させて喜んでいた。
だが喜びたいのは竜郎も同じこと。
なにせこれで竜郎に課せられた《竜族創造》の条件が全てクリアされたと言う事なのだから。
「どれどれ~」
いざ見て無かったらショックなので、本人に確認を取って確証を得てから見るつもりだった。
なので竜郎はまだ、そのスキルがあるかどうか確認していない。
ドキドキと緊張しながら現在取得できるスキル一覧を表示させて見ていく。
「あった!」
そこにはちゃんと《竜族創造》の文字が。ただし必要SPが5000と見たことも無い数値になっていた。
「でも大丈夫。これまで大量に溜めてきたからな~っと」
これまで戦った魔王種達からかなりのSPを回収して来ていたので、今の竜郎のSP事情は非常に温かい。
すぐさま5000ポイント支払って、竜郎は念願の《竜族創造》を手に入れた。
すると──。
《魔神の系譜 より 竜魔産みし魔神の系譜 にクラスチェンジしました。》
《スキル 親子能力共有 を取得しました。》
「ん? なんかクラスチェンジした」
「はぇ?」
なんで? と愛衣も竜郎と同じように不思議そうな顔。椅子に腰かけていた他の面々も似たようなものだ。
竜郎は直ぐに今聞こえた内容を確認しながら、皆と情報を共有していった。
「クラスについては文字どおりの意味でしょうね。
竜と魔物、双方の創造系スキルを覚えたうえで、魔神の系譜としての資質も備えているっていう」
「となると《竜族創造》が引き金になったんだろう。まあ、タイミング的にもそれしかないんだが……。
それでタツロウが新しく覚えた《親子能力共有》? だったかは、どんなスキルなんだ?」
「ちょっと待ってくれ。今調べてる。え~っとだな──」
《親子能力共有》。これは範囲内にいる眷属と、その親のスキルを共有化させるスキル。
テイマーにも《共存する者達》という称号効果で同じような事を可能とするが、そちらは双方に心から信頼し合っていなければ使えない。
擦れ違いや不満がうまれるだけで効果を発揮しなくなることもあるので、これを所持し使いこなせているテイマーはかなり少ない。
しかし《親子能力共有》は眷属と産みの親という関係性があるだけで使用できるうえに、範囲内──おおよそ所持者を中心に半径5メートル以内にいれば、何人でも共有できる。
さらに竜郎を介して別の眷属に別の眷属のスキルを共有化させる、などと言う事まで出来てしまう。
また《共存する者達》ではできない同時発動も出来る。
《共存する者達》はまさに一心同体、2つで1つといった概念なので、双方同じスキルを持っているのなら可能だが、共有して使えるようになったスキルを2人が別個に発動することが出来ない。
けれど竜郎のスキルの場合は、あくまで別の存在であるという前提があるので、例えば竜郎がウリエルに《光魔法》を共有させれば、竜郎が上に向かって光を放っている間に、ウリエルが正面を照らすなんて事も出来る。
ただ《共存する者達》は相互強化の効果もあるので、威力を求めるのならそちらの方がいいだろう。
「まあ、さすがに対象者の体で再現できるスキルに限るってことなんだけどな」
「そりゃそうですよ、兄さん。例えばウリエルさんのスライムみたいに体の形を変えて別人になるなんて、不定形生物でしかできないでしょうし」
「けれど月読にスライム翼を出させて、それで別の眷属の飛翔スキルを使うなんて事も出来るかもしれませんの」
「うーん、それもいいかもだけどさ。この眷属っていうのは、カルディナちゃん達も入ってるのかな」
「もしそれが出来るなら、かなり愉快な事になるな」
もしカルディナ達魔力体生物組でそれが出来るとなると、同時発動どころか多重発動が出来るということ。
極端な例を出すと竜郎の火魔法を全員で共有すれば、6重レベル20火魔法も夢ではない。
「って事で、カルディナおいで」
「ピュィーー♪」
呼ばれて嬉しそうにカルディナが竜郎の目の前にまで飛んできたので、胸に抱えるようにして抱っこしてあげる。
すると嬉しそうにカルディナは鳴いて頭を擦りつけてきた。
その姿に微笑みながらも、良く考えたら5メートル以内にいればいいんだから、呼ばなくてもよかったかも──などと今更なことを思いながらも、竜郎はさっそく《親子能力共有》を試みる。
「それじゃあ、俺の持ってないスキルを借りるぞ」
「ピューュー」
そう言って竜郎が借りたのは《竜魔剣》。竜力の剣をスキルレベルの数だけ周囲に浮遊させられるスキルだ。
なので発動した瞬間、竜郎の周囲に14本の剣が発生した。
さらにここでカルディナも同じく発動させれば28本の剣が発生する。
最大レベルが20である事を考えると、ありえない数であるが、これは2人同じスキル持ちがいれば出来る事なので絶対にありえない事ではない。
「なら次は重ねて発動させてみよう」
「ピィュー」
竜郎が胸元で抱っこしているカルディナも頷き返し、互いの《竜魔剣》を一つのスキルとして発動させた。
すると数は14本とレベル通りに減ったが、一本一本の強度や切れ味がかなり上がっていた。
さらにここへ竜郎が火魔法も混ぜて行けば、炎の剣になって宙を舞う。
「うん。カルディナ達も眷属とみなされているっぽいな」
「双方の位置取りは考えないといけないが戦闘時の汎用性も高そうだな。
最悪、タツロウがカルディナ達の背に乗ると言う手段も取れるわけだし」
「そうすれば距離の問題もないから共有化し放題っすね~」
奈々やアテナ、はたまた彩やウリエルなんかに背負われて移動するのは非常に残念な光景になるので遠慮願いたいが、確かにカルディナやジャンヌなんかの背に乗せてもらうのは一つの手かもしれない。
と。確かに戦闘にも非常に有用なスキルだと思えたが、今の竜郎の頭の中ではそれ以外の使用方法に思考が寄っていた。
それは即ち、魔物や竜などの創造系スキルの共有化である。
カルディナ達魔力体生物組にもスキルが貸せるようになったと言う事は、重複創造もより沢山重ねることが出来るのではないかと考えたのだ。
これは色々と試し甲斐がありそうだと、頭の中で創造のレシピを広げていく。
しかしその途中、リアが眠そうに欠伸をしたのを目ざとく見つけ、そういえば地中探査から今まで一睡もしてなかった事に気が付いた。
なにせ向こうでは深夜だったが、こちらに来たら昼頃だったのですっかり睡眠を取る事を忘れていたのだ。
レーラやイシュタルも睡眠は必要な事なので、実験は明日のお楽しみにして、今日はもう寝てしまうことにして解散した。
明日までにはまだ時間がある。ということで竜郎はまだ寝ないでベッドの上で仰向けになり、明日の実験について考えていた。
ちなみに愛衣は竜郎との運動を終えたら、そのまま気持ちよく眠ってしまったので隣で裸のまま小さな寝息を立てている。
竜郎はその寝顔を堪能しながら、はだけた掛布団を直し優しく彼女の頭を撫でた。
(あ、そういえば竜族創造の素材を見てなかったな)
愛衣や魔族創造の方に気を取られて調べるのを忘れていたと、竜郎はヘルプを起動して必要な情報を集めていく。
(必要なのは竜心臓、竜脳、竜魔石、竜骨、竜鱗、竜牙、竜爪、竜眼、竜肉の中から10個──って、種類が多いな)
竜心臓、竜脳、竜魔石はともかく、爪や鱗なんかは簡単に手に入れられそうである。
そんなものだけでも竜が本当に作れるのかと、さらにヘルプに聞いていく。
(ふむふむ、なるほど。中位以上の竜を作るためには、必ず一つは竜心臓、竜脳、竜魔石が必要になる。
もしそれらをレシピに入れないで創造すると、下位竜以下の存在が出来あがると)
さらに竜ですらない亜竜が出来てしまう可能性も出てきてしまうので、強い眷属竜を欲するのなら、出来るだけ竜心臓、竜脳、竜魔石を入れてレシピを構成するのが望ましい──との事。
また極端に偏りすぎても良くないらしい。
例えば今竜郎が所持している最高の竜の素材はニーリナの心臓なわけだが、その竜心臓×10という風にやってしまうと、逆に使った素材に見合わない存在が生まれる可能性が高くなる。
なので魔物系の創造の時の様に良いものだからと同じものを集めれば集めるだけ良くなるわけでもなく、多少格が下がる物を混ぜてでも出来るだけ種類を多くしてバランスよく織り交ぜたほうが、いい竜が生まれる可能性が高くなるのだ。
(ん~そうなると竜族創造の素材の種類が多いのも頷けるな)
さて、これで大体の概要は調べ終わった。となれば今度は具体的に素材を考える工程に入っていく。
(いきなり大物を──ってのも不安だし、逆に最初は感じを掴むために爪や牙だけで試してみて、その感触を元に色々試してみるのがいいかもしれないな。
いい素材を徒に消費するのはもったいないし、上級竜を作るのはそれからでも遅くないだろう)
それでいくと明日は沢山在庫のあるエーゲリアの眷属──紅竜アンタレスの牙や鱗を使って、どの程度の竜が出来るか実験していく事に決める。
次に竜族創造と魔物系創造のスキルが混ぜられるか実験。
混ぜられるのなら、竜と何かの種類の混合眷属を作れたら色々と今後の幅が広がっていく。
(他にも共有化での重複創造も実験したいし、明日は忙しくなりそうだ)
早く明日にならないかなと遠足前の子供の様に竜郎が胸を高鳴らせていると、寝ていた愛衣がもぞもぞと動き出す。
「ん……ん? あれ、私寝ちゃってら?」
「ああ寝てたよ。でも別に寝ててもいいんだぞ?」
寝ぼけて舌っ足らずに話す彼女が可愛くて、竜郎はボーとして目でこちらを見つめる愛衣を抱き寄せた。
「ん~でも、ちょっと体がべとべとする……。シャワー浴びたいかも……。
ふぁ~~~あふぅ。たつろーも一緒に入る?」
「もちろん!」
「ふふっ、えろろーめ」
全く力の入っていない愛衣の拳が竜郎の左の頬をムニっと叩いた。
そんな彼女の行動がいちいち可愛くて、竜郎はその唇に吸い付いた。
「ん──こらぁ……──んん──。もう、がっつきすぎだぞー」
そういって頬を膨らませて抗議をしてくるが、愛衣の目は全く怒っていない。
「こんなに美味しそうな子がいるんだ。しょうがないだろっと」
「うひゃあっ」
竜郎は愛衣をお姫様抱っこして立ち上がる。
それに愛衣は満面の笑みで微笑むと、びしっと進行方向を指差した。
「よし、たつろー号! そのままシャワールームまで発進だー!」
「あいあいさー!」
どうせ互いに衣服は纏っていないので、2人はそのまま仲良くシャワールームに直行するのであった。
次回、第528話は7月18日(水)更新です。




