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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七編 集団暴走

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第525話 妖精魔王のおもちゃ箱

 竜郎たちが手をこまねきながら攻撃を続けていると、妖精達にも余裕が出てきたのかゲリョゲリョ笑いながら手をパンッと叩いた。

 すると地面からぴょんと巨大なおもちゃ箱が4つ現れ蓋が開く。


 得体が知れなさ過ぎて攻撃を躊躇っていると、その中からドバーーーっと一斉に大量の多種多様な魔物が飛び出してきた。

 あきらかにおもちゃ箱の収容量をオーバーしているが、止まる気配がない。



「はぁ!? リアっ! あの箱は壊して大丈夫なのか?」

「むしろ壊さないと延々と魔物が出てきますよ!!」



 妖精への攻撃は牽制程度にとどめて、先に箱の破壊を優先していく。

 幸いおもちゃ箱から出てくる魔物はレベル30~40程度なので、攻撃されても痛くもかゆくもない。

 なのでうっとうしいが、そちらは無視して箱を破壊するも、妖精が手を叩くたびに箱が地面から飛び出して魔物を輩出していく。

 これはもう宝箱は無視して妖精に集中したほうが早いのでは──と思い始めた所で、竜郎は周囲の魔物の数が減っている事に気が付いた。


 当然、邪魔なので適当に間引きしていたりもした、

 なので減っていてもおかしくない……のだが、それにしても排出量に比べて少ない気がした。

 そのことに疑問を抱いた竜郎はリアへと質問を投げかける。



「え……? まっ不味いです! 魔物の数が一定量以上になると、この空間から強制的に外へ排出されるようです!」

「ってことは──もしかして……私たちがさっきいた付近が魔物だらけになってるんじゃ……」

「しかも人のいる方向へ突撃する習性があるようで、恐らく排出された魔物達はリャダスの町へ向かっているはずです!」

「早く出ないとまずいぞ。私たちにとっては雑魚でも一般人からしたら、この数は脅威だ!」



 竜郎たちは周囲の魔物を消し飛ばし、一匹でも外に出る魔物の数を減らそうと奮闘し始める。



(なんでこんなに弱い魔物を生み出すのかと思ったが、強者はこの世界に引き込んで自分たちが相手をして、弱者は溢れた魔物に殺させるってことだったのか。

 えげつない奴だ。妖精魔王の名にふさわしいな、おいっ!)



 心中では悪態をつきながらも、竜郎は現状を整理しながら最善の一手を考えていく。

 現在は竜郎たちが処理を始めたおかげで外に出る魔物を抑えているが、それでも出てしまった魔物の数はかなりいるはずだ。

 これが1~5匹くらいなら、リャダスにいる騎士や冒険者でどうとでもなるだろう。

 田舎町ではなくヘルダムド国内でも大きなリャダス領の中心都市なのだから、それなりの精鋭がいるはずなのだから。


 けれどこれが100体以上となると厳しいかもしれない。

 レベル1000オーバーの竜郎なら蹴飛ばして殺す事すら容易だろうが、平均レベル50以下の者達では3人で1体で余裕を持って、2人でやや大変、1人で大変もしくは命がけといったところだ。

 出来るだけ速やかに竜郎たちで対処しなければ被害も広がっていく可能性が高い。



(だがここから出るにはあいつらを倒さないといけないが、動きが速すぎて愛衣やカルディナでさえ追いきれない。

 あれで攻撃を当てろというのなら、もはや予知能力でもない限り……予知?)



 そこで竜郎はイシュタルのいる方向へと視線を向けて思いきり叫ぶ。



「イシュタル! あいつらが数秒後に来るであろう位置を未来同期視で観れないかっ?」

「なんだと!? あれはそもそも戦闘で使える様な便利なスキルではないぞ!」

「それでも一回やってみてくれ! やってる間は俺達が全力で守るから!」

「うーん……悩んでいる暇はないか……。解った、やってみる。守りは任せたぞ!」

「ああ、まかせろっ。ジャンヌ!」

「ヒヒーーン!」



 このメンバーの中では──という枕詞が付くが、ジャンヌの機動力はそれほど高くはない。

 けれどその代りに耐久面では誰よりも高く、純粋なパワーも非常に高い。

 守りの要としてこの子以上に頼りになる者はいないだろう。


 さらに竜郎は水を極限まで圧縮して作った水のドームでイシュタルを囲い、厳重に守りを固める。

 強力な一撃を持たない小妖精たちには、これを一撃では破れない。

 そうして竜郎とジャンヌもイシュタルの守りを固めながら、他の皆と同様に攻撃にも後方から加わっていった。




 イシュタルはじっと未来の自分と視界を合わせようと努力する。

 いつもの未来転移の時の様に余裕があるわけでもなく、刻一刻と動き回る戦場を秒単位で把握するなどやった事が無いのだから、なかなかうまくいかないのだ。



「だが……やってみれば存外出来る様な気もしてきたな……」



 ぼんやりとした数年先の未来の方が下手に情報も無い分スキルに身を任せられる。

 けれど数秒、数分先の未来となると、今の自分の認識と視界が邪魔をする。


 だが上手くいかないといっても、全く手ごたえが無いわけではなかった。

 ともすればピントがずれているだけで、あと少し焦点を合わせれば何かの歯車が上手くかみ合い嵌ってくれる様にすら思えた。


 だから彼女は諦めることなく、自分の内にある力と向き合っていく。



「今見ている、感じている視界が邪魔だが、その延長線で未来を見なければ戦闘では使えない」



 未来だけを見ているだけでは『今』に戻った瞬間、見た未来が過ぎてしまう。

 なら10分くらい先を見ればと思うだろうが、きっちり数分単位で合わせられるほど器用なスキルではない。

 その未来が明確に『いつ』くるのかを理解できる程、今と繋がった未来でなければ実戦には使えない。



「ならば今と未来、両方を見る事は出来ないだろうか」



 例えば右目で今を見つめ、左目で未来を見る。

 そうすれば今を見失わずに望む数秒先の世界が見えるのではないか。

 そんな考えの元、彼女は無理やり《未来同期視》を制御して左目だけに発動するように試みる。


 それは左右の目で真逆の方向を見るに等しい荒行。額からは嫌な汗が流れるが、イシュタルはそれを続ける。

 するとしだいに苦しさがふっと無くなり、『今』を見る右目と『未来』を見る左目のピントが合っていく。



《スキル 分霊:予知竜眼 を取得しました。》



 イシュタルの周囲にサッカーボールほどの大きさをした、プラチナの虹彩をした2つの竜の眼球が浮かび上がった。



「まだだ……これでは、まだ足りない」



 彼女は《未来同期視》が切れた状態で、尚且つ今を自分の両の目で見て未来を2つの《分霊:予知竜眼》で見ているという、2人分の視界が脳に入ってきている事にも気がつかないほど集中していた。


 相手は4体。今見えている未来は1体。あと3体分の未来を見るにはこれでは足りないと本能が訴えかけてくる。

 イシュタルはさらに自分の奥底にある力を無意識的に引き出そうとする。

 また汗をかくほどに苦しくなるが、我慢して続けていけばまた苦しさも緩和されていった。



《スキル 分霊神器:予知竜眼 を取得しましたので、下位スキル 分霊:予知竜眼 は置換されました。》



 そのアナウンスが聞こえた瞬間、一気に彼女の視界が増殖していく。

 周囲には50個の竜眼が浮遊し、それぞれが別々の未来を観てイシュタルに25人分の視覚情報を送っていく。



「タツロウ! 6秒後──右へ向かって撃て! ジャンヌ! その1秒後に真上に向かって撃て! リア! その3秒後に真正面に撃て! カルディナ! リアと同時に左に撃て!」

「了解!」「ヒヒーン!」「解りました!」「ピィュー!」



 誰も何も疑問を持つことなく、イシュタルの言葉を信じてその通りに動き始める。



「はあっ!」

「ゲッ──!?」



 6秒きっかりに、何もいない場所に向かって竜郎は《竜水力収束砲》に《超水圧縮》と《光魔法》による、細く圧縮された水のレーザーを打ち込んだ。

 するとまるで自分から当たりに来たかのように、1体の小妖精にクリーンヒットする。


 1秒後にジャンヌが真上に向かって《超竜力収束砲》に《風魔法》と《火魔法》を混ぜて打ち込んだ。

 するとこちらも面白いように2体目の小妖精にヒットする。


 それからリアの6重竜力収束砲もカルディナの真竜翼刃魔弾も、3体目、4体目にヒットする。


 それらは弾けるように細かなミニ小妖精に分散して逃げていき、今度は6体に増えて先よりも若干縮んだ小妖精に戻っていった。



「また戻っちゃったけど、いーのっ?」

「ああ、問題ない」



 そう断言したのは竜郎だ。

 確かに愛衣が言うように、分散して元に戻ったようにしか見えない。

 けれど着実にダメージが入っている事を竜郎は既に解魔法で調べて確信を持っていた。


 あの妖精は確かに細かく分散し、何事もなかったように合体して元に戻ってはいるが、当たった攻撃が無効化されているわけではない。


 何故、最初1体だったのに4体になり、今度は6体になったのか。

 これは小さくなることでさらに機動力を上げるという意味もあるのだろう。

 しかしあれがもし体積が減っている事を誤魔化すためでもあるとしたら、話は違ってくる。


 竜郎はそれを最初から疑っていた。そして先の情報と今の情報を比較して、4体の総体積と6体の総体積では、明らかに6体の方が少なくなっていたのだ。

 よって攻撃が当たった分のダメージは、文字通り身を削って誤魔化していただけ──ということになる。


 ならばこちらの攻撃をガンガン当てていき、やつを限界まで小さくしてしまえばこちらの勝ちだ。

 イシュタルが何秒後に敵が何処にいるのか、その時間に、こちらの誰が一番攻撃しやすい位置にいるのか未来を観て指示を飛ばしていく。


 イシュタルの指示通りに攻撃を撃ち込めば、相手のスピードなど意味も無く、吸い込まれる様にして妖精たちは小さくなってばらけて戻るたびに数が増えて小さくなっていく。


 小さくなって速くなり的も小さくなるが、時間が経てば経つほどにイシュタルも《分霊神器:予知竜眼》の扱いを習熟していき精度も上がっていく。

 今では自身も戦いに加わりながら指示を飛ばせるほどだ。


 だがプライド高いのか、ずっと余裕ぶっていた向こうもようやくヤバいと悟ったらしい。

 おもちゃ箱を呼び出すのを止めて草原から木を何百本も生やして操り、竜郎たちへと突撃させてくる。

 これは排出されていた魔物より硬く中々に厄介な攻撃だったが、それでも全員うまく対処していき──。



「これで終わりだ!」

「ゲベッ──」



 イシュタルが針の穴を通すかの如き正確さで銀砂の《竜弾》を打ち込んで、最後に残ったのは3センチほどの妖精の姿だけだった。

 それでも竜郎達1人1人よりも強いというのだから、油断はできないので圧縮した水で作った水のカプセルに閉じ込めた。


 両の拳で連打してそれを破ろうとするが、破れそうになる前に竜郎が水を足していっているので、あと何秒かは壊れることは無いはず。



「早く援軍にいかないとまずいし、下手をして逃げられても厄介だ。今回はこのまま仕留めよう」



 せっかくスキルをたくさん持っていそうなのでSPも回収しておきたいところだったが、今回はそれどころじゃない。

 皆一斉に捕えた小さな妖精に向かって攻撃をお見舞いし、その身の全てはこの世界から消え去った。


 すると直ぐに竜郎達の耳にレベルアップのアナウンスと、称号のプラス値が上がった事を教えてくれた。



 竜郎は、《『レベル:1209』になりました。》と。

 愛衣は、《『レベル:1206』になりました。》と。

 カルディナは、《『レベル:598』になりました。》と。

 ジャンヌは、《『レベル:598』になりました。》と。

 奈々は、《『レベル:598』になりました。》と。

 リアは、《『レベル:1204』になりました。》と。

 アテナは、《『レベル:598』になりました。》と。

 天照は、《『レベル:596』になりました。》と。

 月読は、《『レベル:596』になりました。》と。

 イシュタルは、《『レベル:598』になりました。》と。

 レーラは、《『レベル:1239』になりました。》と。



 それとほぼ時を同じくして異空間に綻びが産まれ、パズルのピースが剥がれていくかのようにボロボロと崩壊していった。



「──え?」



 思わずそう口に出した愛衣以外の全員も目を丸くして、現実世界に戻った瞬間に落ちていた物体へと視線を投げかける。

 そこには……先ほど完全に消滅させたはずの妖精魔王の無傷の死体が一体転がっていたのだ。



「死んでるって事でいいんだよな?」

「ええ、レベルアップのアナウンスもありましたし、私の目で観る限り死んでます」

「《無限アイテムフィールド》に入るかどうか確かめてみたら?

 生きてたら入んないんだしさ」



 ここで時間をつぶしている暇はないと、竜郎は愛衣の言葉に頷きながら直ぐに試みるとすんなりと妖精魔王の死体が収まった。



「《妖精魔王の庭》には本人ではなく、本人の魂だけが入っていただけだったのかもしれませんね」

「考察は後にしよう。──とりあえずリャダスへ急ぐぞっ」



 そうして竜郎達は、無数の魔物の足跡が向かっている先──リャダスの町へと飛んで行くのであった。

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