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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七編 集団暴走

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第524話 苔の秘密と戦闘開始

 皆で即席で作った階段をとことこ下りていき、謎物質があらわになっている部分にまでやって来た竜郎達一行。

 さっそくこれは何なのかと、やや距離を取りつつもちゃんと観える位置から観察を始める。


 それは見た目水色でプルンとしたゼリー状。楕円形に大きく広がるスライムの様な物体だった。



「……これは水精の……それも魔王種だった魔物の死骸が、長い年月をかけて変質した物ですね。

 死んだのはかなり古い時代の様です」

「魔王種の死骸って言っても、これじゃあ魔卵は作れそうにないな……」

「まずそこかいっ。まぁ、たつろーらしいけどさぁ」



 精神体や幽霊系の魔物はダンジョンで魔石を手に入れるくらいしか魔卵の作りようがないので、ここでせっかく見つけた魔王種の死骸も魔卵錬成には用はなさない。



「まあ、それはいいとしても、これが今回の世界力溜まりで良さそうですね。

 どうやら──」



 かなり昔に誰かが水精を倒した時に、その死体がただの水になって地面に浸透していった。

 しかしその水の元となったのは、魔王種という強大な魔物だ。

 ただの水になったとしても、そこには強力なエネルギーが内包されたまま。


 それが長い年月をかけて地中深くで互いに反応しあい結合し、煎餅状のスライムのようになっていった。


 と。ここまでなら、それほど有害物質ではなかったのだが、どうやらスライム状になってから、また長い時間をかけた事で新たな魔物として生まれ変わろうとし始めたようだ。

 けれどその為にはまた大量のエネルギーが必要になってくる。

 なので無意識的ながら、水精死骸は世界力を少しずつ少しずつ吸収して体内に内包し始めた。


 その結果、現在この水精死骸の中に世界力溜まりが発生しており、このまま放っておけば数日以内には水精死骸と世界力を使い、危険な魔物が発生する可能性が非常に高い状態になっている。



「ならこのスライムを回収して、中の世界力を取り出せば未然に防げそうだな」

「こんなとこでそんなのが発生したら、リャダスにいる人たちがかなりの被害を被りそうだしね。とっとと片付けちゃお。

 今のところは大丈夫なんだよね?」

「ええ、そのはずです。ですが現状半魔物化しているので《アイテムボックス》などには、このまま収納できないですし、ただ世界力を消費するだけだとまたただの水に戻ってより奥底で、また長い年月をかけて同じ状況になる可能性も高いです」

「ならどうすればいいんですの?」

「そうですね……。では、こんなのはどうでしょうか」



 今回の作戦はこうだ。

 まずジェル状の水精死骸を全部一気に凍らせる。

 次に表面だけ切り裂いて内部の世界力を露出させ、竜郎のスキルで世界力を絡め取る。

 あとは世界力を全て奪われたただの凍った死骸を回収すれば、死骸を一滴も残すこともなく、世界力も消費できる──というわけである。


 そうとなれば後は早かった、竜郎とカルディナ、アテナ、イシュタルで土魔法を使って水精死骸の表面を全て出すように土をどけていく。

 直径100メートル近くまで薄く広がっている楕円形の水精死骸を完全に露出させたら、今度は竜郎と奈々、月読、レーラで完全に氷結させていく。


 後は愛衣が黒鬼の魔王種結晶を宝石剣に入れて、日本刀のような形に変化させ切れ味を極限まで上げると、隅から隅まで一足飛びしながら表面だけをスパッと切り裂いた。


 氷魔法で動かして切断面を広げていき、中に渦巻いている濃厚な世界力を竜郎が《世界力魔物変換》で巻き取っていく。

 完全に世界力を巻き取り、残った氷漬けの水精死骸を《無限アイテムフィールド》に回収すれば、ここで妙な世界力溜まりが発生する事は今後ないだろう。



「ふぅ。結構大がかりだったが、あっさり終わったな」

「まあ本番はこれからっすけどね」



 天照の杖先に巻き付いている黒渦を何とかしてこそ、この時間軸でのミッション達成になるというもの。

 竜郎は杖に世界力をくっ付けたまま、皆と一緒にまた階段を上がりながら地面を元に戻して地上に帰還した。



「そういえば、確かこの辺に自生している苔が人工魔石の材料になるんでしたっけ?」

「あー、そういえばそうだったねぇ。だからピポリンを取りに行ったんだし。

 でもそれがどーかしたの? リアちゃん」

「ちょっと採取して来てもいいですか? 何かの材料になるかもしれませんし」

「ああ、それくらいなら全然いいぞ。その間に俺は愛衣とくっ付いて魔力を回復しておくから」



 竜郎がそう言って愛衣を抱き寄せるや否や、リアはてててーと少し離れた場所に走っていき、そこいらに生えている苔を採取し始めた。

 念のために護衛として奈々もくっ付いていく。


 その採取の途中、リアは何に使えるのか調べるために《万象解識眼》で苔を観てみた。



「ん? あぁ~、そう言う事でしたか」

「どうしたんですの?」

「いえ、ちょっと面白い事が解ったので、もう少し採ったら皆の前で説明しますよ」

「んん?」



 奈々が可愛らしく小首をかしげる様に微笑みだけ返し、リアは満足いく量の苔を採取していった。



「それで、面白い事とはなんなんですの?」



 竜郎たちの元に戻るなり、奈々が直ぐに先ほどのリアの言葉の意味を聞いてきた。

 それになんだと皆の視線も自然と集まる。



「いえ、大したことではないんです。どうしてここの苔だけが人工魔石の材料なりえるのかと不思議に思いまして」

「その言い方だと、もしかして理由が解ったのかしら?」

「はい。どうやら元は同じような気候の場所なら何処にでも生える苔だったようですが、水精の死骸による豊富なエネルギーを受けて突然変異を起こしたようです。

 そしてその変異種はこの特殊な土壌にのみ特化して適応したため、この地ならば他の苔よりも繁殖力が高く生存競争を勝ち残って繁栄してきたんです」

「この特殊な土壌にのみ特化って事は、さっきの死骸が影響を及ぼさない範囲だと他の苔や植物にやられて生き残れなかった、もしくはそもそも生きられないって所か?」

「おそらく影響を及ぼさない範囲だと、枯れてしまうんだと思います。

 ですが特殊なピポリンを使って、博士はその土壌に似た環境を作ることに成功し、人工栽培にも成功したのだと思います」

「ん~それじゃあ、私たちでもその苔を栽培できるのかな?」

「やろうと思えば簡単に出来ます。どんなものか解りましたし……でも、私たちには人工魔石を作るメリットはないですから、やろうとは思いませんけどね」

「まあ、魔石なんかなくても、ダイレクトに魔法液を世界力からじゃんじゃん作っているからな」



 最後にそう言ったイシュタルは、改めて竜郎たちの領地の異常さを思い出して苦笑した。

 なにせ人工魔石を作るなどこの時代ではどの国も欲しがりそうな技術であるのに、既にその域は軽く飛び越しているのだから。



「でもそれじゃあ、もう水精の死骸を無くしてしまいましたから、ここいらの苔はどうなるんですの?」

「今すぐに──ということは無いですが、時間を掛けて土壌が元に戻っていき、苔も全滅していくか、また新たに突然変異を起こして別の進化をした種として残るかのどちらかかと思います」

「そう考えると、もう少し採取しておきたくなるな」

「でた、たつろーの貧乏性めぇ~」

「稀少なモノはとりあえず確保しときたいだろ」

「でもヘルダムド国ではもう人工栽培でわんさか作ってるんすから、あんまり稀少でもないんじゃないっすか?」

「あ……。まあ、うん……せやな……」



身も蓋も無い事を言われてがっくりする竜郎なのであった。




 さて、穴掘りや死骸回収に使った労力もとっくに元通りになっていた竜郎達は、念のためここよりも更に街道から外れた場所までやって来た。

 周囲は人気のない荒れ地。戦闘で穴だらけにしても、後で直しておけば誰にも文句は言われないだろう。



「ここまでくれば、そうそう迷惑をかける事も無いだろう。それじゃあ、こいつを解放するぞ?」



 竜郎は休憩中も意識を離さずに、杖に巻きつけたままだった世界力を宙に掲げる。



「うん、やっちゃって」



 愛衣達も既に万全の状態で待機中だ。なので遠慮なく事を進めていく。

 等級神に計って貰いながら適量周囲に世界力を放流し、残った分を魔物化させていく。


 杖から離れた黒渦は圧縮されていくかのように小さくなっていく。

 また人並サイズかと思いきや、それよりもっと小さく縮小していき、最終的に現れたのは全長40センチ程の妖精……らしき魔物だった。



「ゲゲッゲリョリョリョ」

「顔こわっ」



 愛衣が思わずそう呟くほどに、その妖精は今まで見たどの妖精よりも凶悪な顔をしていた。

 口は耳まで裂けズラリと並んだ肉食獣の牙、爬虫類の様な長く二股に分かれた舌。

 目は目蓋も無く昆虫の様な青い複眼、耳は顔に対して大きくやたらと長い福耳が印象的だ。

 さらに服装も豪華でマントも背につけ王冠を頭にかぶり、どこかの王様気取りの様である。


 そんな妖精魔物なのだが、別段何をしてくるわけでもなくこちらを嘲笑うようにニヤニヤ笑いながら、口の端から涎をボタボタと地面に垂らしていた。

 余程自分の実力に自信があるらしい。ならば余裕ぶっている間に、こちらは情報収集させてもらう。



「防御系、カウンター系スキルは無いですが、スピード特化型の様です。

 気を付けてください」

「ピュィィィイーーー!」



 ならばとまず最初に動いたのは上空にいたカルディナ。

 無数の竜翼刃魔弾に《自動追尾》を付けて打ち込んでいく。

 だがその全てを空中で舞いを踊るようにクルクルと器用に避けては、追ってくる魔弾を気力を纏った拳で打ち砕いてしまう。


 若干遅れてきた四方から放たれる竜郎のレーザー、ジャンヌの竜力収束砲、リアの乗った虎型の機体から放たれる6重竜力収束砲、イシュタルの神力収束砲。

 それら全てをギリギリの範囲で見極め紙一重で躱してしまう。



「ならっ!」

「ゲギョッ──」



 広範囲を一瞬で凍らせるレーラの《極氷世界》。これならば速くても関係ない。

 と思いきや、ロケットが如く一気に上昇して凍りきる前に範囲外へと離脱。

 しかし若干背中の羽が凍りついたのか、軌道がふらついて不安定に。


 そこへ、逃げるならば上空だろうとタイミングを見計らっていた愛衣が、上から叩き割るように全速力で突撃し、魔王種結晶で刀のように変化した獅子纏の剣を振り抜いた。



「はあっ!!」

「ゲッ──リョリョ」

「躱されたっ!?」



 しかしこれでも額を薄く切っただけで、致命傷には程遠い。

 カルディナが追撃で通り抜けざまに真・竜翼刃を浴びせようとするが、こちらも右腕を少し切り裂いただけで躱されてしまう。



「とんでもない速さだな。ならこれでどうだ──」

「ゲリョリョーー!!」

「ヒヒーーン!」



 竜郎が魔法の準備をしている間に空から拳による気弾を全員に向けてやたら目ったら打ち込んでくるが、スピード特化だけあってその威力は軽い。

 今の竜郎達にとっては防御できないレベルではない。

 ジャンヌが巨大ハルバートを振り回して竜郎を守ってくれる。



「はあっ!」

「ゲギョギョッ!?」



 完成させた魔法を解き放つと、味方のいる空間だけを切り取って、他全てに強力な高重力が降りかかる。

 周囲の木々はアルミ缶を足で潰した時の様にグシャッと潰れ、石も地面にめり込みながら割れていく。

 そしてそんな中にあっても潰れることなく空を飛んでいられる妖精には称賛を送りたいところではあるが、生憎こちらが送れるのは攻撃のみだ。


 重力空間から抜け出そうとさらに上空を目指そうとしたのか、上を見上げる妖精。

 しかし空から愛衣とカルディナが降ってきて、動きが鈍ったこの妖精に斬撃をお見舞いする。

 何とか身を捩りながらも右腕を切り取られ、両足も切断とここまでにないダメージを負いながら逃げていく──が、そちらにはこれまで方々に竜力路を張って雌伏し時を待っていたアテナが目の前に現れ鎌を振る。



「ギギョッ」



 下から振り上げるように逆袈裟斬り。胴体を分断しながら黄金雷で焼き焦がす。

 客観的に見て致命的なダメージを浴び、後は止めを──そう竜郎が思った所で、妖精の体が細かくばらけていき、小さな5センチにも満たない小妖精になって散らばり逃げた。

 よく見れば切り落とされたはずの腕や両足も小妖精化して分裂し、その無数の小妖精に攻撃をして消そうとするも、先の妖精よりもさらに素早い動きで逃げ去り重力魔法の範囲外に逃げ去ってしまう。



「速い上に的が小さくて当たりませんの!」



 そして余裕が出来た所で無数にいた小妖精が合体していき、10センチほどの大きさの妖精が4体となってこちらを睨み付けてきた。

 その間にも攻撃を飛ばすが当たらず、4体の妖精は宙を舞いながら一斉に手を掲げ、小さな口を開いて叫ぶ。



「ゲゲッゲゲゲリョーー!!」

「──これはっ」



 その瞬間、竜郎達のいた場所の景色が変わる。

 荒れ地を竜郎の魔法でさらに荒らしていたはずの場所が、唐突に緑豊かな草原地帯になっていたのだ。


 竜郎たちは戸惑いながらも、攻撃の手を緩めずに状況を確認していく。



「これは転移なのか?」

「いいえ、《妖精魔王の庭》というスキルの様です……。

 効果は兄さんの世界創造に近く、強制的に対象を異空間に閉じ込めるというものです」

「転移では逃げられませんの?」

「この空間において、時空魔法に類する全ての魔法、ナナの転移系のスキルなどに至るまで使用できなくなりました。

 なのでここから出るにはアレを倒すしかないかと」

「どっちみち倒す予定なのだから、いいじゃないか──と言いたいところだが、さてどうやって捕まえるか」



 さっきから一方的に攻撃しているというのに当たる気配のない4つに分裂した妖精を見て、イシュタルは苦い顔を見せたのだった。

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